子爵軍 後始末1
またもや記念評価を頂きました。
ありがとうございます。
聖堂院 要塞
やられた。
要塞内に入れたのは罠だったのだ。
我々は意図的に要塞内に入れられ、捕虜となった。
捕まった後に、『降伏してくれて助かりました。降伏を促すためとは言え虐殺は気が引けましたからね』とコウヘイ・ツチクラに言われた。
もしあそこで降伏を拒んでいたら、本当に皆殺しにそれていたのだろう。
捕虜になった後に、聖堂院からの『ロックジャベリン』の攻撃を見た。
あれが我々に向けられたら、と思うと背筋が寒くなる。
そして、兵達は反抗の意思を完全に挫かれていた。
降伏の判断が間違いでなくてよかった。
もし解放されても、子爵の事だから、何だかんだと言って敗北や降伏の責任を押し付けられて、首を跳ねられることになるだろうから、結果的に部下達の命を救って死ぬなら悪くない。
武装を解除させられ、捕虜になった後に治療を受けた。
下級や中級だけでは無く、上級ポーションまであった事には驚いた。
しかも、その上級ポーションを指揮官クラスだけではなく、一般兵にまで使う余裕が有るようだ。
ポーションの製造、嘘では無いようだ。
多数のゴーレムに、ポーション、馬を拘束した魔法、勝てる見込みは無かったか……。
治療の後は、一ヶ所に集められ食糧が提供された。
笑える事に、与えられた食糧は、彼らが我等から奪っていった物だった。
コウヘイ・ツチクラは、食糧の分配や捕虜となった部下達の指導を俺に任せて来た。
予定よりも捕虜が多いので、管理が面倒なのだそうだ。
無責任さを感じたが、無体に扱われるよりは遥かに良いので、指導の任を受けた。
その後、調理器具等も提供されたのだが、火などは薪では無く魔具による物だった。
10,000以上もの人間が居るので、それなりの数が必要だったが、問題なく必要な数が渡された。
さらに、トイレも魔具によって作られた。
聖堂院に入れられない事は分かっては居たので、糞尿だらけになる事を覚悟していただけに助かりはしたが、贅沢なものだ……。
この分なら、魔具の製造もしているのだろう。
何て相手を敵にしたのかと頭が痛くなる思いだ。
昼食を終えたので、寝床などの振り分けや調理器具の配置など、雑多な状態から整理された状態にすべく、指示を出していると、仮面メイドが来てコウヘイ・ツチクラに呼び出された。
部下達の整頓は、指揮官だった者に任せて、大人しく付いていく。
部下達には敬礼で見送られた。
これから尋問が待っているかも知れないのだ。
最悪は生きて部下達の元に戻れないかも知れない。
様々な覚悟をして連れていかれた先は、最初に会談したと思われる建物だった。
この建物もあの通路も魔法によって作られたものだったのか。
他の事で驚きすぎて、この事実にはあまり驚けない。
魔法では、箱形のものを作るだけでも驚異だというのに、簡易的とは言え、建物まで作るとは……。
建物を見ていると、突然仮面メイドに両腕を後に回され、ロープで縛られた。
そして、首には魔具を装着させられた。
仮面メイドに腕を握られたが、感触が固かった。
これもゴーレムなのか……。
思わず仮面メイドに声をかけようとしたが、声が出ない。
首に装着させられた魔具の効果か。
首に装着された魔具の効果を理解したとほぼ同時にコウヘイ・ツチクラが聖堂院の方からやって来た。
☆☆☆
「カバリムさんこんにちは。今、使者の方が来ていましてね。貴方にも同席してもらいます。ただ、勝手に話されてはこちらが困るので、その様な処置をしています。申し訳ありません」
カバリムさんは何の反応も見せない。
拒否の反応を見せないし、了承したということで。
「では、中に入ります。アインはカバリムさんを連れてきて下さい」
そう言ってから建物の中に入る。
中には使者と護衛、オシホ様が既に居た。
本来ならアインとオシホ様は役目が逆なのだが、オシホ様の助言でこうなっている。
食糧の件を失敗したアインは、すぐに切り替えていつも通りに振る舞っている様に俺には見えていた。
だが、オシホ様からすると、無理をしていたそうだ。
理由としては、俺には迷惑をかけたからだそうだ。
その話を聞いて、俺にも思うところがあり、しばらくは俺の身の回りの事をしてもう事にしのだ。
アインがこれほど落ち込んだのは、作戦計画立案の過程に理由があったみたいだ。
俺の当初計画では、一人も殺さない事を最重視にして作戦を立てていた。
だが、これは俺以外の全員の反対によって却下された。
大概の事は、多少の無理があっても俺の意思に従ってくれていたのだが、アリスさん、ルティ、カティ、マリーの人間組は勿論、オシホ様と精霊トリオまで反対した事に驚いた。
理由を尋ねると、俺の意思を尊重したからだと言う。
俺の意思を尊重するために、俺の意見を却下する?
