カティリア・トラミリスウ 前
あの男と出逢ったのは、私が聖堂院に赴任してから三年目、例年より雪が降り始めるのが一週間ほど早い冬の、雪が降り始めて少ししてからだった。
降り始めるのが一週間早まった雪もそうだが、今年は天候が悪く、この地域一帯が不作だった。
そして、不作の影響で逃げ込んで来るとても女性が多かった。
多くの女性が 保護を求めるのは良くない事態だが、困っていた女性達を保護できた事は喜ばしい事で、我らの存在意義を強く再確認できた。
ただ、不作の影響だけでは無く、この地域の領主が代替わりしてから逃げてくる女性が増えてもいた。
こちらは治外法権なので、干渉はほとんどされないが、するこ事も出来ない。
本国ならば、なんとかできるかも知れないが、あの豚共が動くとは思えない。
なんとも歯痒い思いだ。
人数が増え、不作の影響で食糧の備蓄もあまり無いが、様々な物資も足りない。
背に腹は代えられず、本国に支援を要請をした。
ここが聖地とせれているので、なんとか物資が送られて来たが、その量は十分とは言えず、あまり余裕が無いのが心配ではあるが、それでも、なんとかこの冬を越せそうだ。と思っていると、ゴブリン襲来の知らせが来た。
急ぎ状況を確認すると、南東から一万数千ものゴブリンが来たとの事だった。
(何故こんな時期にこれだけの数で来る?!)
驚きはしたが、私は直ちに迎撃指示を出す。
この数相手に我々の戦力では、打って出ることは無謀だ。
砦に籠り、ゴブリンを殲滅する事にした。
ゴブリン達では、砦の防壁を破壊するのは難しく、順調に戦えている。
この二時間で多くのゴブリンを倒した。
これならば、日没までに片付ける事も可能かも知れない。
そんな事を思っていると、見張りから報告が来た。
それは、南から仮面を着けたメイドがゴーレムと共に突撃してくる、というものだった。
何を馬鹿な事を、と思ったが、この目で確認すると、報告の通りで、二人の仮面メイドがそれぞれ2体のゴーレムを引き連れて、凄い勢いで突撃してくる。
一人はゴブリンの本隊へ、もう一つは門へ向かっている。
一瞬、ゴブリンを操る者が居り、その者の部下、つまりは敵では無いかと思ったが、ゴブリンを倒す様を見て、違うと確信し、メイドとゴーレムに攻撃しないように命令を飛ばす。
だが、門の守備を任せていた副団長がゴーレムに攻撃してしまった。
直属の部下を送り、すぐに止めさせたが、攻撃したという事実が残ってしまった。
だが、攻撃を受けた側の仮面メイドとゴーレムは、我々の事など意に介した様子も無く、門を守るように布陣し、門周辺のゴブリンを蹂躙していく。
やはり、こちらの援護が目的だったのだ。
もう一人の仮面メイドも、ゴーレムを率いて、我々の射程外に居たゴブリンの本隊と思われる集団に突入し、ゴブリンを蹂躙していた。
私は、ゴーレムの性能を見て、戦闘終了後の事を思い、頭を抱えそうになっていると、さらに報告が来た。
仮面メイドがゴブリンに突入するのに前後して、仮面メイドが来た方から、ゴーレムに牽かれた馬車三台が現れた、との事だった。
馬鹿な。ゴーレムがまだ居るだと?
私は報告のあった方を見ると、突撃してきた仮面メイドとゴーレムに気を取られて気付かなかったが、確かに馬車が三台あり、ゴーレムも確認できた。
確認してみると、仮面メイドがさらに二人、ゴブリンを蹂躙しているゴーレムと同じタイプと思われるのも4体も確認できた。
さらに、馬車を牽いているゴーレムも居る。
馬車それぞれに2体、馬車が三台なので、合計で六体居る。
極めつけには、巨大なゴーレムが1体居る。
あの数のゴーレム引き連れているなど、異常な事だ。
だが、それよりも問題なのは、あの巨大なゴーレムだ。
あれの動きは滑らかすぎる。
あの馬車を率いる者は何者だ?
