戦略的撤退
完全自律型ゴーレム
世間一般に、完全自律型ゴーレムと言えば、声で指示するだけで動き、通常のゴーレムに比べて力も防御力も段違いに強くなる。
ただ、完全自律型ゴーレムは、通常のゴーレムを作成した時に、刻印型、魔法型を問わず、極めて稀な確率で偶然にしか作成出来ないと言われている。そして、完全自律型ゴーレムを研究した学者によると一定以上のコアを持つゴーレムしか完全自律型ゴーレムに成らないことが分かったが、それ以上の事は分からなかった。
つまり、完全自律型ゴーレムは希少で、強力な戦力だが、不思議な物という認識になる。
そんな完全自律型ゴーレムが、4体も目の前に居るので、砦側の人達は目を見開き固まっている。
俺は、彼女達が絶句している様子を見て、改めて完全自律型ゴーレムと呼ばれるゴーレムがレアなんだと理解した。
ちなみにだが、オシホ様達のゴーレムのコアには、最大限に大きくした魔核を使い、可能な限り高性能な魔玉をコアとして使っている。
ただ、大精霊てあるオシホ様は、そのコアでも休眠状態になりかねないのだが、本体を俺の中で休眠させ、一部を分身としてゴーレムの中に入れている。
それにしても、仮面を着けているとはいえ、今までゴーレムと気付かないとは……。
完全自律型ゴーレムを知っていたので、あえてスルーされていると思っていた。
それにしても、随分と固まっている。声をかけた方が良いだろうか?
あ、もしかして、完全自律型ゴーレムは強力だと言われてるから、脅されてるとでも思ったのか?
「あの、大丈夫ですか?我々に敵対する意思はありませんよ?」
「え、あ、あぁ、それは分かっている。その、本当にゴーレムなのか?」
まだ、信じてないのか。
「オシホ様、アイン達を触ってもらえれば分かると思うのですが、良いでしょうか?」
「そうじゃな。それが良かろう。それにしても、ゴーレムと認識していなかったとは思わなかったのじゃ。アイン、ツヴァイ、ドライ」
「「「はい」」」
オシホ様の言葉を受けて、精霊トリオが俺達の側から騎士団長さん達の側へ移動して、両腕を左右に広げ、ボディー検査を受ける様な格好になる。
騎士団長さん達は、恐る恐るといった感じで腕や足、お腹や背中等を触っていく。
「本当に、ゴーレム、なのですね。これは、何故喋っているのですか?」
「あー、それは秘密です。お教えする訳にはいきません。ただ、彼女達は、自分自身の意思があります。物扱いはしないでいただきたい」
最後の方は声が低くなってしまった。オシホ様達が物扱いをされた事で、俺の中に怒りが湧いてきた。
「も、申し訳ない。そんなつもりは無かったのだ。ただ、意思を持っているとなると、人を使ったり、なんて事は……」
騎士団長さんの言葉で、砦側の面々の表情が硬くなる。
……人を?ああ、なるほど、人をゴーレムに、なんて事をしたのではって事か。
「人をゴーレムの材料にした事はありませんし、これからもするこ事ありません。」
「そうは言っても、見れば、全員が女性型のゴーレムで、声も女性の物だ。私にはここに居る者達を守る責任がある」
これは……。完全に疑っているな。俺にこの誤解を解くための交渉なりなんなりの能力は無い。
下手をしたら悪化しかねない。
それに、ルティリアさん達の安全が確保されていれば、無理に交流を持ち続ける必要も無い……か。
俺がこれからどうしようか考えようとしていたら、オシホ様が静かに立ち上がり、圧力を発し始め、それに呼応する様に精霊トリオも圧力を発し始めた。
「待って!オシホ様待って下さい!アイン、ツヴァイ、ドライも待って下さい」
俺は、圧力を発し始めたオシホ様と精霊トリオを慌てて止める。
何故か激しく怒っているみたいだ。この怒り方は尋常では無い。これを宥めるのは俺には無理だ。
この場を早急にどうなかしないと、決定的な対立になりかねない。
「俺としては、皆さんと敵対する気はありません。信用ならないと言うなら、すぐに引き上げます。支援として渡した物資はそのまま使って下さい。対価はルティリアさん達の保護でお願いします」