意味が分からず、さらに尋ねた。
詳しく話を聞くと、人間組は、俺とこの世界の常識の違いを指摘された。
こちらの世界は、地域に区切られ、領地や領土というものがはっきりと決まっている。
それ故に、領土の侵略というのは、支配者の死に強く関わるので、自分で対処てきない場合は、恥も外聞も無く援軍を頼むそうだ。
それが、隣の領地や寄親、国全体という風に広がる場合が多いそうだ。
特にこの王国はそうやってここまで大きくなったらいし、時期的にもオークキングが領域支配をしていて、研究所もある地域に攻め込むために国全体で動いている可能性も高いらしい。
なので、俺の人を殺さずに対応を続ける、では、戦闘を長引かせる事になり、国全体を相手にすることになり、結果的に死者の数増やすことになるとの事だった。
オシホ様率いる精霊組も似たような意見で、領地争うをするなら、手早く確実に断固としてやるべし。だそうだ。
それこそ、子爵が連れてくるであろう数万の軍を一人残らず皆殺しにした方が、結果的に殺す人数が少ないと断言されてしまった。
皆の意見を受けて、相当に悩んだ。
その日には答えを出せず、貴重な準備期間を浪費してしまった。
悩み抜き、俺は顔も知らない数万人の命よりも、ルティ達の幸せを選ぶ事にした。
だが、それでも死者を極力減らす方向でお願いし、検討を重ねた。
その結果が今になる。
本来の計画なら、子爵軍を軽く追っ払って、その上の公爵と交渉を考えていたので、勝つ可能性が極めて高い子爵軍への対応が疎かになり、強攻をされて、死者がかなり増える事になってしまった。
子爵軍では死者が1,000以下、上手くすれば100を切れるかも知れないという話し合いがされていたので、今回の3,000人程度の被害は、当初に比べてかなり大きな数になってしまった。
アインは、自分の失敗で相当数死なせた事よりも、死なせた事で、人を出来るだけ殺さない様にしていた俺に心の負担を強いた事に罪悪感を感じていたみたいだったのだ。
俺の心を心配してくれる事は嬉しいのだが、人の死よりも、となると少々複雑な気持ちになる。
だが、俺も子爵軍数万よりもルティ達の幸せを選んだのだから、アインの事を責めれない。
ただ、普段から俺にそれほど執着というか、愛着の様なものをあまり見せないアインがこれだけ俺に気を使うとなると、普段からそれなりの愛着を見せるツヴァイはどれ程だろうかと、思ってしまう。
あまり深く考えるのは止そう。
何にしても、アインが俺を大切に思ってくれている。この事は嬉しく思ったので、アインの心を軽く出来るなら、とオシホ様との役目をしばらく入れ替えて過ごすことにした。
名目上は、罰則になっているが、アインの調子が少し戻ったので、これで良かったのだろう。
俺は、アインとカバリムさんを連れて建物に入り、使者と対峙する。
使者は初顔の人物で、宝石などをいくらか身に付けており、カバリムさんやカバリムさんに同行して来た者とは明らかに雰囲気が違う。
「お待たせして申し訳ありません。早速でなんですが、何用で来られたのですか?」
「何用とは随分な物言いですね。我々から奪った物資と兵士の返還を要求する。今すぐに返せば、罪には問わないでおいてやろう」
「そうですか。では、聖堂院の法的占有の許可を持ってきて下さい。それで、我々が捕まえている全兵士と物資の半分をお返ししましょう」
俺が澄まし顔で返事をすると、使者として来た男の顔が歪む。
「ふざけるな!こちらが下手に出ていれば付け上がりおって!殺されたくなければ今すぐに返還しろ!」
「俺を殺す?貴方は使者ではなく、暗殺者なのか?」
