召喚
俺はベッドに座らしてもらい、改めて話しをした。
「ありがとうございます。それで、話を戻しますが、俺はココの管理者として召喚されたと聞いたのですが、召喚と管理者についてお訊きしたい。まずは、管理者が、どんな役目なのか教えていただけますか?」
「はい。管理者は、ココの管理と運用を一任された者となります。元々はノイリス帝国所属の魔方陣研究所でしたが、所長達が退去して100年経っても何の連絡が無かった場合無所属になることが既定されており、現在は無所属の元魔方陣研究所となります。そしてこれからの活動方針は管理者になった貴方次第となります」
ということは、ここに居る人間は俺だけなのか。
あとは、元人間の仮面メイドゴーレムさんだけか。
「俺次第ですか?でも、管理と運用といっても、何か目的があって召喚をしたのでしょう?何か無いのですか?」
「当初はありました。ですが、今現在はありません。強いて挙げるとしたら、ココの引き継ぎ、それ自体です」
「ココの引き継ぎって、それじゃあ既に目的は達したと?」
「そうなります。貴方が召喚されなかった場合ココは44年後に自爆して消滅する予定でした。ですから、貴方が召喚され、管理者となった今は全て貴方次第となります」
俺はその言葉に驚き、言葉を失いそうになる。
「なッ……自爆?!そんな事を指示していたのですか?!ココの奴等は!」
「違います。自爆も可能としてあり、私の判断で自爆する予定だったのです」
「な、何故そんな選択をしたんですか?」
「召喚の条件設定には段階がありました。最初は『魔力や才能が豊かで、人格も問題ない若い帝国人』となっていました。ですがそんな最高条件な者が召喚される可能性は低く、そして召喚されずに時が経ったので、段階的に条件が緩和されました。ですが、それでも召喚されずに最終段階の『適性があれば誰でも良いよ』段階になり、これでも召喚されない場合は、人類が既に全滅していると判断され、自爆が出来るようになっていました」
「つまり、人類が滅んでいる可能性が高いから自爆を選択したと?そして、俺が召喚された……ですか。ん?俺の前に召喚された四人組は居ませんでしたか?俺は目の前で魔方陣に消える四人組を見ました。そして、その魔方陣の残りに触れて召喚されたのですが、四人組について知りませんか?」
「ココに居るのは貴方だけです。恐らく別の場所に居ると思います。貴方を召喚した魔方陣は、他の召喚や転移に干渉して、召喚される者や転移する者を一時的にこちらに引き寄せる仕様なっていたのですが……。実は貴方の場合特殊な条件が重なった結果強制契約した上に送還が出来ない状態です。本当に申し訳ありません」
メイドさんは深々と頭を下げた。
えっと……それは、つまり?
「あの、この召喚は他の召喚や転移に介入するもので、四人組は通常通り召喚され、俺は才能ある者、つまり、俺の場合は『適性があれば~』の適性があったからココに召喚された。しかし、召喚は一時的なものであり、通常なら送還も可能だった。そして、契約も任意のはずだったが、俺の場合は特殊な条件が重なり、強制契約で送還不能と?……理由というか、その特殊な条件を聞いても良いですか?」
「はい。今回干渉した召喚ですが、何か特殊な召喚だったようで、元の場所と召喚先の情報が壊れていて、確認出来ませんでした。強制契約ですが、貴方は何らかの理由により精霊とぶつかり、融合状態になった様です。そして、融合状態になった事で、体に重大な悪影響が出て、命の危機でした。悪影響を最小限にし、命を守るためには、地脈の力を注ぐしか無かったのです、その行程上契約するしかなく、強制契約となってしまいました。そして、今も地脈の力を注いでいます。全てがこちらの想定外の事態です。謝って済むことではないのですが、本当に申し訳ありません」
メイドさんは再び頭を下げた。
「貴女が意図して起こした事でないのは分かりました。それに命を救っていただけたのですね。命を救っていただきありがとうございました」
俺はメイドさんに深々と頭を下げた。
「お止めください。召喚をした私に責任があったので、対処したのは、当然の事です。頭を上げてください」
「ありがとうございます。それで、お聞きたいのですが、精霊との融合や悪影響はどんなものだったのですか?」
「本来なら精霊との融合はあり得ないのです。通常の召喚や転移でも精霊と極稀に交錯することもありましたが、交錯したとしても魔力や魔法適性が少し上昇するぐらいなのですが、召喚が特殊だった事による影響か何か他の特殊要因によって、融合したものと思われます。そして、融合した貴方は、肉体の損傷を修復しようと魔力を激しく消費し始めたのです。対処として肉体の治療のために最上級回復ポーションを使用しましたが、魔力の消費は止まらず、魔力の消費を軽減するために、地脈の魔力を送り込む必要があり、そのためには管理者になる必要がありました。意思の無いままでしたが、契約を行い、地脈の魔力を送り込みました。そうしなければ、魂と肉体が耐えられずに死亡していた可能性が極めて高かったと思います」
