俺の告白
暑い。
目が覚めた俺が、まず思った事だ。
昨夜は、年越しの風習で、皆一緒に寝た。
俺の左右は次女と三女で、体温が高いのもあるのだろうが、くっつかれていたので非常に暑く、汗がびっしょりだ。
寝苦しさからか、少し早い時間に起きたみたいで、皆はまだ寝静まっている。
汗をかなりかいているが、汗臭くないだろうか……。
いや、確実に男臭いだろう。
今のうちに抜け出した方が良いか?
抜け出せないか少し動いてみるが、二人にがっちり掴まられおり、二人を起こさずに脱出は困難だ。
「ふぅー」
息を大きく吹き出す。
仕方がないので、起きるまで待とうと思ったのだが、そこでふと視線に気付く。
見れば、長女が起きていた。
「おはよう」
俺は、小声で挨拶をする。
「広坪様、おはようございます。暑くはありませんか?」
「少し暑いね。けど、まぁ、仕方がない」
「すみません。父とは年越しをしたことが無かったので、こうして年越しをしてくれたのが、とても嬉しかったのだと思います。ありがとうございました」
「いや、俺も、こうして家族として受け入れてくれてのは、とても嬉しい。ありがとう。それから、レイシアちゃんも、何かして欲しい事があったら、言ってくれると、助かります」
「あの、でしたら、ちゃんは抜きにして、レイシアかレイと呼んでいただけませんか?」
「分かった。これからは、レイシアと呼ぶよ。これからはもよろしく、レイシア」
「はい。よろしくお願いします。広坪様」
レイシアが笑顔で答えてくれたのだが、その笑顔はルティにとても似ていた。
レイシアは、普段はキリッとした真面目そうな顔が基本なので、笑顔は珍しい。
なんなか、こうしていると、本当に家族として受け入れてもらえてのだと、実感する。
家族、か……。
アリストラさんとオシホ様に相談する事ができたな。
しばらく抱きつかれた状態で過ごしていると、ルティとマリーディアさんが起き、最後には次女と三女の二人がルティに起こされ、俺は解放された。
「皆おはよう。新年は何かする風習がありますか?」
「新年のお祭りがありますが、実際は、その日一日を完全な休みとして、ただ皆でお酒を飲んだりするだけですね」
「そうなのか、なら、今日はお休みにして、お酒を飲みますか?」
「いえ、その必要はありません。私とマリーは、あまりお酒が飲めないので、夕食に少し出していただけるだけで十分です」
「えー?お休みなら、広坪様と遊べると思ったのにー」
次女のアムリスちゃんが、抗議の声を上げる。
「なら、お休みにはして、遊びましょうか」
「わーい!広坪様ありがとう!」
ルティが反応する前に、喜びの声を上げることで決定事項にした。
「仕方がないでしね。明日からはしっかりするのですよ?」
「はーい」
なし崩し的に、今日は休みになった。
その後、トランプやオセロだけでは無く、ジェンガや輪投げ、射的など、用意できそうな物を急遽作り、一日を通して遊んだ。
ルティ達はとても楽しんでくれていたみたいだったが、長女のレイシアが、射的で弓の才能を発揮した。
このことで、明日からの訓練に、レイシアは弓が追加された。
その日の夜、夕食を終えてからまったりしていると、ルティが近寄ってきた。
「あの、広坪様、終わりましたので、明日から大丈夫です」
「え?あ、そうか、ありがとう。では、明日はよろしくお願いします」
ルティが、明日からは夜の復帰を告げてきたので、早速お願いした。
それに、明日なら丁度良い。
家族として受け入れてくれたのだ、少し俺の事を話そう。
拒否されるかもしれないが、できてからでは遅いかもしれない。本格的になる前に話そう。
ルティ達が部屋に戻ってから、アリストラさんとオシホ様達を会議室に呼び出した。
「それで、話とはなんじゃ?」
「はい、相談したい事がおり、お呼びしました」
「相談か……。体の事か?」
オシホ様は察していたみたいだ。
「……はい。俺の事を家族として受け入れてくれて、ルティは子も望んでくれています。これから本格的になる前に、ある程度告げておきたいのです」
「それは構わぬが、何を相談したい?」
