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魔法のケーキ




 研究所内 家族用食堂


 今日の夕食は、ルティの懐妊祝いの食事会なので、団長さんと団長さんが選んだ10名を招いている。


 場所は食堂なのだが、食堂と言っても俺とルティ達が一緒に使うぐらいなので、それほど広くは無い。

 だが、20人ぐらいなら一緒に食事ができる。

 俺達しか使わないし、キッチンも併設されているので、ダイニングキッチンと言えないことも無い。


 ダイニングキッチンと考えたら十分に広いな……。



 約束の時間より少し早く団長さん達が来たみたいだ。

 通常なら、検査室で身体検査をされてから来るのだが、今回に限り、身体検査をしないのでそのまま通されて来る。

 非常にリスクがある行いだが、『団長さんが選んで来た人物』という点を重視しているアピールをしているつもりだ。

 アリスさんとオシホ様には反対されたが、団長さんの事は信用しているアピールは、今後の役に立つと思い、強行した。


 当然危険性は伴うが、今ならその危険性を低い状態で実行できると思ったのだ。

 彼女達は、身内が事件を起こしたばかりなので、しばらくは大人しくしているだろう。

 オシホ様達の監視にも特に異常は見られないし、比較的安全に団長さん達の信頼を得ることができるかも知れない。

 少なくとも団長さんならば、何か感じてくれるだろう。


 いや、恩を感じて欲しいという俺の願望だな。

 暗殺未遂をした者達の仲間を警戒無く受け入れる。

 助けた人達が、これで恩を感じる人達であって欲しいという願望だ。

 ……ただ、期待はし過ぎないようにしよう。



 出迎えに出ていたツヴァイが、団長さん達を連れて戻ってきた。


「よく来てくれましたね」


 俺とルティが団長さん達を出迎える。


「お招きいただきありがとうございます。改めまして、ルティリア殿のご懐妊今回のおめでとうございます」


「「「おめでとうございます」」」


 団長そんの言葉に合わせて、団長さんの選んだ者達が頭を下げる。


「ありがとうございます」


 ルティもお礼を言ったので、早速テーブルへ案内する。


 テーブルは、横に長い大きなテーブルで、全員が座れるほど巨大なテーブルだ。

 片側に俺達、反対側に団長さん達が座り、食事会が始まる。

 招待された側は、最初の内は緊張して堅くなっていたが、聖堂院でルティとの交流があった人達が喋るようになると、段々と雰囲気が和やかになっていった。

 多少はお酒の力もあったかもしれない。


 研究所にもお酒はある。

 以前から保管していた物もあるし、生産もしているが、あまり量は無いので、普段はあまり提供していない。

 なので、貴重品になっているのだが、今回はお祝いなのでそれなりの量を出した。

 料理と共に、お酒が運ばれて来ると、緊張していたのに思わず、といった感じで小さく歓声があがっていた。

 お酒好きはどこにでも居るものだ。

 ただ、自分達だけお酒を飲める事に後ろめたさを感じていたみたいなので、量は少ないが他の人達にも提供している事を伝え、安心してお酒を楽しんでもらった。


 料理は、ルティ達を襲っていたブラックベアーの肉での焼肉や、ルティ達の手によって作られた郷土料理だった。

 俺達が保有している肉の中で、一番美味しいブラックベアーの肉をシンプルに楽しむために焼肉にしたのだが、テーブルで肉を焼くというのが珍しかったらしく、お酒と共にブラックベアーの肉を楽しんでくれたみたいだ。