私は南から来た馬車の一団を見て、混乱を通り越し、冷静になった。
南には、恐ろしく強いブラックベアーが居る。
初夏の頃に、前任の団長と共に聖堂院の全力で討伐を試みたが、敗北した。
とても強い人だっだが、皆を撤退させるために、殿を務め負傷たした。
あの化け物相手に殿を務めて、生還したのだから、前団長は本当に凄かった。
そのお陰で、死者こそ出なかったが、団長以下50名ほどが本国に帰還することになってしまった。
私が団長を任されて、皆を掌握した頃に来た補充の要員があれというのが、なんとも言えない。
しかも、新たな副団長になってしまった。
本国の指示ではどうしようも無い。
来年の春に、援軍と共に討伐予定にはなっているが、本国から来たあの者達から、本国の状況を推察すると、とてもではないが、良い状況とは思えない。
あの化け物の事を思い出して、討伐されたとは考えられなかったのだが、あのゴーレムのを見ると、もしかすると、という思いが湧く。
もし、そうなら、ゴブリンはブラックベアーが倒されたから、ここに来た事になる。
謎は解けるが、もし、あのブラックベアーが倒されたなら、その倒した相手の部下を攻撃したことになる。
胃が痛くなってきた。
私が考えて居る間も、状況は進み、いつの間にか馬車が少し移動し、何か丸い建物の様なものが出来ていた。
なんだ?あれは……。
馬車の一団を注視していると、さらに状況は動く。
仮面メイドとゴーレム1体、そして、巨大なゴーレム動きだし、ゴブリンを蹂躙していく。
やはり、あの巨大なゴーレムは異常だ。
剣と盾を振るって戦っているのだ。
あの巨大さだけでも異常なのに、滑らかな動きに、人の様な戦い方、どれも異常過ぎて恐ろしい。
それに、たまに下がり、状況を確認している様にも見え、あの仮面メイドがコントロールしているのかも知れない。
瞬く間にゴブリンは倒され、ゴブリンの数が7,000ほどになると、ゴブリンの動きに変化があった。
ゴブリンの本隊と思われる集団に向かいだしたのだ。
見れば、ゴブリンの本隊らしきものは、数を大きく打ち減らしていた。
あの仮面メイドとゴーレム2体で殲滅したのだろう。
あの巨大なゴーレムは、ゴブリンの移動を確認してから、馬車の元に引いていった。
そして、馬車の近くに戻った仮面メイドが普通のゴーレム2体を連れ、ゴブリンが引いた後も門を守っていた仮面メイドと合流し、ゴブリンへ共に突撃していった。
これは……好機だ。
今なら、出撃してゴブリンを殲滅可能だろうし、仮面メイドと共同で戦えば、こちらに敵意が無いことを示せるハズだ。
私は急ぎ出撃の指示を飛ばす。
だが、ここで副団長が抗議に来た。
「何を考えて居るのですか?!あの様なゴーレムが居るのに出撃など、正気ではありません!」
今は時間が無く、この馬鹿に構っている暇は無い。
一刻も早く出撃し、共同でゴブリンを殲滅しなければならない。
そうしなければ、印象が悪くなり、どんな不利益を被るか分かったものではない。
「では、お前には守備を任せる。ここに残れ。命令だ!」
私は、副団長を置き去りにし、掌握出来ている部下100名を率いて即座に出撃し、共同でゴブリンを殲滅した。
途中で逃げ出そうとしたゴブリンを、巨大なゴーレムが蹴り返したりしたが、最後は仮面メイド達が引いてトドメを譲ってもらい、ゴブリンの討伐が終わった。
戦いの様子から、我々と敵対する意思は見られなかった。
やはり、友好的な一団なのだろう。
まぁ、敵対されたらひとたまりもないだろうが……。
仮面メイドとゴーレム達が全員馬車に戻ったので、私達も砦に引き返す。
砦に戻った私は、すぐに主要な者を集めて、今後の対応を協議した。
ゴーレムを率いた一団に敵意が無いこと、三台の馬車の内二台が荷馬車、一台が箱馬車であり、ここに来た以上、保護を求めて来た可能性を話した。
