14・ヘラクレアの信号旗
宇宙戦艦三笠
14[ヘラクレアの信号旗]
テキサスも三笠も修理が終わってもやいを解く。
ボーーーーーーー ボーーーーーーー
出航を告げる汽笛が響く。
空気の無い宇宙空間に汽笛が響くはずもないんだけど、テキサスも三笠も儀礼用の衝撃波を起こして汽笛の代わりにしている。衝撃波は近くにいる船や星にぶつかって汽笛にそっくりな音を響かせるというわけだ。二隻の宇宙戦艦はもやいのロープをたなびかせながら5ノットの微速でヘラクレアを離れていく。
だいたい、宇宙船が微速で出港する必要なんてない。いきなりのワープをすることもできるんだけど、長い宇宙旅行、こういう演出も必要なんだ。
ヘラクレアは、テキサスの廃材と、代わりにテキサスに使った材料を整理するために、星全体がガチャガチャと音を立てて形を変えている。小惑星とは言え、長径30キロ、短径10キロもある星である。テキサスの修理ぐらいで形が変わるはずもないんだけど、ヘラクレアのオッサンにはこだわりがあるようで、全てのスクラップをあるべき場所に収めなければ気が済まないようだ。テキサスという異質物を取り込んでそのままにせず、全体の調和の中に収めているんだとみかさんは言った。
「あんな面倒なこと、わたしにはできないわ」
みかさんは天照大神の分身でありながら、言うことが、片付けが苦手な女子高生みたいだ。
パッと見は変わらないんだけど、モニターにテキサスと三笠が来る前と、今のヘラクレアを重ねてみると微妙に細部が違う。星全体を覆っている外板と鋲の位置が違うし、デコボコした張り出しもセンチ単位で位置や形が異なっている。
「まるで『ハウルの動く城』ね」
天音が言った。
「それならソフィーがいなくっちゃ。ヘラクレアのオッサン一人じゃね」
と、樟葉がチャチャを入れる。
「いっそ、天音さんが居てあげれば」
みかさんも尻馬に乗る。
「あたしがいなきゃ、三笠の射撃ができなくなるぞ」
「及ばずながら、わたしが帰りに通りかかるまで代わってあげてもいいことよ」
「いいや、三笠の砲術長はあたしだから!」
天音はムキになった。
「それなら、それでいいのよ。ただね、ヘラクレアのおじさん……」
「なんですか?」
「娘さんを亡くしてるの……」
「ほんと……!?」
「あなたと逆ね。娘さんは戦争で、仲間を庇って亡くなってるわ」
トシも樟葉もみかさんの言葉に驚いた。
「あんな風に、スクラップを集めているのは、あの星の中心に娘さんが乗っていた戦艦の残骸があるから……それが捨てられずにね、ああやってスクラップで囲んで思い出を守っているのよ」
「あ、信号旗が上がった」
「航海の無事を祈る……か」
天音は、ずっと信号旗を見ていた。
「どう、お父さんを見直す気になった?」
「あたし、お父さんのことなんか……」
天音のお父さんは、天音一人を残して中東で死んでいる(8[思い出エナジー・2])
「ヘラクレアのおじさん、天音ちゃんのお父さんに似てる……直観でそう思ったんでしょ?」
「……いいんだ。おかげで横須賀に来られて、みんなに出会えたから。物事には表と裏が……」
ドーン ドーン ドーン ドーン ドーン ドーン ドーン
天音が言い終わる前に7発の礼砲が鳴った。
「え、なんで礼砲?」
天音が訝しむ。
「通じたと思ったんでしょ……それで、遅まきながら……礼砲?……弔砲?……祝砲かな?」
ドーン
「あ、テキサスも」
「あ、じゃ、三笠も撃たなきゃ! 祝砲って、やっぱ主砲?」
「副砲よ」
「えと、右舷にヘラクレア、左舷にテキサス どっちで撃つの?」
「ぼくも行きます! 両舷で撃っちゃいましょう!」
トシも手を挙げて、慌てながら、でも、ちょっと嬉しそうにラッタルを駆け上がる二人だった。
やってみなければ分からないだろうが、テキサスの艦尾は均整がとれていて、180度曲がることも無く急制動もかけられるだろうと思った。
☆ 主な登場人物
修一 横須賀国際高校二年 艦長
樟葉 横須賀国際高校二年 航海長
天音 横須賀国際高校二年 砲術長
トシ 横須賀国際高校一年 機関長
ミカさん(神さま) 戦艦三笠の船霊
メイドさんたち シロメ クロメ チャメ ミケメ




