護送方針
ルティリアさん達を研究所に招く事になった。
非常に間抜けな欠陥のせいだ。シェルターは簡易的な物だったが、三日間引きこもれる仕様になってはいたが、トイレが無かった。風呂はまだしも、トイレが無いとなると、閉じ込められた時に内部は悲惨な事になるだろう。
ルティリアさん達と話し合いの結果、ルティリアさん達を聖堂院、アリストラ聖堂院と呼ばれる場所まで送る事になった。
出発は明日の朝か昼前、それまでに馬車の修理とゴーレムの改良が必要だ。
現在はまだお昼前だ。
今日はゴーレムの野外テストだけのつもりだったが、熊の魔獣と戦闘し、倒せたものの、新型搭乗型ゴーレムは大破した。腕がもげて、股関節に不具合だけだし、中破と言った方が良いだろうか?まぁ、どちらにしても使い物にならない。
そして、俺のゴーレムと熊はロープで縛られ、それぞれ6体の戦闘用ゴーレムによって運ばれて行った。
魔石も作業用ゴーレムにより集められ、普通の袋に回収された。ただ、魔石の数が多く、大きな目な袋だったが、三つの袋が一杯になり、そのまま研究所に運ばれた。
簡易シェルターの魔具も解除して回収してある。
残るは、ルティリアさん達の馬車と荷物だけだ。
馬車は修理のために一度解体され、作業用ゴーレムによって慎重に研究所へ運ばれる。馬は居ないが、使い道はある。
荷物は作業用ゴーレムが運び、俺とルティリアさん達は手ぶらでの移動となった。
なお、ルティリアさん達の荷物は俺達と一緒に移動する。これは、荷物の紛失などで、問題にならないように、ルティリアさん達の目の届く範囲に置いておくためだ。
信用はあるかもしれないが、信頼は無いのだ、行動は慎重に行う。
森に入る時に護衛のために待機していたツヴァイ様に軽く説教された。まだお怒りだった。
それから、2Kmほどの移動となったが、問題なく研究所に戻れた。
ただ、ルティリアさん達の消耗が思った以上で、かなり疲れていた。
軽く休んだ後に遅い昼食になった。
外はとても寒く、温かい食事を取ることになり、あのシチューを食べた。
いつものダイニングではなく、初めて食堂での食事となった。ルティリアさん達を連れてくるとなってすぐに、アリストラさんが準備をしてくれてた。
ルティリアさん達は温かく美味しい料理にとても喜んでくれた。
その後、疲労もあり、大きめの客室に案内して休んで貰うことになった。
荷物も全て客室に運んである。
そして、ルティリアさん達が休んでる間に研究所のメンバーだけで話し合いを行う。
場所は、いつも使っている部屋の近くにある小さい会議室だ。
俺が奥側の席に座り、対面にアリストラさんとオシホ様が座り、精霊トリオは横に立っている。こういう場合あまり発言しないので、この配置だ。
アリストラさんが口火を切る。
「広坪様、今回の件ですが、申し訳ありませんでした」
「え?アリスさんが謝るのですか?俺の説教が始まると思っていたのですが?」
「危険な行動をとった事には怒っています。ですが、私が作ったゴーレムが、広坪様を守れない状況にしてしまいました。広坪様のゴーレムは、最低でもブラックベアーに対抗できる様に作っていたつもりでしたが、ブラックベアーは想定以上に強力で、腕はもげ、足関節も破壊寸前でした。さらに、戦闘用ゴーレムも性能向上にばかりに考えが偏り、魔力供給範囲外での戦闘を考慮できていませんでした。そのせいで、広坪様を護衛することができず、危険にさらしてしまいました」
「いや!それは全て俺のせいです!訓練で、あの熊にも勝てると思い込んでいた俺の慢心の結果、独断専行をしてしまったのが悪いのです。搭乗型ゴーレムの破損も、俺の技量不足が原因です。それに、戦闘用ゴーレムですが、範囲外と言っても、それほど離れていませんでした。俺が冷静に状況を理解していれば、熊を誘導して、戦闘用ゴーレムと協力していれば、楽に倒せたはずでした。なので、全て俺の責任です!」
「ですが!旧型の戦闘用ゴーレムは解体も検討されていました。もし、解体されていたら救援ができませんでした。どんな状況にあっても広坪様をお守りするのが私の役目!私の想定が甘かったせいで――」
「まてまて、二人とも落ち着くのじゃ」
俺とアリストラさんが自分が悪いと、熱くなっていると、オシホ様が止めてきた。
大精霊であるオシホ様に止められたら、黙るしか無く、一度冷静になる。
「この場合は広坪が悪いの。ただ、全てが悪いというわけでは無い。少なくとも、広坪が行かねば、ルティリアなる者達は死んでいただろうしの。それに、独断専行は慢心だけが原因では無いだろう。最近悩んでいた事が関係しているのでは無いか?」
