商人が来た
聖堂院 地下訓練場
その日は、カティの部下の人達と武器の訓練をしていた。
カティの妊娠により、騎士団経験者だったカティとの訓練ができなくなったので、カティの部下の中でも、こちらに残ってくれて特に信頼のできる人に訓練をしてもらっている。
相手をしてくれていたのは、外で荷物の検査などをしていた、小隊長だったミリシア・エーゲルトさんと、その部下の人でレティシア・ノーマさん、こちらの人は顔は知っていたが、名前は訓練をするようになってから知った。
二人で俺の訓練に付き合ってくれたので、生身でもそこそこは戦える様にはなってきた。
やはり攻撃は怖いので、盾での防御や受け流しばかりが上手くなったのは、仕方がない事だと思う。
剣はゴーレムで振っているので、生身でも感覚的にそこそこ振れるので、問題は無い。
問題は無いので、盾を持たせて訓練をさせて欲しい!
最近は、俺が回避ばかりに専念するので、有効打を一定以上当てないと訓練が終わらなくなった。
ミリシアさんとレティシアさんは騎士団だけあって防御が俺より上手いので、単発な攻撃では有効打を望めない。
なので、連続攻撃を仕掛けるしかないのだが、連続攻撃を仕掛けると、どうしても隙ができてしまい、その隙に痛打を入れられてしまう。
そうなると、回避に走ってしまい、訓練時間が延びに延びる。
そして、俺のスタミナが切れて、ボコボコにされて終わるというのが最近の流れだ。
今日も早速朝からボコボコにされて、休憩ついでに訓練を監督していたカティにアドバイスをもらう。
多少の痛みで怯むから、余計にボコボコにされるのだと言われてしまった。
全くその通りなのだが、俺は防御への意識が高すぎ、余計に防御をしてしまって攻撃の機会を潰しているそうだ。
それに、痛みへの耐性自体はあるが、痛みを回避にしようとするので、これでも攻撃への意識が低くなり、手数が減ってしまい、ボコホゴにされるという結果に繋がってしまうそうだ。
なので、実践では駄目だが、訓練としては肉を切らせて骨を断つ、を地で行けと言われた。
「相討てと?」
「その通りです。広坪様は踏み込みが一歩足り無い。なので、まずは相討ちからしてみましょう」
「明日から?」
「今から」
「……了解です」
訓練が再会し、相討ち狙いで剣を振るう。
だが、盾に阻まれ、俺だけが攻撃を受けてしまい、またしても防御がにされてしまった。
「先程より良かったですが、まだまだ踏み込みが足りません。しばらくはこの訓練を続けましょう」
「しばらくですか」
「そう。しばらくです。ポーションもありますし、二人とも加減は上手いので、滅多な事にはならないでしょう」
素晴らしい笑顔でこう言われてしまっては、断ることは出来ない。
それに、断ってしまうと、きっとこれよりも恐ろしい訓練が待っているだろうから、素直に頷く。
「承知しました」
本日二度目のボコボコダウンをしていると、訓練場にアリスさんが駆け込んで来た。
アリスさんの話を聞くと、大山脈中腹の監視所からの報告だった。
「広坪様、監視所より報告です。聖堂院に馬車が三台と騎馬4騎が向かっているそうです。到着予想は昼前予想とのことでした。これにより、オシホ様から広坪様と!カティに集合がかかってます」
「承知しました」
「訓練はここまで、ですね。広坪様、二人も話し合いに参加させたいのですが、よろしいですか?」
カティが意外な要請をしてきた。
「え?……いや、まぁ、大丈夫ですが、何故?」
「できれば、今回、この二人も同行させたいのです。理由としては、広坪様の活動を直接見せたいのです」
「はぁ、そうですか……。まぁ、聞かれて困ることはありませんし構いませんが、ここの位置やゴーレム系は駄目ですよ?」
意図が良く分からない。
俺のイメージアップをしたいなら、村への建設の時にでも言ってくれれば、そちらの方が良かった。
今回は商人との顔合わせと、小規模な取引ぐらいだ。
騎士とかの武力系の方にはイメージアップとかには意味が無い気がするのだが……。
まぁ、イメージアップを図ってるとは限らないか。
あとは、二人は信頼に値するとしても、研究所の位置や搭乗型ゴーレムの事を開示する訳にはいかないので、その辺りの確認もとる。
「ありがとうございます。機密関連は承知しています」
「なら構いません」
俺は、カティとミリシアさん、レティシアさんを連れて会議室に向かった。
会議室には、全員が揃っていたので、カティの部下二人についても話す。
多少の嫌味を言われると思っていたが、すんなりと受け入れられ、会議が始まった。
「報告を聞いていると思うが、今一度確認する。馬車は三台、騎馬が4騎聖堂院に接近中との事じゃ。時期的に考えても商人じゃろうな」
「そうですね。俺もそう思います。なので、商人だったら、直接会って交渉したいと思っているのですが、良いですかね?」
商人だった場合の俺の希望を伝える。
「私も商人だったなら、直接会って交渉した方が良いと思います。ただ……」
「そうじゃな。商人では無い別の集団という可能性は十分にえる。商人に偽装している可能性もある。さらには、本物の商人だったとしても、危険はゼロでは無いな」
ルティは俺に賛成みたいだが、オシホ様の言う通り、俺の身の危険を考えてくれているみたいだ。
「ある程度は仕方がないと思いますが、子爵軍の使者と相対するよりは、遥かにマシだと思います。それに、護衛はついてくれますよね?」
