村への救援
研究所 西の森
俺とオシホ様は、森の中を走っている。
周辺は、杉や松、檜に似た針葉樹ばかりだ。
森の中を走っているので、もう少しスピードが落ちるか、走り難いと思っていたが、オシホ様がルートを選定してくれているので、思っていたよりも速く移動できている。
オシホ様達精霊は、この辺りを走破しているので、研究所から半径50km以内なら、熟知している。
それに、オシホ様達精霊は、一度通った道は完全に覚えるので、まず迷うことは無い。
魔物や魔物、獣を見ること無く、走り始めてそろそろ二時間半が経とうとしたとき、オシホ様が進路を少し北に変えた。
「キャー!」
進路を変えて五分ほどして、女性の悲鳴が聞こえた。
「村から逃げている村人じゃ。行くぞ」
「了解!」
オシホ様がスピードを上げる。
平地なら、俺の方が速いが、森の中では、オシホ様の方が小回りか利くので、オシホ様の方が少し速い。
程なくして、村人を追うオーク達を見付けた。
今にも最後尾の者にオークが襲いかかりそうだったので、俺は咄嗟に『ロックジャベリン』の魔法を放つ。
盾にも『ロックジャベリン』の魔具が装備されているが、走りながらでは照準が難しく、発動まで間がある。
自身の魔法なら、走りながらでも当てることかできるので、今はこちらの方が早い。
俺が放った『ロックジャベリン』は、先頭のオークの脇腹に命中し、反対側に貫通した。
オークは倒れ、黒い霧になり始めるが、まだ質量があったので、後続がいくらか巻き込まれて倒れる。
その隙に、オシホ様がオークと村人の間に割って入り、倒れなかったオーク達の首を狩っていく。
俺もオシホ様に少し遅れて森から街道に出ると、オーク達を視界に納める事が出来た。
オークの数は100程度だ。
これなら、一気に殲滅できる!
「おお!」
俺は声を上げて、オークの気を引きながら、大剣でオークを縦に真っ二つにする。
すると、オーク達は俺を脅威と見て、襲いかかってくる。
俺は大剣を下から切り上げなが、一匹を切り殺し、盾でオークの一部を受け止める。
そして、少しずつ下がりながらオークを次々に切り殺す。
その隙にオシホ様が素早く動き、俺の盾側に回り込み、俺が盾で押さえているオークや、側面に回り込もうとするオークの首を狩る。
最後の方は、オークが数匹逃げ出そうとしたが、オークより圧倒的に早い俺達から逃げられるハズも無く、切り殺した。
こうして、オーク100を2分程で倒し終えた。
戦闘を終えたので、村人を確認する。
すると、村人達は俺達から少し離れた場所で戦闘の様子を見ていた様だ。
このままという訳にもいかないし、事情を聞く事にする。
村人までゆっくり近付き、先頭の村人が一歩下がった所で止まり、ゴーレムを座らせて、ゴーレムから降りて、俺が人であると見せてから、話しかける。
「我々は聖堂院の者です。我々の斥候が、村にオークが向かっているのを確認したので、急ぎ救援に来た。誰が事情を説明できる者は居ますか?」
村人全員に聞こえるように、できるだけ大声で話しかけた。
村人は、聖堂院という単語に微妙な表情になる。
悪い噂がこの村まで届いて居るのだろう。
事情を説明してもらいたがったが、反応が無いなら、離れた振りをして周辺警戒に徹するか、オークの本体に向かうか考えよとした時、一人の村人が俺の方に走り寄ろうとしたので、オシホ様が俺と村人の間に割って入る。
オシホ様の護衛行動だ。
出てきた村人は30代の女性で、自分が警戒された事を知り、途中で止まってから話し出す。
「夫が村に残ってオークを引き付けて居ます!助けて下さい!」
村人達を見れば、確かに男性が少ない。
後に分かることだが、オークの接近と避難を呼び掛けに来た騎士が居たそうだが、その騎士が去った直後に村の猟師がオークを見たと戻ってきたそうだ。
女性や子供を連れての避難では、追い付かれる可能性が高いので、村にオークを引き付けるために、男性が何人か残ったそうだ。
「オシホ様、村人の護衛を――」
「駄目じゃ。ワシはお主の護衛が最優先。それに、オーク襲撃はもう無いじゃろう」
オシホ様を残して、単独救援に向かおうと思ったが、却下された。
