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プロローグ

 



 トールデン王国 モルトルデン子爵領 領都キジムル 領主館



「何だと?もう一度言ってみろ!」


 領主館の執務室で、館の主であり領主でもある、小太りな男、ロムトジル・フォン・モルトルデン子爵が怒鳴り声を上げていた。


 長い冬が終わり、各街と寸断されていた連絡がとれるようになり、その連絡の内の一つ、東の街から届いた連絡を聞き、怒鳴り声を上げたのだ。


 領主の怒鳴り声を聞き、身を縮み上がらせていた文官がなんとか答える。


「で、ですから、東にあった村のほとんどが壊滅していたのと事で、状況からして、冬の間にオークに襲われたものと思われると――」


「討伐報告はどうなっておるのだ!」


「そ、それが、探索はしたそうですが、オークの一匹も確認できなかったそうです」


「全く使えぬ男だ。あの街の男は、献上予定の親娘にも逃げられたというのに、今度はオークすら見付けられぬとは……。今年は東への本格的な侵攻の年だというから、兵を多目に配置してやったというのに、本当に使えぬな。所詮は薄汚い商人か。後の事はお前に任せる、上手くやれ」


「はっ!でしたら、カバリム様と兵を送り出したいのですが、よろしいでしょうか?」


「あの糞爺か。よかろう、奴を送る。煩いのも居なくなってちょうど良いわ!」


「では、早速準備します」


 文官の男は、頭を下げて執務室から退室した。


(全く、兵を増員したのは主家からの指示だろうに、自分の行いの様に言うとはな。それにしても、オークか。軍のお目付け役であるカバリム様しか適任が居ないとは言え、送り出さねばならぬとはな。居ない間に何事も無ければいいが……)


 内政のお目付け役である男、ハトルスは深いため息を吐きながら訓練場に向かう。




 武官カバリムを東の街、ジルトに送り出して一週間が経ち、外からの情報がハトルスの元に入ってきた。

 情報は子爵の主家、パストルデン公爵家からの情報だったが、南にある冒険者の国と魔境を挟んで反対側の国からの情報が来た。


 そこには、驚くべき事に、複数のオークジェネラルが率いるオークによって、大きな被害が出ているとの報告があった。


 南の冒険者の国、キノトリアは、多数の村と街が二つ潰されたらしいが、住民の避難が上手く行き、被害は軽めに済んでおり、領都を中心に戦線を形成し、国全体で対処しているとあった。


 魔境を挟んで反対側の国、タンデリウス共和国の魔境と接している地域でもオークの襲撃があり、南の国々を経由して反対側であるここまで情報が届いた。

 あちら側でも多少の被害が出たが、十分な対策をしていたので、被害は少なかったとある。



 ハトルスは、この情報を領主てあるロムトジルに報告した。

 情報を聞いたロムトジルは、笑った。


「他国の者達もだらしがないな。我々が何もしていないというのに、同じ程度の被害とはな。こちらは兵の被害が無い以上、我が国が有利になったな」


 ロムトジルは、大陸東部中央で東西を繋ぐ、唯一の地域の占領に他の国々が出遅れる事に喜んでいたのだ。



 ハトルスは執務室を出て、自室へ戻り、領主が何も理解していない事に頭を痛めながらため息を吐く。

 確かにトールデン王国は兵士の被害が無く、戦力的には無傷の状態ではある。

 だが、報告を見る限り、被害の人数としては同じ程度ではあるが、規模があまりにも違うのだ。


 冒険者の国キノトリアは、地域の半分を失い、領都まで攻められているし、タンデリウス共和国も街三つを落とされている。

 にも関わらず、東の村々をいくつか失っただけの我々と同程度の被害しか無い。


 ハトルスは、両国共にオークジェネラルという化け物を相手に良くやっていると思っている。

 だが、現状でトールデン王国の兵士達は戦ってさえ居ない。

 しかも、今はただのオークの討伐をするためにカバリムと多くの兵士を送り出している。

 このままオークジェネラルが居ることを知らずにオークと遭遇したら、下手をすれば総崩れ、なんて事にもなりかねない。

 ハトルスは、カバリムに急ぎオークジェネラルの情報を送った。




 伝令を送り出した後、ハトルスは報告書を再び確認した。


 報告書には、少々妙な事が書いてあったのだ。

 オークの襲撃は、12月中頃から始まっており、それは村々の壊滅の時期と同じであると予想された。

 村々の状態から、カバリムの予想とも一致していたので、なんら不思議ではないが、その後が問題だった。


 ある時期から、オークの攻勢が弱まっていたのだ。

 時期的に見て、トールデン王国が最も早くオークの驚異が去っている。

 他の国々と違い、何もしていないのに、完全にだ。

 雪の影響も考えたが、雪が溶け始めている今もなおオークは確認されていない。


 何かがあった可能性が高いが、ハトルスには何があったか全く分からない。

 分からない以上、より注意を促す事しか出来ない。

 ハトルスは、カバリムへの伝令にも書きはしたので、下手な事にはならないだろうと思っている。



 伝令を出した翌日、更に報告がハトルスの元に来た。

 報告は、北の端にあるバレミア聖堂教国の割譲地の事だった。

 境界間際の村々が被害に遭っていたので、安否確認のために、兵を出していたのだ。


 そして、その報告を聞いたハトルスは、大いに驚いた。


 オークジェネラル率いるオーク15,000匹の撃退、更には保護していた者達の誘拐というものだったからだ。


 詳しく報告を聞くと、話を訊いたのは副団長からで、団長は襲撃してきた人間に殺されたとの事だった。

 副団長の話では、オーク撃退後に、ゴーレムを率いた一団に襲撃され、300名が誘拐され、オークの魔石を奪われたそうだ。

 だが、一部の魔石は残っており、オークジェネラルと多数のオークの魔石を派遣した兵士が直接確認したそうだ。


 これで、こちらにもオークジェネラルが来ていた事が確認された。


 ハトルスはあそこに15,000ものオークを撃退出来るだけの力があるとは思っていなかった。

 だが、襲撃され、撃退した時期が、攻勢が弱まった時期とも一致している。

 なので、オークの攻勢が弱まったのは、この襲撃で大きく数を減らした事が原因だろうと判断した。


 そして、オークの後に襲撃してきた人間は、完全自立型ゴーレムを多数持つ、コウヘイ・ツチクラという20代の男だと報告があった。


 完全自立型ゴーレムを複数所有する賊。

 あまりに危険すぎる。

 ハトルスは再びカバリムへ伝令を出すことにした。


 そして、ハトルスは、この件を領主であるロムトジルにも報告した。


 たが、この報告で、事態が最悪の方向へ転がるとは、ハトルス自身を含め、この時誰も思っていなかった。




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