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子爵軍 本戦 前

 



 聖堂院 要塞 防壁上



 使者として来ていたカバリムさん達が、待機していた六人と共に自分の陣地に帰っていった。


 会談を終えた俺達は、防壁上に居るカティ達と合流して、会談結果を伝える。


「会談は決裂しました。カバリムさんの反応が少し気になりましたか、俺がリーダーであること、聖堂院の占有の法的許可が欲しいこと、ポーションのこと、伝えるべき事は全て伝える事ができたので、最低限の目標は達成できました」


「カバリムとやらに違和感を感じたのは、奴の魔法をワシが妨害したからじゃろう。奴は土魔法を使ってこちらの地形を探ろうとしたが、妨害された事で実力差の一端を垣間見たのじゃろう」


「あの人は、そんなことをしていたのか」


「探査系の魔法を感知、妨害するのは、人間には難しいからの。気付かなくても仕方がないと言えるが、広坪なら気付けてもおかしくないハズじゃがの」


 そう言いながらオシホ様が俺の方に顔を向けてくる。

 仮面で表情は無いが、睨まれている気分だ。

 今回の事が終われば、魔法の特訓がしばらく続くことになりそうだ。


「まぁ、あの者は、魔法の隠蔽が上手かったからの、広坪が違和感を感じたのはそのせいかも知れぬ」


 会談に応じたのは探るのも目的だったのだろうが、そのせいで魔法の特訓が始まってしまう。

 多少の個人的な意趣返しをしても良いのではないだろうか……。

 それにしても、オシホ様に防いでいただいたので問題は無いが、やはり油断できない相手だ。


「広坪様、やはり顔を出したのは不味かったのでは?」


 カティが俺の事を心配してくれる。


「いえ、俺が責任者ですし、その他の条件を考えても俺の顔を出しておくべきでした。負けるつもりは無いので、安心して下さい」


 カティも俺達の準備の事も知っているので、俺の言葉で一応は納得してくれたみたいだ。



 心配させないために、こうは言ったが、万が一を考えると、俺が責任者だと明言しておきたかった。

 こちらの世界では、地域支配者の様な者が居る世界なので、最終的な物事の終わりには、責任者の首で全てを収める、という場合が多いらしいし、それで全ての責任を負うことがてきる。

 つまり、俺達が負けた場合、俺の首さえ差し出せば、他の者達にはかなりの恩赦が期待できるのだ。

 それに、勝った後の事も考えると、俺が責任者であると伝えておいた方が色々と有利だと判断したのだ。



「最初は俺とオシホ様が指揮を執りますが、今回は途中からカティとアインに指揮を譲ります。それでは、子爵軍も動き出したので、戦闘配置に着きます。カティとマリーは、前回同様に聖堂院内で待機をお願いします」


