第三次オーク迎撃戦 前
「報告します。オークは全て想定通りの位置で発見、あと3、40分ほどで、聖堂院を襲撃すると思われます」
「ご苦労。では、全員20分後に陣地を出る。それまでに戦闘準備をして待機しておくように。広坪達も、何か食べておくと良い」
「いえ、既に食事は済ませてあります。装備の最終確認をしてから、戦闘待機します」
「うむ。それならば良い。各自準備せよ!」
オシホ様の言葉で、全員が準備のために、散開する。
俺も準備に向かうが、食事とトイレは済ませている。あとは、装備をチェックして、準備はすぐに終わったので、ルティ達の様子を見に行く。
俺が見に行くと、ルティとマリーディアさんによって、三姉妹の装備も確認されていた。
「装備の方はどうですか?」
「全員大丈夫です」
俺の問に、ルティが答えてくれる。だが、三姉妹は緊張している様子だ。
なんとか少しでも緊張を解してあげたい。
「三人とも初陣で緊張してますね。ここは俺の初陣の話をしましょう!」
「広坪様の?」
レイシアが食い付いてくれて、アムリスちゃんとクリスティアちゃんも反応する。
「そうです。では、話します。俺は、初めてモンスターを見て、恐くなって逃げ出してしまいました。そして、追い付かれて、痛みで気絶して、お漏らしまでしてしまいました」
ブラックベアーさんにやられて、気が付いたらパンツとズボンが新しくなっていた……。
なつかしい思いでです。
「こ、広坪様がですか?」
「はい。ですから、トイレはしっかりと行っておいた方が良いですよ?」
「トイレに行ってきます!」
三姉妹がトイレのある簡易シェルターに走って行った。
緊張は、少しでも解れただろうか?
「広坪様、わざわざありがとうございます。でも、あんな嘘をつかれなくでも良かったのでは?」
マリーディアさんの言葉に、俺はできるだけ真面目な顔をして返事をする。
「いえ、本当の話です」
「ほ、本当の話なのですか?」
「はい。皆さんを襲ったブラックベアーが最初の相手でしてた。そして、色々あって、そうなりました」
「広坪様は、そんな相手に立ち向かって、私達を救ってくださったのですね!」
何やらマリーディアさんが感動しているご様子だ。
ルティも驚き顔でこちらを見ている。
あれ?ここは好感度が下がる的な場面では?恥を忍んでお漏らし話をしたのだが……。
「まぁ、はい。そうなりますね。ですが、オシホ様達に鍛えられたので、今はもう大丈夫ですよ?」
「コウ様の事は、皆信頼していますので、ご安心下さい」
ルティの笑顔が眩しい!
「あ、ありがとうございます。お二人もトイレに行っておいた方が良いですよ」
「そうですね。行っておきます」
ルティとマリーディアさんもトイレへ向かった。
デリカシーは無いが、お漏らしの心的ダメージは大きいので、これくらいは多目にみてもらいたい。
トイレから戻ってきたのを確認して、全員でゴーレムに乗り込む。
各自でゴーレムのチェックをするが、問題は無かったので、それぞの武器を持って、オシホ様達の元に向かう。
俺は左腕に大剣と右腕に大盾でいつも通りだが、今回は、さらに、左腰には予備の大剣を装備してある。
ルティも大剣と大盾になるが、俺とは逆に右腕に大剣、左腕に大盾の標準的なものになる。
ルティは、機敏な動きができないので、盾要員になった。
マリーディアさんは、巨大弓の試作品を装備している。
この巨大弓は、弓を自作てきるマリーディアさん監修のもとにアリストラさん達によって作られている。
職人ではないので、それほどの物は作れないが、全くの未経験者だけで作るよりは、遥かにマシな物が作れていた。
予備として、大剣も腰に装備している。
三姉妹は、これといって得意な武器は無かったので、前衛の後ろから攻撃できる、ゴーレムと同じ高さの槍を全員が装備している。
勿論、腰にはそれぞれ予備の大剣が装備されている。