この場を急いで収めようとしたので、早口気味になってしまったが、こちらの意思は伝えた。
砦側の人達に特に反応は無かったが、騎士団長さんだけは頷いた。
だが、オシホ様達はまだ気が収まらない様子だ。今回は、これ以上の交流は無理だな。
オークの情報、支援物資の引き渡し、最低限の目標は達している。オシホ様達が爆発する前に引き上げよう。
……ルティリアさんには会いたかった。
「申し訳ないが、今回はこれで引き上げさせてもらう。オークについて何かあれば、改めて知らせに来ます。それでは、失礼します」
騎士団長さん達に特に反応は無い。問題無さそうなので、扉へ向かうが、オシホ様達が動こうとしない。俺はオシホ様の手を取り、扉へ向かう。
「アイン、ツヴァイ、ドライも帰りますよ」
俺の言葉で精霊トリオも扉へ向かい、会議室の外へ出る。
会議室から無事に出れたので、そのまま建物から出ようとしたら、建物の入り口からルティリアさん達が入ってきた。
「ル、ルティリアさん、お久し振りです」
「広坪様!お久し振りです!お元気でしたか?」
ルティリアさんの笑顔が眩しい。
先程までの焦りが消しとんでしまうほどだ。
「はい、俺の方は元気でした。ルティリアさん達はどうでしたか?」
「広坪様のお陰で何事も無く過ごせています」
「それは良かったです」
「あの、これから、昼食をご一緒にとの話でしたが、昼食の後にお時間をいただけますか?」
ルティリアさんが、真剣か顔でお願いしてきた。
本来なら、この後に返事を貰えるハズだった。ルティリアさんもそのつもりで、お願いしてきたのだろう。
だが、今はあまり時間が無い。
「大変申し訳ないのですが、状況が変わったので、これから帰らなければならないのです。ルティリアさんに会えるのを楽しみにしていただけに、とても残念です」
俺の返事で、ルティリアさんの顔が曇る。だが、すぐに笑顔に戻る。
「それは残念です。次にお会いする時が楽しみです」
ルティリアさんが笑顔でそう言ってくれてとても嬉しく思う。だが……。
「俺も楽しみです。ですが、その、少々問題がありまして……。騎士団長さん達との関係が悪化しまして、訪問が難しくなるかも知れません。それに、ルティリアさん達にご迷惑をおかけすることになってしまうかも知れないのです」
俺の言葉と、固い表情を見て、ルティリアさん達が不安気になる。
「それは……」
「俺の方に問題がありまして、ルティリアさん達が同類か仲間と思われた場合に何らかの影響があるかもしれません。もし、ご迷惑をおかけした場合は、申し訳なく思います」
「広坪様には感謝しかありません。もし、何かあっても、決してお恨みしません。ですから、もう一度だけでは絶対に会いに来てください」
何かを決意した顔でお願いされた。
これに答えないわけにはいかない。それに、告白の返事がまだなのだから。
「分かりました。必ず、もう一度会いに来ます」
「はい。お待ちしております」
ルティリアさんのとびっきりの笑顔に、抱きしめたい衝動に駆られるが、今は時間が無い。
「それでは、もう行きます。お元気で」
「広坪様もお元気で」
オシホ様達を連れ、ルティリアさん達と別れて、ソリへ向かう。
ソリからは既に荷物が降ろされており、移動は可能な状態になっていた。
「すみません、これから帰還するのて、開門お願いします!」
荷物を降ろし終えたばかりそうな、砦の人達に声をかけて、門を開けて貰うようにお願いする。
なんの疑問も持たずに、開門してくれている。
俺は、ゴーレムに乗り込む前にオシホ様達へ振り返り、声をかける。
「これから帰還します。良いですね?」
戦闘用ゴーレムがそれぞれに2体、作業用ゴーレに至っては全てオシホ様の指揮下だ。
オシホ様達が指示しなければ、1体もゴーレムが動かない。
ソリは俺だけでも持って帰る事が出来るが、爆発しそうなオシホ様達を、この場に残していく選択肢は無い。
なんとか説得して、帰還しなければならい。
「聞いてますか?今すぐ帰還します」
俺は、一方的に言って、ゴーレムに乗り込む。