「「了解です」」


 今回は、途中からカティアインに指揮を任せる、という事を前日に伝えておいたので、特に混乱は無い。

 指揮と言っても、ほとんどがオシホ様とアインに任せておけば問題ないので、不測の事態や、こちらが何か意図ある行動をしたいときに、指示を出すぐらいだ。

 団長さんだったカティならば、何の問題も無いだろう。


 マリーについては、弓が非常に強力なのだが、少し常識はずれなので、秘密兵器扱いになる。

 なので、控えめな牽制以外では、弓は使わない様に言ってある。




 子爵軍が動き出し、七つの集団が向かってくる。

 その集団は、1000人程度の集団だが、動きが鈍く、ゆっくりと近付いて来る。

 破城槌の影は見えず、全て歩兵の様だ。

 子爵軍の意図を測るために、射程を可能な限り高めて、ロックバレットを放ってみる。

 ロックバレットは、敵集団に当たる前に、透明な壁によって防がれた。


「障壁じゃな」


「みたいですね。では、対障壁モードで対抗をしましょう。左右の目標はお任せします」


「了解じゃ」


 俺の指示で、オシホ様はゴーレムを20体、10体、20体の三つのグループに素早く分けた。

 10体のグループは、正面に居る俺とオシホ様につく。


 敵の障壁進攻は予想できていたので、対処の準備はしてあった。

 何しろ、前回披露した俺達の戦い方には有効な手段だ。

 カティも、俺達の装備を知らなければ、同じ手段を必ず取ると言っていた。



 正面は俺、右のグループは2体、左のグループは1体のゴーレムが立ち上がり、攻撃体制に移る。

 そして、俺に合わせてゴーレム達が一斉に『ロックジャベリン』を放つ。

 左右のグループのゴーレム達はそれぞれ一番外側の集団に一発ずつ、俺は真正面から一つ左にズレた集団に同時に三発を放った。

 両腕にある盾に装着された魔具二つと、俺自身がロックジャベリンを放って、合計三発になる。

 ロックジャベリンは、それそれの目標の集団の障壁に当たったが、障壁は貫通できなかった。

 なので、ゴーレムをそれぞれ3体ずつ増やして、さらに一斉射する。

 左のグループは4発では障壁を破る事は出来なかったが、右のグループの5発と俺の居る正面の6発の所では、集団の障壁を破ることに成功した。

 ここからは、余裕をもって6発で障壁を破りたいが、カティの事前のアドバイスから、5発で破る事にする。


「オシホ様、障壁には『ロックジャベリン』は5発でお願いします」


「了解したのじゃ。」


 それからは、それぞれのグループが一つの集団に対して集中して攻撃をした。

 手足を狙えそうな者には加減してある『ロックバレット』を放ち、盾持ちに囲まれて障壁を再び張ろうとしている魔法使いの集団には『ロックジャベリン』を放ち、敵を負傷させていく。


 七つの内攻撃をしていた三つの集団が、俺達の攻撃により半壊して撤退していく。

 部隊として四割の負傷者を出せば、戦闘などできる状態では無い。

 特に、中核であったであろう魔法使いが負傷しては、退くしかなかったのだろう。

 それでも、俺達が三つのグループを撤退させている間に、子爵軍は他の四つの集団が防壁に取り付きつつあった。


 四つの集団は、防壁に辿り着く前に分裂した。

 俺達が何かをしたわけでは無い。

 子爵軍は、防壁同士が干渉し合うのを避けるために、魔法使いを主体にした一団が止まり、防壁をよじ登ろうとする一団は前進を続けただけだ。


 前回の時は、攻撃にしか魔法使いを振り分けられなかったみたいだが、今回は前衛の防御にまで魔法使いを回せる余裕があるみたいだ。

 現に、四つの集団が防壁に取り付きつつあるのを確認して、後続が出てきた。


 後続は、前衛の8,000、後衛5,000ほどに見える。

 俺達が、取り付いてきた奴等を相手にしている間に接近するつもりみたいだ。

 後続の前衛は、軽装な兵士が多いように見える。

 梯子を素早く登らせるためだろう。

 後続の後衛は、弓兵と魔法使いが半々だ。


 現状では少々手が足りない。


「オシホ様、敵は正面に集中するみたいなので、側面の半数を前寄りに、それから下のも前に20上げましょう」


「了解じゃ」


 要塞の側面防御のために、10体ずつ配置してあった半数を、前面寄りに移して、支援攻撃をしてもらう。

 さらに、敵の動きに合わせて動かせるように、下に残りの30体を置いてあったのだが、正面の援軍として20体を呼び寄せる。

 これで、正面に80体のゴーレムを集めた事にはなる。

 今側面に動かれると、最低限の対処しか出来ないが、正面はかなり余裕が出る。


「それから、障壁を張ってる集団の障壁をどれでもいいので一つ壊して下さい。一つずつ俺が潰します。オシホ様はゴーレムと目の前のをお願いします」


「承知した」


 俺単独でも破壊は可能だけど、そこまでの力を見せる必要は無いので、オシホ様に頼んだ。

 オシホ様が俺の言葉を受けて、一番近くの集団の防壁をゴーレムの『ロックジャベリン』5発で破壊する。

 俺は空かさず、『ロックジャベリン』を二発放って、魔法使いの護衛の盾持ちを排除して、ロックバレットを魔法使いに撃ち込む。

 すぐに、他の護衛が魔法使い達を守るめに前に出てくるので、『ロックジャベリン』で護衛を排除して、その隙に『ロックバレット』を撃ち込んで、魔法使いを一人ずつ倒していく。

