子爵軍 本戦 後1
思ったよりも長くなってしまい、後編が分割になりました。
2で終わる予定ですが、もしかしたら3まで行くかも知れません。
申し訳ありませんorz
聖堂院 内部 奥
「アイン、そろそろ二人を起こして欲しい」
現在夜中の三時過ぎになる。
勝敗を決めるべく動くため、二人を起こしに来たのだ。
防御では無く攻撃、つまり夜襲を仕掛ける。
攻撃開始時刻は午前四時以降の予定なので、何度目かの夜襲が終わったタイミングで来た。
「そうですか。承知しました。準備でき次第送り出しますので、先にお戻りください」
「了解です」
アインがようやくですか。といった感じで普段より明るく答えてから、二人を起こしに行った。
女性には何かと準備もあるだろうし、トイレだけ済ませてオシホ様の元に戻る。
「アインに起こすように言ってきました」
「ご苦労、次の攻撃終わりに乗じて攻撃を仕掛ける事になるじゃろうから、お主も軽く休んでおくのじゃ」
「トイレも済ませて来ましたし、問題ありません。」
「そうか。む、次の攻撃が来た様じゃ」
「そうみたいですね」
子爵軍の夜襲が再び始まってから少しして、二人がゴーレムに乗って現れた。
装備は俺と同じものではなく、普段通りの物だ。
カティは盾と剣、マリーは弓を装備している。
「おはよう。良く眠れましたか?」
「お陰さまで良く眠れました」
「私もです」
カティとマリーが元気良く答えてくれた。
「では、この敵が退いたのを確認したら攻撃に出ます。お二人は防御ですが、気を抜かないて下さいね」
「勿論です。承知しています」
「弓で援護しますか?」
カティが答え、マリーが尋ねてきた。
「いえ、弓の事は出来るだけ秘匿しておきたいので、俺が出ている間に攻撃があった場合のみお願いします」
「了解です」
敵の攻撃が止み、後退し始めたので、オシホ様に確認する。
「敵はどうですか?」
「準備している者達は居るが、まだ動きそうには無いな」
「では、行きましょうか」
「そうじゃな。アインもやる気の様じゃな。既に下で待機しておる」
「それはそれは、急ぎましょうか。 マリーは防壁上で待機をお願いします。カティは一緒に下へ」
「お気を付けて」
「了解です」
俺、オシホ様、カティ、更にはゴーレム引き連れて防壁から降りて、アインの居る門前に集まる。
アインは、作業用ゴーレムと、作業用ゴーレムに牽かせるための天井が無い箱形の荷車を並べて待機していた。
「敵は南と西に陣地を設置してる。どちらも20,000ほどの戦力があるが、予定通り作戦を実行する。アインにはゴーレム60体を預ける。それで西側の陣地を襲撃、ワシと広坪はゴーレム10体で南側を担当する。残りのゴーレムは防壁上に20体、10田井はカティと共に門を守ってもろう。何か質問はあるか?」
オシホ様が話し、皆が沈黙で答える。
作戦は既に知らせてあったので、今回の事は単なる確認だ。
「よし。では、これりよ襲撃を仕掛ける。各自無理はすでないぞ!それでは開門する!」
オシホ様の操作により、門が開いていく。
「出撃!」
オシホ様の言葉に従い、オシホ様、戦闘用ゴーレム10体、俺、アイン、戦闘用ゴーレム60体、作業用ゴーレム20体と荷車、カティ、戦闘用ゴーレム10体の順番で門を出る。
俺は、オシホ様と戦闘用ゴーレムの後に付いていく形で、こっそりと南の陣地を目指す。
アインは、ゴーレム達を整列させながらこっそりと西側に移動し、カティは門の中に立ち、それを守る様に10体の戦闘用ゴーレム達が配置されている。
夜間なので、少し離れるともう確認できなくなる。
無事と作戦の成功を祈るが、俺達の側もミスはできない。
気合いを入れて行く。
俺とオシホ様は、足音を出来るだけ殺しながら移動する。
「そろそろじゃな。広坪よ突撃じゃ」
「了解!」
隠密行動の限界をオシホ様が告げてきて、突撃を指示してきた。
俺は、その言葉に従い突撃を開始する。
突撃と同時に俺のゴーレムに取り付けてあるライトを全て点灯する。
これで、足元も良く見えて走ることができる。
更には引き連れて来た戦闘用ゴーレム10体も身体中のライトを点灯して前方を照らす。