俺達がゴーレムの待機所に行くと、既にオシホ様が戦闘準備を整えて待機していた。
「来たな。早速隊毎に陣地を出る。アインとドライは北門から、ワシ等は西門からじゃ。出た後は、陣形を組んで待機する。ドライは出た後に門を閉じるのを忘れるな。では、出陣!」
俺達は、中央区画と西門の中間ほどに集合したにで、アインとドライは北門へ移動し、俺達はそのまま西門に向かった。
まずは、オシホ様指揮下の戦闘用ゴーレム100体を門から出して、俺達が続き、最後にオシホ様が出てから、門を閉じるために、門専用に設置された土壁魔具を起動させて、門を封鎖する。
俺達は、アイン達と陣地の北西で合流し、森の浅いところを10分後ほどかけてゆっくり通り、こっそりと聖堂院へ近付き、森の中にゴーレム達を待機させてから集合する。
俺とルティ達は、ゴーレムを座らせてオシホ様の話を聞く。
「此処でオークが来るのを待つ。そして、聖堂院側の対応を見る。あとは、作戦通りじゃ。では、アイン、ツヴァイ、ドライは偵察に出よ」
精霊トリオは、作戦に従い偵察に出た。
アインは、魔力供給範囲の街道近くの森ギリギリまで出て、オーク達の北上を待つ。
ツヴァイは、魔力供給範囲外に出て、オーク達の動きを監視しながら北上する。
ドライは、魔力供給範囲内の森から聖堂院の監視になる。
オシホ様は、俺達の護衛としてここに残り、俺達も戦闘待機なので、ゴーレムに乗ったままた待機する。
俺達が待機し始めて、30分経とうとしていた。
「少し遅すぎませんか?」
「そうじゃな……。ん?噂をすれば影じゃな。戻ってきた様じゃ」
そう言ってオシホ様が顔を向けた方を見ると、精霊トリオの姿が見えた。
「遅かったな。何かあったか?」
「いえ、オークが隊列を整えてるために足を止めたので、遅くなりました」
オシホ様の問にツヴァイが答える。
なるほど、ということは……。
「オークは先ほど攻撃を開始、西の森からは、まだ出てきてませんでした。砦では、既に迎撃準備がされていたらしく、オークに矢の雨が降ってました」
やはり、速攻をかけたか。
西は、奇襲用に待機してるのか?
それにしても、聖堂院側が警告をまともに受けてくれたみたいで良かった。
これなら、民間人への被害は無さそうだ。
「西のオークは、時間差で攻撃するつもりしゃろう。ならば、各個撃破とはいかなくても、攻撃の好機には間違いないのじゃ。他に無ければ、直ちに攻撃に移る。何かあるか?」
俺たちは沈黙で答える。
「よし!直ちに移動開始じゃ!」
オシホ様の号令で各自準備し、一斉に移動を開始する。
俺達は、既に西側に向けて陣形を組んでいるので、そのままの陣形を維持して北へ移動した。
森を抜け、聖堂院を確認できる位置まで来ると、丁度オーク達が防壁に取り付いたところだった。
実際に10,000ものオークを見たのはこれが初めてだが、なんと言うか、凄い。
1,000や2,000で居るのは見たことがあるが、体長2m以上のオークが10,000だと、壮観とも言える。
オーク達の半数以上、六割ほどが三つに分かれて、攻撃に参加しており、残りが後方で待機していた。
砦に取り付いている辺りのオーク以外は、隊列を維持しており、高い規律があるようにも見える。
砦側は、防壁の上から弓で攻撃をしているが、そう長くはもたないだろう。
これなら想定内だ。むしろ、最初に想定した、最もベターなもので、色々対処を考えてある。
なので、直ぐにオシホ様から命令が発せられる。
「ワシが横から敵本隊を叩く!アインは敵前衛に攻撃して、足を止めるのじゃ!ドライは迂回して敵本隊後方から攻撃せよ!ツヴァイはアインを支援せよ!……突撃!」
オシホ様の号令で全員が直ぐに動く。
この命令は、様子見も兼ねた殲滅行動で、それなりに攻撃的な指示になる。
本隊を強襲して、殲滅できれば後が楽になるし、駄目でも砦から意識を逸らせる。
そして、ツヴァイへの指示、つまり俺達への指示は、アインの支援だ。
