帰還と報告
ルティリアさん達の護送、物資の引き渡し、アリストラ聖堂院の見学、全てが無事に完了したので、後は帰るだけだ。
アリストラ聖堂院の方々にはかなり警戒されていたみたいで、対応してくれた50人以外の人達を見ることはできなかった。
襲撃してきたゴブリンを殲滅する前に、砦の外に100人は出ていたし、その時でも防壁上に4、50人は居た。それを考えると、かなり少ない人数での対応だったと思わなくもない。まぁ、敵対的な関係にはならなかったと思うので、その点は良かった。
アリストラ聖堂院の砦を出た俺達は、俺を中心にした陣形で帰路に着いた。
砦から見える範囲では、来たときと同じ速度で移動したが、範囲外になって少ししたら、一番足の遅い、作業用ゴーレムの全速力に合わせて移動した。
ルティリアさんや荷物に気を使う必要がなくなったので、倍以上の速度になったと思う。
だが、俺達が街道に出た辺りに着く頃には、日は完全に沈み、真っ暗になってしまった。雪は今も降り続いているので、星は無論、月も見えない。
流石に速度を落とすかと思ったが、オシホ様と精霊トリオは、土属性だけあって、通った道が分かるそうで、速度を落とすことなく、移動できた。
俺のゴーレムには、照明用の魔具が装備されているが、オシホ様達の背中を追うのがやっとだ。
もし、夜間に活動するなら、暗視装置かもっと強力で広範囲を照らせる魔具が必要だろう。
結局、帰りは行きの三分の一の時間で移動する事が出来、いつもの夕食を食べる時間より少し遅い時間に研究所へ到着した。
俺達は、アリストラさんに出迎えられ、いつもより遅い夕食と風呂を俺が済ませた後に、皆でアリストラさんに報告をすることとなり、ゴブリン殲滅までの報告を済ませた。
勿論、聖堂院の人達の戦いぶりも報告した。
「……そうですか。聖堂院の方々精鋭みたいですね。それにしても、ゴブリンは二万近く居たことになるのですね。そうなると、数かなりが少ないですね」
アリストラさんの言葉に疑問を持った俺は、質問をした。
「少ない、ですか?二万はそれなりの数だと思うのですが?」
「確かに、二万という数は多いと言えます。ですが、今回はゴブリンキングの群れだったので、少ないと言えるのです。普通なら十万以上いてもおかしくないのです」
「報告だけで、何故ゴブリンキングだと断言がてきるのてすか?」
「それは、広坪様がゴブリンキングを蹴り飛ばした話を聞いたからですね。二万ならゴブリンジェネラルもあり得ますが、蹴飛ばされた個体に、全てを無視して群がったなら、確実にキング種です。キング以外では、その様な行動はみられません」
なるほど、キング種がいた場合のみの、行動なのか、それなら納得できる。
さらに、アリストラさんは説明を続ける。
「ですから、ゴブリンの群れは、数を減らし、北へ向かっていた。という事になります。これは、何かから逃げていた可能性が高いと思われます。ゴブリンキングが、ブラックベアーを相手にした方が良いと思うような何かが、です」
「ゴブリンの群れが逃げる何かが、南に居る。ということですか……。それも、ブラックベアーより厄介なヤツが」
「そうなります。ただ、単体として、あのブラックベアーより強いのはそうそう出てこないとは思います。あれは、少し異常でした。それに、恐らくですが、南に居るのは、オークの類いではないかと思っています」
「何故、オークだと?」
「まず、ゴブリンにキングが生まれると言うことは、それだけゴブリンが発生した事を意味します。これだけ発生するには、隣接する地域に、亜人を含む人種がそれなりの人数が居る事を意味します。となると、他に発生するのは、オークやオーガなどの人形の可能性が高いです。ですが、オーガはゴブリン種を配下に置くことが多いので、ゴブリンが排除又は吸収の対象となったなら、オークの可能性が高いと言えます」
「なるほど、それなら確かにオークの可能性が高いてすね。最悪はオークキングが居ることも考えた方がいいですかね?」
「そうですが、付け加えるとしたら、オークキングが地域支配をしている場合です。もし、オークキングが支配していた場合、その地域で発生する魔物のほとんどがオークになります。なので、オークの数が急激に増え、規模や勢力が一段階上がります。オークジェネラルが数千のオークを率いて、各方面に侵攻も考えられます」
数的には驚異だ。後はオークの強さ次第になるのだが、実際に対峙した事がないので、実感が湧かない。
今まで戦った事があるのは、ゴブリンとブラックベアーだけだ。
と言うか、実際に見たことがあるのは、その二種と遠目からのドラゴンのみだ、山脈の北側には他にもモンスターが出るみたいだが、発見すする前にドラゴンが観測されたので、北側の入り口は封鎖されている。
なので、俺の基準が、ゴブリン、ブラックベアー、ドラゴンの三種類しかないので、どう判断して良いものか悩む。
まぁ、聞いてみるしかない。
「オークって豚みたいなヤツですよね?オークの強さはどのくらいになるのですか?ゴブリンとブラックベアーしか知らないので、実感が湧きません」
「そう言えばそうでしたね。確かに、オークは人形の豚です。基本的に大きくなったゴブリンと思っていただいて大丈夫です。体毛は無く、皮膚は緑色で、体高も160~180cmほどあり、賢さはゴブリンと大差はありません」
イメージするオークと大差はないみたいだ。
「そして、戦闘力ですが、一般的な兵士と同じ程度ですが、皮膚が厚く、力も強いため、防御力や攻撃力はゴブリンと比較になりません。単独でもそれなりに驚異になります。キングが発生した場合、最低で一万程度の群れになり、非常に大きな驚異になります。さらに、オークキングが地域支配していた場合になると、十万以上の群れになり、討伐は困難になります。さらに、オークジェネラルが数千を率いて、近隣に襲撃をするようになり、危険度が跳ね上がります」