「それは……」
俺はオシホ様の言葉に動揺する。
「悩んでいた事、ですか?」
「そうしゃ。広坪よ、良い機会じゃ、話してみよ」
オシホ様の言葉に多少悩みはしたが、確かに良い機会かもしるない。今後の活動にも関わってくるし、話した方が良いだろう。
「……そうですね。確かに最近悩んでいた事があります。それは、ここに人間が一人しか居ないことです」
「それは、伴侶が、居ないとか、そういうことですか?だからあの人達を……」
アリストラさんが、俺の意図と違うことに想像を広げたので、慌てて否定する。
「違います!助けたのが全員女性だったのは偶然です!俺が言いたいのは、俺の次の管理者候補が居ないと、言いたかったんです。俺はオシホ様と融合状態にありますが、普通の人です。数十年で死にます。オシホ様は俺と融合してるからここに居て、アイン様、ツヴァイ様、ドライ様もオシホ様によって呼ばれた方々てす。俺が死ねば、去ることが想定されます。そうなったら、アリストラさんは一人になるかもしれません。そして、次の人が召喚されるのに千年以上かかったら、アリストラさんは自爆してしまうかもしれないと思ったので、適性があるものを他の方法で探せるように、外部との接触を持つのに、良い機会だと少し思いました」
俺は、ここ最近悩んでいた事を一気に喋った。
「つまり、自分が居なくなった後のアリスを心配していたのじゃな」
「そうだったのですか……。心配して下さりありがとうございます。ですが、そのためにご自身を危険にさらすのはお止めください」
「全くじゃの。まぁ、結果だけ見れば最善だっかも知れぬが、独断専行の罰は必要じゃな。今週のデザートは没収じゃ。客も来ておるし、ちょうど良いじゃろ」
「はい。覚悟していました。今回の件は皆様にご迷惑をおかけして大変申し訳なく思っています。すみませんでした。今後は独断専行しないように善処します」
俺は席を立ち、皆に頭を下げた。
「本当によろしくお願いします」
「まぁ、それくらいで良いじゃろ。広坪も座るが良い。それから、あの熊、ブラックベアーを調べたのじゃが、あれは特殊個体じゃった」
「特殊個体ですか?モンスターの亜種みたいなもの……でしたよね?」
以前にモンスターについて教えられた時に聞いたと思う。
今回のゴブリンの群れにも確認がされている。
「そうじゃ。熊を調べた結果、魔核がかなり大きかったのじゃ。倍以上はあり、恐らく三倍近くあったのじゃ」
「それは……魔法を使ってもおかしくない個体ですね。もしかしたら、あの熊は別個体だったのでしょうか?一年前に撃退した時の強さからして、そこまでの大きさになるとは思えません。」
オシホ様の言葉にアリストラさんが驚いている。
「いや、同一個体じゃろう」
「え?何故……いえ、ゴブリン。ゴブリンの魔石を食べたのなら……」
「そうじゃ。ゴブリンがおった。ゴブリンの魔石をかなりの数を食べて急激に成長したのじゃろう。魔法も使っていたはずじゃ」
「え?しかし、俺が戦った時は魔法なんて使って来ませんでしたよ?」
「いや、肉体強化の魔法使っておったはずじゃ。丘の影から出たあとの戦闘をドライが確認しておる。片腕の攻撃で広坪のゴーレムが弾き飛ばされておったそうじゃ。この力は異常じゃ」
「確かに弾き飛ばされましたが、そういうものかと思ってました……」
「つまりじゃ、ゴブリンの魔石を大量に食べ、急激に成長し、肉体強化したブラックベアーと、広坪は真正面からぶつかり合っていたのじゃ。ゴーレムが壊れても仕方がないの」
「確かに、そんなブラックベアーと、まともにぶつかっていたならあの損傷も納得です」
お二人が納得している。つまり、俺は脳筋熊とガチンコバトルをしたバカと言うことか……。
「すみません。そんな熊だとは気付きもしませんでした」
「いやいや、感心しておったのじゃ。あんなのに真正面から勝ったのじゃからな。まぁ、今後も同じ様な事が起こったときのために、さらなる防御強化特訓をしなければな!」
「そ、それは、オシホ様も、訓練に参加を、するのですか?」
「そうじゃ!楽しみじゃの!」
「そうですね。アハハハハ……」
オシホ様の言葉に、俺は精霊トリオが来るまでの日々がフラッシュバックしてきた。
死なないために訓練するのだが、その訓練で死ぬかもしれないな……。
「さて、これからが本題じゃ。あのルティリアなる者達を送り届ける件じゃ。広坪よ、簡単に説明をせよ」
