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カティリア・トラミリウス 後

 



 アストラーデの5人を受け入れてから一週間程が経った。


 5人は、聖堂院にすぐに馴染んだ。

 けれど、全く問題が無い訳でも無いのだ。

 アストラーデの5人ではなく、あの副団長だ。

 寄付、という形でもたらされた物資を確認してから、副団長がさらにおかしくなった。

 いや、国に属する者としては、正しいのかも知れない。




 副団長は、物資の魔具やポーションに強い関心を示した。

 魔具は様々な物があり、戦闘には使えないものの、全てが高性能だった。

 この技術を吸収できれば、当然戦闘方面に転用できる。

 もし、転用出来なくても、国力を上げる事には使える。

 ポーションも、製造法を入手できたら、国益に繋がる。


 よって、あの者達を捕縛すべきだったと騒ぎ、保護したアストラーデの者達にも、事情聴取をしていた。


 事情聴取は止めようとしたが、裏で行われてしまった。

 だが、アストラーデの者達は、軟禁に近い状態にあり、何も知らないとの事ですぐに開放された。

 それでも、保護した者達にこの様な仕打ちをしたことを問題として、彼女達に接近を禁止させる事が出来たのは、かえって良かったかも知れない。

 だが、不快な思いをさせたのは間違いないので、彼女達に謝罪をしたが、快く赦してくれた。

 この心の大きさを副団長も見習って欲しいものだ……。


 大体、あの者達を捕縛など出来るハズも無い。

 もし、出来たとしても、実行しようものなら、こちらに甚大な被害が出ることは間違いない。

 こんな馬鹿な事をするわけにはいかない。




 魔具だが、普段生活する上では、非常に便利な物ばかりで、更には魔力の消費が格段に少なかったので、聖堂院全体で使うことにした。

 魔具の燃料である魔石も、彼等の提供と、彼等が残していったゴブリン達の魔石も回収できたので、かなり余裕が出たのも大きい。


 聖堂院内全体での魔具の使用により、室内の快適性が大きく上がった。

 魔具を自由に使えるので、お風呂も毎日用意できる様になり、あの液体石鹸も使われて、皆が花の臭いをさせている。

 そして、風邪の発生率が大きく下がり、皆が健康な状態になった。

 見張りなどの外で活動した者達に、特に人気で、全体的に士気も上がっている。


 衣食住に余裕が出たので、皆の表情だけではなく、聖堂院全体の雰囲気が明るくなり、良いこと尽くしだ。




 更に、二週間が経った頃に、再びあの男が訪れた。


 来訪の知らせを聞き、すぐに前回も使者にしたミリシアを送り出した。

 やはり、あのゴーレムを侮る事は出来ない。

 今回も使者を送る対応をせざるを得ない。

 副団長達には、彼等との関係悪化は避けたいので、今回も聖堂院内で待機させた。



 ミリシアの副官が戻り、報告を聞く。


 面会は良いとしても、また支援物資を持ってきた?

 あって困りはしないが、理由が分からん。


 それにしても、行きの降り始めならまだ分かるが、この時期に大量の荷物を運んで来れるとは……。

 やはり、あのゴーレムは尋常ではないな。



 荷物に問題は無かったので受け入れ、正直に支援の意図を訊く。

 やはり、あのアストラーデの5人に、相当に執着している様子だ。


 一応納得し、目録を受け取る。

 だが、そこに書かれていたのは、季節に関係なく、様々な野菜や果物があった。


 あり得ない。

 どれも日保ちしないものだし、干した物でもなかった。


 部下が、果物を切り分けて持ってきた。

 摘まみ食いをしたな?

