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子爵軍 本戦 中

 



 子爵軍 本陣 テント



 子爵軍の本陣では、聖堂院への攻撃を中止して、主要メンバーを集めて話し合いをしていた。


「なぜ撤退などさせた!あのまま全軍攻勢に出ていれば勝てただろう!」


「勝てません。敵は手加減をしており、我々が全軍攻勢に出て、勝てそうになったなら、敵は容赦なくこちらを殺しにかかるでしょう。そうなれば、勝てる見込みは無く、残るのはこちらの兵士の死体だけでしょう」


 怒鳴ったのは、モルトルデン子爵家の当主ロムトジル本人で、反論したのはカバリムであった。


「破城槌で門を破ればどうとでもなるだろう!」


「得策ではありません。敵は破城槌にかなりの対策をしており、門を破るのは不可能に近いでしょう。さらに、中の状況が分かりません。突入した結果が罠だった。という結果さえあり得るのです」


「お前が中の探査に失敗しただけで、中には何も無い。そういうことあり得るだろう。文句ばかり言ってないで、聖堂院を落とす方法を考えろ。それがお前の役目だ。できなければ、本家がなんと言おうとお前の首を跳ねるぞ?女だけでなく、ポーションの製造法にあのゴーレム達まであるのだ。なんとしても全てをてに入れろ」


 子爵は、現状を説明しているだけのカバリムに無理難題を押し付ける。

 だが、子爵が言っている事も正しい。

 相手はモンスターでは無いが、兵士を一人でも多く生き残らせて勝つ。

 そのために、私に与えられた役目なのだ。


 女性達はともかく、ポーションの製造法に、あの性能のゴーレムだ。

 どちらかだけでも手に入れれば、トールデン王国にとって大きな利益になる。

 もし、両方を手に入れれば、子爵が公爵になってもおかしくないのだ。

 元々は、公爵の血筋の子爵なのだから、十分にあり得るだろう。

 子爵も必死なるのは当然だ。

 しかも、東の地域を手に入れれば、経済的に裕福になるのは確定的だ。

 地域を二つ三つ譲られて領地も広がれば、間違いなくトールデン王国で筆頭になれるだろう。


 正直、あの男が更なる権力を持つのは考えたく無いが、兵士達を一人でも多く生かすのが先だ。

 使者として会ったあの男は悪い人間には見えなかったが、討たせて貰おう。


「策はあります。敵は指揮官が乗っていると思われる一際大きなゴーレムを始め、ゴーレムが主力です。なので、こちらの弓での攻撃に効果が見られず、魔法使いは優先的に狙われます。さらに、破城槌は相手の土魔法を抑えられない以上、出しても門に取り付けないでしょう」


 カバリムは、集まっている者達、特にロムトジル子爵に説明するように話す。


「ですが、敵は少人数で対応している可能性が高く、人の疲労を狙います。幸いに、敵にはこちらを殺すつもりが無いので、先程の攻勢でも100名ほどしか死んでいません。物資は十分に用意してあるので、これから三日間昼夜問わず断続的に攻勢をかけ、疲労の蓄積を狙います。こちらは、人数が多いため、交代で休むことで疲労の蓄積を防ぎます」


 多少暗い顔だった指揮官達に明るさが戻る。


「そうすれば、相手側に対応の遅れや、失策を期待できます。三日目の夕刻に側面を含めた全面に一斉に攻撃を仕掛け、一気に攻め落とします。よろしいですか?」


 最終的な確認を、最上位指揮官のロムトジル子爵に許可を求める。


「何を言っている。貴様の責任でやるのだ。私に訊く必要は無い」


 責任は私、功績は子爵、いつもの事だ。

 だが、今回は多少の嫌がらせをしよう。


「これはおかしな事を仰いますね。私に責任があるなら、今すぐ彼らに聖堂院の占有の法的許可を出してしまいますよ?私は子爵閣下の命令で戦おうとしているのです」


「私はお前にそんな権限を預けてはいない!お前は私の兵を使って勝てば良いのだ!」


「よろしいのですか?私に功績をお譲りくださるとは有り難い。成功すれば私でも貴族になることができるかも知れませんね」


「何を言っている!私の兵が戦っているのだぞ!」


 子爵が血相を変えて怒鳴る。


「ですが、閣下は責任の無い身です。兵を貸していただいた事には感謝いたしますが、見学者に功績はありません」


 つまり、功績を得るために責任を負うか、責任を放棄するために功績も放棄しろと言っている。


「……よかろう。私の命令で攻撃を仕掛ける。もう行け」


「閣下、作戦はいかがなさいますか?私の助言を無視して全軍突撃して玉砕させますか?私の助言を生かした作戦を実行なさいますか?それとも、閣下が新たな作戦をお立てになりますか?」