この戦闘用ゴーレムは、子爵軍との戦闘の最中も予備戦力として置いておいたゴーレム達だ。
当初から夜襲は計画のうちだったので、夜間戦闘用にライトを多数装備している。
ライトの魔具は、複数魔具が有線で繋がっており、一つの魔具として操作することが可能だ。
魔力の消費量は別々に全てを同時に使った場合に比べて倍近くの魔力を消費する様になったが、魔力供給可能範囲に居る限り、操作が容易なこちらの方が有用だ。
俺を始め、10体のゴーレムが明かりをつけたので、周囲が明るくなる。
夜間にその様な事をすれば、敵に気付かれる。
夜間の警戒就いていた者達は、敵襲の知らせを叫んで居るが、次の攻撃に備えていた者達は、迎撃体制に移ろうとした。
だが、一歩俺の方が早かった。
俺は、簡易的な柵を打ち破り、陣地内に侵入して敵兵に攻撃を加える。
俺の装備は、大盾二枚のままなので、盾で殴る。
もちろん手加減はしている。
敵兵を殺さない様にするのも作戦の内だ。
というか、今から怪我人を増やすのが重要だ。
なので、積極的に敵兵を生かす。
そして、戦闘用ゴーレム達も陣地に侵入してくるが、俺の開けた穴からでは無く、他の柵をゴーレム達がそれぞれ破り陣地に侵入してくる。
これで多少の事はなんとかなる。
「狙うは敵の大将だ!奥のテントを狙え!」
俺は、事前に決めてあった通りに、狙いが敵大将であると大声で叫ぶ。
ゴーレムの操作はオシホ様がしているので、叫ぶ必要は無いのだが、俺達の目的としては必要な事なので実行した。
効果があったか分からないが、この陣地全体がより一層騒がしくなった。
と、同時に、西側の陣地でも何やら騒がしくなった。
今頃は、アインが敵陣に突入しているだろう。
あちらは力業になるので、こちらより死者が増える可能性があるが、両方で実行しなければ意味が薄れる。
酷だが、全体での死者を減らす為だ。
罪は俺が……いや、今は目の前の敵に集中しよう。
俺達は、次々とやって来る敵兵に対応していく。
正直、このぐらいの敵なら突破して行く事も出来なくは無いが、数に圧倒された、という風に見せかけつつ集まり、突破を図る振りを降り返す。
すると、陣地の奥で新たな騒ぎが発生する。
どうやらドライが動いた様だ。
あちらには50体の戦闘用ゴーレムと作業用ゴーレム30体が配置されているので、問題なく目的を達してくれるだろう。
俺達を囲んでいる者達は、陣地の奥で別の騒ぎが起きていることに気づいていないのか、ただただ俺達に攻撃を続ける。
腕を折った程度では退いてくれないので、仕方なく足を中心に攻撃する。
足をやられた者達は、他の者に引きずられる様にして奥へと消えてか行く。
すると、奥から作戦成功の合図が上がった。
「オシホ様!」
「うむ!陣地から出るぞ!」
作戦成功の合図を確認した俺達は、オシホ様を先頭に囲んでいた一部を突破し、ゴーレムが突入した場所から陣地の外に出た。
だが、まだ陣地からは離れずに、陣地の柵を利用しつつ敵兵の相手をする。
アインからの合図があるまではここで踏ん張らなければならないからだ。
広がりすぎない様に敵兵を相手にしながら、少しずつ聖堂院の方へ後退する。
すると、聖堂院からも合図が上がった。
合図を確認した俺達は、敵兵になど目もくれず、全ての明かりを消して即座に聖堂院へ向けて走った。
敵兵も追撃をかけようとしてきたが、馬より速く走れる俺達に追い付ける訳も無く、追撃を断念する。
俺達が、聖堂院に戻ると、最後の荷車が聖堂院に入っていく所だった。
アインは、カティと共に門付近で周辺警戒をしていた。
「損害は?!」
「ありません!」
オシホ様は、状況を正確に理解しているのだが、俺は思わずアインに尋ねると、簡潔に返事があった。
損害無し、こらならばモンダイハ無い。
「順次中に入るのじゃ」
オシホ様の言葉を受けて、カティとアインが要塞の中に入り、ゴーレム達も続く。
その間、俺達は周辺を警戒する。
高速で移動してきたし、敵は混乱の中にあるとは言え、騎馬での追撃が無いとも限らない。
正直あった方が助かる。
だって、馬が手に入るかもしれないのだから……。
