プラス10
研究所
聖堂院を囲む要塞の拡張、村への宣伝、これらの事を終えて研究所に戻った。
村長の話では、商人の来訪まで一月近くかかるので、それまではゆっくりできるだろう。
ここ最近は、子爵軍の対応や要塞の拡張、それに伴う防衛計画の練り直しなど、色々と動いていたので、ルティ達とあまり過ごせていなかった。
カティにも妊娠したばかりなので、気遣いが必要だったが、それすらあまりできていない。
ルティとは違って初産なので、どうしても不安はあるだろうから、カティにばかり構ってしまう。
ルティは、寛大な心で見てくれているが、カティにばかり比重が寄ってしまうのはよろしくない。
なので、しばらくはルティを重視して凄そう。
そう思いながら研究所に帰ったのだか、そんなことを消し飛ばしてしまいそうな事態が研究所で発生していた。
「それで、これはどういった事態なのですか?」
俺は、首謀者と思われるオシホ様に尋ねる。
「そうじゃな。最近は広域での活動が増え、我々だけては手が足りなくなってきた。さらに、聖堂院の要塞内で交易なども始めると、手が絶対的に足りぬ。じゃから増員した」
言いたいことは分かる。
俺の護衛、研究所に残る者達の護衛は最低限必要だ。
そして、聖堂院にも一名の配置となると、余裕は一名のみになる。
子爵軍の戦闘時は、後方からの攻撃にも一名配置したので、一時的に聖堂院を空にしなければならなくなってしまった。
まだ多少の事には対応できるが、陽動攻撃などの手を打ちにくくなり、問題が複数発生した場合は対応が難しくなる。
これにはカティの部下の方々やアリスさんに協力をお願いするか、行動に制限をつけようかと思っていたのだが……。
「精霊を10名も新たに呼ぶ必要は無かったと思うのですが?」
そう、俺が研究所戻って、出迎えてくれたアリスさんに紹介されたのは、朝には居なかった精霊の方々だ。
「そうか?今後の活動範囲の拡大を考えればこのぐらいは仕方がないと思うのじゃが?」
「いえ、活動範囲はこの当たりで止めよう思っていたので、それほどは必要なかったかと……」
「ならば、何体か帰すか?」
オシホ様がそう言いながら、整列している精霊の方々に顔を向ける。
すると、精霊の方々はビクッと反応し、ゴーレムでありながら震える方まで居る。
「「「「「我々は!広坪様にお仕えするために居ます!是非ともお側に置いてください!」」」」」
10名が声を合わせて言ってきた。
「……。分かりました。皆さんを受け入れます。ですから安心して下さい」
俺がそう言うと、10名全員から安堵の感情が伝わって来る。
そして、俺の隣で満足そうに頷いているオシホ様尋ねる。
「彼女達が、一斉に、同じ言葉で、ここに居たい、と言っていましたが、何をしたんですか?怯えている者も居ましたよ?それに、このゴーレムいつの間に用意したんですか?予備ではありませんよね?」
怯えて同じ言葉を言うのは、脅されたからだろう。
そんなことができそうなのはオシホ様だけなので尋ねる。
10名を受け入れたのも、オシホ様の意向が見え隠れしているのが分かったので受け入れたのだ。
更に、10名全員がゴーレムなのだが、精霊用ともなれば他とは違ったコアが必要になるので、実質的に専用のコアが必要になる。
研究所には、オシホ様達の戦闘用のゴーレム、遠征用のゴーレム、メイド用のゴーレムの三種が用意されており、更に戦闘用には予備用のコアがそれぞれに一個準備してある。
今は遠征用のゴーレムを使用しているので、それ以外のゴーレムのコアを使えば10名分のコアを用意できるのだが、どうも様子が違うので、こちらも尋ねる。
「脅してはおらぬぞ。呼び出した時からああじゃった。ただ、言葉は教えたな。広坪が難色を示すようならと、一例をな。コアは、この半月の間に新たに用意した物じゃ。奴らはトリオよりも格下なのでな、従来の物より小さいコアを用意したのじゃ」
考えて見れば、精霊トリオでさえ最初の頃は畏怖があった。
精霊トリオよりも格下なら、オシホ様をより畏怖してもおかしくないのか。
無闇に疑った俺が悪かった。