これも、想定、というか、必要な行動だ。
俺達は、ほとんどの戦力が魔力供給範囲内用のゴーレムだ。なので、魔力供給用の魔具を設置してここまで来ている。
だが、聖堂院側にバレない様に設置していたので、森にしか設置しておらず、砦近くでは行動ができない。
なので、森から砦までは二kmあり、防壁付近まで行くには最低でもあと三個の魔力供給魔具を設置する必要があった。
そこで、後方部隊である、俺達の出番だ。
俺達は、遠征用に限り、作業用ゴーレムを連れている。
作業用ゴーレムとは言え、遠征できる数少ない戦力なので、連れてこない理由は無いし、魔力供給用魔具をそれぞれが三つ、合計で18個運べるのは助かる。
この18個の魔力供給用魔具を設置して、戦闘を補助するのが、後方部隊としての俺達最大の役目になる。
オシホ様は、真っ直ぐ敵本隊へ向かい、ドライは迂回し始め、アインはオシホ様の部隊と平行して突撃している。
アインは、本隊攻撃を阻止に動くであろう前衛の妨害も役目の内なので、敵が動くのを待ってから迎撃に向かうつもりだ。
それに、砦側に寄りすぎると、魔力供給範囲外になってしまう危険もあっての行動だ。
俺達は、既にアインの後方に移動しており、魔力供給用魔具を起動しながら走っているにで、更に500mは内側に行けるようになっている。
急いでいるので、魔力供給用魔具を埋める事はしないが、効率的に置かなければならないので、敵と接触してから置く予定だ。
ちなみに、この魔力供給用魔具は、予備として34個持ってきてある。
陣地用に一つ、オシホ様、アイン、ドライの隊にも一つずつ持たせてあり、俺達が18持ってきてるので、陣地には、まだ12個の魔力供給魔具が保管されている。
オシホ様達の隊にも持たせてあるのは、持たせた戦闘用ゴーレムが、範囲内ならは、そこから更に500m戦闘が可能になるので、一種の保険だ。
俺達が突撃したことで、オークや聖堂院側が俺達に気付いて、動きに変化があった。
オーク達は、前衛の一部が本隊へ戻ろうとし、聖堂院側は攻撃の勢いが増した。
オシホ様達は、突撃しながら隊列を変えていく。
オシホ様とドライは凸陣形に、アインは縦長に隊列を変えた。
そろそろ、アインが戦闘に入る。
アインは、オシホ様と敵前衛の間に入り、こちらへ向かっていたオーク達へ面で攻撃する。
オーク達へ突っ込み、見事に足を止めさせた。
だが、数が圧倒的に違うので、横から回り込まれそうになる。
それを、俺達が片方だけをなんとか阻止する。
俺と戦闘用ゴーレムを前衛に、作業用ゴーレムの弩で援護してもらい、なんとか回り込まれるのを阻止していると、マリーディアさんが弓を放つ。
放たれた弓は、俺達が相対していたオーク達の中の、少し大きいオークリーダーと思われる個体の頭を撃ち抜き、その後方に居たオークも撃ち抜き、三体目オークに刺さり止まった。
俺はその光景を見て、思わず後ろを振り返る。
そこには、変なポーズをしたゴーレムが居た。
どうやら喜んでいたみたいだ。
俺が見ているのに気付いたマリーディアさんは、気を取り直し、再び矢を放つ。
俺は、矢の放たれた先を見ると、頭の無いオークと、胸に穴の空いたオークと、矢の刺さったオークが見えた。
矢の刺さったオークも黒い霧になったので、またもや三匹抜きだ。
しかも、頭の無い個体は、一回り大きいので、オークリーダーだと思われる。
馬鹿げた威力と命中力だ。
俺は気にしないことにして、目の前のオークを切り裂く事にする。
それからは、マリーディアさんが次々とオークリーダーと思われる個体を撃ち抜き、俺達はオーク順調に倒していった。
ルティと三姉妹は戦闘に参加せず、マリーディアさんへオークリーダーだと思われる個体を教えて、サポートに徹していた。
俺達が戦闘を開始してから少しして、オシホ様が敵本隊へ突っ込み、一気本隊深くまで切り込んでいった。
ここから本格的に戦闘が始まる。




