春に向けて
『解放に向けての話し合い』という茶番劇は無事に終わった。
現状では、保護している彼女達の解放が難しい。
俺達が護衛して移動させる事ができる場所が、子爵領と聖堂院しか無いからだ。
どちらの場所も、保護しているほとんどの女性には問題のある場所だ。
魔境を縦断して、南の冒険者の国にでも送れれば良いのだが、俺達では移動距離が足りず、彼女達だけでは冒険者の国に着く前にオークによって全滅するだろう。
なので、長距離移動が可能にする準備のために、もう一年程度は滞在してもらう事になった。
それに、ほとぼりを冷ますという目的もある。
雪が積もり、街や村などと行き来が出来ない冬の間に事が起こった。
なので、雪が溶けて往来が可能になれば、そこでやっと事が外部に露見する。
そうなると、これから騒がしくなるだろうし、副団長等の事を考えれば、意図的に俺達が悪い話を流す可能性が高い。
ただ、事実として、男である俺が、偽装ではあるが団長さんを殺し、女性の駆け込み寺的な聖堂院から、300名もの女性を拐った事には違いが無い。
外部の人間が言い訳を聞いてくれるとは思えないな。
いや、もし話を聞いてくれたとしても、聞いたフリをして、俺を討ちに来るかも知れない。
何にしても、外の者達を俺が信用出来ない以上、外部と接触せずに彼女達を安全……とまでは行かなくても、問題の無さそうな場所に送らなければならないのだ。
彼女達を安全に護送するにはまだまだ時間が必要になったが、団長さん達を保護してから三ヶ月が経って、彼女達の中に不穏分子が発生していた。
なので、その者達の排除も考えたが、無理矢理連れてきた事を考慮し、団長さん等に判断を任せた。
結果として、俺の暗殺を目論んだ者達は、無期懲役扱いになった。
研究所だったここには牢屋なんてものは無い。
新しく作ることも出来たが、保護した女性達が生活する場所とは離れた場所にある居住区を隔離し、そこに不穏分子達を軟禁することにした。
軟禁区画には、不穏分子が勝手に出る事は禁止したが、それ以外の者達の出入り禁止にはせず、自由にさせることにした。
甘い処置だが、警備は強化したし、彼女達に害される事は恐らく無い。
それに、一年もすれば居なくなるのだし、目くじらを立てて更正させる意味を見出だせず、他の保護した者達の影響を考えで、甘い処置にした。
軟禁区画に出入りして、不穏分子達の影響を受ける可能性もあるが、それはそれで対処できるし、影響されるような者は、一緒に軟禁した方が安全だ。
だいたい、ここはどの国にも所属していないので、法というものが無い。
あるとすれば、ここの最高責任者である俺が法だ。
なので、俺の何となくな善悪で判断をする事にした。
超独裁も可能だが、そんなことする意味を見いだせない……のだが、俺が決めている以上独裁に違いない気もする。
まぁ、あまりこの世界の一般的な常識からは、外れない様にするつもりだ。
いずれ、ここから出なければならない時が来る者達が居る。
特に子供達には、法を順守する事を覚えさせなければ、外では生き辛くなってしまう。
団長さんの部下に、聖堂教国はもちろん、王国の法にもそれなりに詳しい人が居るので、その人の協力を得ながら、ルール策定していく予定だ。
外部については、当面は雪解けによる交通の再開による、事件の影響を静観し、状況に合わせて対処していく予定になっている。
最近は、俺の我が儘で対人戦を想定した訓練を重ねている。
これからは、人が最大の驚異になると思っているからだ。
オークには、それなりに対処出来たが、人は知恵がある分驚異度は大きい。
というか、知恵そのものが驚異だ。
ここも、知恵を力にする研究所なのだから、驚異は十分に理解できる。
ただ、ここには人が少ない。
研究とうい点でも、本職はアリスさんだけだし、ちょこちょこ勉強しているが俺は素人、オシホ様に至っては大精霊だ。
一人では思考が片寄ってしまう、現状ではなんとか三人寄れば文殊の知恵状態でなんとかしているが、もう少し人が欲しい。
それに、相手にも頭がある以上、俺達だけでは思いつかない事をしてくるかも知れないのだ。