俺はメイドの言葉に絶句していた。
俺が思っていたより状況が悪かった。
話によれば、痛みで目が覚めた時の事だ。
もしかしたら、気絶してそのまま死んでいたかも知れないのだ。
そして、今も力の供給を受けているということは、彼女に命を握られている事になるのか……。
それは一旦置いておこう。
それよりも、俺は特殊な事情というのに心当たりがあったが、事が事だけに再確認をすることにした。
「俺は何らかの理由により、精霊と融合し、肉体を修復しようとして魔力を消費して、死にそうな状態だったのですね?」
「はい」
「だから、肉体をポーションで回復して消費を止めようとしたが、止まらず、地脈の力?を送り込むために契約し、力を送り込んだのですね?」
「はい」
「そして、帰還不能と……」
「はい、その通りです。お詫びのしようもありませんが、本当に申し訳ありません」
メイドさんがまた頭を下げ、そのまま止まった。
「頭を上げてください。私は命を助けてもらって感謝しています。本来なら寝たきりでもおかしくない状態だったのが、今はこうして元気になってますから」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると、少し気が楽になります」
「精霊と融合の理由だけど、少し心当たりがあります。俺は事故に遭い、重症だった。そして召喚される時、俺は幽体離脱の状態、つまり、肉体から魂が離れた状態にありました。それが精霊との融合に関係してるかもしれない」
「それは……。それなら確かに融合の可能はあります。精霊は実態を持たない存在です。ですから肉体にはあまり影響が無いのですが、むき出しの魂と地脈内でぶつかったなら、融合してもおかしくありません。いえ、むしろ現状の説明がつきます。非常に可能は高いと思います。ですが、それだと……」
メイドは何やら考える様に腕を組み、言いにくそうに見えた。
石のゴーレムなのに、元人間なだけあり、仕草がなかなか……。
まぁ言いにくそうにしているから聞いてみる。
「どうしたんですか?何か言いたい事があるなら言って下さい」
「あの、精霊と融合なのですが、分離はかなり難しい状態にあると思われます。その結果、契約を破棄するのが難しいと言いますか、契約を破棄すると死亡する可能性があります」
「ですよね。理解しています。俺の命は、貴女次第ということですよね?契約破棄ができるとはおもいませんでしたが……」
「私は貴方を害するつもりはありません。それに、何かを強制するつもりも無いので、安心してください。契約ですが、破棄することは出来ます。ただ、破棄した場合、地脈の供給が断たれ、精霊の負荷に魂や肉体が耐えられず、結果死亡するかもしれないということです。それを回避するためには、精霊との分離が必要になります。当初は何らかの理由により、部分的に融合状態にあると思われましたが、お話を聞いた限りでは、魂とかなり高いレベルで融合した状態にあると思われます。なので、分離は非常に困難だと思います。出来たとしても、魂に重大な影響が出る恐れがあります。さらに、契約した状態でも、魔力の供給可能範囲から出ると供給が断たれ、危険な状態になると思われます」
「つまり、精霊との融合をなんとかしないと、契約破棄出来ないし、供給が出来る範囲しか行動出来ない。そして、その精霊の分離は困難であると?」
「あの、はい、その通りです。ですが、供給可能範囲は広げる事が出来ます。現在は施設内全ては供給可能で、施設外は出入口からは一kmは大丈夫です」
「……籠の鳥状態になるのか?いや、範囲拡大出来るなら……」
俺は今の状態を再確認し、そう悪く無いんじゃないか……いや、むしろかなり良いのではないかと考える。
メイドさんと話しては居るが、基本的にコミュ障だ。
人と関わらずに生きられるなら、それほど悪いとは思えない。
ここで、人知れず死ぬのも悪くない。
それに……。
「そんなに悪くない気がします。元居た場所には居場所なんて無いも同然でしたし、『適性があれば誰でも良いよ』な俺ですが、ココに居る意味があるなら、ココに居たいと思います。どうでしょうか?」
「あの、本当に良いのでしょうか?地脈の魔力供給方法があれば契約を破棄して戻る方法を探すことも出来ると思うのですが……お金や金なども多少ありますから、都合できます」
「いいんです。居場所が無いのです。まぁ俺の行いのせいですが……。それに、魔法に非常に興味があります。俺の居た所では魔法は空想上のものでしたから!習得出来るならしてみたいのです!」
俺は興奮のあまり立ち上がり力説してしまう。
「精霊と融合状態にありますし、習得は可能と思いますが、魔法が無い場所ですか……それでは魔獣や魔物の対処などはどうしていたのですか?かなり苦戦すると思うのですが……」
え?魔獣?魔物?ってモンスター的なあの、魔獣や魔物?
あれ?異世界だったりするの?