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食事会の準備

 



 研究所内 食堂


 朝食の席で、ルティから懐妊したと報告があった。


 ルティから話を聞いて、挙動不審になった俺は、注意を受けて普通に過ごすように言われた。

 あまりの出来事に、我を忘れてしまったが、今は冷静になれた……ハズだ。

 冷静になると、出産準備や妊娠中の備えについて話はしたが、祝いや感謝の言葉を言っていないという、重大で致命的なミスに気付き、俺は慌ててルティの元に戻った。


「ルティ!言い忘れていた事がある!」


「なんでしょうか?」


 俺が息を切らして戻り、ルティに声をかけると、至って普通に返事をしてきた。

 ルティは、妹や娘達と談笑していたみたいだ。いい

 表情も普段と変わ変わりは無く見えるが、俺では女性相手に表情から感情を読むことなど不可能に近いだろう。

 ここは、最悪を想定して、土下座を敢行すべきかも知れない。

 ただ、まずは感謝しなければならない。


「妊娠ありがとう。是非生んでもらいたいのだが、良いだろうか?」


「勿論です。喜んで生ませていただきます。ただ……」


「俺は、男でも女でもどちらでも構いません」


 ルティは、男の子を生めなかった事で、冷遇されたと聞いている。

 そんな馬鹿馬鹿しい事で、ルティに悲しい思いをさせる訳にはいかないので、先に言っておく。


「お気遣いありがとうございます。ですが、そうではなくて、まだ二ヶ月ですし、私の年齢の事もあります。もしかしたら、流れてしまう事も……」


 ルティが俯いたので、手をとって話す。


「確かに、流れる事はあるのは知っています。ですが、もしそうなってもルティを決して責めたりはしません。妊娠しただけでも奇跡なのです。ただそれだけで、ルティには感謝しています。それに、ルティはまだ28ですから、年齢はそれほど問題になりません。ですから、安心して過ごして欲しいです。」


「ありがとうございます。精一杯頑張ってみます」


「よろしくお願いします。ですが、あまり無理はしないで下さい。それから、俺に出来ることがあれば、何でも言って下さい」


「はい。分かりました」


 笑顔で答えてくれたルティを見ながら、もしルティか子供のどちらかを選ばねばならなくなった時には、ルティを選ぶ事を決意した。

 どうあっても、ルティを失いたくないとうい思いが、心の中一杯に広がったからだ。

 その様な事態にならなければ良いが、ポーションも回復魔法も駄目となると、医療技術がそれほどてもないここでは、不安を拭えない。


 俺がルティを凝視し過ぎだ様で、俺を不思議そうにルティが見返してくる。

 なので、慌てて誤魔化す。


「盛大なお祝いをしようと思ったのですが、駄目でしょうか?」


 俺は、アリスさんとオシホ様達に要請して盛大な宴を開こうとしたのは事実だ。

 先程ルティから離れたのも、そのためだ。

 だが、今の話もあったので、安定する5ヶ月ほどまでは、自重した方が良いかも知れないという考えが出てきたのだ。


「盛大なお祝いは嬉しいのですが、安定するまではその様な事は待っていただきたいです。ただ、お気持ちは嬉しいので、私達と、カティとその部下の方々を少しだけ招いて、小さなお祝いをしていただけると嬉しいです」