「護衛にはつく。じゃが、もしかしたら、お主を殺すことを目的にしてくるかも知れぬのじゃ。絶対の安全はは無い」
「確かにその通りです。ですが、商人を名乗ってきたなら、危険を承知で直接会う必要があると思います。もし、子爵や何者かの暗殺者だったとしても、判断は直接会って油断を見せれば分かるでしょう。それに、普通に商人として、利益を求めて来ただけかも知れません」
商人を呼ぶ事は、多少のリスクを犯してでも実行する必要がある。
商人と売買をする事も大切な事ではあるが、それはそれほど重要じゃない。
重要なのは、人が来る事と外に伝が出来ることだ。
人が大勢来て、その中に俺の代理になる事ができる者を見つける事ができるかもしれない。
そうなれば、アリスさんの延命が可能になる。
そして、外に伝ができれば、ルティ達だけではなく、保護している女性達の行き先を見つけられるかも知れないのだ。
つまり、商人を呼び込む事は、俺の死による最悪の事態の回避をするためなのだ。
「はぁ、仕方がないかの。接近中の者達が、商人として来たなら、安全対策を可能な限り行い、広坪が直接会って交渉する事にするかの。それで、商人ではなかったら場合はどうする」
「用件にもよりますが、安全最優先で対処します。最悪場合でも、代理人を立てればいいでしょう」
「まぁ、そうじゃな」
「あの、発言よろしいでしょうか?」
俺とオシホ様が話していると、カティの部下、ミリシアさんが手を挙げて発言の許可を求めてきた。
「うむ。よかろう。なんじゃ?」
「はい。聖堂院へ向かっている者達の目的が聖堂院なら、こちらから斥候なりを出して、用件を確認してはいかがでしょうか?」
「おお、確かに!」
「お主もそんな役目じゃったな。やる意味はあるな。こちらから出迎えを出すかの。ドライ、ファイとオメガを連れて接近中の者達の目的を確かてもらう。もし、村の商人だった場合は、ファイかオメガを帰し、ドライはそのまま村へ向かって村長に確認をとれ」
「了解しました」
「あとは、商人だった場合に備えて、昼食での会談の準備じゃな。夕食になる場合も想定して両方で準備を進める。他はあるか?」
「少女達はどうしますか?」
普段少女達との接触も多いルティが訊ねた。
村に来ていた商人の可能性がたかいので、もしかしたら少女達との面会を望むかも知れない。
もしかしたら、買い戻しも有り得るか。
「連れていった方が無難ですかね?」
「そうじゃな。連れていっておくか。そちらも準備する。他にはあるか?」
「「「……」」」
「無いなら、そこの二人は同行するなら、すぐに休眠に入れ。時間から場所を絞られるのは避けたい」
「「了解です」」
「カティから注意事項があれば、言っておいて下さい。それでは、行動開始です」
会議で方針が決まったので、準備に入る。
カティは部下二人を連れて離れる。
話をするためだろう。
ドライは、接近中の者達を要塞の外で出迎えるために、ファイとオメガを連れて即時出発する。
俺達は、向こうで必要になるものの準備だが、基本的に向こうでの食事と、万が一に備えた戦闘準備と上級ポーションだけだ。
商人に売るための物資は、聖堂院に既に保管してあるので、新たに持っていく物は無い。
少女達には、アリスさんが対応に向かった。
それぞれが手早く準備をして、聖堂院へ向けて出発した。
聖堂院
聖堂教国に到着し、子爵軍の使者と同じ対応の準備をしていると、出迎えに出ていたファイだけが戻ってきた。
ファイの報告によると、接近中の者達は村の商人で、御者を二人と護衛が10人、そして少女28人だそうだ。
「さらに連れてくるのか。そう言えば、あの村は折り返し地点だったから、帰りの道でも少女を集めたのかも知れないな」
「それにしては、数が多い。折り返しての村ではさらに食糧難で、より多く少女を売ったか、商人が街で買ってきたのかも知れぬな」
「そうですね。それで、受け入れの方は大丈夫ですか?」
「その程度ならば問題は無かろう。まぁ、全ての者をき取るとは限らぬからな」
「そうですね。商人との交渉次第ですね」
商人の可能性が高まったので、出迎えの準備を整える。
もしかしたら、宿に泊まっていくかもしれないので、そちらの準備も整える。
商人と思われる一団が、要塞からも確認できる距離に来ると、後方からドライ達が戻ってきた。
ドライ達は、接近中の一団を追い抜き、先に要塞へ到着した。
「村長に確認しましたが、少女達を置いていった商人でした」
「村長に不審な点はありませんでしたか?脅されている風だとか」
「ありませんてした。至って普通で、私の訪問に驚いていたぐらいです」
「なら問題は成さそうですね。商人として対応します」
ドライから遅れる事30分で、商人の一団も要塞の門に到着した。
「ようこそ!俺の聖堂院へ!」
俺、オシホ様、新精霊達で、商人一行を門で出迎える。
「おお!貴方がコウヘイ・ツチクラ様ですか!私はしがない行商人のガレスト・ウワシトスです。村の防壁を見て驚きましたが、ここの防壁はまた一段と凄いですね!王都にもひけをとりません!」
先頭の馬車の御者台に座っていた40代の普通な体型の男が馬車から降りて挨拶をしてきた。
「有り難うございます。自慢の防壁です。ここまで遠かったでしょう。普通食事ですが昼食を皆さんの分用意してあります。一緒にいかがですか?」
「おお!それは有り難い!是非ご一緒させていただきたい」
行商人ガレストさんは、特に警戒する風でもなく、食事に乗ってきた。
この人からどんな話が聞けるか楽しみだ。