対処を誤れば、殺される事は十分にあり得る。
それに、外ではとうしても制限が多くなる。
対策はできるだけするが、万が一を考え、ここに引きこも……籠れば、安全は確保できる様にはしておきたい。
今の研究所も、十分に防御体制を整えているが、対ドラゴン戦ができるぐらいには、防衛設備を強化しするつもりだ。
内部については、それほど変化がない。
この冬の間は、生産性の向上に努めていたからだ。
特に魔核の生産に力を入れ、先日やっと目標値であった冬の前の5倍まできた。
魔核の生産は、魔玉を複数使い、地脈の魔力を結晶化させているので、この冬の間に作られた魔核のほとんどを、魔核の生産に回したので、ゴーレムの数などに変化は無い。
地脈の魔力をそんなに使っても大丈夫なのか心配になったが、土の大精霊であるオシホ様によれば、全く問題が無い程度なので、俺の単なる杞憂だった。
魔核の増産以外は、俺の搭乗型ゴーレムを始め、オーク戦のために臨時で作られた魔具なのどの試作品の完成に力を入れた。
俺の搭乗型ゴーレムは、多少の問題点を改善し、本体を一から作り、正式なものになった。
見た目は、相変わらすロックゴーレムだが、操作性の更なる向上と、防御性能が格段に上がった。
今のゴーレムなら、あのブラックベアーの突撃を、何度受け止めても大丈夫なはずだ。
以前の様に腕がもげたり、足回りにダメージが出ることも無いだろう。
あと、ルティ達のゴーレムも、俺と同じタイプになった。
操作性が旧型とは段違いなので、三姉妹は飛んだり跳ねたりしていて、三姉妹の順応性に驚いた。
マリーディアさんは、弓に特化させ、外てのテストでは、弱い吹雪の中で、500m先の的を射抜く離れ業をしていた。
俺にはとても真似は出来そうには無い。
最後に、ルティのゴーレムは魔力特化型にした。
魔法がメインのルティには、魔力を大量に保有できるようにした。
ルティのゴーレムのテストの時は、地面が大きく抉れたり、木々がなぎ倒され、なかなかな環境破壊をしてみせた。
正直、ちょっとやり過ぎな気もしたが、ルティが超ご機嫌だったので、問題は無い。
研究所の戦闘用ゴーレムや作業用ゴーレムも、ブラックベアー戦やオーク戦で得た情報を用いて、全体的に改良がされた。
メイドゴーレムも、少しではあるが、性能が向上したそうだ。
他には、細々とした魔具を改良などに重点的に行った。
魔力供給範囲を拡張できる魔具は、臨時仕様だった物を改良し、魔力供給可能範囲を倍の半径1kmにする事ができた。
これだけでも、魔具の設置個数を半分にできる様になったが、全方位に供給するタイプだけでは無く、一方向だけに範囲を特化させることで、距離をさらに倍の2kmある魔具を開発してくれた。
魔力供給範囲が、通常の物も直径で2kmあるが、この一方向特化型は、魔力を供給できる面積こそ半減するが、核となる魔具から2km先まで供給が可能となり、魔力の輸送ラインとして使うなら、臨時仕様に比べたら、4倍の距離を稼げる。
ただ、一方向特化型は、距離こそ2kmと長いが、横幅としては、100mも無い。
少し道を逸れると、すくに魔力供給範囲外に出てしまう事になるので、注意が必要だ。
戦闘の可能性がある場所は、通常型を設置した方が良いだろう。
聖堂院までのルートに、この一方向特化型魔具を設置し直した。
ルート上の戦闘の可能性は、現状ではかなり低いので、移動時に通常型の魔力供給魔具を持ち運び、戦闘になった場合に、魔具をライン上に置くことで戦闘可能範囲を確保できるようにだけしてある。
他には、土壁を発生させる魔具の改良もされ、石壁を発生させる事ができるようになり、強度は格段に上がった。
多少必要魔力が増えたが、俺でも破壊が難しくなった。
ただ、それでもオシホ様や精霊トリオは簡単に破壊していた。
オシホ様達がその気になれば、完成した搭乗型ゴーレムでも、簡単に木っ端微塵になることを理解したので、オシホ様達には、これまで以上に、慎重に対応していきたいと思った。
それとは別に、オシホ様達に変化があった。
