村へ宣伝
聖堂院
子爵軍を退け、聖堂院が正式に俺のものになってから半月が経った。
俺達は、この半月の間に要塞の拡張を行った。
正確には、要塞の外に更に防壁を作ったのだ。
これは、聖堂院で保護していた者達の希望やこれからの事を考えて拡張を実施した。
聖堂院で生活している彼女達は、外での生活、と言うと変だが、日の当たる外に家を建てて、そこで暮らしたがったのだ。
正直、彼女達は以前から聖堂院で生活していたので、今さら何をと思ったが、この間の戦闘を間近に感じて、閉鎖空間である聖堂院内を嫌がる者が出たのだ。
まぁ、仕方がないという思いもあったが、聖堂院の防衛や交易のための場所を確保するにしても、拡張をすべきと判断したので、第二防壁を建設したのだ。
防壁は、オシホ様によって作られた。
最初からあった防壁を第一防壁として、新たに造った防壁を第二防壁と呼ぶことにした。
以前のと防壁とは並びが逆になったが、造った順番は同じなので、良しとしておく。
第一防壁は、聖堂院の入り口を中心に200mほどの距離があった。
第二防壁は、第一防壁から300mほど離れた場所に造られたので、聖堂院入り口からは、500mほど離れている事になる。
単純計算で、広さが2.5倍程度になった計算になる。
要塞の変化に伴い、新たな防衛計画が一から立てられた。
子爵軍との戦闘時に、なんちゃって空城の計は、建物を建てると使えなくなるだろうし、メリットもあまり無くなるので、使うことを前提にした計画は立てられないだろう。
これからの防衛計画は、敵の殲に注力する事にした。
これは、攻められた場合に、その一回だけで済むようにするためだ。
勝てると思えない場所には、普通は攻めたいとは思わないだろう。
具体案としては、籠城だけでは無く、打って出る事を主眼に防衛計画が立てられている。
要塞内は、交易等の場にする予定なのて、商人や非戦闘員が戦闘に巻き込まれかねない。
建物等は頑丈に作るが、攻撃を受ければ不安になり、商人の足が遠ざかるかも知れないので、攻撃をさせない。
つまり、要塞に近付かれる前に殲滅する作戦である。
ゴーレムの性能に頼ったごり押しではあるが、これが最も被害が少なくなると思う。
ただ、街道を封鎖されてはどうしようもないので、そういった場合は諦める事にする。
防衛計画は、外だけでは無く、内部についても色々検討された。
商人を呼べば、色々な人が来る。
問題は、スパイや工作員等だ。
こういった人に対処できる専門的な人が居ないので、オシホ様や精霊トリオに頼る事にした。
どちらにしても、精霊の一人が残ってもらわなければならないので、その者にお願いするという雑な決定がされた。
他は、商人などの外部の人間を受け入れる事を考慮しつつ、防衛計画を立てた。
それでも、どの程度商人が来るか、来てくれるのかさえ分からないので、まだ仮定しつつの計画立案になるので、随時更新する事になる。
要塞内には、住居や交易用の施設を作るのだが、防衛の事を考えると、第一防壁内は聖堂院の関係者関する施設を集中させ、第二防壁内には交易関係の施設を建てる事にした。
第一防壁内は、住居を造り、訓練場を確保しつつ、一部に畑も作った。
住居は、彼女たちの意見を取り入れつつ検討した結果、ルームシェアを大規模に行う用な形になった。
二階建ての集合住宅の様になったが、トイレ、キッチン共用、風呂無しと、なった。
風呂無しとはなっているが、銭湯を作ってあるので、問題は無いし、聖堂院内にも風呂はあるので、そちらの利用もできるようにしてある。
魔具で『クリーン』が使えるが、風呂を設置してからは、ほとんどの者が風呂を利用するようになり、住宅を建てる際も風呂を熱望された。
訓練場は、彼女達の訓練のための場ではあるが、戦闘準備のための空間確保や、万が一の避難場所としての役目もある。
一部に畑も作ったが、これも彼女達の要望の一つだ。
正確には、緑が欲しいという事で、花壇なんかを作ったのだが、本当に一部の者が畑も希望したのだ。
花壇を作るついでに、この地域で作れる作物を確認するためにも、小さい実験農場の様なものもつくったのだ。
各々の配置は、住宅と畑が西側に配置され、山の側に住宅がくっついている形になり、その南側に畑がある。
花壇は住宅の合間に作った。
中央部は訓練場を兼ねた広場になっている。
そして、東側は研究所の関係者用の空間を確保した。
先の戦闘の時に、彼女達の行動を警戒して隔離処置をとったのだが、その様な行動をとるなら、今回の大規模な工事にかこつけて、聖堂院内を完全に二分する事にした。