「そうだっのですか、疑うような真似をして申し訳ありませんでした」
「気持ちは分かる。ワシにも脅されて怯えているように見えたからの。それに、精霊を思っての事じゃ、責める理由は無い」
「ありがとうございます」
「それよりも、じゃ。この者達の名前を頼む」
「やはり、ですか……。簡単に名前なんて付けれませんよ」
「それもそうじゃな。じゃが、この者達にも広坪から名を与えてやって欲しいのじゃ。頼む」
「分かりました。なんとか考えてみますが、あまり期待しないでくださいね」
「承知したのじゃ」
その後、ルティやカティ、三姉妹に挨拶をしてから自室に戻った。
夕食までまだ時間があったので、それまでに名前を決めておきたかった。
夜はルティや三姉妹達と過ごす約束を先程してきたばかりなので、考え事を残しておきたくない。
とは言え、名前なんてそう簡単に思い付かない。
精霊トリオでさえアイン、ツヴァイ、ドライという安直な名前を付けたのだ。
しかも新たに10名だ、
ちょっと数が多い。
オシホ様と精霊トリオだけでかなりの戦力なのに、格下とは言え精霊ゴーレムが10も増えれば、世界すら狙えそうな戦力になる。
ハッキリ言って過剰戦力だな。
いかんな。考えがそれてしまった。
名前か……。
他の国の数字を、とするとややこしくなるな。
1、2、3が被る。
そうだな、いっその事ABC……は駄目だな。
いや、アルファ、ベータ、ガンマなら悪くはないな。
これも安直であるが、数字と被らないし、数もなんとかなるかも知れないな。
それから、アルファ、ベータ、ガンマの続きを思い出し、名前として使えそうなのを10個書き出し、早速なので、オシホ様に伝えに行った。
そして、夕食の時間となり、皆が集まったところで命名された10名の精霊が自己紹介をした。
「アルファです」
「ベータです」
「ガンマです」
「デルタです」
「シータです」
「ラムダです」
「シグマです」
「タウです」
「ファイです」
「オメガです」
「「「「「よろしくお願いします」」」」」
流石に多い。一気に人数が増えた気がする。
「それから、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタはワシの部下となり、補佐をしてもらう。アインにはシータとラムダ、ツヴァイにはシグマとタウ、ドライにはファイとオメガを付ける。よいな」
「「「「「はっ!」」」」」
「そして、この場に集まってい方々は、広坪にとって大切な者達じゃ。他の者達よりも優先して守るべき者達じゃ。場合によっては広坪よりも、じゃ。分かったな!」
「「「「「はっ!承知しました!」」」」」
今にも豚野郎とでも叫びそうな雰囲気の中で自己紹介がされた。
10名の精霊達は、オシホ様達の補佐として配置されらみたいだ。
現状としては、手はギリギリ足りていたので、こんなものだろう。
こちらからの自己紹介も済ませて、夕食を終えた。
食後は、約束通りルティと三姉妹達と共に過ごした。
皆に新しく加わった精霊について尋ねると、好意的に受け取ってくれていて、問題は無さそうだった。
その後は、三姉妹が普段の事を色々と話してくれて、こんな料理が作れるようになった、こんな魔法が使える様になったなど、訓練の成果も話してくれた。
ルティは、会話には積極的には加わらず、俺と三姉妹の会話をニコニコしながら聞いていた。
時間もあるので、翌日に一緒に訓練をする約束をすると、三姉妹にとても喜んでもらえた。
話し過ぎて少々遅くなってしまったが、翌日の訓練のために皆で一緒に寝た。
翌日は、朝食の配膳などを新精霊が担当をして、早速色々と動いている様子だ。
朝食後は、研究所に残った女性達に新精霊達を紹介済ませてから、訓練に向かった。
午前は、三姉妹と武器の訓練をしたのだが、思っていた以上に上手くなっていた。
話を聞けば、カティの部下達に訓練をつけてもらっていたそうだ。
この調子なら、来年の今頃には負けてしまいそうな勢いで上手くなっているので、俺もうかうかしてられない。
武器の訓練を少し早めに切り上げた。