当然だ。オシホ様は俺が最優先、有り難いがこんなときは困る。
「しかし、他のモンスターが……」
「我々なら大丈夫です。何卒救援に向かって下さい」
俺に話しかけてきたのは、先程の女性では無く、40代後半の男性だった。
俺がその男性に顔を向けると、更に男性が口を開く。
「私はメイダ村の村長です。この辺りのモンスターならなんとかなります。ですから救援に行ってください、お願いいたします」
村長が頭を下げ、他の村人も頭を下げてきた。
「承知した。だが、期待はしないで下さい」
オーク2,000近くに、西の村の以前の様な状態で襲われれば、ひとたまりもない。
なので、期待はしないように声をかけてゴーレムに乗り込む。
「広坪」
オシホ様が俺に声をかける。
心配しての事では無い。
「承知しています」
俺は返事をして、盾の下部を真上に向けて、魔具に魔力を流す。
魔力を流し込まれた魔具は、真上に火の玉を発射する。
火の玉は、20mほど進み、爆発する。
続けて同じ魔具に魔力を流すが、今度は村人が退避する方向に少し傾けて火の玉を発射する。
火の玉は同じ様に20mほど進み爆発する。
「我々は行きます。ですが、仲間が遅れて来るので、護衛に何人か向かわせます!ご無事で!」
それだけ言って、村へ走り出す。
そして、俺とオシホ様の進路方向にも火の玉を二度発射する。
この火の玉を発射する魔具は、ルティの娘の三女、クリスちゃんの協力によって作られた物だ。
一定の距離を進んで爆発する魔法を作ってもらい、魔具に込めたのだ。
この魔具のお陰で、ある程度の離れている状況での意思疏通が可能になった。
今のは、現在位置、支援の方向、進路方向になる。
これで、後続から支援が出るだろう。
走り始めて、10分も経たない内に村が見えてきた。
村の中では、オークが何かに群がっているので、村人の生存の可能性がある。
「オシホ様!村人の探査を!」
「もうしておる!村の中心に人の反応じゃ!地下に居るぞ!」
「突っ込みます!」
オークもこちらに気付き、気付いたオークとその周辺のオークが俺とオシホ様に向かって走ってくる。
それに対し、俺は盾を構えて突っ込んでいく。
俺はオークを弾き飛ばしながら前進していき、オシホ様は俺の後ろからついてきてオークの首を狩る。
俺の突撃は、村に入り、オーク達から中心まで半分といった所で止まる。
オークが密集し過ぎて、止まってしまったのだ。
「オシホ様方向を!」
俺は周囲のオークを剣で切り、盾で殴り、足で蹴って対処しながら、オシホ様に尋ねる。
すると、オシホ様はオークの首を狩りながら、剣を持たない手で方向を示してくれる。
「ありがとうございます!『ストーンウォール』!」
俺は二発の魔法を同時に使う。
オシホ様が示した方向に、10m程の間隔を開けて、道の左右に壁を作るように石の壁を発生させた。
壁の厚さは30cm、高さ3m程で、オークの何体かが股の下に石壁が来たらしく、壁と一緒にあがっていった。
魔力は、ゴーレムでの活動時間に必要な物だが、今は使うしか無い。
俺達は、壁の間に入り込み、壁の間を塞ぐ様に『ストーンウォール』を発生させてから、村の中心、生存者が居ると思われる場所に向かってオークを斬り倒しながら進む。
「そこじゃ!」
オシホ様が示したのは、家の残骸らしき物が散乱している場所だった。
そして、オークが地下室らしき場所に群がっているのを確認した。
「オシホ様、確認を!」
俺とオシホ様は、地下室周辺のオークを斬り倒し、オシホ様に地下室の生存者の確認を任せる。
俺はその隙に、石壁を一旦消去して、新たに地下室入り口を中心に一部穴の開いた半径3mの円、C型に石壁を発生させる。
壁が無い部分は、3mほどあり、俺がゴーレムで陣取るには丁度良い幅だった。
石壁は、維持にも魔力を使うので、生存者を保護するために、大きく作った石壁を消し去り、最小限の石壁に変更した。
俺は石壁の間に入り込み、盾でオークを押さえ、足でオークを牽制しつつ剣でオークを斬り倒す。
100以上は倒した頃に、オシホ様が戻ってきた。
「地下に居たものは、重傷者も居たが、全員生きておる。危なそうな者にはポーションを渡した。村の中に生存者は他に確認出来ぬ。ここを守りながらオークを殲滅じゃ。広坪よいくらか通せ」