「はい、どの程度話すべきか、です。俺の生まれは話したいと思いますが、寿命については迷っています。話したところでどうしようもない事なので、話さない方が良いのではないか……と」
「それは……。すまぬ」
「すみません」
オシホ様とアリストラさんが謝ってくる。
「いえ!オシホ様とアリストラさんには感謝しているのです!こうして在ることができるのは、全てオシホ様とアリストラさんのお陰だと思っています」
これは以前から何度も言っている事だ。
俺の命は、あと9年ほどしかもたない。
事故に遭い、病院でなんとか生きていた。そして、俺は召喚され、オシホ様と融合した。
病院での保護が無くなった事で、融合の俺の命は消えかけていた。
それを救ってくれたのがオシホ様だ。
オシホ様が俺の体を活性化させ、助けてくれた。
だが、その代償として、俺の寿命が大きく縮み、オシホ様の判断では、10年ほどだと告げられた。
なんでも、加減が分からず、活性化し過ぎた事が原因だと言われ、何度も謝られている。
だが、オシホ様が居なければ、俺は確実に召喚された日には死んでいただろう。
その事を思えば、今という時間を健全な体で生きられている事は、奇跡の様なものだ。
感謝こそすれ、非難することは何もない。
あとは、俺がどう生きるか、だけの話なのだ。
「ただ、俺の寿命の事を知らせるか、知らせないかで迷っているのです。個人的には話したいです。短くはありませんが、子ができても、成人するまで見届けられるほど生きられる訳ではありません。なので、残りの時間を共通の認識で大切に過ごしたいのです。ですが、知れば悲しむのは確実です。知らずに過ごせば、その期間は普通に過ごせます。それに、です。子が成人するまで生きれないと知れば、子作りを拒否されるかもしれない、という思いもあります。できれば欲しいですが、ルティに拒否する権利もあると思うので、話さなければならないとも思っています。どうしたら良いでしょうか?」
俺は、一気に想いを喋った。
俺としては告げたい。告げて、同じ時を過ごしたい。
だが、幸せ、という点では、知らなければ、ルティ達はその分楽しく過ごせるハズだ。
男と女では、感覚が違うと言うし、アリストラさんに相談はしたかった。
アリストラさんに相談してオシホ様に相談しない、なんて事は無い。なので、全員を呼んで相談する事にした。
「私としては、話さない方が良いと思います。残念ながら、広坪様の寿命は変わりません。ですが、寿命まで生きられる人間はそう多くありません。病気や事故もありますが、モンスターに襲われて、突然死ぬ事もあります。なので、寿命の事を話す必要性は低いと考えます。そして、辛い想いは短い方が良いと思います。更に、広坪様の事を全てお話ししても、ルティリアさんは、広坪様を受け入れてくれるでしょう。なので、広坪様の扱いが変わらず、辛い想いが短くなる様に、話さない事が良いと考えます」
アリストラさんが、自分の考えを話してくれた。
俺も、ルティが俺の事を拒否するとは思っていない。可能性としてはあるかも知れないが、無いだろう。
問題なのは、ルティの辛さだ。
どちらが小さいのか、気持ちが楽なのかが知りたい。
「ワシも同じように考えるが、話すべきじゃと思う。ルティリア殿が広坪を拒否することは考えにくい。なので、辛さ、とう事になる。後で知れば、その辛さは大きな物になるだろう。だが、今話せば、衝撃自体は小さくなる。まだ9年以上ある、とな。その時までに覚悟も出来よう。それに、じゃ。知れば、時間の過ごし方が変わり、濃く生きられるかも知れぬ。それは大きいハズじゃ。故に、寿命の事を話し、濃い時間を生きて、覚悟をする事ができる様にすべきじゃ」
そう。知ったときの衝撃自体は、今の方が小さいだろう。
それに、覚悟の時間もできるし、後悔の無い時間を過ごせる。
だが、ルティにとっては、辛い9年になるかもしれない。
この後、精霊トリオも意見を出してくれ、皆で話し合いを続けたが、俺は結論を出すことができなかった。
夜も遅くなったので、皆にお礼を言って解散してもらった。
俺は、寝室のベットで横になり、俺はどうすべきなのが考える。
話すべきか、話さざるべきか……。
そもそもだ。俺がルティに告白を、求愛をしなければ良かったのではないか?