彼女達の側に、住居にしていふ二階と、一階の西側と礼拝堂、地下二階を彼女達の側として完全に隔離した。
俺達の側は、一階の礼拝堂の奥と東側、地下一階を確保した。
これらに伴い、聖堂院に出入り口をもう一つ作った。
彼女達は、礼拝堂の出入り口を使い、俺達は新たに東側に出入り口をつくり、そこを使う。
第二防壁内は、交易用に使う予定ではあるが、商人がどの程度来るのが全く不明であり、防衛時には前線になりえる場所なので、新たに作った防衛計画を元に配置を調整した。
大きく分けて、東側半分を俺達専用にして、西側半分を交易やその他の目的用にする予定だ。
俺達の側が東側を半分も確保したのは、馬を手に入れたからだ。
32頭手にいれたのだが、この馬達は負傷して破棄される所だったのを、俺達が一頭当たり下級ポーション3本、合計96本で買い取った。
馬が欲しかったので丁度良かったが、怪我をしているとは言え、軍馬一頭で下級ポーション3本は安いのか高いのか分からない。
とにかく、軍馬を手に入れたので、その飼育や乗馬の訓練用に場所を確保したのた。
そして、この軍馬を使って、俺を始めとした研究所に居るメンバーには、できるだけ馬に乗れる様になってもらうつもりだ。
無論、ルティとカティは妊娠しているので、乗ってもらうわけにはいかない。と言うか、二人とも馬には乗れるので、大丈夫だった。
そして、西側には取り合えず宿を一軒と倉庫を建てた。
宿は、4、5人が泊まれる部屋を四つと個室を三つ用意した。
あと、厩舎も併設して、馬の受け入れもできるようにした。
倉庫は、俺達の売り物を保管するためのもので、商人に見せても良い程度の質と量を保管しておく場所だ。
後は、馬車が余裕をもってすれ違える道幅がある道を作り、縁石も配置したので、歩行者も少しは安全に移動が出きるだろう。
半月ほどで、ある程度形にはなったので、次の段階へ移行する事にした。
次は宣伝だ。
ここの事は、聖堂教国に撤退した副団長一行と子爵、それから副団長一行と子爵が通ってきた街や村、西に徒歩で半日の距離にある村ぐらいだ。
聖堂院が賊に占領された事は知られているかも知れないが、俺達が交易、商売をを始めようとしている事は知られていないだろう。
なので、俺達が唯一行ける場所、西の村へ宣伝に行くことにしたのだ。
商品は、目玉のポーションと皆と相談して決めた品々だ。
皆と相談して決めた商品は、衣服、魔具、その他雑貨だ。
子爵軍から奪った食糧は、近隣が食糧難であったので、支援として持っていく。
唯一行ける村が無くなってしまったら、今後に色々と影響してしまうのだ。
村へ向かう準備を整えて、早朝に出発した。
村へは、俺、オシホ様、アインとツヴァイ、マリー、それに遠征用のゴーレム引き連れて向かった。
正直、過剰戦力だが、オシホ様達の要望なので、仕方がない。
村までは、ゴーレムで一時間かからなかった。
「ゴ、ゴーレムが攻めてきたぞー!」
村の近くに居た村人が叫びながら逃げて行った。
前回、聖堂院から撤退した副団長一行を見送りに来たときに暴言を吐き、副団長等からも話を聞いたであろうから、俺達は恐怖の対象になっていても何の不思議も無い。
「では、俺一人で、という訳には行かないでしょうから、オシホ様付いてきて下さい。それから、皆とゴーレムは片膝を着くか座った状態で待機しておいて下さい」
「まぁ、よかろう。皆待機せよ」
「分かりました」
「「了解です」」
皆とゴーレム達を残して、俺とオシホ様だけで村へ近付き、村へ呼び掛ける。
「我々は戦いに来たのでは無い!我々は村長との会談を望む!」
村を囲む柵の近くでかなりの大声で呼び掛けたので、村全体に聞こえたと思う。
しばらくて、村長と思われる初老の男性と若い男が二人が出てきた。
村長と若者も震えており、かなりの恐怖を感じている様だ。
「私がこの村の村長です。こ、この村に何のご用でしょうか」
「村長に頼みがあって来た。この村に商人は来るだろうか?」
「はい。二月に一度訪れます」
俺の問に村長がなんとか答えてくれる。
「その商人に俺達の持ってきた物を売ってもらいたい。対価として、食糧を渡す用意があるがどうだろうか?」
村長は、最初何を言われたのか分からなかった様子だが、意味を理解して、必死な表情で尋ねてきた。
「どの程度の食糧を頂けるのでしょうか?!」
「あの荷馬車一台分だ。どうだろうか?」
「お話を是非お聞かせ下さい!」
村長始め、三人が土下座してくる。
「勿論です。村へ入っても良いでしょうか?」