「了解です」
オシホ様達にも、ポーションを数本装備させている。
俺に使うためでもあるが、救援のためでもある。
俺しかポーションを持っていなければ、ポーションを渡すためにゴーレムから降りる必要があった時に、隙ができるかも知れないからだ。
このお陰で、処置がスムーズに済んだ。
俺は、オシホ様の要望通り、オークを通すために数歩下がってオークが一体通れるだけの隙間を作る。
オークは、その隙間を通って、壁の中に入るが、オシホ様の剣が首に刺さる。
俺とオシホ様は、逃げる村人を助けた時とは違い、チマチマとオークを倒して、オークの数が半分ほどになってきたと思っていると、やっと後続のアイン達が到着した。
アイン達は、俺達を包囲しているオーク達を外側から半包囲するように展開し、5分程で残りのオークを一気に殲滅した。
オークの殲滅を確認した俺は、石壁を消去して、状況確認のために、アイン達と合流した。
「アイン、合図は分かりましたか?」
「はい。分かりましたので、シータとラムダを向かわせました」
「そうですか。良かったです。あれは、逃げる村人で、オークに襲われそうだった所に、間一髪間に合いました。村に囮として残った者達の救援を望まれたので、逃げる村人の護衛として要請しました」
「そうでしたか。もう少し送っておくべきでしたか?」
「いえ、オークは大丈夫でしょうし、周辺のモンスター対策ですから、大丈夫でしょう」
「それなら大丈夫ですね。オークはどのぐらい居ましたか?」
「村人の追撃に100程、この村に2,000近く居たと思います。そういえば、このオークの指揮個体を見ましたか?」
指揮個体を見ていなかったので、皆に尋ねる。
「私がオークリーダーと思われる個体を倒しました」
答えたのはアルファだ。
「そうですか。分かりました。しかし、オークリーダーでこの規模の群れか……。オークをかなり増やしたのかも知れませんね」
「そうじゃな。有り得る話じゃ。まぁ、それはそれとして、これからどうする?」
「まずは、生存者の確認をしてから、ですね」
「では、ワシが呼んでこよう」
オシホ様が地下室に向かい、生存者を外に連れ出してきた。
ゴーレムの軍団に驚いているが、恐る恐る周辺を確認しながら出てきた。
生存者は男性20人だった。
「我々は、この村の救援に来た聖堂院の者です。逃げる村人がオークに襲われそうだったになっていたので、それを助け、貴殿方の救援を頼まれました。生存者が居てくれて良かったです。これで全員ですか?」
生存者が彼等だけなのは分かっているが、死者が居るなら、その埋葬か移送も必要なので、訪ねた。
「村に残ったのは、俺達でで全員です」
「死者が居るなら、埋葬なり移送なりしますが?」
生存者のみを答えたと思ったので、死者について直接尋ねる。
「いえ、居ません。俺達20人だけが残りました」
驚いた事に、死者が一人も出さずに生き残ったらしい。
詳しく聞くと、オーク姿を見せて気を引いたら、すぐに地下室に潜り、入り口を皆で守ったそうだ。
俺とオシホ様が来たときは、もう限界が近かったらしく、ギリギリだったらしい。
「そうですか。素晴らしいですね。貴殿方の努力で全員が生き残りました。このあとはどうしますか?他の村人の後を追うなら、護衛を出します」
「家族が心配なので、是非そうさせて下さい」
「了解です。ですが、怪我人がまだ居るみたいですね。まずはその人達の手当てが先です」
オシホ様によって、重傷者の手当てはしたが、他にも怪我人は居る。
作業用ゴーレムにポーションを運ばせて居るので、それを使って手当をする。
オシホ様も作業用ゴーレムからポーションの補給を受ける。
「では、デルタ、この人達を護衛してください。戦力はゴーレム更に2体追加で」
人数的にデルタだけで大丈夫だろうが、一応予備に今回来ていない者のゴーレムを追加しておく。
「了解です」
「我々は、もう一つ隣村を確認してから戻る事にします。何か質問は?」
「「「……」」」
「無いみたいなので、今から出ます!」
俺達は、生存者の護衛をデルタに任せて、更に隣の村の様子を確認するために動いた。