 カティ、団長さんは、ルティと仲が良いので、呼ぶのは問題ないな。


「分かりました。今日の夕食に招待して、いつもより少し豪華な食事にしましょう。俺から話しておきますね」


「ありがとうございます」


 お祝いの許可を貰ったので、アリスさんとオシホ様達にも話に行く。

 アリスさんとオシホ様達にお祝いの食事などの準備をお願いした後に、団長さんを呼んでもらった。


 団長さんは保護している女性達と一緒の区画に居るので、俺が行くことはできないので、呼んでもらったのだ。

 少々面倒臭いし、偉そうな行動なのでなんとかしたいが、安全を考えると仕方がない。





 団長さんを呼び出した場所は、新しく移動した自室と保護区の中間に設けられた会議室になる。

 自室は勿論、会議室も新しく作った場所だ。

 この会議室と保護区の間には、ゴーレムの詰所と検査室があり、身体検査を受けてからでは無いとこちら側に来ることができない。

 他の通路もあるが、全て同じ様になっている。


 茶番として処理した暗殺未遂だが、当初は処刑もあり得た。

 それをなんとか却下して、今の軟禁になったが、次は全員の処刑しなければならなくなるかも知れない状況にある。

 計画は立つかも知れないが、物理的に実行されなければ問題ない。

 ただ、物理的に実行されたら、処刑の回避はできるだろうが、追放は免れなくなる。

 モンスターが徘徊するこの世界で、下手な時期に追放しようものなら、処刑と同義になってしまう事も十分にあり得るのだ。

 なので、事件を起こさせないように、厳重な警備にしたのだ。

 その分交流はより難しくなったが、最悪の事態を避けるためなので、仕方がないだろう。



 会議室で待っていると、検査をしていたドライと共に団長さんが来た。


「お待たせしたみたいで申し訳ありません」


「いえ、早く来ていただけですので、気にしないで下さい。こちらこそ、急に呼び出してすみません」


 席から立ち上がり、団長さんを迎え、席に座ってもらう。

 俺も席に座り直し、ドライが俺の護衛として後ろに控える。


「いえ、大丈夫です。それで、ご用件を伺ってもよろしいでしょうか?」


「はい。今回呼んだのは、ルティが妊娠したので、今日の夕食を祝いの食事会として、少し豪華な食事にしようと思っています。そこに、是非に貴女と部下の方々を数名招待したいのです」


 俺の話を聞いて、目を見開き驚いている。


「ルティが、ですか?妹のマリーディアでは無く?」


「そうですね。妻はルティしか居ませんから」


「……その、年齢的に大丈夫てしょうか?」


「その点は問題ないと考えています。俺が元々居た地域では、三十代での出産も普通にありましたから、大丈夫だと思います」


「三十代で?私の様な年齢でも、ですか?」


 年齢にこだわるな……。

 そういえは、この世界は二十歳までに結婚出産が当たり前の世界。

 いや、時代なのか?

 ルティみたいに若々しく見えても、28ともなれは、ここではそれなりの年齢になるのか。

 13歳の子供が居るのだから、当たり前か……。


「そうですね。カティリアさんと同じ年齢の人も普通に出産する事はありました」


「そうですか……」


 団長さんは、手で口を覆って何やら考え込んで居る様子だ。



 考え込んでいた団長さんが、ゆっくり俺の方を見て口を開く。


「すみません。少し考えに没頭してしまいました」


「いえ、大丈夫です」


「遅くなりましたが、ご懐妊おめでとうございます。招待を是非受けさせて下さい」


「ありがとうございます。ルティも喜びます。部下の方々は、10名以下でしたら何人でも構いません。ただ……」


「分かっています。ルティと、親しくしていた者達の中から、信頼できる者のみを選抜します。それと、部下以外からも選んで良いでしょうか?」


「お願いします。カティリアさんの判断で問題ないと思ったなら、部下の方々を含めて10名までなら問題ないのです」


「ありがとうございます。問題にならない人物を選びます」



 団長さんが、より一層真剣な表情で答えたが、俺はその表情を見て少し不安になる。


 団長さんの事は、非常に信用している。

 保護している女性達の中で、交流を持つ数少ない人物でもあるし、直接接してきて、信用できると思っている。

 それに、アリスさんやオシホ様達の監視にも問題は無いし、アリスさんとオシホ様達も信用している。

 裏切りの可能性は、完全には否定できないが、現状では限りなく低いと思っている。


 俺が不安に思ったのは、団長さんの真面目さだ。

 もし、万が一にも、団長さんが選んだ者が問題を起こしたら、団長さんが責任をとって死にかねない。

 彼女を失うのは色々な面で痛手だし、釘を差しておいた方が良いだろう。



「万が一、カティリアさんが選んだ者達が問題を起こしたとしても、全ての責任を貴女に背負わせるつもりはありません。貴女が生きている限り、できるだけ寛大な処置をすると約束するので、死ぬような真似はしないでくださいね」