 まだ何を命令したか何も言っていない。

 なので、改めて命令を要求する。


「お前の作戦をそのまま実行する!さっさと準備に行け!命令だ!」


「ご命令承りました。それでは準備のため失礼します」


 カバリムがロムトジル子爵に慇懃に礼をしてからテントから出る。

 ロムトジルのお付きの者以外も、カバリムに続いてテントを出る。

 直後、テント内にあったテーブルを叩く音が聞こえた。



 テントから離れ、声の届かぬ位置でカバリムに続きテントから出てきた指揮官の一人がカバリムに心配そうに話しかける。


「よろしかったのですか?子爵にあのような事を言って……。我々としてはスッキリしましたが、カバリム様の身に何かあったなら大変です」


「構わない。今回の作戦は成功率が低い。責任を押し付けられぬ様にしておいた方が幾分マシだ」


「失敗する様な作戦を提案なさったのですか?そでしたら、兵を預かる身としては――」


 カバリムが手で制し、発言を止める。


「誤解のある言い方だったな。作戦としては、私が最善と信じるもの提案した。だが、相手との実力差がありすぎる。勝つにはこの方法しか無い」


「カバリム様を疑うような真似をしてしまい、申し訳ありません」


「構わぬ。兵を大切に思うことは大切だ。私は気にしない」


「ありがとうございます。ですが、相手はそれほど強いのですか?」


「強い。お前達もあの『ロックジャベリン』を見ただろう。たかが5発で障壁を破壊する威力に射程、それをあの全てのゴーレムが使うのだ。あちらが本気になったら飛んでくる物が『ロックバレット』から『ロックジャベリン』に変わってもおかしくないのだ。それに、魔力切れの様子も見せなかった。オークの魔石を大量にあるだろとは言え、手加減できるほどの余裕があるのだ。手堅く行くしか無いのだ」


「「「……」」」


 指揮官達は、『ロックバレット』が『ロックジャベリン』に変わった所を想像して黙る。

 今回負傷した者のほとんどが死者になっていてもおかしくは無いのだ。


「それにだ。あの大型のゴーレムには、私が会った敵の男が乗っている可能性が高い。聖堂院から退去した副団長からの話にも符合し、ゴーレムから発せられた声も同じだった。恐らく、奴が土魔法を使う者だろう。魔具二つ使いながら自身も魔法を使っていた。魔力操作は一流だ。それに、魔力量も宮廷魔導師並はあるだろう」


「それほどの者ですか!ですが、確かに障壁を攻撃したときに三発同時に放っていましたね。それほどの者が賊とは……。残念です」


「いや、賊とは限らぬ」


 カバリムの発言に、話していた指揮官を始め、他の者も驚いた表情を見せる。


「なぜ、その様に思うのですか?」


「奴の発言にある。女性達の解放を嫌がった。一人も渡すつもりは無い表情だった。聖堂院から拐ったのも保護が目的の様に感じだ。あそこの本国の悪い噂は流れてきている亜人達から聞こえるからな」