ソリは三台を重ねて、防水布とまとめて縛り、俺のゴーレムのみで牽く。
荷物の無くなったソリ三台分の重さなら、なんの問題も無く牽く事がてきる。
ゴーレムの右手に、盾と一緒にソリを牽く紐を持ち、開門してもらった門から外に出る。
幸いに、オシホ様達は指揮下のゴーレム達を連れて俺の後について来てくれている。
道は通ってきた跡がまだ残っているので、見失う事は無いので、帰路に着く。
南下し始めて一時間ほどで、雪のせいで、道が分かり難くなってきた。
仕方がない。一度止まって、オシホ様に聞くしかない。落ち着いて居てくれると助かるのだが……。
「オシホ様、道が分かりません。先導してくださいませんか?アイン、ツヴァイ、ドライの誰かでも良いのですが……」
「……一度休憩するのじゃ。お主の昼食の事もある。簡易シェルターを頼むのじゃ」
オシホ様は、落ち着いたみたいだが、意気消沈といった感じで、いつもの様な元気は無く、淡々と指示してきた。
俺も腹は減っているので、簡易シェルターを設置する事にした。
魔具を置ける範囲に『アースウォール』を低めに発動して、上の雪を払ってから『アースウォール』を解除し、雪の無くなった地面に魔具を起動させてから設置する。
設置した魔具は、雪を押し退けて簡易シェルターを形成する。
俺は、ゴーレムから降りて、簡易シェルターの中に入り、寝台用の台に座り、オシホ様達も簡易シェルターの中に入ってきて、俺の前に整列する。
「すまぬ!怒りで我を忘れてしまっていたのじゃ!広坪が止めて、連れ出してくれなければら何をしていたか分からぬ。折角ルティリア殿達に会える機会であったのに、我らのせいでふいにしてしまった。申し訳無いのじゃ」
「「「申し訳ありません!」」」
オシホ様と精霊トリオが頭を深々と下げる。
「頭を上げてください。その、何故怒ったのか聞いても良いですか?」
「うむ。広坪は、あの者等にあれほどの支援をし、オークからも助けもしてやっていた。なのに、あれほど疑い、警戒していた。それが、堪らなく不愉快じゃったのじゃ。それも、我らのせいでだ。ただ、ワシもあれほど怒りを覚えたのは不思議でな。いつもならあれぐらいは冷静に対処できたハズなのじゃ。もしかすると、我らが物扱いはされたことに、広坪が怒ってくれた事が嬉しく思っていた所であの対応じゃったら、あれほど怒ってしまったのかもしれぬ」
なるほと、上げて落とされたから、その落差分が強い怒りになったのか。
それに、俺のために怒ってくれていたのか。
「俺のために怒ってくれたのですね。ありがとうございます。ただ、一つ訂正したいのですが、あの人達を支援していたのは、俺の自己満足のためです。それに、あれだけの支援をほぼ、無償でしていました。何か裏があるのではないかと、不振がられても不思議ではありません。俺が迂闊でした。そして、オシホ様達が完全自律型ゴーレムだと発覚した。俺がバラした様なものですが……、ただ、タイミングが悪かたったのだと思います。それに、その後の対応は、今考えると、非常に不味かったです。あれでは、企みがバレて逃げたと思われても、不思議ではありまさん。つまり、全て俺の責任、という事です」
「広坪!それは流石に言い過ぎじゃ!あれは我らが怒りで冷静さを失ったのが悪かったのじゃ!あの時、我らが冷静でさえあれば、広坪が逃げ出す様な事をせずに済んだのじゃ!じゃから、自分の責任などと言うで無い!」
「俺がもっとまともな人間だっらなんとかできたのではない。そう思ってしまうのです。これが自己過信だとしても、これは性分みたいなものなのです。すみません」
「じゃから、謝るでない。……これは、アリスも入れて話し合った方が良さそうじゃな」
「そう、ですね」
「まずは、昼食を食うておくのじゃ。ワシらはソリを縛り直す。あんなに雑では途中で解けてしまうからの」
「ははは、すみません」
オシホ様は簡易シェルターの外に出て行き、精霊トリオも外に出る。
俺は、マジックバックから昼食を取り出し、手早く食べて、研究所へ帰還する。