 団長さんは、少し目を見開き、俺を凝視してから答えてくれた。


「広坪様がそう仰るなら、承知しました。命を大切にします」


「良かったです。それじゃあ、もう一つ用件があるのですが、良いですかね?」


「はい。大丈夫です」


「部下の方に、教国と王国、両方の法律に詳しい方が居ると聞いたにですが、その方に力を借りたいので、紹介していただけますか?」


「紹介はできますが、何をさせたいのか聞いても良いでしょうか?」


「勿論です。軟禁した者達の事で思ったのです。貴女方の事は、今まで自治という形で、任せっきりになっていたので、法とまではいかなくても、ある程度のルールは必要だと感じたのです」


 ここで、団長さんの表情が少し曇る。

 事件を起こした事と、これから重いルールが敷かれると思ったのだろう。


「そのルールは、法律から大きく外れたものを適用させるのも問題だと思いますし、子供達に法を守らせるという点でも、変なルールを敷くつもりはありません。ですので、両国の法律に詳しい方にお話を伺いたいのてす」


 ここまで話すと、団長さんの表情から曇りは消えたが、何やら思案顔になる。


「あの、質問なのですが、広坪様は国を作るおつもりですか?」


 国?

 この世界では、地域を一つ持っていれば建国できるとアリスさんに聞いたし、今の時代もそれは変わっていないと確認ができている。

 だが、俺は地域を支配していないので、建国などできない。

 というか、偉い人が『国は人の集まり』とかなんとか言っていた。

 つまり、人が居ない以上、国なんて作れない。

 300名ほど女性を保護しているが、いずれここを去るのだ。

 そもそも数が少なすぎる。


 団長さんはなんで国とか言い出したんだ?

 ……聞いた方が早いか。


「国を作るつもりはありませんよ?何故そんなことを聞くのですか?」


「今回作られるルールは、法律の前段階であり、いずれは正式に法律として採用し、国の礎にするおつもりでは無いかと思いましたので……」


 今回のルールは、新しい法律を浸透させるための前段階だと認識したのか。

 法律は、国を治めるのに必要だから、逆説的に、法律を作るのは、国を作りたいから、と判断したのか。


「国を作るつもりはありません。そもそも人が居なさすぎますよ。なので、作れたとしても精々が自治区とかその程度でしょう。今回は、周辺国での違和感が無い程度のルールを作る事が目的なので、一番周辺国の法律に詳しい方にお力をお借りしたいのです。それに、今回のルールは、皆さんの自治を手助けする程度のものにするつもりですし、最終的には代表者の方々と話し合ってから発効するつもりですよ」


「そうでしたか、出過ぎた事を言ってしまい、申し訳ありませんでした」


「いえ、気にしないで下さい。それで、紹介していただけますか?」


「勿論です。今すぐ連れてきますか?」


「いえ、これから色々とする事があるので、明日……ではなくて、明後日の昼食後にお願いします」


「承知しました。では明後日の昼食後にお連れします。連れてくるのは、ここでよろしいでしょうか?」


「はい。ここに昼食後、お願いします。用件は以上です。カティリアさんからは何かありますか?」


「いえ、ありません」


「でしたら、招待する者の選抜と法律に詳しい方の事をよろしくお願いします。もう戻りますか?」


「承知しました。では、これで失礼させていただきます」


 カティリアさんが一礼し、ドライに連れられて会議室を出ていった。


 これで、食事会の手配は終わったので、ルティの元へ向かう。


 お腹を撫でさせてくれるだろうか……。




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