ピクニックと移住
子爵軍5,000を撃退してから二週間が経とうとしていた。
気温も大分暖かくなってきて、あちこちに緑が見える様になった。
良い天気の日はピクニックにても出掛けると素晴らしい気持ちにでもなるのだろうが、俺にピクニックに出掛ける趣味は無いので、出掛けたりしない。
だが、ルティ達はピクニックに出たがったので、付き合う。
雪が完全に解けてから一ヶ月以上経っているので、聖堂院周辺のみならず、研究所前の森にもモンスターを確認できる様になった。
こちらの地域は、相変わらずオークが地域支配者らしく、モンスターの発生を確認できていない。
なので、これらのモンスターは、ほとんどが子爵領から流れてきたモンスターになる。
普通なら、モンスターの蔓延る場所を呑気に歩いて居れないが、俺達には精霊様方やゴーレム達が居るので、安全圏を確保できるので、問題なくピクニックを楽しんだ。
思っていたよりも、太陽の下で過ごすのも悪くなくて、何度かピクニックに出掛ける事があった。
しかし、これらの行動が保護している女性経ちにバレた。
この地域一帯の特性上雪が降り始めると、冬の間は雪が降り続ける。
なので、屋内で過ごすなが普通なので、彼女達は屋内に閉じ込められるのには馴れたものではあったが、流石に太陽が見たいと騒ぎだした。
正直、彼女達を外に出してあげたいが、将来的な事を考えると、研究所の位置がバレるのは避けたい。
なので、今まで外には出してこなかったが、ストレスがかなり溜まっているらしく、結構な騒ぎになっている。
カティからもお願いされたので、聖堂院へ一時的に移動させて、好きにさせる事にした。
問題なのは、移動方法だ。
以前の様に目隠しをしての移動となると、往復の必要性や何度も同じルートを通ると、流石にバレそうだ。
なので、聖堂院と研究所を繋ぐ秘密地下通路をつかう事にした。
だが、その様なものがあることがバレるのも問題なので、外出希望者を全員眠らせて運ぶ事にした。
今回は、対象が研究所内に居るので、色々と対処ができるし、聖堂院でも研究所と繋がっているので、似たような対処が可能な状態にある。
外出を希望する者達に眠らせて運ぶ事を説明し、同意した者達だけが聖堂院に運ばれた。
と言っても、全員が同意したのだが、秘密地下通路の輸送能力を考えると、流石に全員を一気に運ぶのは大変なので、種族毎に分けて、外出日をずらして対応した。
活動範囲は、要塞内に限定したが、久しぶりの太陽という事で、皆はそれなりに満足した様子だった。
そして、聖堂院の変化や砦が要塞になっていた事に驚いていた。
特に、聖堂院内の変化には、目を見張るものがあったらしく、移住を希望する者が続出した。
なので、現在子爵軍との戦争状態であることの説明をして、それでも良いという者達に、いくつかの条件を付けて移住させる事にした。
条件としては、将来的に、聖堂院を交易の場にしたいので、交易や宿泊などに関する業務の手伝いだ。
勿論、保護している女性達には、男性に酷い目にあわされて逃げてきた者達が中心なので、接客に難がある人は、裏方に回ってもらう事になっている。
そして、それらの業務の訓練も条件に入れた。
一流の接客を、とまではいかなくても、それなりの質を持たせたいので、訓練を課した。
さらに、解放の条件についても話はしたが、こちらはあまり進まず、業務の開始までに追々詰めていく事になった。
その結果として、保護している者達の七割が移住した。
と言うか、三割も残ったというべきだろう。
聖堂院は、オシホ様の手によって、かなり快適な空間に作り替えられてきたので、ほぼ全員が移住すると思っていただけに、これ程の者達が残った事に驚いた。
もしかしたら、俺が課した条件が嫌で残ったのでは……と思い、聞き取り調査をしたのだが、研究所に残りたいという理由故だった。
残った人の内訳は、人種が40名、ドワーフが29名、獣人が16名、エルフが5名の合計で90名が残る事となった。
残った人種の人達は、全てがカティの部下で、残る形になったというよりは、10名が聖堂院へ移ったと言った方が正しい。
人種も居ないと問題が発生するかも知れないので、ここから離れたい者達を選び、派遣した形になる。
民間人2名は、聖堂院へ移動を希望した。
ドワーフは、全体の三分の一が残った。
これは、非常に大きな割合になる。
カティの部下達とは違い、残る理由が無さそうだったが、残った者達は、鍛冶をしたいそうだ。
ドワーフは、やはり鍛冶に優れた種族なのだそうだが、鍛冶仕事は男の役目なのだそうで、女性ではさせてもらえないが、ここならば自由にできることが良かったらしい。
彼女達が、聖堂院へ行く事になった原因も、鍛冶をしたいと主張した事に一端があるみたいな事も言っていた。
獣人は、外には出たがるので、もっと少ないと思ったが、16名も残ったのは、オシホ様目当てだそうだ。
種族的に、土の精霊を信仰している者達で、単なるメイドとしていたオシホ様や精霊トリオに気付いていたらしく、土の大精霊であるオシホ様に仕えたいのだそうだ。
最後にエルフだが、残る者が居るとは思わなかったので、5名も居たことに驚いた。
エルフの代表者が俺の事を嫌っていたので、全体的に反抗的であり、俺の暗殺計画の中心人物もエルフだった。
だが、残った者達は、あの者達から離れるためであったが、助けられた恩を返すためにも残る決断をしたそうだ。
保護していた女性達には、以前から仕事をしてもらっていた。
保護しているだけでは、あまりに暇すぎるので、解放時に渡すものを増やすことを対価に、知られても問題ない仕事をしてもらっていた。
