仮面メイド
所長達が退去して最初の十年は第1段階として、準通常仕様での管理を行った。
いつ戻ってきても大丈夫な様に設備の修理や整備などの維持管理や生産可能な物の半自動生産や備蓄等を行い、私は必要な時以外は休眠状態になっていた。
十年経っても帰還者はいない、既定通り所長達の帰還が困難と判断し、第2段階へ移行した。
第2段階は生産を止め、施設や倉庫の封印処理を行い、維持管理を不必要にし、十年毎の長期休眠だ。
十年毎に目覚め、封印処理した施設や倉庫内の備蓄を確認する。
さらに、魔方陣を起動させた。
これは所長達が帰還が困難であるため、施設を引き継ぐために新たな管理者を召喚するための物だが、管理者の適正が最高値に設定されているため、召喚される可能性は低い。
第2段階へ移行して九十年、所長達が退去して百年が経ち、新たな管理者の召喚も無かったので、最終段階へ移行する。
最終段階は所長達の帰還が完全に不可能になったとして、新たな管理者の到来を百年単位での待つ仕様への変更と、段階的に召喚条件の緩和だ。
第2段階での封印処理の実証結果を元に超長期封印処理を行う。
最終段階に移行して八百年、所長達が居なくなって九百年が経った。
設備や倉庫の封印を解き、状態を確認。問題なし。再封印する。
もうすぐ、最後の休眠へ入る。
この施設は所長達が居なくなってから千年が経って、新たな管理者の召喚が無かった場合、自爆して消滅する事になっている。
何故ならば、新たな管理者の召喚条件緩和が最低の『適正があれば、誰でも良いよ!』段階まで、下がっても誰も召喚されない場合は『人類は滅んでます』判断になり、私の解放を目的とした自爆が行える様になっている。
行える。私の判断で自爆しないようにも出来るが、そのままの最終休眠へ入ろうと思う。
願わくば、所長達が居たときみたいに楽しい時をもう一度……。
☆☆☆
「これで言葉が通じるでしょうか?」
「――ッ?!」
意味は理解できるが意味が分からない。
俺は手に持つ四角い物体と金髪メイド仮面付きを交互に何度も見る。
不信に思ったのか、メイドが再び聞いてくる。
「通じていませんか?」
「い、いや、分かる。理解できます」
なんとかメイドに返答するが、俺は手に持つ四角い不思議物体を食い入るように見つめた。
自動翻訳の道具?魔法……じゃないよね?優れた科学は魔法に見えるとかなんとか……だが、こんなもの開発されたなんて聞かない。
軍事関係で技術が2、30年先を行くと聞いたことがあるが、これは……。
このメイドの主がすごい人物なのか?超富豪とか?
聞いた方が早いか。
「あ、あの、これは……何ですか?」
「はい、それは通訳の魔法道具の『通訳魔具3号改型』です。」
『通訳魔具3号改型』?魔法道具?魔法?
……魔法?!
「魔法?!魔法があるのですか!」
「はい、存在しています。貴方は召喚用の魔方陣で、召喚されてココに居ます。」
マジか……ん?今、召喚て……あの召喚?魔方陣で?あの血管みたいな所を通ったのが?もしかして異世界?
いやいやいや、異世界じゃないかもしれない!
現実に存在したパターンかも知れないじゃないか!
聞いてみるか?
俺はメイドの重大発言に混乱しつつも質問しようとした時メイドが話しかけてきた。
「御体の方が優れないのでしょうか?大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫でふ、です。あの、し、質問があるのてすが、良いでしょうか?」
「はい。私で答えられるものであれば、お答えします。」
「良かった。では、あの、ココはどこで、何で私は召喚されたのでしょうか?」
答えてくれるか?とドキドキしてるとメイドさんはあっさり答えてくれた。
「ココはエルアストール大陸中央から北東方向にあるユークリア大山脈内にあるノイリス帝国魔方陣研究所です。貴方はココの新たな管理者として、召喚されました」
え?何だって?……え?
「申し訳ないのですが、もう一度ゆっくりお願いいたします。何大陸ですか?」
「エルアストール大陸です」
知らない大陸だなぁ。
「大陸中央から北東方向にあるユークリア大山脈内にある」
大山脈ってぐらいだから、有名なのかな?けど知らないなぁ。
「ノイリス帝国魔方陣研究所です」
ノイリス帝国?知りません。魔方陣研究所?きっと秘密研究所なんだろうな、だって、大山脈内にわざわざ作ったんだよ?秘密にしたかったんだろうなぁ。
「そして、貴方はココの管理者の適性があるので、管理者として召喚されました」
駄目だ。管理者として召喚されたということ以外全く分からない。
もしかして……本当に異世界だったり?
「あの、エルアストール大陸もユークリア大山脈もノイリス帝国もどれも知らないのですが……」
「申し訳ありません。ココが閉鎖されてから956年が経っており、これまで人が来たこともなく外の状況は一切分かりません。帝国も滅んで記録が残っていないのかもしれません。大陸や山脈の名前も変更された可能性があります」
956年?そんな前に?大陸や山脈名はその地方独特の呼び名だったかもしれないのか、統一されたときに淘汰されたか?記録に残らない国があっても不思議じゃないのかな?
いや、矛盾してるそ、人が来たことが無い?じゃあこのメイドさんは……?
「あの、君が居るじゃないか、君は何処から来たんだ?千年近くも生きてるわけじゃ無いだろ?」
「いえ、私は人間ではありません。それに私は961年こうして存在しております」
え?人間じゃなくて、千年近く存在している?もしかして……。
「もしかして、エルフ、だったりするのだろうか?」
「?いえ、エルフではありません、私はこの施設を管理者するための疑似精霊の様な物です。本体はココの最下層にあり、この体は遠隔操作できるゴーレムです」
ゴーレム?!あの岩とか鉄とかでできたあのゴーレム?
魔法、なのか……。
「そ、そうなのか、全く気付かなかった。まるで人間みたいだ……」
「私は元人間ですし、このゴーレムの体型などは元の私の体に似せて作られているので、錯覚しても仕方がありません。むしろ、間違われて、誇らしいくらいです」
元人間?まって、ココの奴等は――。
「ココの奴等は君をこの施設の管理のために道具にしたのか?!」
「落ち着いて下さい。違います。私は元々病気だっのです。状態が悪化してもう長くないとなった時に、私が志願してこの体になったのです」
「だが、君は……。そうだったとしても、君は千年近い間一人だったんだろ?」
「そうですが、私はほとんど休眠状態にあり、活動していたのは実質半年程度です。それに、所長達が私をココに残して行くのは苦渋の決断だったと思います。所長達は可能な限り帰還を約束してくれましたが、誰一人戻りませんでした。当時の戦争で何かあった可能性が高いと思われます」
「そうか、戦争か……。悪いことを思い出させてしまいました。すみません。少し頭に血が上がったみたいです」
そこで俺は少しふらついてしまった。メイドが来てから立ったままで話していたし、頭に血が上ったせいか……。
ふらついた俺をメイドが支えてくれた。触れた手の感触は硬く、本当にゴーレムなんだな、と実感した。
「まだ、病み上がりです。座って下さい」
「ありがとうございます、ベッドに座らしてください」
俺は仮面メイドさんにベッドに座らせてもらい、改めて話しをする。
「ありがとう。それで、話を戻すが、俺はココの管理者として召喚されたとの話だが――」