そうだったら、ルティは家族の事だけを考えて生きていけば良いのだから。
俺は、そのまま死に行くだけで、ルティは不幸にはならなかったのかも知れない。
仮定の話だ。もう後戻りは出来ない。
俺は、ルティの温かさを知ってしまった。もう手放せない。
明日の夜、ルティの顔を見て決めよう。
そう思いながら、眠りに就いた。
次の日、俺は普通に起き、午前はルティ達と魔法の訓練をし、午後はゴーレムを使った戦闘訓練をした。
夕食を終えて、ルティと言葉を交わし、自室へ戻って風呂を済ませた。
もうしばらくしたら、ルティが来るだろう。
夜に顔を見て決めるつもりだったが、やはり今日一日悩んだ。だが、結論は出ていない。
俺は、どこまで話せるだろうか……。どこまで話すべきかだろうか……。
ベットに横になり、悩むが、思考は堂々巡りを繰り返すだけで、結論は出ない。
そこでドアかノックされる。
ルティが来た。
俺は意を決して、ドアを開ける。
そこには薄手の服を着たルティが居た。
「よく来てくれました。今日は少し大切な話があるなですが、大丈夫ですか?」
「え?あ、はい。大丈夫です」
ルティを寝室へ招き入れ、椅子を勧めて座ってもらい、俺はベットに腰かける。
「ますば、年越しで俺の事を家族として受け入れてくれたこと、嬉しかったです。ありがとう」
「いえ、コウ様は、私達にとって大切な方ですから当然です」
「ありがとう。それで、大切な話しなのだが……。ふぅ。俺の事だ。家族として受け入れてくれて、俺の子を望んでくれたルティに話しておきたいのです」
俺の言葉を聞いて、ルティが真剣な顔になる。
「それは、よろしいのてすか?話したくないのなら、詮索はしません」
「いや、俺としては、知っておいてもらいたい、と思ってはいます。ルティが俺の子を望んでいるなら、聞かせるべきとも思うのですが、聞かせるべきかは、今も悩んているのです」
「だから、今日は少し暗かったのですね。私なら大丈夫です。とんな事を言われてもコウ様を受け入れます」
ルティは、俺に優しい笑顔で言ってくれる。
だが……。
「ありがとう。まずは、話せる事から話します。俺は違う世界から召喚された30歳の男だ」
端的に言ってみた。
「え?30歳?違う世界、ですか?その、30歳には見えないのですが?」
「正確には31歳になる。若く見えるのは、ちょっとした事情でこうなっています。肉体的には20前後だと思います」
「私より年上だったのですね。その、驚きはしましたが、特別思うことはありません。強いて上げるなら、コウ様より年下で嬉しいってことぐらいです。そらから、違う世界とは、勇者様と同じ世界という事ですか?」
「勇者?もしかして、男二人、女二人の四人組だったりしますか?以前聞いたときは知らないと言っていたと思うのですが……」
最初に保護した時に話を訊いた時に、それとなく先に召喚された者達の事を質問した事があった。
その時は、聞いたことが無いと言っていた。
「いえ、聖堂院で聞いたのです。なんでも、西の遠い地でその様な噂があると、コウ様が気にしておられたので、詳しく訊いてみたのですが、四人組の男女でとても強い、という事以外は分かりませんでした。なので、今まで忘れていました。すみません」
「いや、謝らなくて良いです。その話が聞けて良かったです。わざわざ情報を集めてくれた事に感謝します。ですが、今は俺の出身について話します。俺の知る四人組なら、俺は同じ世界出身になり、違う世界、異世界の人間になります。なので、子ができるかは不明なのです」
俺は、なんとか言葉を吐き出した。