少し期待しながら警戒していたが、何事も無く全員で要塞内に戻ることに成功した。
時間にして一時間も無かったが、濃い一時間になった。
一仕事終えたので一息つきたいが、まずは警戒体制に戻さなければならない。
戦闘用ゴーレムを防壁の上に戻す。
これで、襲撃があっても即座に対処可能だ。
今回の作戦目標は、敵の物資の奪取にある。
敵は俺達の防御力の高さを痛感し、長期戦に切り替えて来るだろうと考えた。
そこで、こちらから夜襲を仕掛け、食料やポーションなのど医薬品などの物資を最低限程度を残して奪うというものだ。
これで、相手は撤退か交渉かどちらかを選択する事になるだろう。
迎撃体制に戻し、敵の接近はオシホ様が関知できるので、アインから報告を聞く。
報告によると、俺達が南側の陣地をライトで照らしながらの襲撃だったので、西側の陣地の者達がそちらに気をとられてる隙に接近し、敵兵を蹴散らしながら物資集積してある場所へ向かい、全てを奪ってきたそうだ。
「待って下さい。全て奪ってきたのてすか?」
「そうです。有るもの全て載せれるだけ載せて帰ってきました」
マジか……。
「最低限の物資、二日分ほどの食料を残す様に指示したハズですが?」
「それはドライに任せました!」
そ、そうか。ドライが居たな。
あちらで40,000人分の食料を残したのか。
良かった。
アインの側は、物資の奪取に成功したので、何の問題も無い。
損害と成果の報告を終えたアインには、秘密地下通路を通って、ドライに被害と成果の確認に行ってもらうことにした。
ドライは、20,000の敵が居る陣地に突入して、思う存分暴れたことでご機嫌だったので、ドライの元に飛んでいった。
☆☆☆
子爵軍 本陣
「被害状況はどうなっている!」
ロムトジル子爵が怒鳴る。
広坪の大将を狙う発言はここまで届いており、子爵は自身の周辺に兵を集めていた。
そこに伝令が来る。
「襲撃者は全員が撤退した模様!現在被害を集計中です!」
ロムトジル子爵は、既に襲撃者が去ったことを知り安堵した後、指示を出そうとしたら、別の伝令が来た。
「報告!敵に物資を奪われました!」
「被害は?!」
ロムトジル子爵は反射的に訊く。
「大半が奪われ、食料がなんとか二日分ほどしかありません!」
二日、南側のルートでなんとか一番近い街まで分だ。
流石のロムトジルでも敵の意図が分かり、顔を真っ赤にして怒鳴ろうとしたとき、更に伝令が来た。
「今度はなんだ!」
「西側の陣地も襲撃され、食料を全て奪われました!」
「なんだと?!」
向こうもこちらも20,000ずつ、20,000人の食料が二日分なら、単純に40,000人だと食料が一日分という事になる。
強行すれば街なんとか着けはするが……。
「カバリムを呼んで来い!」
しばらくして、カバリムが来る。
「食料が奪われたぞ。賊は何匹討ち取った?」
ロムトジル子爵は静かにカバリムに尋ねる。
カバリムは、経験的にこの兆候は悪い事が有ることが分かる。
「賊は無傷で逃走、逃げる速度も速く追撃はできませんでした」
ロムトジル子爵は表情を一瞬歪ませるが、すぐに平静に戻る。
「そうか、それは残念だ。それよりもすぐに解決しなければならない問題がある。何か分かるか?」
「負傷者に使うポーションが無いこともそうですが、兵の食料が無いことです」
「そうだな。食料が無ければ賊を殺せないな。だが、食料はある」
カバリムは、ロムトジルの言わんとすることが分かった。
「それは……」
「動ける兵全てを使い、賊を攻撃し、食料と聖堂院を奪還せよ。本日の日没までに出来なければ、お前の首を跳ねる」
「……承知しました。ですが、勝てる見込みは薄く、全滅の可能性もあります。それでもよろしいですか?」
「行って勝ってこい。お前に生きる道はそれしかない。さっさと行け!」
ロムトジル子爵が怒鳴り、カバリムは静かに頭を下げてテントを出る。
カバリムは溜め息を一つ吐き、指揮官達を集める。
「総攻撃命令が出た。全軍をもって襲撃する。敵も夜襲でそれなりに疲労しただろう。作戦を前倒す形で実行する。破城槌も全て出す。一気に行くぞ!」
「「「おお!」」」