 敵も、俺の意図に気付いたみたいだが、防ぎようが無いのか、なされるがままだ。


 攻撃の合間に、オシホ様を確認すると、オシホ様はゴーレム達と共に、防壁を登ろうとしている者達を次々に戦闘不能にしていた。

 さらに、梯子を徹底的に狙っているらしく、バラバラに粉砕された梯子だった物があちこちに見える。


 やっと一つ目の集団を壊滅的させると、後続の後衛の射程に入ったらしく、俺に弓や魔法が次々に飛んでくる。

 俺が目立った動きをしていたので、俺に後衛の攻撃が集中する。

 俺は、それを両腕の盾で防ぐ。

 試しに後方部隊に『ロックバレット』を放ってみるが、やはり障壁が張られてた。

 仕方がないので、盾を構えながら下の方に居る敵兵に『ロックバレット』を放ちながらオシホ様に声を掛ける。


「オシホ様!遠距離部隊が五月蝿いので先に叩きます!下を最低限処理してから、集中砲火をお願いします!」


「了解じゃ!」


 後衛を叩くなら、後続の前衛が来る前にしなけらば、面倒な事になる。

 なので、今居る部隊に最低限の対応、梯子の破壊をして、後衛に集中砲火をする。


 俺も下の手伝いをして、見える梯子の破壊を確認してから、後衛に向けて『ロックジャベリン』を一斉射する。

 80体のゴーレムと俺達の攻撃で障壁は完全破壊され、護衛達に少なくない被害がでている。

 後衛の部隊には、『ロックジャベリン』の一斉射で混乱が見られたので、この隙に魔法使いを中心に狙って攻撃を仕掛ける。


 魔法使い達は、『ロックバレット』によって次々に倒されていく。

 半数以上を倒した頃に、後続の前衛が防壁に取り付いて来たので、オシホ様とゴーレム達には、後衛への攻撃を中止して、梯子の対処に戻ってもらい、俺は単独で後衛への攻撃を続ける。

 俺単独では、効果は薄いが、確実に魔法使いを減らせているし、目立っても居る。

 これだけで十分だ。


 攻撃に参加している敵の3割は削ったと思うが、まだ攻撃の手を緩めてはくれない。

 仕方がない、と思っていると、後衛が後退を始めたので、下の障壁を張っている者達に標的を変更する。


「オシホ様、障壁を一つ破壊してください」


 即座に障壁を壊してくれたので、障壁が無くなった魔法使いを叩く。

 二つ目の集団を壊滅させると、とうとう敵全体が後退を始めた。

 どうやら、後続として来た前衛に大きな被害が出たらしく、そこらに軽装な負傷兵が見える。

 軽装じゃ、『ロックバレット』の良い的だな。

 簡単に負傷兵にできただろうから、他の兵に比べて死者は少ないだろう。




 敵が退いてくれたので、一息着く。

 敵の動きを見るに、負傷者の対処で手一杯といった感じだ。

 敵は攻撃に参加した四割ほどの死傷者を出したのだ。

 単純に8,000とすると、凄い数の負傷者だ。

 治療は相当に大変で、物資も大量に使うだろう。

 魔法使いの負傷者も多いだろうから、ポーションもそれなりに使っちゃうだろう。


「やはり、数が多いと大変ですね」


「そうじゃな。次から次にと登ってくるから、殺さずに倒すのが大変じゃ。纏めて凪ぎ払いたくなる」


「ま、まぁまぁ、ちまちま対処するのも作戦の内なので、今は我慢して下さい」


「そうじゃな。本番はまだ先じゃ。のんびり対処していくしか無いの」


 オシホ様を宥めていると、カティとマリーが来た。


「広坪様、戦闘が一段落したようなので、交代に来ました。丁度昼なので、一度下がられてはいかがでしょうか?」


「もうそんな時間ですか。では、少し下がらせてもらいます。カティに指揮を任せます。オシホ様、二人の事をよろしくお願いします」


「任せて下さい」


「うむ。任せるがいい」


 俺は、カティに指揮を任せて、昼食を食べに聖堂院へ下がる。



 作戦は全体的に上手く行っている。

 防御力の高さ、負傷兵による物資の消費の多さの体感、俺の存在のアピールどれも順調だ。





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