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パスタ

作者: 蜜聴



大学を卒業し、私は新社会人として働き始め2ヶ月が過ぎようとしていた。田舎から上京してきた私は何もかもがキラキラして見えてた。2.30分に一本しか来なかった電車も今では待つ暇なく止め処なく来るし、会社から自宅の乗り換えも得意げにできるようになっていた。会社の先輩には恵まれて、毎日が楽しかった。

会社には全く話したことがない上司がいるんだけどその人のくしゃっと笑った顔を遠くから見るのが好きだった 。これは恋?それとも憧れ?

そんな気持ちが芽生えた時、飲み会が開かれた。私の同期と彼はよく飲みにいくらしく、その日も同期と飲めたのが嬉しかったのかくしゃっとした笑顔でほんのり頬を赤らめいつも以上に優しい顔をしていた。私はレモンハイが好きだったがすぐ酔っ払ってしまう。場の雰囲気もあり、これはもしかしたらチャンスかもしれないと彼に話しかけた。

「丸山さん〜結構飲んでますね」

「あ、河合さん。全然飲んでないんじゃないの?」

私は始めて自分の為にだけ向けられた笑顔に胸が締め付けられる感覚になった。

「そういえばさ、」

「なんですか?」

「エルレ知ってるの?」

「え、大好きなんです」

「高校生のときコピバン組んでて、僕の青春だったよ」

なんて会話が弾んだ。会社でエルレが復活するって話をしていたのを見かけたのを思い出したらしい。部署は隣だがそんな小さなことが私は嬉しかった。それからは私たちはお酒を飲みにいったり、私の好きなバンドのCDを彼に貸す仲までになった。

ある日彼が家でライブDVDを見ようと誘ってくれた。駅から彼の家は近くて、待ち合わせよりだいぶ早く着いてしまった。何回かこの辺に2人で歩いたのを思い出して近くの公園へ向かった。近くの公園では小さい子供たちが走り回り、カップルがバドミントンをしたりと穏やかな時間が過ぎていた。あれ、何か聞いたことがある。音の方へ目を向けると女性が弾き語りをしていた。エルレだ。少し離れた場所から私は彼女の歌声から離れることが出来なかった。その時着信がなった。あ、もうこんな時間。彼からだ。

「私はあともう少しで着く」と小さな嘘をつき、彼の家へ向かった。

おかえりとくしゃっと微笑みドアが開いた。

部屋の中は彼の匂いに包まれていた。DVDを見ながら彼が作ってくれたパスタを食べた。


なにこれ、私、幸せすぎない?


いつの間にか彼の部屋には私のモノが少しずつ増えていった。彼の隣の時間がどんどん増えていった。

私の中で彼はすべてだった。そんな生活が1年過ぎ、私は全く作れなかった料理が得意になっていた。

彼は決まってまたパスタ少し茹で過ぎじゃないって笑って全部食べてくれた。

そんな優しさに私はずっと甘えていた。


夏が近づいて私たちは旅行を行く予定をたてていた。そんな時、何処からか懐かしい歌声が聴こえてきて、1年前の出来事を彼に話した。まだ歌ってたんだ、見に行かない?と誘うが彼は頑なに断ってきた。

私はなんとなくこの空気が嫌で話を変えたが、その瞬間から小さな変化に気付いてしまった。

私は急にこの幸せが奪われるのが怖くなって、段々と彼の笑顔が見れなくなった。

そんなモヤモヤが続く中、半年の間で彼は同じ歌をふと口ずさむようになった。

それは彼女が歌ってた歌だった。最初は偶然だと言い聞かせるも、彼の表情は最初私が好きになった時と同じ、優しい顔をしていた。


あぁ、少しずつ彼の中で私が小さくなって行く。

それならもう私から消えよう。


そうして彼が会社にいる間に彼の部屋から私をまとめて、消した。

そして始めて彼に手紙を書いた。



あなたと出会えて幸せだった。

くしゃっと笑うあなたが離れて行くのが怖くなりました。

私が大好きな人だから、幸せになってね。



鍵はいつもの様にポストに入れて、私は地元に帰ることにした。彼を思い出さなくていい様に。


あーお腹空いちゃったな、パスタ食べて帰ろう。





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