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解放に向けての話し合い

 



 研究所 室内訓練場



 保護した女性達の解放について、話し合いをするために全員を集めたのだが、流石に300人もの人が集まれる会議室が無かったので、訓練場に椅子と机を運び、臨時の会議場にした。

 会議場は長机を五角形に配置してあり、俺達研究所側とそれぞれの種族毎に代表者が座っている。

 代表者以外は、それぞれの代表者の後に椅子を置き、そこに座ってもらっており、ルティ達は俺達の後に座ってもらっている。



「これより、保護している皆さんの解放について話し合いを始めます」


 俺の隣に居るアリストラさんが進行役として話し、続いて俺が立ち上がり、会議の目的を説明する。


「既にご存じとは思いますが、雪が溶け始めています。なので、皆さんを解放できる日が近付いています。皆さんを解放するにあたり、可能な限り人里に近い場所まで送りたいと思っています。ですが、我々が送れる地域は、魔境と子爵領、あとは聖堂院だけとなっています。このいずれかに解放したら、保護した意味が無くなってしまいます。なので、皆さんに知恵をお借りし、皆さんの解放先を検討したいと思います。よろしくお願いします」


 頭を軽く下げてから、席に着く。



 出入り口は北側にもあるが、それを彼女達は知らないし、今回は話すつもりは無い。

 大山脈を安全に越えることができる情報は非常に危険だ。

 万が一外部の人に知られれば、越えられるという情報だけで、ここを手に入れようと人と争うことになりかねない。

 それに、今回は解放についての話し合いとなっているが、本格的に話し合う前にしなければならない事がある。

 今回は、その前準備だ。



 俺が座ってからすぐに、エルフ代表のスートリアさんが挙手してから質問してきた。


「ここに残る、という選択肢は無いのでしょうか?」


「あまりお薦めは出来ませんが、数年ならば可能です」


「何故数年限定なのですか?それと、薦められない理由をお聞かせ下さい」


「現状で、ですが、数年したらここを破棄か放棄、又は封印する可能性が高いのです。この件は、これ以上お話しできませんし、この決定が覆る可能性は極めて低いと思っておいて下さい。お薦めできない理由は、ここが独立した場所だからです。本来ならば、人が来る場所では無いですし、外部との交流を持つつもりもありません。なので、ここでただ死に行くだけ、とう事になります。そんな場所をお薦めなどできません」



 俺の生きている間は大丈夫だが、管理者の後継者が見つからなかった場合、破棄か放棄、又は封印という事にするとアリスさんと話し合ったのだ。

 保護した女性達の中に居てくれれば、なんの問題も無かったが、アリスさんに調べてもらった結果、適性者は居なかった。



「薦められない理由は分かりました。ですが、放棄は覆らないのですか?私達で管理運用させていただく訳にはいかないのですか?」


 スートリアさんがなおも食い下がる。


「放棄は元々決まっていた事で、ここに来て僅かながら可能性が出てきただけなのです。なので、覆る可能性は非常に低いです。それに、存続の可能性を俺の一存で拒否する事もあるので、可能性は無いと思っておいて下さい。それから、貴女方に運用を任せる事はありません。この理由も話せません」


「話せないだけでは納得できない!理由を話せ!」


 エルフの代表者と話していたが、俺の話せない発言に副代表として座っていたエルフが立ち上がりながら、強い口調で文句を言い、代表者達の後に座っているエルフ達も俺に野次を飛ばしてくる。



 今回全員での会議を行う理由の一つがこれだ。

 この冬の間、俺は彼女達とほとんど接点を持たなかった。

 なので、彼女達は自治をし、その中で一部の者達が増長してしまい、多少の問題が発生している。


 今回の解放の事も、色々と問題が発生しそうなので、全員での会議を行い、皆に状況をしっかり理解してもらうつもりだ。

 なお、保護しておきながら、放置した俺の責任は重いので、今回は俺が悪役を演じる事になっている。


 ただ、俺が思っていたより状況は悪いかも知れない……。



 俺は溜め息を吐き、感情を抑えながら、ハッキリと聞こえる声で話す。


「理由は話しませんし、貴女方にここを明け渡す事もありません。これは貴女方全員の命より優先されます」


 エルフ側だけでは無く、ドワーフや獣人、団長さん達を見回してから続ける。


「皆さんの事は、出来るだけ生かして送り出したいと思っています。ですが、俺を殺したり、ルティリア達を人質にしてここの占拠を企むような方々を生かし続ける理由も、ここに残す理由もありません」


 そして、俺は代表者達の後に居る一部の者達を睨む。




 俺が止めて欲しいとお願いしない限り、この研究所の中の事は、全てアリスさんが把握できる。

 なので、保護した女性達の事を軽く監視して貰っていた。

 当初は、監視というよりも、観察とか様子見のためだったが、不穏な言動が出るようになってからは、監視を強めた。

 アリスさんだけでは手が足りなかったので、オシホ様と精霊トリオも監視をしていた。


 そして、先程の俺の殺害とルティの人質の計画が発覚した。

 この計画に代表者が関わっていたら、即排除か拘束をするつもりだったが、幸いにも代表者達は関わっていなかった。


 だが、監視をしていたアリスさんはまだしも、オシホ様と精霊トリオの怒りは相当なもので、不穏な発言が発生する度に怒りが上がっていき、ルティ達だけでは無く、俺も人質にするという段階で皆殺しにしそうな勢いだった。