「絶対に出来ないとう訳では無いのですよね?分からないなら、できるかもしれません。なら、試してみるべきですし、私は、コウ様の腕に抱き締められている時間はとても幸せなので、できなくても、継続していきたいと思ってます。駄目てすか?」
俺はベットから立ち上がり、ルティを抱き締める。
「駄目じゃありません。とても嬉しいてす。ルティに言いたい言葉があります。ですが、その前に聞いて欲しい事がまだあります。聞いて下さい」
「はい。しっかりと聞きます」
俺は決意した。ルティに全てを話す。
自己満足にしかならないかも知れないが、聞いて欲しい。知っておいて欲しい。
俺は、ルティから離れ、ベットに再び座る。
「俺は、ここに召喚された時、死にかけていたのです。そのままなら、数時間以内に確実に死んでいたでしょう。ですが、こうして生きています。それは、オシホ様と融合したからなのです」
「オシホ様と融合、ですか?」
「そうです。オシホ様は、土の大精霊と呼ばれるお方で、俺が召喚された時に、偶然融合してしまったのです」
ルティは目を見開く。
「だ、大精霊とは、お伽噺に出てきた、大地を砂漠にしたという、あの大精霊ですか?」
「お伽噺のは、水の大精霊で、オシホ様は土の大精霊です。それに、水の大精霊が砂漠にしたのでは無く、水の大精霊が大地を潤していたのを止めた結果、砂漠化しただけだそうです」
「あの、本当、なんですか?その、聖堂院の方々が失礼な事をしたと聞いたのですが、大丈夫なんでしょうか?」
「それは、大丈夫てす。オシホ様は慈悲深い方なので、心配ありません。それに、俺が生きていられるのも、オシホ様の慈悲なのてす」
「安心しましたが、慈悲で生きているとは、どういった意味なのですか?」
「オシホ様は、俺の魂と融合して、この体の中に居ます。てすが、この体に縛り付けられている訳では無く、何時でも自由に俺の体から出ていけるのてす。ですが、そうなったら、俺の魂はズタズタになり、死んでしまうそうです。なので、俺が生きている間は、俺と共に居てくれるそうなのです。だから、俺はオシホ様の慈悲で生かされているのです」
「そうだったのめすか、今度オシホ様にお礼を言わなければなりませんね」
「ありがとう。でも、それが本題じゃ無いのです。本題は俺の体についてです」
俺の雰囲気が少し重くなった事で、ルティもより真剣な表情になる。
「俺が召喚された時、俺の体はボロボロで、死にかけていました。それをオシホ様が治してくれて、肉体は若返り、20歳前後の体になりました」
ここで、一度言葉を切り、深呼吸する。
いつの間にか、ルティの顔を見れずに、足元を見ていた。
「とても健康な体になったのですが、その、問題がありました。肉体の無理な再生、過剰活性化した事で若返った肉体、これらによって、俺の寿命は大きく縮み、オシホ様の判断では、あと10年と言われ、1年が過ぎました。もし、子ができても、成人まで見届ける事はできません。それでも俺の子を望んでくれま――」
俺は、最後まで言葉を言えなかった。
ルティが俺に抱きつき、キスをしてきたからだ。
ルティは、俺をベットに押し倒し、顔を上げて、俺を見つめる。
「私はコウ様の事が好きです!子を孕みます!」
「だが、俺は、それほど生きられないと――」
俺の言葉は、再び遮られる。
「それでも、コウ様の子が欲しいのてす!コウ様、先程の言いたい言葉、聞かせて下さい」
「それは……。分かった。ルティ、貴女の事を愛しています。俺と結婚して欲しい」
「はい!喜んで!」
案ずるより産むが易し。
ルティは俺が思っていた以上に強かった。
……本当に強かった。




