帰還
聖堂院南の森 地下秘密拠点
俺達は、秘密拠点まで戻ってきた。
副団長等が徒歩で半日の距離を一時間かからなかった。
「ツヴァイ、聖堂院の内部を調査したか?」
オシホ様がツヴァイに訊く。
ツヴァイが護衛の陣形合流に遅れたのは、砦や聖堂院内に人が居ないか確認をしていたためなのだが、オシホ様はその調査の度合いを聞いているのだ。
「罠の可能性もあったので、聖堂院内部までは入っていません。ですが、精密に振動探知はしましたので、人は居ません。少なくとも生きた者は」
彼女達が退去した後に罠を仕掛けている可能性は、当初から検討されていた。
俺達が聖堂院を占領する可能性なんて、簡単に思い付くだろうから、副団長の性格や砦全体を燃やす仕掛けなども考えると、俺達が聖堂院に入ってからそれが作動する様に仕掛けてあっても何の不思議も無い。
なので、ツヴァイは聖堂院に入らずに振動関知だけで判断したのだろう。
「分かったのじゃ。これよりワシが直接調査に向かうが、広坪達はどうする?残るも良いが、一緒に来るならしばらくは待機になる」
「それでしたら、一度研究所に戻りたいのてすが」
「ふむ……。そうじゃな。ここはほぼ完成しておるし、戻っていた方が良さそうじゃの。ならば、全員で戻るが良い。調査と一次改装ならそう手間ではないからの。ツヴァイは護衛として広坪達に同行せよ。ワシとドライも一次改装が済んだら、研究所に戻る」
「ありがとうございます。それでは、先に戻らさせていただきます」
「うむ。気を付けて帰るのじゃぞ」
「はい。オシホ様もお気を付けて」
「ん?ワシがか?」
「え?はい。勿論です」
「面白いの。まぁ、承知した。この体が破壊されてもなんの問題も無いが、コアを失うのは不味いじゃろうし、気を付けよう。気遣いに感謝じゃ」
「いえ」
「では、ワシは行く。戸締まりを忘れるでないぞ」
オシホ様は、最後に戸締まりを忘れない様に注意してから、聖堂院に向かった。
「それでは、俺達も帰還の準備をしましょう」
「「「はい」」」
俺の言葉にカティ、マリーディアさん、ツヴァイが応えてくれたが、こちらにある私物は、こちら用に新たに用意された物なので、持ち帰る必要が無い。
「広坪様達は、持ち帰る物もほとんど無いでしょうから、先に昼食を済ませておいて下さい。私はその間に帰還の準備を済ませます」
「そうですね。時間もお昼を少し過ぎてますし、手早く食べてしまいましょう」
「そうですね」
「早く食べて帰りましょう」
カティとマリーディアさんも同意してくれたので、昼食を食べる。
昼食を食べ終え、カティとマリーディアさんは帰還のための荷造りに行った。
女性なので、俺とは違って色々あるのだろう。
俺も自室を確認したが、特に持ち帰る必要があるものはやはり無かったので、搭乗型ゴーレムの元で待機したが、カティとマリーディアさんは、俺が待機してから少しして来た。
女性の準備にはかなり時間がかかると思っていただけに、少し驚いた。
まぁ、やはり荷物が少なかったのだろう。
そして、見計らった様にツヴァイがやってくる。
ツヴァイなら、この秘密拠点内なら何処に居ても振動関知ができるだろうから、実際に見計らったのだろう。
振動関知ができていたなら、夜のも……。
考えるのは止めよう。
仕方がない事だ。
「お待たせしました。こちらの準備は完了です。荷物があるなら荷馬車で一緒に運びますが、いかがしますか?」
「俺は無いので大丈夫です」
「では、お願いします」
「私もお願いします」
二人ともが荷物を預ける。
俺達は、搭乗型ゴーレムに乗り込み、秘密拠点の外に出る。
外には荷馬車が二台あり、一台には箱と二人の荷物が載せられたが、もう一台にはイノシシタイプの魔獣が三匹載せられていた。
そう言えば、護衛中に倒したイノシシの魔獣が居たか。
血の臭いでバレるといけないので、盾で殴り殺して放置していたハズだが、ドライとマリーディアさんが仕留めた二匹と一緒に回収されていてのか。
ツヴァイに話を訊くと、小さい地下空間を作り、そこでマリーディアさんが血抜きをして、安置しておいたものだそうだ。
俺とドライのも、回収して同じ様に処理してあり、ドライが回収して先程持ってきたそうだ。