 だが、毒味は済んでいるだろうから、一つ食べてみた。


 美味しかった。


 これほどのモノは、早々味わえない。

 それに、本当に新鮮な状態だった。


 冬のこの地に、南国の夏の果物があるなど、どんな冗談だ。

 この者達の得体が知れない。

 正体が精霊でも驚かない。



 そして、この者達が訪れた理由を聞いて、私は取り乱してしまった。


 オークジェネラル。


 オークの上位種で、オークを1,000単位で率いて襲ってくる存在だ。

 それが三つで、4,000のオークが接近している。


 事実なら、ここだけの戦力では対応が難しい。

 援軍を要請したいが、今は冬で雪が深く、援軍は望め……目の前に居る。

 彼等のゴーレムがあれば、なんとかなるかも知れない。

 なんとか説得しなければ……。



 会議室で、ここの放棄、こちらの事情等のできるだけ協力を引き出せそうな話題を提供した結果、協力を取り付けた。

 彼等は、アストラーデの5人を重要視しているので、上手くいったのだと思う。




 それからが不味かった。


 友好を深めるために、食事に誘ったが、そこで仮面のメイド4人が、喋る完全自立ゴーレムだと分かった。


 完全自立ゴーレムが4体、さらには、人の様に振る舞い、人の様に喋っていたのだ。


 激しく動揺し、失言を重ね、部下の言葉で彼女達を怒らせてしまった。

 怒った彼女達の圧力は凄まじく、言葉を発する事が出来ず、彼の引き上げるとい言葉に頷く事しかできなかった。




 少しして、彼等が帰ったとの報告が来た。


 友好どころか、敵対されてもおかしくない状況になってしまった。

 大失敗だ。

 関係を悪化させ無いために、副団長等を聖堂院内で待機させたのに、自分で墓穴を掘ってしまうとは……。




 私は、事の重大さから、直属の部下の隊長や副官などの、指揮官クラスのみを緊急で集めて、今後について協議した。

 彼等との関係の改善、オーク対策について、それなりの時間協議していたのだが、聖堂院内の空気が一変していた。



 どうやら、副団長に彼等との会談での事が漏れ、それをネタに自分の勢力を伸ばした様だ。

 聖堂院内の人種の大半が副団長派に傾いていた。

 私の、『人をつかったり』という発言も漏れており、状況はかなり悪い。


 彼等との会談には、直属の部下では無い者達も居り、口止めはしたが、土台無理な事だったのだ。

 自分の迂闊さが憎い。



 結果的に、聖堂院内は三つに割れた。

 一つは、私の融和派。

 一つは、副団長率いる敵対派。

 一つは、副団長達本国に強く反発する亜人達。


 この三つに分かれている。

 数では亜人達が一番多いが、中立派であり、現状では影響は少ない。

 人種としては、私が辛うじて過半数を占めている。

 辛うじてなのが、自分の失態でこうなってしまったのだが、頭が痛い思いだ。

 とりあえずは、皆でオークに対処する事になった。

 なにしろ、オークキングの出現が予想されるのだから。



 それからは、オークの迎撃準備をしながら、同時にアストラーデの5人との友好を深めた。

 彼等との関係修復をするためだ。


 彼等は、大きな力を持っている。

 現状を打破しうる可能性があるのだ。

 その架け橋となる事が出来るのは、アストラーデの5人だけなのだから。


 5人には、内部の事を可能な限り話した。

 私達が、彼等を警戒しておらず、困っている状態にある事も伝える事が出来た。

 気にかけるという約束を守りながら、私自身が交流していたので、友好を深める事は容易だった。




 オークが西の森から出現した。


 もしかしたら、彼らが倒しているかも知れない。

 その考えもあったので、オークが来たことに、少なくないショックを受けた。


 気持ちを切り替え、全力で迎撃をした。

 だが、統率されたオークというのがこれほ恐ろしいものだとは思わなかった。

 準備は万端だったにも関わらず、2割も倒せぬ内に防壁を破られた。

 防壁を破られるのは想定しては居たが、これほど早いとは思わなかった。

 だが、奥の手はある。


 この砦は、守るためにあるんじゃない。

 聖堂院は、硬い岩盤と分厚い鉄門に守られている。

 なので、砦は敵を効率良く倒すために存在している。


 オークを深くまで引き込み、仕掛けを使って砦を燃やせば、残りのオーク全てを倒せる。


 だが、私の目論みは、辛くも崩れ去った。


 副団長が、砦の西部から人員が待避したのを確認して、火を付けてしまったのだ。

 オークは半分ほどしか砦内に入ってはおらず、これではオークを殲滅出来ない。


 オーク達も砦の外に逃げ出した。

 もうここに居る必要は無い。

 全員で聖堂院内に待避した。



 奥の手は、砦を燃やす以上、そう何度も使えない。

 オークを上手く誘導すれば、今回の様に、西側外周だけの被害でなわとかなったかも知れないが、失敗してしまった以上、全てを燃やす覚悟が必要だ。

 もし、燃え尽きでもしたら、防衛に大きな問題が発生する。


 聖堂院内に待避した私は、ギリギリで理性を保ちながら、副団長に説教をした。

 そんな事をしている場合では無いが、言わずには居られなかった。


 説教の途中で聖堂院の鉄門が大きく叩かれた。

 オークがここまで来るのにまだ時間があると思い、説教をしていたので、心臓を握られた様な驚きがあった。


 だが、それはオークではなかった。

 以前報告されたオークを殲滅し、報告に来た彼等だった。

 今回のオークは把握していなかったみたいだ。


 私は確認のための偵察を出し、彼らの前に出た。