最近は、以前に比べよく話すようになったし、なんというか、精霊トリオの個性が強まった気がする。
研究所内に人が増え、人との交流が多くなった事が要因の一つかも知れない。
冬の間は、こんな調子で改良を中心に研究が行われた。
これらの研究以外にも、オシホ様達だけで何やら研究をしている様子だったが、何を研究しているかは教えて貰えなかった。
まぁ、俺も俺でこっそり兵器開発をしていたりする。
と言っても、ロックバレットを発射できる魔具を五つくっ付けただけの物……つまり、ガトリングとかリボルバー見たいな物だ。
ロックバレットを発射できる魔具は、この研究所が現役であった頃に、本職の方々によって限界まで性能を高めた物だそうだ。
つまり、一秒間に一発発射する事が限界だそうなので、数を増やして、連射性を高める事にした。
ゲームとかで銃を知っている身としては、一秒間に一発では、あまりに連射性が遅く感じてしまったのだ。
魔力は豊富にあるので、もっとガンガン撃って敵を凪ぎ払いたい。
当初は、回転の機構を物理的に作ろうとしたのだが、ちょっと面倒臭くなってやめた。
回転自体も、魔具による回転にして、一定の場所にロックバレットの魔具が来た場合に発射するようにして、一回転を一秒以上かかる様にした。
ただ、ロックバレットを発射する魔具が、直径5cm、長さ20cmの筒状なので、見た目的にはリボルバー式のグレネートランチャーの様に見える。
もっと、ガトリングらしくしたかった……。
完成した物を、アリスさん達に見せると、非常に褒められたのだが、丸パクリなので、少々後ろめたかった。
それでも、アリスさんがガトリングの有用性を理解してくれて、研究所の出入り口付近の迎撃用の魔具に採用してくれて、研究所の防衛能力が向上したのは良かった。
ロックバレットを発射する魔具は、それほど複雑な物では無いので、魔核をほとんど使用しないので、数を用意できたのも良かった。
後は、合間に戦闘訓練を繰り返し、ルティ達とも楽しく過ごしていたのだが、雪が溶け始めて少ししてから、ルティから重大な知らせがあった。
この冬の間は、朝夕の食事を必ずルティ達ととり、3日に一度は共に過ごしていたし、回避をしなかったので、命中した。
つまり、ルティのお腹に俺の子ができていたのだ。
まだ二ヶ月ほどだそうだが、オシホ様によって確認された確定情報だった。
俺は、聞かされた瞬間は反応できなかったが、この情報が脳に浸透した瞬間に狂喜乱舞した。
今が4月の終わり頃なので、生まれるのは新年の前後辺りだ。
出産……。ルティは四度目になるのだが、何度目だろうと、危険な事には違いないのだ。
少しでも安全に行える様に、産婆の経験があるものを探すと、団長さんの部下に居ることが分かった。
聖堂院では、妊婦が来ることも珍しくないので、そういった者が必ず居るそうだ。
これには助かった。
出産に向けて今からポーションなとを準備しようとしたのだが、怒られた。
気が早いというより、ポーションが不味かったらしく、妊婦にはポーションは駄目らしい。
回復魔法も、初級程度なら良いが、中級以上はダメだそうだ。
この話を聞いた俺は、全ての研究を停止し、防御系の魔具の開発を命令した。
攻撃を弾くのは勿論、衝撃を吸収できる魔具の開発を急がせた。
怪我の治療に問題があるなら、怪我させなければ良いのだ。
ただ、ルティを守る魔具が、ルティのストレスになるといけないので、軽いものにする様に指示した。
さらに、研究所内にも衝撃を吸収できるようにする様に改装を命じた。
ルティだけでは無く研究所内も衝撃を吸収できれば、怪我はしないはずだ。
つわり、妊娠の初期症状に備えて、酸っぱいもの……レモンとかの柑橘系の果物の増産を指示したのだが、ルティによれば、つわりはそれほど無い体質みたいなので、普通の食事で良いと言われた。
さらに、普通にする様に言われてしまった。
妊娠の報告に舞い上がり、おかしくなっていたみたいだ。
妊婦さんへの対処など知り要はずもないので、ルティの指示に従う。
ただ、普通に過ごすってどうすれば良いの?