 ルティは、ボルシチみたいな野菜スープやウサギ肉を使ったミートパイ的な物とサラダを用意してくれた。



 皆が料理とお酒を楽しんでくれたみたいだが、今回の目玉はデザートだ。



 以前に牛乳が無いと言っていたが、近いものがあった。

 まだ封印されていた保管庫の中にあり、俺のこぼした愚痴を聞いたアリスさんが、持ってきてくれた。

 以前のプリンにも使っていたそうだ……。

 しかも、その牛乳的な物から生クリームを作る事ができた。

 というか、生クリームを作る専用の魔具があった。


 ……もう少し早く知りたかった。


 なんにしても、生クリームが手に入ったので、クリームたっぷりフルーツケーキを作ってもらった。

 ケーキは、元々あったみたいで、アリスさんが問題なく作ってくれた。

 千年前にケーキがあったなら、今にもあるだろうが、ケーキならば喜ばれるだろう。

 他には、生クリームが手に入る前に考えていたフルーツタルトに、フルーツゼリー、フルーツポンチとフルーツ尽くしのものを用意した。



 アインが台に乗せて、デザートの数々を運んでくる。

 それを見て、ルティとマリーディアさん、招待された側のお酒をあまり飲んでいなかった人の一部が動きを止める。


「……コウ様、あれは魔法のケーキでしょうか?」


 ルティがケーキを凝視したまま訊いてくる。


「魔法かとうかは知りませんが、フルーツケーキですよ」


 軽く答えたつもりだが、答えた瞬間にケーキを見ていた人達が全員俺を見た。

 その動きは、一子乱れぬ揃った動きで、少し恐怖を感じた。


「本当ですか?」


 団長さんか連れてきた、団長さんの副官さんが訊いてきた。

 ただならぬ雰囲気に戸惑うが、なんとか答える。


「魔法のでは無いと思いますが、普通のフルーツケーキです」


「やはり、魔法のケーキなのですね……」


 副官さんが(つぶや)き、それを聞いた他の者達がケーキへ再び目を向ける。

 魔法のケーキでは無いと言ったのに、魔法のケーキと認識するとは……。

 呟いた副官さんは、何やら考え込んでいるし、何がなんたか分からない。


「デザートは、フルーツ尽くしです。()()のフルーツケーキに、フルーツタルト、フルーツゼリー、フルーツポンチを用意しました。楽しんで下さい」


 俺が立ち上がり、フルーツケーキを『普通』を強調して伝えてみた。

 それでも、ルティとマリーディアさん、招待したお酒控え組がケーキを見続け、希望のものを訊くとフルーツケーキを要求した。


 切り分けられたフルーツケーキを前にして、フルーツケーキを見ていた人達が、フォークで一口分を口へそっと運ぶ。

 ケーキを口に入れ、少ししてから顔が惚ける。

 招待された人の中には、涙する者まで出た。


 流石にここまでくると、何か通常ではないことが起こっている事を否定できない。

 どうしたものか考えていると、副官さんが立ち上がる。

 オシホ様達が一瞬身構えるが、副官さんの言葉を聞いて動きを止める。


「広坪様!なんでもしますので広坪様の配下にしてください!」


 そう言って頭を勢い良く下げる。

 それに吊られる様に、ケーキを食べたいた他の人も立ち上がり、『私もお願いします』と頭を下げてくる。

 俺は、混乱してきた場を収めようと、言葉を発しようとしたが、その前に副官さんが喋ってしまった。


「奥様が妊娠した今、夜の相手をする覚悟もあります!」


 俺は、場が凍りついた気がした。

 懐妊祝いの場で、ルティを目の前にして愛人になります宣言は不味い。


「……待て。少し待て。俺に、その気は、無い。だから、少し待て」


 俺はなんとか言葉を出したが、まともに喋れない。

 祝いの場をぶち壊すような発言に、殺意が芽生えそうになったが、ルティの発言で殺意が吹き飛んでしまった。


「あら?丁度良いと思いましたが、彼女ではご不満ですか?」


 いやいやいやいや、何を仰っていますか?

 ご不満?

 副官さんはルティと同じくらいの年齢に見え、ルティにも負けず劣らずなほど美人ではあるが、愛人容認の様な発言をしてくるとは……。

 まさか、罠?

 それこそあり得ないな。

 だが、ここでは弁明をしておこう。


「俺は、ルティ一筋です。浮気をするつもりはありません」


 精一杯格好をつけて言ってみた。


「そう言っていただけるのは嬉しいですが、私は妊娠して相手をできませんし、彼女なら悪くないと思ったのですが、お嫌ですか?」


 ルティは、本当に残念というか、駄目ですか?という目で見てくる。


 あれ?

 これは、愛人容認している様に見えるし、聞こえる。

 だが、ルティは夫に浮気をされて傷付いた様な事を言っていた気がするし、ここは否定して話を逸らす方向でいこう。


「彼女の事は……、嫌ではありませんが、何故この様な事を言い出したのか気になります」


 否定するつもりが、副官さんの悲しそうな目を見てしまい、嫌だと言えなかった。


「コウ様、彼女はこの魔法のケーキを食べ、コウ様のものになりたくなったのてす。気持ちは私も分かります」


 やはり、『()()のケーキ』が問題なのか。

 もしかしたら、俺には感知できない魔法がかかっているのかも?

 そう思い、訊ねてみたが、違った。


 ルティによれば、生クリームを使ったケーキを魔法のケーキと呼ぶらしい。

 なんでも、この生クリームを作るには、魔法を使っていたそうだが、その魔法が失伝しており、幻となっていたそうだ。

 なので、魔法で作った生クリームが使用されたケーキで魔法のケーキだそうだ。

 そして、生クリームを使ったケーキは、伝承にあった通り最高に美味しく、これからも食べるために俺の配下になりたかったそうだ。

 ちなみに、皆の反応が分かれたのは、甘いものが好きで文献を読んだことがある者とそうでは無い者だそうで、知るものからしたら、伝説級の代物だったみたいだ。


 それこそ、愛人になっても、だそうだ。



 つまり、歴史上にある伝説の甘味という事か……。

 専用の魔具があったという事は、それが失伝して無くなり、魔法で作るという先入観が、物理的に作るとう発想を遠ざけたのかも知れない。


 それにしても、ケーキのために身売りしてくるとは思わなかった。

 なんにしても、少々頭の混乱が収まらないので、後日に改めて、という事にした。


 それ以降は、平和に時間が流れた。

 ルティと副官さん達は、ケーキを中心に見ているだけで胸焼けを起こしそうなほど食べたいた。

 先程あれだけ食べたのに、どこにそんなに入るんだと言わんばかりだった。



 多少問題が発生したものの、食事会は大成功したと思う。


 食後は、まったりしていたが、ルティとマリーディアさん、団長さんと副官さんの四人で集まり、何かを話し合っていた。

 三姉妹も、他の招待客と楽しそうに話したりしていたが、あの四人だけは雰囲気が真剣なものだった。


 団長さん達が帰った後に訊いてみたが、乙女の秘密だそうで、教えてもらえなかった。

 まぁ、険悪では無いし、アリスさんとオシホ様も報告に来ない以上問題はないのだろう。



 こうして、食事会は無事に終わった。





 食事会の翌日、大分雪が溶けた中で、聖堂院の偵察をしていたツヴァイから伝令が来た。

 伝令は手紙で来ていたので、それを読むと、聖堂院へ騎馬が三騎来たそうだ。

 それも男ばかりだったそうだ。


 この話を団長さんに話すと、子爵の配下で、交通が再開したので安否確認に来たのだろうという事だった。

 つまり、外部に誘拐の件が知られた、という事か。


 俺は、これからに備えて偵察の強化を指示した。


 それから、二日後にも子爵の騎馬が来たらしく、それから聖堂院の様子があわただしくなったそうだ。


 何かがあったみたいなので、何時でも出撃できるように準備だけはさせて、聖堂院の監視を強化だけはした。























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