 前回の件を謝罪し、許されはしたが、以前の様に顔を見て話す事はできなかった。



 彼等は、アストラーデの5人と面会を望んだ。

 アストラーデの5人も承諾したので、面会を許可したが、副団長が護衛を付けるべきだと主張し、無視する訳にもいかず、護衛を許可した。


 私は戦闘の後始末に注意がいっており、護衛の確認を怠った。

 そのせいで、激しく後悔する事になった。



 結果だけ見れば、副団長が彼等に襲いかかり、頼みの綱であったアストラーデの5人が聖堂院を去ることになった。



 詰んだ。



 彼等との関係は更に悪くなり、交渉できる者も居ない。

 というか、ここにもう存在価値を認めていないかも知れない。

 再びオークが来るかも知れない。

 そうなれば、援軍の無い籠城をしなければならなくなる。


 あの鉄門も、壊れないという訳では無いのだ。

 もう、どうすべきか思い付かない……。





 アストラーデの5人が去ってから、聖堂院内の状況は更に悪化した。

 満足に防壁の修理が出来ないほどに。



 副団長が、アストラーデの5人は拐われたと騒ぎ、彼等との敵対派が勢力を伸ばした。


 そして、副団長が聖堂院全体の半数近く、人種のみに支持を得ており、現時点で最大派閥になった。

 彼を殺すなり、人質にでもして、完全自立ゴーレムを奪うことを考えている様だ。

 無謀過ぎる。


 亜人達は、やはり副団長の差別的な行いに反発しており、聖堂院内を大きく二分していた。

 ただ、アストラーデの5人を連れていった彼等には、好意的だった。

 アストラーデの5人は、亜人達とも仲が良かったので、色々話をしていた様だ。


 私は、直属の部下達と、少数の人種のみが味方で、未だに融和派だ。


 私の勢力が一番小さい。

 これには仕方がない。

 副団長の宣伝の結果、保護した女性を拐われたと無能として、散々宣伝していたし、ここの放棄もそう遠くないだろう。

 そうなると、我々は本国、バレミア聖堂教国に戻らねばならない。

 そうなると、本国と強い繋がりのある副団長の機嫌を損ねるのは避けたいのだろう。

 本国に戻っても問題ない者達の殆どが副団長側になるのも、仕方がない。

 私が団長でありながら、一番小さい勢力なのも、本国で嫌われて居る、というのもある。


 亜人達は、副団長達の行動を見て、本国の様子を推し量り、対立する事を選んだ様だ。

 彼女達の判断はきっと正しい。

 最大派閥になった副団長等の行いは、差別的だ。

 あれでまだマシだと言うのだから、本国の状況は私が居た頃よりさらに悪くなっているのだろう。




 私は部下達と密かに会議を重ねた。


 現状で状況をひっくり返すのは難しい。

 何もせずに居たら、オークに殺されるか、聖堂院放棄の責任をとらされ、本国で処刑されるだろう。

 私だけが処刑されるならそれでも良いが、部下達も無事とは限らないし、保護している亜人種の者達の事もある。

 なので、私の命で状況を打開する作戦を立てた。



 作戦は、私も彼等との敵対を選び、積極的に完全な敵対を選ぶ事にした。



 アストラーデの5人から状況は伝わった可能性が高い。

 そうなれば、亜人達の危機は伝わるだろう。

 もし、彼等が心優しい者達ならば、助けに動くかも知れない。

 だが、亜人達を渡す名目が無い。

 なので、敵対し、敗北する事で渡す名目を作る。

 私が殺される事になっても……。




 機会が来たのは、新年になってからだった。



 危険を知らせに彼等が来た。

 15,000のオーク。

 これが事実なら、私達は全員死ぬだろう。

 だが、彼等ならば助けに来るかも知れない。


 たとえ、警告に来た彼等に無礼な態度をとった副団長派が居たとしても……。




 彼等は来てくれた。

 15,000ものオークを、見事に全て倒した。


 彼等は、一度引いたが、再び接近してきた。

 私は防壁の上に立ち、攻撃を指示する。

 これで、私は彼等のてきになった。


 彼等を引き込み、砦を全て燃やした。


 一連の行動は、副団長も賛同した。

 副団長は、私も彼等を倒そうとしたと思っているかも知れないが、私は倒せるなどと思ってはいない。


 彼等は、私達の奥の手を軽々凌駕し、そして聖堂院にも軽く侵入してきた。



 私の死ぬときが来た。

 覚悟をしたが、彼に外に連れていかれ、上手く二人っきりなれたので話をした。


 彼等は、こちらの事情を良く理解してくれていた。


 そして、彼は私にいくつか質問をした後、『任せろ』と言って聖堂院院内に戻った。

 私を殺した様な振りをして。




 彼は、副団長等に人選を任せ、300人を引き抜いた。

 副団長等は、亜人と凡てと私の部下を中心に人を選んだ。

 当然だろう。

 要らない者で命が助かるなら、安いものだろう。




 そして、私達は、彼等の本当の凄さを知った。


 ゴーレム、陣地、物資、ソリ、彼等の本拠地、全てが規格外だった。


 結果として離反する事になったが、全てが丸く収まった。


 彼には、私の命だけでなく、部下や亜人達の命を救ってもらった。


 可能な限り、恩を返そうと思っていたが、この時の私は、後にあんな事になるとは思っていなかった。




 カティリア・トラミリウス 33歳 春が来るまでもう少し。




カティリアさんの視点でした。

個人的にどうしても書きたくて、入れました。

これで、少しでもストーリーの補完になれば幸いです。


このあと、エピローグを入れて一章は終了です。


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