死者が激昂したのに合わせ、使者の護衛達が剣の柄に手をかけたので、アインが俺を守るように動き、アインが使者と護衛に『アースランス』を地面から生やして突き付けたので、余裕をもって使者に答える。
使者も護衛も汗を垂らしながら動きを止めたまま何も答えないので、再度尋ねる。
「貴殿方は暗殺者なのですか?」
「ち、違う。だから、これを収めてくれ」
「ですが、護衛の方々は剣の柄に手をかけたままでは……」
「今すぐ手を離せ!」
使者の言葉を受けて、護衛達が剣の柄から手を離したので、オシホ様が『アースランス』を消す。
「それで、貴殿方は兵士と物資を奪還したいと仰いますか。でしたら力ずくで取り返したらよろしいかと思います。出来るなら、ですがね」
使者は苦虫を噛み潰した様な顔になり、黙ってしまう。
「そうですね。貴殿方は食糧にお困りの様子、我々はここで商売をしたいと思っているので、食糧をお売り致しましょう。丁度物資を大量に手に入れたので、格安でお売りしますよ?そうですね……、一万人が一日に食べる分を金貨100枚でお売りしましょう」
普通なら、一万人が一日に食べる食糧は、金貨で12~15枚程度なので、ぼったくりだ。
だか、場所や状況によって値段は変動するのだから、これくらいは仕方がないと思う!
「足元を見おって……」
「そうてすか?この辺りでは食糧難だったみたいですし、我々が命懸けで手に入れたので物ですからね。これくらいが妥当かと思いますよ?」
使者は顔を真っ赤にして黙っている。
護衛も怒っている様子だ。
「そうですね。その代わりと言ってはなんですが、兵士の方々も一人辺り金貨一枚で返して差し上げても良いですよ?健康で兵士として使える男ですが、我々としては、10,000もの人を長々と囲ってられないので、格安でお売りする事にします」
ここで使者の顔に余裕が少し戻ったので戻る。
「それは大変ですな。我々が動かなければ食糧の調達も難しいでしょう。どうです?貴殿方の罪には問わず、聖堂院の法的占有の許可について検討をします。さらには貴方の仕官も考えますので、全兵士と物資を半分を返還しませんか?」
「そうですね……。あまりにも魅力が無さすぎます。検討だけでは意味はありませんし、仕官など、子爵のお噂を聞いていると、したいとはとても思えませんね。子爵の部下になるぐらいなら、モンスターの餌にでもなった方がいくらかマシですよ。私も恥というものを知っていますからね。兵士の方は、物資には限りはありますが、交渉の相手は貴殿方だけでは無いので、気にしないで下さい」
使者は顔を歪ませるが、答える。
「公爵様と交渉をするおつもりなら無駄ですよ?」
「いえいえ、公爵様ではなく、ここの所有者と直接交渉するのも悪く無いのでは無いかと思いましてね。友好国の兵士を一万以上も助ければ外交的に良さそうではありませんか」
ここでやっと使者の顔が青くなる。
俺が聖堂教国と直接取引をすると、子爵の面目は潰れ、外交的にも立場が悪くなる。
使者は必死に何かを考え、カバリムを見る。
「せ、せめてそこの男だけでも渡して頂けないだろうか?渡していただけるなら即金で金貨100枚を出そう」
「申し訳ありませんが、この者には色々と訊きたい事が山積みなので、お渡しできません。それに、聖堂教国もこの人が居た方が喜びそうですからね」
「申し訳無いが、主と相談せねば決められぬ事ばかり、夕刻までにもう一度来る」
「そうですか。ではお気をつけてお帰り下さい」
使者の一行は、オシホ様に連れられて去っていった。
あの使者の様子なら、本当に聖堂教国と交渉をした方が早そうだ。
真剣に聖堂教国との交渉も考えておこう。