「あの、ゴーレムも、でしょうか?」
村長が顔だけを俺に向けて訊いてきた。
「警戒は分かるが、俺達がその気ならこの村程度はどうにでもできる。警戒はあまり意味が無いが、気持ちも分かるので、荷馬車を牽くゴーレムと、俺と俺の助言者、あと護衛3名を連れていく、これでどうですか?」
「お気遣いありがとうございます。それでお願いします」
「ご理解ありがとうございます。オシホ様、どうですか?」
「大丈夫じゃろう。危険はそれほど無さそうじゃ」
「そうですか。でしたら、お願いします」
「承知した」
オシホ様が荷馬車を二台を動かし、それに合わせてマリー、アインとツヴァイが動く。
マリーが俺の隣に来たのを確認して、ゴーレムを座らせてゴーレムから降りて村長達に姿を見せる。
黒い上下の服に、簡易的な革鎧を身に付けているので、少々怪しい仕様になっている。
マリーも似たようなものだが、こちらはなかなかに似合っている。
その後、村長の家に案内され、俺とマリー、オシホ様、アイン、ツヴァイで中に入った。
席に着いたのは、俺とマリー、村長と存じより少し年下の男が二人だけだ。
村長より少し年下の二人は、村の顔役たそうだ。
オシホ様達は俺達の後ろで立ち、あちらには護衛が居ない。
先程まで村長と共に居た若者二人は、村長の家には入らずに別れた。
「早速だが、本題に入ります。我々は、品物を俺達の代わりに商人に売ってもらいたい」
「商人に、ですか?」
「そうだ。我々は、聖堂院で商売をしたいと思っている。物はあるが、商人への伝が無い。なので、この村に来る商人に、俺達が売ろうとしている物を売ってもらいたい」
「その、危険な物は売れませんし、物によっては買い取って頂けない事もあります」
「それは分かっています。売れる物を持ってきたつもりですが、もし売れなくても貴方方を責めたりはしませんので、ご安心下さい」
「ありがとうございます。それでしたらお受けできます。それで、食糧の件は本当でしょうか?」
村長が遠慮気味に訊いてきた。
オシホ様達に緊張しているのかも知れない。
仮面のメイドだからな……。
「本当です。ただ、あまり良いものとは言えませんが、それでも、よろしいですか?」
「なんでもかまいません。食糧が足りず、子供達を売らなければならなくなるところだったので助かります」
「それほどでしたか。でしたら、商品を売ることができたら、その金額の一割を貴方方に手間賃としてお支払いしましょう」
「本当ですか?!」
先程とは比べ物にならないぐらい勢いよく訊いてきた。
「本当です。我々としても、この村があった方が色々と助かるので、その支援の一環だと思って下さい」
「「「ありがとうございます」」」
村長だけでは無く、黙って聞いていた二人も涙を流さんばかりに頭を下げてきた。
「いえ、こちらにも利益はありますから。それでは、食糧と商品の確認をしますか?」
彼らの利益にも繋がるなら、商品を真面目に売ってくれるだろう。
まぁ、それでも彼らの裏切りは十分にあり得るが、これからの利益を考えれば裏切るような真似はしないハズだ。
もし、目の前の利益のみに飛び付き、恩を仇で返すような者達には用は無い。
それに、一度でも商人に話が伝われば良いので、今後の事は彼ら次第という事になる。
「お願いします」
彼等に食糧を見せると、十分だと喜んでもらえた。
さらに、俺達の商品を見せると、これなら売れる、と納得してくれた。
ポーションが10本、衣服が上下の10着ずつ、灯り用の魔具10個、その他雑貨の香り付き石鹸なども10個ずつ用意した。
そして、村用にポーション2本と灯り用の魔具2個を提供した。
ポーションだけでも良かったのだが、魔具の使い心地も聞いてみたかったので、試供品として渡した。
この魔具は、非常に小さいが魔玉を使用しており、使用者の魔力をチャージ出来るようになっている。
魔力を込めておけるので、一晩中照らすことも可能だったりする。
材料費は安いが、技術的にはかなり高度で、灯りでの魔力消費軽減にチャージ機能を搭載しており、他では真似できない物になっている。
これが売れれば、他の魔具も十分に売れるだろう。
消費の確認後、商人の来訪予定を確認すると、一ヶ月と少し前に来たので、次は一ヶ月以内には来そうとの事だった。
思っていた以上に上手く行ったので、安心して帰ることができる。
後は、彼らが裏切らないで事を祈るばかりだ。
用件は全て済んだので、研究所へ帰る。
俺はこの時まだ知らなかった。
研究所で大事件が起きている事に……。