「は、はい。俺が助けたのは、ルティリアさんと、その妹と、ルティリアさんの娘さん3人で、合計5人です。彼女達は聖堂院と呼ばれる場所に向かう途中て熊に襲われ、街道をそれ、追われてる所を発見し、救助となりました。その際に馬車は横転し、破損、馬も逃走しています。ルティリアさんの妹のマリーディアさんが負傷していたので、ポーションを渡しました。その後ゴブリンが出ましたが、援軍により無事撃退に成功しました。援軍到着後に休息しつつ彼女達と話し合った結果、ゴブリンや、雪の事を考慮し、彼女達は聖堂院への護送を希望しました。アリストラさんに確認後、俺が護送を承諾しました。対価には、一般的な周辺情報を希望し、ポーションの対価には、我々の事を秘密にしてもらう事を希望しました。そして、シェルターに問題があったので、ここで保護しています」
俺はできるだけ簡単に説明した。少なくとも、そのつもりだ。
「護送は目処がたってるので良いですが、秘密の保持は難しいのでは?」
アリストラさんが当然の疑問を聞いてくる。
「俺も秘密の保持は難しいと思います。完全に秘密にするには、彼女達を殺すしか無いでしょう。ですが、助けた命です。できれば生かしたく思います。なので、彼女達には、秘密はできるだけで良いと言ってあります。申し訳ありませんが、ここの情報が漏れるのは、最初から諦めています」
「まぁ、秘密の保持は難しいじゃろうな。広坪の、言うことも分かる。故に仕方がないの。それで、アリスよ、どうやってゴーレムをとうやって送り出す?そして、どのぐらいの戦力を護送に使えるのじゃ?」
オシホ様の同意が得られたので、秘密の保持は諦める事になった。話は護送方法に移る。
「はい。今の戦闘用ゴーレムでは、魔力供給可能範囲外での活動時間に問題があり、とても護送には使えません」
「そうじゃの。新型で5分、旧型でも30分の戦闘行動が限界じゃの」
「その通りです。なので、簡易シェルターに使った技術を流用します」
「魔力タンク……じゃったな」
「はい。魔玉による魔力供給をする事によって、活動時間の延長をします。これならば、短時間でそれなりの数が用意できます」
「うむ、そうじゃの、雪の事もあるし、急いだ方が良いの。して、どのぐらい派遣できる?」
「そうですね……。戦闘可能時間を最低でも12時間は欲しい所なので、現在の材料を考えると……20体ほどが限界かと思います」
「20体使えるならワシも行くかの」
オシホ様の言葉にアリストラさんを初め、皆が驚く。
「え?オシホ様も行かれるのですか?そうなると少し数が減るかと思いますが……」
「多少数が減っても大丈夫じゃろ。10体も居ればどうとでもなる。それに、広坪、お主も行くつもりじゃろ?」
二人の話を黙って聞いていた俺にオシホ様が聞いてくる。
「はい。行こうと思っています。離れてはいますが、比較的に近い場所です。聖堂院と呼ばれる場所がどの様な所で、どんな人達が居るのか確認しておきたいのです。話を聞いた限りですと、女性ばかりが集まった場所みたいなので、中には入れないと思いますが、何かしらは分かると思うのです」
俺の言葉にアリストラさんが驚いている。
「先ほど危険な事はしないと言いませんでしたか?」
「いえ、独断専行はしないようにすると言いました。それに、彼女達は俺の責任で助けましたし、俺が護送の約束をしましたから、送って行きたいのです。アリストラさんお願いします。俺も行かせて下さい!」
アリストラさんに頭を下げる。
「……」
「アリスよ、ワシも行くのじゃ、そうそう危険な事にはならぬ。広坪の気持ちを汲んでやれ」
「そう、ですね。私も広坪様をここに縛り付けるつもりは無いので、行ってきて下さい。ただし、必ず無事に帰ってきて下さい。そのために出来る限りの準備をします」
「アリスさん、ありがとうございます。必ず無事に戻ります」
オシホ様の援護でなんとか許してもらえた。
「ては、今回はワシと広坪がゴーレムを率いて護送する。それで良いな」
話がまとまりそうになった時に、今まで黙って聞いていたツヴァイが一歩前に出て発言した。
「恐れながら、私も同行を希望します」
「うむ?何故じゃ?お主らにはここに残ってもらうつもりじゃったのだが?」
「はい。私は熊の件で何もできず、ただ、圏内から見てることしかできませんでした。同行できるなら、今度こそ広坪様をお側で守りたいのです!何ととぞご一考願います!」
そう言って頭を下げるツヴァイを見て、俺は驚いていた。