なるほど、撤退の準備はこれだったのか。
俺達は、護衛の完了とイノシシの魔獣三匹をお土産に、研究所に向かった。
今の時間なら、15時過ぎには到着てきるだろう。
☆☆☆
研究所
俺達は、何事もなく、予想通りに15時過ぎに到着した。
「お帰りなさいませ。ご無事でなによりです」
俺達が研究所の入り口に向かうと、さっそくアリスさんが出迎えてくれた。
「ありがとう。ただいまです。こちらに来てからアリスさんとこんなに離れたのは初めてですね」
「本当にそうてすね。それにしても、今回の件で、魔力供給範囲さえどうにかできれば遠出も可能な事が分かったのは良かったです」
「そうですかね?現状でかなり満足なので、あまり意味は無さそうですが、何かの研究の役に立つなら、これはこれで良かったのでしょう」
「私としては、もっと自由に移動ができるようになれば、と思っているのですが……」
「それこそ現状で十分ですよ。この搭乗型ゴーレムがあるからこそ自由に移動がてきるのです。生身なら今日遭遇したイノシシにも簡単にヤられてしう自信がありますよ。なので、アリスさんには非常に感謝しています」
アリスさんには、何度も感謝を伝え、俺は気にしていないと言っているが、送還できない事を未だに悔やんでいるのだ。
なので、たまにこうやって病むことがある。
俺との会話が少なくなると発症する傾向にあるので、今回の遠征で発症したのだろう
「ありがとうございます。ですが、いつかは自由に出歩ける様にしたいと思います」
「モンスターが居るのてそれは少し難しいですよ。それに、俺があまり外に出たいとは思っていないので、あまり必要性は無いのですが、アリスさんがとうしてもと仰るなら、他に問題が出ない範囲でお願いします」
俺は本音で外に出たいとは思っていないし、遠出をする必要性を感じていないのだが、ここであまり否定しても意味は無いだろう。
軽めの否定をしつつ、許可を出して、優先度を低めに設定する。
これなら暇な時のみ研究をするようになり、変な事を考える暇が無くなって、時間を稼ぐことがてきるだろう。
それに、遠出用の技術が完成しても、俺は遠出をする気が無い以上、遠出をしないだろうが、遠出をしないとまた何か負の感情が発生しそうで怖い。
現状を可能な限り引き延ばそう。
「承知しました。それで、聖堂院の方はどうでしたか?」
「そちらは問題なく終えましたが、少々変更点があるので、報告は皆にしたいです。ルティ達は?」
「こちらも何事もありませんでした。今は会議室で待っていると思います」
「待ってもらっていましたか。なら、早速向かいましょう」
「分かりました。てすが、あの荷物はいかがなさいますか?」
「そう言えば、ありましたね。イノシシはお土産なので、今夜の食事にでも出して下さい。あの量なら保護している人達にも出せますよね?」
「はい、十分な量が出せると思いますが、全部出しますか?」
「その辺りはアリスさんに任せます」
「承知しました。それでは、会議室に行っておいて下さい。私も荷物を運んだらすぐに向かいます」
「了解です」
アリスさんにとツヴァイに荷物を任せ、俺達は会議室に向かった。
会議室の扉の前に立つが、少々気まずい。
手紙でルティが、カティとの事を推していた、許容していたとしても、やはり来るものがある。
いつまでも扉の前に居ても仕方がないので、意を決して扉を開く。
「広坪様、お帰りなさいませ」
「「「お帰りなさいませ」」」
俺達を認識したルティが、座っていた椅子から立ち上がり出迎えてくれる。
子供達もルティに倣う。
「ただいま。体調は大丈夫ですか?」
「大丈夫です。つわりも軽いですから、心配ありません」
「それなら良かったです。それで、ルティ、少し話があります」
俺はルティを連れて、会議室に入った扉とは別の扉から出る。
子供達は、マリーディアさんとカティに任せる。
会議室から出た俺はカティの件について話す。
「あの、それで、ですね……カティの事なのですが」
「報告は見ました。コウ様がカティの事を受け入れてくれて良かったです。もし拒否していたら離婚も考えていましたので、ホッとしました」
離婚?!