ドワーフを例えに出すと、残ってくれた者を中心に鍛冶を始め、革細工や家具造りなどをしてもらっていた。
他には、地下にある畑ての作物の世話などだ。
とは言え、仕事もそれほど無かったので、大半が趣味に走ってもらった。
手芸や衣服の作成だ。
布なんかの素材はあったので、色々と作ってもらい、出来が良いのは買い取ったりしていた。
彼女達に渡した対価は、魔具やポーション、武具などが中心になった。
魔具やポーションは換金がしやすく、こちらの懐があまり痛まない。
武具は、身を守るために必要な物だ。
ただ、武具を渡すだけでは、身を守れないので、人によって程度は違うものの、全員に戦闘訓練もさせた。
護身術程度のものから、低級のモンスターを狩れるぐらいまで鍛えてもらった。
指導には、カティの部下の方達にしてもらった。
同じ女性なので、必要な技術を知っていたし、そういった指導の経験もあったそうだ。
そして、指導の結果、保護している女性達の中に、才能がある者が居たりして、才能を開花させる者がそれなりに出た。
彼女達は、一般人よりは生き残りやすくなったが、結果として調子に乗った一部の者が俺の暗殺計画を立てるという事態も招きたので、善し悪しではあった。
俺の暗殺を企てて、軟禁されていた者達だが、彼女達にもここに残るか、聖堂院で軟禁を継続するか選ばせて、聖堂院へ送ることになった。
いつまでも研究所に置いておくのと何だし、聖堂院へ厄介払いができるなら、送っておきたい。
これで、本拠地である研究所がかなり安全になったと思う。
厄介者が居なくなったのもそうだが、残っているのは自分達の意志で残った者達なので、危険性はかなりだろう。
一応しばらくは、現状の隔離状態を維持するが、本当に安全そうだと判断できたなら、段階的に隔離状態を緩和したいと思っている。
ただし、残った者達には、二つの道を選んでもらう事になった。
骨をここに埋める覚悟をするか、いずれ解放を望むか、の二つだ。
骨を埋める覚悟をしてもらった者には、裏切りには死を覚悟してもらうかわりに、かなりの優遇と秘密の開示を約束した。
絶対の忠誠を誓ってもらう形になるが、将来的にルティ達の助けになればと思っている。
いずれ解放を望む者は、そこそこの優遇に留め、秘密も最低限の開示にする。
こちらは、恩を返したいと言ったエルフや、そこまでの覚悟が無い人物達のために用意したものだ。
技術を習得したら、こんな穴蔵に留まらせるのも可哀想なので、そういったドワーフも対象に入っている。
そして、解放を望む者は、骨を埋める側への転向を可能にしている。
勿論だが、逆の骨を埋める覚悟をした者が、解放を望むことは出来ない。
以上の事を説明して、留まった者達に選択をしてもらうことにしたのだが、流石にすぐには選べる訳がないので、一ヶ月の猶予を与えた。
俺としては、最終的に10人程度が骨を埋める覚悟をしてくれたら助かると思っている。
それだけ居れば、安全とは言えなくても、どこか遠い地まで行くことが出来るようになると思ったからだ。
ただし、彼女達が後悔をしないように、骨を埋める覚悟をする事へのデメリットを可能な限り彼女達に伝えるつもりだ。
そんな人物が居たら、裏切りに走り、殺してしまうことになってしまうからだ。
できれば、そんな人物が出ないようにしたい。
移住が決まってから五日ほどで、引っ越しや住居の再配置等の諸々の事が終わった。
思っていた以上の手間になったが、これで研究所内の安全性が高まった。
聖堂院へ移住した者達は、好きに太陽を見れる様になったので、満足そうだった。
ただ、日光浴をしたがったので、彼女達専用の隔離された日光浴場を作った。
日光浴をする時には、彼女達は半裸になるので、目隠し用だ。
いずれは、俺以外の男達も来るので、覗き対策は万全だ。
ただ、俺のゴーレムが高さ3mあるので、隔離用の壁の高さが4mになり、日の当たりが悪くなるという事態になったので、聖堂院で彼女達が住むことになった二階部分と直通にして、二階相当の高さで日光浴してもらう事になった。
研究所に残った者達も、部屋の整理が終わり、通常の生活に戻った。
ただ、料理ができる層がごっそり抜けたので、少々問題が発生した。
料理はアリスさんがまとめて作る事になったが、いずれは最低限の物が作れるように、訓練を課した。
俺より下手なのは相当に不味いと思う。
他の家事についても尋ねると、ほとんどの者が不得意だと答えた。
研究所には、『クリーン』の魔具があるので、家事が非常に楽ではあるのだが、外に出たときに問題になりかねないので、こちらも軽く訓練してもらうことになった。
カティの部下は、下積みとして経験していたので、問題が無い程度には出来たので、カティの部下と組ませて、最低限の事を覚えさせる事にした。
なんだかカティの部下達の方に、負担が集中気味になってしまったので、何か特別な報酬を考えておこう。
それにしても、色々できる人達が居てくれて助かった。
研究所封鎖後に非常に役立つことに鳴門市思うので、積極的に習得してもらおう。
移住してから三日が経ち、全体的に新生活になんとか馴れようとしていると、監視所から子爵軍発見の一報が入った。
前回の数倍の数の軍が、二手に分かれて進軍してきたそうだ。
具体的には、総勢で40,000ほどだそうだ。
前回の八倍か……。
今回は想定よりかなり多いな。
来ても20,000と思っていただけに、少々驚いた。
まぁ、今回もなんとかなるだろう。
もしかしたら、全ての武装を使うことになるかも知れないが……。