 そして、殺害計画が立った時は相当に危なかった。

 偶然オシホ様達に遭遇しなければ、そのまま女性達を保護している区画に突入するところだった。


 先も言ったが、この事態を招いた責任は俺にかなりある。

 彼女達の意思の確認をせず、無理矢理連れてきたのは仕方がなかったとは言え、コミニュケーションをとらなかったのは俺の責任だ。

 もし、少しでもコミニュケーションをとっていたなら、この様な計画は立たなかったかもしれないのだから……。


 とは言え、俺の殺害計画は立ってしまい、万全とは言えないが準備もされてしまった。

 もう庇う事は出来ない。

 それに、俺はまだしも、ルティ達を人質になどさせる訳にはいかない。


 絶対に……。




 俺の発言と視線で、それぞれの代表者達は事態を察した様子で、自分達の後に居る者達を『まさか』という目で見る。

 計画を立てた者達も計画がバレている事に驚き、代表者に見られ、顔を伏せている。


「広坪様、申し訳ありませんが、私達だけで少し話し合いたいのですが、よろしいでしょうか」


 それぞれが混乱している様子だったが、団長さんが素早く立ち直り、提案をしてきた。


 まぁ、事実確認がしたいのは分かる。

 なので、俺はそれを承諾し、一時的に会議場から離れる事にする。

 ただ、その前にある程度は話しておく。


「今回俺の殺害やルティリア達を人質にしようとした者達は、聖堂院に送り返すか子爵領の村にでも送ろうと思っています。もちろん必要な物資は供与します。一緒に行きたい方々は、申し出て下さい。もう少しここに残りたいという方が居ましたら、最低でも一年は現状を維持するつもりです。それでは、失礼します」


 俺は言うだけ言って、ルティ達を連れて会議場を後にする。





 席を外したとは言え、会議場になっている訓練場も、アリスさんの監視が可能な場所だ。

 会議場での様子は問題なく分かる。



 話し合いの内容をまとめると……。


 史実確認から始まり、俺の言葉が事実だと分かってからは、説教が続き、他の者達からも非難されていた。

 一通り接している終わった後は、状況の再確認が行われ、事態の重さを認識した者達の中には、泣き出す者まで出たみたいだ。


 それからは、長い話し合いになったが、答えは一つに集約された。



 結局彼女達だけでの話し合いは、お昼前まで続いた。

 それぞれの代表者が報告に来たが、お昼の少し前だったので、会議の再開は昼食後となり、昼食後に会議場再集合した。


「では、これより会議を再開します」


 アリスさんの進行で会議を再開する。

 今度は団長さんが挙手して話し出す。


「まずは私達の話し合いの結果を聞いて下さい」


 俺は頷き、話の続きを待つ。


「私達の話し合いの結果、やはり聖堂院も子爵領も危険であると判断しました。なので、罪を犯した者達を含め、今しばらく全員をここに置いていただきたいのです」


「……それは、俺を殺そうとして、家族を人質にしようとした者達を、なんの罰も与えずに、我が家の中に留めて欲しいと言うのですか?」


 ふざけた事を言う団長さんに、思わず声が低くなる。


「いえ!決してその様な事はありません。私達で十分に罰を与え、なにかあれば、全員で責任をとります。ですから何卒お願い申し上げます!」


 団長さんが立ち上がるのに合わせて、保護している女性達全員が立ち上がり、一斉に頭を下げる。




「分かりました」


 俺の言葉で、皆が顔を上げる。


「ただし、罰の内容と責任の取り方で判断します。責任は追放や処刑程度では済まされないと思って下さい」


 団長さんが皆座らせ、話し出す。


「分かっています。罰としては、罪を犯した者達は、この施設内に居る限り、牢に入れます。責任は、誰かが再び問題を起こしたら、全員の全てを広坪様に差し出します」



 罰としては、牢に入れる程度の事しか出来ない。だが、研究所に居る限りとなれば、無期懲役近い。

 それに、連帯責任で、全てを差し出すとなれば、相当なものだ。

 実験動物にもできるし、性奴隷になっても良いと言っている様に聞こえる。

 何故一部の者達のために、そこまでする理由が分からない。



「素朴な疑問なのですが、それほどまでにここに残りたいのですか?俺の支配下にあるここは、しようと思えば全てを監視できますし、俺みたいな恐ろしい者に何をされるか分からないというのに、です」


「ここは楽園なのです。皆が思い思い好きな仕事をして、身の危険もなく平和に暮らせて居ます。子爵領はもちろん、聖堂院でさえこれほどの自由はありません。それこそ、広坪様の奴隷となってもここで暮らしたいと思うほどです」


 エルフ、ドワーフ、獣人の代表者達も頷いている。


「そういうものかね?だが、了解しました。今回に限り、カティリアさんに免じてそれで良いだろう。ただし、次はほぼ全員を強制的に聖堂院へ送り返す」


「広坪様の慈悲に深く感謝します」


「では、皆はもうしばらくここに残る、という事で良いのですか?」


「はい。よろしくお願いいたします」


「「「よろしくお願いいたします!」」」


 団長さんに続き、全員が一斉に頭を下げた。






 こうして、全員がここに今しばらく暮らす事になったが、実はこの話し合いは茶番だったりする。


 殺害計画の事も話し、代表者達とは事前に話し合いを済ませていた。

 俺が殺害計画の事を話してからの、後ろを振り替える時の『まさか』という顔は、迫真の演技だった。


 現状では、安全な場所に移送が出来ないので、ここに残るか聖堂院へ行くしか無かった。

 なので、今回の全員での話し合いは、全員の意思統一と、殺害計画を潰し、綱紀粛正し、環境を整える事にあった。


 ただ、ここに残るか、聖堂院へ向かうかは、本当に皆で話し合ってもらった。

 ここに残る以上は、できる限りの事はしたい。

 それに、一部だが、必要な人材も居るので、残ってくれて助かった。



 これでしばらくは平和に暮らせるだろう。




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