十万の兵士と考えると、とんでもない戦力だ。
アリストラ聖堂院では、千でも厳しいだろう。
ゴブリンが南から北へ来たのなら、オークが来てもおかしくは無い。
ルティリアさんが、危ないかも知れない。
俺が、黙って考えていると、アリストラさんが聞いてきた。
「調査は行いますか?」
調査?そうか、偵察すれば良いのか、偵察は基本だな。それなら事前に危険を察知できるし、驚異の大きさも分かる。
それに、これは全部憶測でしかない。実際の驚異を正確に知ることは重要だ。
「そうですね。調査をしましょう。どの程度の驚異が存在しているのか知ることが大切です。ある程度は魔力供給範囲外でも活動できる様になりましたし、なんとかなるでしょう。それで、誰に偵察へ出てもらいますか?」
俺は、オシホ様に顔を向けて質問する。
「そうじゃのぉ、順当にドライといったところじゃが、もう一人ほしいの……。まぁ、アインじゃな。二人に偵察を任せるかの」
「「承知しました」」
アインとドライの承諾も得られた。まぁ、大精霊であるオシホ様の命令を精霊である二人が拒否できないんだけとね。
「では、ゴブリンキングが逃げ出した驚異については、偵察の結果次第ということで、本題に戻りましょう。報告の続きをお願いします」
そうだ。報告の途中だった。オークの話が衝撃的で、すっかりそっちの話になってしまった。オークの話は全て憶測でしかない。もしかしたら、全く別の原因があるのはもしれないのだ。
本題は、報告の続き。戦闘終了から、相手との交渉と砦内の見学にアリストラ聖堂院の様子、そして、砦に居た人達の事を報告した。
もちろん、総人数の話や、戦闘時の人数と対応してくれた人の人数の話もした。
「警戒されたのは当然ですね。こんな都合の良い話はありません。ですが、敵対的な関係にはならなかったのは良かったです。他に気になる点はありませんでしたか?」
アリストラさんの質問に、俺が答える。
「そう言えば、魔具の事を魔法道具と言っていましたし、魔具の数に驚いていたみたいです。もしかしたら、魔具の入手に何らかの制限がかかっているのかも知れません」
「あり得ますね。昔も、一部地域で魔具の製作や販売に制限がかけられた事があったので、似たような事が起こっているのかもしれません」
魔具は重要な戦略物資になるはずだ。だから、大昔の帝国も、こんなところに秘密研究所を作って技術発展させようよしたのだろう。統制されていても不思議ではない。
それに、魔具の魔方陣は識別できない様に隠蔽されている。技術流出を防ぐために、昔からされていたそうだ。俺が製作した魔具も外に持ち出す前に、アリストラさんが隠蔽加工をしてくれていた。
「そうだったのですか、ルティリアさん達に聞けば良かったですね。ルティリアさん達は施設では無く、魔具に驚いていたのかもしれません」
「確かに、そうですね。貴重な魔具は目に触れない様にしていたので、数については、考えていませんでした。私が迂闊でした。すみません」
「いえ、俺も気付かなかったので、仕方がありませんよ。それに、ルティリアさん達には、雪上装備のテストも兼ねて、冬の間にもう一度会いに行くと言ってあるので、その時にでも聞けば良いてしょう」
「そうですね。それが良いかもしれません。その際は、何か持って行かれますか?」
「薪と炭、服に甘味、香料入り液体石鹸などに加えて、暖房用や湯沸かしなんかの、加熱系の魔具を持っていってあげたい。と、思っていたのてすか、不味いですかね?」
「簡単な物なら大丈夫でしょう。ですが、暖房用の魔具を持っていくのに、薪や炭を持っていくのですか?」
「魔具は魔石が無いと使えないし、魔具そのものが適さないかもしれないし、魔具ではカバーできない用途に使うかもしれないから、持っていこうと思ったのですが、駄目ですかね?」
「いえ、問題はありませんが、薪や炭をほとんどが使わないので、あまり備蓄がありません。ですが、全て持っていっても問題ないほどなので、できるだけ持っていきましょう。ただ、薪はそれなりに嵩張るので、輸送台数を増やさなければならないと思います」
「持っていけるなら良かったです。輸送台数は考えていませんでした。無理そうなら諦めます。それと、雪で馬車は使えないと思うのてすが、何か手段がありますか?」
「大型の荷物運搬用のソリがありますから、問題ありません」
「それなら大丈夫そうですね」
「では、報告は以上ですか?」
俺からの報告はもう無いが、オシホ様が反応した。
「いや、ワシから一つある」
あれ?何かまだ報告していないことがあったか?と、思い、オシホ様に皆と注目する。
「広坪がルティリアに求婚しておった」
場が凍った気がした。俺は暖かい室内に居るはずなのに、寒気がする。
「オシホ様、それは、どういう事てすか?」
アリストラさんが、オシホ様に問う。
その声は、とても真剣なものだった。
「我々が砦内の会議室に通された直後じゃった。我々だけになったとたんに広坪がルティリアに求婚をしたのじゃよ。普段からは考えられぬほど、積極的じゃったな。ルティリアも満更でははい様子じゃった」
オシホ様の言葉をうけて、アリストラさんと精霊トリオの皆が、ゆっくりと俺の方に顔を向けてくる。
顔は仮面なので、表情は分からないが、アリストラさんとツヴァイからの圧力がいつもに増してすごい。さらに、アインやドライからも圧力が加わり、俺は冷や汗が全身から吹き出し、膝が爆笑している。
その後、深夜になるまで、経緯や理由などを事細かに説明させられた。