そんな事を考えていたのか……。
既にカティを受け入れておいてなんだが、何故そこまでの事を考えていたんだ?
「あの、何故そこまでの事を思ったのです?俺はルティさえ居てくれたなら満足でしたよ?」
「コウ様が私だけを愛そうとしていてくれたのは分かりましたし、想い人であるコウ様の愛を独占できて嬉しかったです。ただ、私は再婚になります」
「ルティ。俺はルティの全てを受け入れたのです。ですからその事は」
「分かっています。その言葉が真実であることも分かります。ですが、今回は私の方の事情もありましたので、少し無茶をしました」
「薬の事とかてすか?」
俺は、少し苦笑いをしながら訊く。
「はい」
「それで、ルティの事情なんかは話してもらえますか?」
「事情は会議室の中で、皆と共に話します。ただ、カティの気持ちは本物なので、大切にしてください」
皆で話すような事情か。
なんだろうな。
「事情の件は分かりました。カティの事は、ルティの次に大切にします。ですが、離婚を考える程の事態では無かったと思いますし、手紙での拒否した場合の罰の話は酷かったと思うのですが?」
「ありがとうございます。私を大切にしてくれるのは有り難いですが、コウ様は分かっていません。カティがどれ程の覚悟でコウ様に願ったのかが分かっていません!」
軽い感じで訊いてみたのだが、思った以上にルティが怒り、動揺する。
「すみません、少し感情的になってしまいました」
「いえ、ですが、俺は何か悪いことを言ってしまいましたか?」
「コウ様の世界では、33歳での結婚、出産は普通だと仰っていましたが、こちらでは普通ではありません。それは、コウ様が思っている以上の事なのです」
ルティが俺の失敗について話してくれているが、その顔は非常に真剣なものだ。
結婚の年齢か。
大昔は、女性は10代前半で、なんて事もあったと聞くが、上に関してはあまり意識したことは無いな。
「マリーでさえもう危なく、私では既に駄目で、カティは既に絶望の中に居ました」
「ですが、ルティは結婚を求められ、逃げてきたと」
「それは、私が若く見えるから、です。それに、結婚ではなく性奴隷としての譲渡の様なものでした」
「そうでしたね。では、カティの絶望とは……」
「私もコウ様と出会ったから分かるのですが、愛した方の子を産みたいというのは、女にとって重要な事なのです。それが、年齢で駄目だとなると、それは酷く辛いものなのです。私も最初は性奴隷の様な扱いでも構わないつもりでした」
「俺はルティの事を大切に思っています!性奴隷では無く、妻として!」
「とても大切にされていますから、分かっています。私が言いたかったのは、私よりも歳上なカティの辛さです。カティは既に子を諦めていましたが、コウ様ならば大丈夫だと思い、カティを焚き付けてしまったので、強行しました。ただ、カティを家族に迎える事に何の不満もありません。コウ様もカティを妻に迎えていただけますよね?」
ノーとは言えない圧力を感じる……。
「勿論です。ルティには悪いですが、カティを受け入れた以上、手放すつもりはありません。ただ、ルティを第一優先にしますので、その辺りは了承していただきます」
「ありがとうございます。その、平等に扱っていただけたらと思っていましたが、優先されると言われると、少し嬉しかったです」
「ルティが常に最優先です」
「コウ様……」
「ルティ……。?!マリーディアさん!」
俺とルティが甘い空気を醸し出し、キスをしようとしていたら、俺の視界に、扉から顔を出すマリーディアさんを発見した。
「もう!マリーたら!」
「ごめんなさい。でも、皆が集まったから」
「直ぐに行きます。ルティ、また後で」
「はい。お願いしますね」
甘い時間は後のお楽しみにして、俺達会議室に戻る。