「確かに、あの国から流れてくる亜人が増えて来ております。ならば。あの甘い対応も……」


「私もそう思う。だが、油断はするな。奴は極力殺さぬとは言っていたが、切迫した状況になれば、容赦無く来るだろう。本攻めをするまでは、深攻めはするな」


「「「はっ!承知しました」」」


「では、準備にかかるぞ」




 ☆☆☆




 聖堂院 要塞 防壁



 俺が昼食から戻り、防壁上で待機していると、やっと子爵軍が動き出した。


「あれ?おかしくありませんか?」


「ふむ。どうやら奴等はこちらの消耗を狙う様じゃな」


「思ったよりも早いですね。もう一戦ぐらいは普通に来ると思っていましたが……」


「そうじゃな。この様子なら明日には決着をつけれそうじゃな」


「早くて助かりますね。ですが、こちらの油断を誘うための行動かも知れません。油断しないように確実に対応していきましょう」


「そうじゃな。確実に対処ておこうかの」



 それからは、子爵軍が八つに分けた部隊を一つか二つを相手にし続けた。

 部隊一つ辺り一時間ほどの戦闘で、相手の絶妙な動きで、相手に被害をそれほど出せずに居た。

 そして、太陽が地につきそうな時間になった。


「思ったよりも堪えますね。これを馬鹿正直に受けていたら、本当に消耗しそうです」


「そうか、戦闘状態が続くだけでも、それなりの負担になるか……。よし、少し早いがカティと交代するのじゃ」


「まだ大丈夫ですよ?」


「馬鹿者が。夜襲もあるじゃろう。カティ達を夜寝かしたいなら、今のうちに寝ておけ。良いな」


「そうですね。うっかりしてました。交代してきます」


「アインに伝言を頼むのを忘れるで無いぞ」


「了解です」


 相手がこちらの消耗を目的に動くなら、当然夜襲もしてくるだろう。

 そうなると、勝敗を決める明日に影響が出るので、カティとマリーに俺の身代わりをしてもらう。

 俺達が乗る搭乗型ゴーレムは、見分けようの装飾を外し、装備を同じにしたら見分けがつかない。

 それを利用して、交代で休む。

 まずは俺が先に寝て、夜中を俺が担当する。


「カティ、そろそろお願いします。大丈夫ですか?」


「準備万端です。私達に任せて安心して眠って下さい」


「了解です。マリーもお願いしますね」


「承知しました!」


 俺は、カティが大盾を二枚持って出ていくのを確認してから、聖堂院の奥へ向かう。



 聖堂院奥では、アインが夕食を準備して待っていたくれた。


「広坪様、お待ちしておりました」


「ありがとう。ご苦労様です。それから、明日実行するので、伝言をお願いします」


「承知しました。広坪様のお食事が終わり、寝室に入ったのを確認したら伝えに行きます」


「了解です。それでは、いただきます」


 俺は、夕食を食べて、さっさと寝室になっている簡易シェルターに入る。

 聖堂院に俺の部屋はあるが、一時的にでもここが無防備になる以上万が一を考えて簡易シェルターで寝ることになる。

 聖堂院内で待機しているマリーも、アインが戻るまでゴーレムに搭乗したままになる。




「広坪様、起きてください」


 俺はアインに起こされる。


「今何時ですか?」


「午後9時です」


 五時間ほどなく眠ったのか、十分だな。


「状況は?」


「順調の様です」


「そうですか。では、すぐに出ます」


 俺は、眠気を飛ばすために、顔を冷水で洗い、ゴーレムに乗り込んで出撃する。


「遅くなりました。交代します」


 俺が防壁に向かうと、ちょうど敵が退いた直後みたいだ。


「あ、広坪様、おはようございます」


「マリーか。カティは?」


「カティは先に休んで貰いました」


「そうか。なら、後は俺が引き継ぎます。マリーも休んで下さい」


「承知しました。では、休ませていただきます。おやすみなさい」


 マリーが聖堂院へ向かう。


「それで、状況はどうですか?」


「相変わらずじゃ。じゃが面白い事が分かったぞ」


「何が分かったのですか?」


「お主は、敵陣地での人の動きが分かるか?」


 そう言われ、同期したゴーレムの目を凝らす。

 月明かりはあるが、この距離ではとてもでは無いが人の動きは見えない。


「見えません。テントの様な者が何となく見えるだけです」


「やはりか。しゃがな、マリーは人の動きが見えていた様じゃ」


「え?それは……。マリーのゴーレムの目に何か手を加えましたか?」


「いや、全て同じ性能じゃ。どうやらマリー個人の技術の様じゃ。技量で多少の差が出るとは思うておったが、目にこれほど出るとは予想外じゃった」


「夜の戦闘はほとんどありませんでしたからね」


「そうじゃな。これからの検証項目に入れておくかの……おっと!攻撃が来たようじゃ。夜じゃから視界が悪い。狙いには気を付けよ」


「了解です!」


 オシホ様と話していると、早速攻撃が来たので相手をする。

 退屈はそれほどしそうに無い夜が続きそうだ。




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