だが、保護を求めて来たというのは、憶測でしかない事、保護を求めて来るには過剰な戦力を有している事などを指摘され、さらには副団長が猛烈に反対した結果、意見が二つに割れ、相手の出方を見るという曖昧なものになってしまった。
協議が終わろうとした時、見張りから報告が来た。
巨大ゴーレムと仮面メイドの接近を告げられ、防壁の上に向かおうとしたら――
「我々は、聖堂院へ向かう途中の女性を五名保護している!彼女達は聖堂院への保護を希望している!ここがアリストラ聖堂院なら、返答が欲しい!」
大きな男性の声が聞こえて来た。
この声を聞いた副団長が騒いだが、それを抑え、使者を送る事にした。
普通ならば、まずは砦内に招き入れ、検査なりなんなりをするのだが、あの戦力を無視てきなかった。
不快に思われるかも知れないが、恐らく大丈夫だろうという思いがあった。
使者には、私の最も信頼している部下を送る事にし、攻撃の件の謝罪と援護の感謝を念押しして送り出した。
しばらくして、部下の副官が戻り、報告を聞いた。
ブラックベアーが討伐された事、あの巨大ゴーレムに人が乗って操縦してた事は驚きだった。
仮面メイドの一人が指揮を執っている事も驚きだが、ゴーレムやブラックベアー程では無い。
何にしても、あの化け物が討伐されたのは喜ばしい事だ。
ゴーレムに乗っていた男の話も聞いたが、見慣れぬ若い普通の男との事だったが、こればかりは、見なければ判断ができんな。
他には、保護を希望する者達、食糧の提供の話、予想よりかなりいい状況だ。
最悪は追い返さなければならない事も覚悟していたので、食糧の持参や提供の話は有り難い。
無闇に受け入れて、食料不足による暴動など起きたら、保護している女性達を傷つける事になりかねない。
それが回避でき、女性の保護ができるのは、良い事尽くしだ。
受け入れを決めて、副官を再び送り出す。
しばらくして、馬車が砦の中に入ってきた。
私にできる、精一杯の歓迎をした。
副団長は問題を起こしそうなので、聖堂院での待機にした。
そして、出迎えは私の直属の部下のみで行った。
あの戦力を有し、食糧の提供者達だ。下手な対応は出来ない。
仮面メイドと挨拶を交わし、件の男も見た。
男は、変わったら顔立ちをしていたが、確かに普通の男に見え、あのゴーレムを操っていたとは思えなかった。
そして、保護を希望したのが、武功で貴族になったアストラーデの者だったのは驚いた。
提供される物資の目録を受け取り、会議室へ案内し、部下から直接報告を聞く。
話を聞き、目録片手に物資をいくつか確認し、今日何度目の驚きか分からないぐらいの驚きをした。
予想以上の食糧に安堵し、衣服も有り難かった。
そして、花の臭いのする液体石鹸には、皆が目を輝かせた。
問題なのが魔具とポーションで、大量にあり、どれも一級品だった。
ポーションは全てが魔法薬で、原液と思われる物だった。
これだけの量を用意できるとなると、製造法を知っているか、相当の資産家だ。
魔具も、どれも高性能で、魔力消費が驚くほど少なかった。
これほどの物を提供のするとは……。
交渉により一層気合いを入れて対応する事にした。
部下達の目にも力が入っていた。
だが、交渉は驚くほど簡単に終った。
何を要求されるかと思ったが、驚くほど軽く、保護した女性達を気にかける事だった。
普段から、来たばかりの者達には、我々がしている事だったので、二つ返事で受けた。
更に、見学が砦のみで、聖堂院が、外からしか出来ない事を告げても、怒る様子も無かった。
本当に見学だけだった様だ。
それからは、何事もなく、見学を終えて帰還していった。
アストラーデの皆が別れを惜しんでおり、良い者達であったことを確認出来たのは良かった。
コウヘイ ツチクラと名乗った男を見送りなから、この出会いが良いものであることを願った。
こうして、私はあの男に出逢い、最初の接触はこうして終った。