なぜなら、精霊は基本的に大精霊であるオシホ様の言葉に必ず従ってきたのだ。それが、命令が出る前とはいえ、意向の変更を申し出たのだ。
これは今までに無い出来事だ。
それして、ツヴァイの言葉に驚いていると、アインとドライも同調してきた。
「あ、ずるい!私も私も!行きたいです!広坪様の敵をぶっとばします!」
「私も……広坪様の敵を見つける」
俺はそれを見て、さらに驚いた。ツヴァイだけならともかく、精霊トリオ全員がオシホ様の意向の変更を申し出るとは……。
俺が驚いていると、オシホ様が笑いだした。
「クククッ広坪よ、いつの間にこの者達を誑し込んだのじゃ?」
「広坪様?」
オシホ様の言葉にアリストラさんが反応し、圧力かがが。
「そ、そんなこと、した覚えは無いのですが……」
「もしかしたら、お主があのルティリアとかいう女に鼻の下を伸ばしておったから、それに刺激されたのかも知れぬの!クククッ」
ツヴァイからも圧力が!さらにアリストラさんの圧力が強まり、俺は黙っている事しかできない。
「……」
「まぁ、落ち着け。広坪も男じゃし、多少は多目にみるのじゃな。それに色々たまっておるのじゃろう。アハハハハ!」
オシホ様が辛抱たまらんと笑いだした。
オシホ様の笑いを止めたいが、俺はそれを止められない。一度はオシホ様の言葉で圧力が無くなったが、先程よりも強い圧力を受けているからだ。
漏らしそうだ……。
「いやぁ、楽しいの!実に愉快じゃ!じゃが、もうその辺にしておけ、広坪も健康な男なのじゃし、仕方がなかろう。それに、いずれは広坪にも子が必要じゃろうしの」
「……失礼しました」
「広坪様のお子……」
今度こそ、圧力が止まった。
漏らしはしなかった。しなかったのだ。
だが、オシホ様はなかなかな爆弾を落とした。
「子供、ですか……。相手がいたらその時考えます」
「なんなら、ルティリアなる者をワシが説得してくるぞ?」
「お止めください。あの人達にはこれ以上要求しないと言ってあります。それに、無理にその様な事はさせたくありませんし、したく無いので、やらないでください。お願いします」
「まぁ、お主がそう言うならば、せぬが、相手も満更では無いと思うぞ?」
「それでも、です。彼女達はそのまま送り届けます」
「分かった。お主の言葉に従おう」
オシホ様が渋々といった感じで了承してくれた。
やはり大地の精霊だけあって、子孫繁栄的な思想があるのだろうか?
「さて、話を戻すが、アリスよ、この者達も派遣できるかの?」
「可能です。ただ、戦闘用は10体ほどは送り出したいので、多少の制限付になりますが、それでもよろしいですか?」
「どんな制限じゃ?」
「消費を押さえるために、遠距離系の制限ですね。非常用装備としていただきたく思います」
「まぁ、それくらいなら良いじゃろ。アイン、ツヴァイ、ドライよ、お主らの同行を認めよう。存分に力になるが良い」
「「「はっ!ありがとうございます!」」」
精霊トリオが頭を下げる。
「さて、護送の面子も決まった事じゃし、準備をしようかの」
「そうですね。雪上装備の事もあるので、急ぎましょう」
「では、他に無ければ解散じゃな。何かあるか?」
「あの……」
「ん?何じゃ広坪よ、何かあるのか?」
「はい。実は彼女達に多少の食料などの物資を渡したいのです」
「アリスよ、どうしゃ?」
「多少の量によると思いますが、大丈夫だと思います。渡すものにもよると思いますが……」
「具体的に何を渡すつもりじゃ?」
「まずは、食料ですね。冬籠もり前なので、食料が少ないと受け入れてもらえないかもと言っていましたから、5人が冬籠もりできる量の倍もあれば良いかと思います。それから、弓ですね。妹のマリーディアさんの弓が壊れたと言っていました。後はポーションを少し渡してあげたいです」
「まぁ、それくらいなら大丈夫です。他にも何かあれば渡しておきましょう」
「ありがとうございます」
「女に贈る贈り物としては微妙じゃの。まぁ喜ばれはするかもの」
「そんなつもりではないので……」
「まぁ良い。ではそれだけか?」
「はい、それぐらいですね。それでは、俺も準備は手伝いますね」
「駄目じゃ。お主は休め」
「そうてすよ!今日は激しい戦闘もあったのてす。今日は安静にしていてください」
「「「そうです」」」
手伝いを申し出たら、皆に止められた。
心配してくれるのは嬉しいが、まだ昼過ぎですよ?
だが、逆らえる訳もなく、大人しく部屋に戻る事にした。
「りょ、了解しました」
こうして、皆は護送の準備をし、俺は部屋へ戻り、趣味に没頭する事になった。