三姉妹が昼食を作ると言い出したからだ。
どうせならばと、俺も料理に参加して、一緒に昼食を作った。
サンドイッチでは無く、パイを焼くことになった。
パイ生地もパイに入れる具材も手際よく用意して、俺の介入する余地無く作られた。
作られたのは、野菜多目のキッシュみたいなパイで、とても美味しく、俺の感想を聞いて三姉妹も喜んでくれた。
午後は魔法の訓練を行ったが、どうやら精度と発動速度に力を入れて訓練をしていたらしく、かなり上手くなっていた。
単発とは言え、もう既に実戦でつかえそうなレベルにあった。
どうやら、俺の発動速度と精度を目標にしたらしい。
大精霊と融合している俺は、ずるをしているようなものなので気が引けたが、三姉妹が魔法の発動速度が早くなる努力をするのは素晴らしい事なので、少々大袈裟に褒めておいた。
そして、三姉妹と一緒に魔法の訓練をしていると、オシホ様が新精霊達を全員連れてやって来た。
「訓練中にすまぬ。この者等にも稽古をつけてもらえぬか?」
「魔法を、ですか?」
「いや、武器での訓練を頼む。広坪にはゴーレムに乗ってもらって一対一で全員を相手にしてもらいたい」
何故、と訊きそうになったが、オシホ様が真剣だったので、理由はあえて訊かずに承諾する。
「承知しました」
「よかったのじゃ。それでは、武器の訓練場にゴーレムを用意させている。向かうのじゃ」
場所を魔法の訓練場から武器の訓練場に移る。
三姉妹には、魔法の訓練場で訓練を続けてもらっている。
訓練場には、確かに俺の搭乗型ゴーレムが用意されていたが、武器が訓練用の物では無く、真剣が用意されていた。
疑問を持ったので、顔をオシホ様に向ける。
オシホ様も俺の意図を理解してくれて答える。
「それで頼む」
「承知しました」
搭乗型ゴーレムに乗り込み、大盾と大剣を手に取って訓練場の中央に向かう。
新精霊達も各々に武器を持ち、俺に続く。
中央でオシホ様に説明を受ける。
「ルールは時間無制限、武器は真剣、魔法もアリじゃ。相手を戦闘不能にしたら勝ちじゃ。良いな!」
なんだか訓練というよりは、試合だ。
それも殺しあいの方の。
「了解しました」
「まずはアルファからじゃ!前に出よ!」
オシホ様に言われてアルファが前に出る。
「始め!」
オシホ様の合図で試合を始める。
精霊相手なので、まずは大盾を構えて警戒すると、アルファは『ロックジャベリン』の魔法を早速放ってきた。
俺が横に移動して避けると、更に『ロックジャベリン』を放ってきた。
右に左にと単発の『ロックジャベリン』を避けていると、今度は三本同時に魔法を放ってきたので、大盾を構えて突撃した。
左右と真ん中に放ってきたので、真ん中の『ロックジャベリン』を大盾で弾きながら接近すると、アルファは驚き隙ができたので、大剣で平手打ちの様に剣の腹でアルファを叩く。
強く叩きすぎたのか、アルファは壁まで飛んでいき、壁に激突して動きを止めた。
「広坪、斬っても良い」
「了解です」
「次!」
それから、全ての新精霊と戦ったが、問題なく倒せた。
どれも似たような戦いかただったので、魔法を使わずに倒せてしまった。
ただ、手足を斬っても止まらなかったので、首を跳ねるか壁にぶつけた。
「これで良かったのですか?」
「うむ。上々じゃ。これで奴等も真剣に働くじゃろう」
「あの、無理に働かせなくても良いのですよ?解放されたいのならは、解放していただいて構いませんが?」
「いや、奴等はお主の力を知りたかったらしいのじゃ。じゃから問題は無い」
「そうなのですか?まぁ、良いですが、無理矢理は辞めてくださいね」
「承知したのじゃ。広坪はもう戻って良いぞ。後片付けはこちらでしておく。家族のと時間を中断させて悪かったのじゃ」
「いえ、オシホ様も家族ですから気にしないで下さい。それでは、失礼します」
オシホ様と別れ、三姉妹に合流して訓練に戻った。
その日の夕食と新精霊が配膳をしていたが、動きが朝より良くなっていた。
これも午後の一件の成果だろうか?
何にしても、戦力が大幅に増えたので、今後の活動がしやすくなった。




