後始末と今後の相談
随分と話していた気がする。俺的には、だが。
話していたら喉が渇いたな。水は……あぁ、ルティリアさんに渡したマジックバックの中だった。
「すみませんが、マジックバックに水袋が入ってると思うので、返してもらって良いですか?」
「ええ、今お返しします。ありがとうございました」
ルティリアさんからマジックを受け取り水袋を取り出す。
「いえ、皆さんも喉が渇いてるなら、そこに水の出る魔具が……ああ!コップが無い……。水袋は俺が口をつけてる。あ、洗えば大丈夫ですかね?すぐ洗いますね」
水を水袋に口を付けずに二口ほど飲み。水袋の口を洗う。
にしても致命的な欠陥だな。水の出と排出ぐらいしか確認をしてなかった。要改善だが、どうしょうか?アリストラさんにお任せかな?
「馬車にならコップがあります。木製ですし、壊れてないのがあると思います」
「あぁ、なるほど、そうですね。取ってきましょう」
そう言ってドアを開けようとしたら、ロックが解除され、ドアが開いた。
そこにはオシホ様が居た。
「広坪よ、ゴブリンは片付いたぞ」
「お疲れ様です。早かったですね」
「そうでもない。数が多くて潰すのに手間取ったしの、途中で逃げたしたから殲滅できなんだ。粗方は潰したが、いくらかは逃がしてしもうた」
「そうでしたか、なら、もう出て大丈夫ですかね?」
「うむ。出る分には問題ない。魔石回収に作業用ゴーレムを待っておる段階じゃし、周辺も警戒させてるからの。それで、その者達はどうするのじゃ?」
「どちらにしても一時保護が必要かもしれないので、アリストラさんに確認をお願いできますか?」
「アリスなら既にこちらに向かっておる。少しすれば来るだろう。そこで聞けば良い」
「そうですか、分かりました。オシホ様ありがとうございます」
俺はルティリアさん達に向き直る。
「と言うわけで、外に出れます。出ますか?馬車の確認もあると思うのですが?」
ルティリアさんは他の4人に視線を送り確認を取ったあとに返答してきた。
「出れるなら、出たいです」
「では、出ましょうか」
そう言って先に出た。
寒い。先程よりも気温が下がったか、暖かい所に居たから、その差でより寒く感じたのか分からないが、冷える。
周囲を見ればゴブリンの姿は無く、戦闘用ゴーレムの半数ほどが警戒に当たっている。残りの半数ほどは既に引き揚げている様だ。補給のために戻ってるだけかもしれない。
空を見れば、今朝と変わらず厚い曇、そして、雪が降り続けている。
アリストラさんの話と去年の事を考えれば、この地域は一度雪が降り始めると、降り続け、あっという間に銀世界になるそうだ。
この一年の気候は、アリストラさんの生きていた時代とそれほど変化は無く、誤差の範囲との事だったので、気候の変化は少なそうだ。
空を見上げていると、シェルターからルティリアさん達が出てきた。
ルティリアさんは妹のマリーディアさんを支えながら出てくる。
ここで手を貸せていたらモテるんだろうな。
まぁ、俺にはできない事だ。俺が申し出ても、相手が嫌がるだけだと思っているからな。
被害妄想が入ってるかも知れないと思うが、喜ばれるイメージが湧かない。
他の人がいないなら仕方ないが、他の人がいるならその人に任せた方が確実に良いと思っているし、下手に触れば犯罪者だ。
日本では無いのはわかってるが、もう骨の芯まで染み付いた認識だ。諦めよう。
マリーディアさんの怪我はポーションで回復してるが、まだ違和感があるのだろう。
ルティリアさんの娘の三姉妹は恐る恐る外に出てきて、ゴブリンが居ないのを確認している。
ゴブリンが居ない事に安心しているが、ゴーレムに興味津々の様で、周囲に展開している戦闘用ゴーレムや俺の乗っていたゴーレムを見て少し騒いでいる。
ルティリアさんもオシホ様のメイドゴーレムを興味深げに見ていたが、馬車の確認を思い出したのか、三姉妹に声をかけて馬車へと向かった。
俺も自分のゴーレムを確認する。
オシホ様が指示したのか、もげた右腕が持ってこられて、搭乗型ゴーレムの横に置かれていた。
右腕の肩関節部分を見るが、やはり接続部分が砕け、激しく損傷している。
右腕の他の部分も確認するが、盾以外はほとんど損傷が無い。
盾はへこみや歪み、爪の後がはっきり残っていた。
鉄で出来た、かなり丈夫な盾だったのだが……。まぁ、盾より肩が先に逝ってしまっては意味が無いな。
続いて本体だが、やはり肩が一番損傷がひどく、次に左股関節だった。股関節だが、もう少し戦っていたら、完全に壊れてもげていてもおかしくないほどの損傷だ。自力で戻れるかは微妙だ。
他は土まみれになってるぐらいで、特に問題は無いように見える。
オシホ様に自力での帰還は難しいかもと伝えたが、既に回収準備中との事だった。
確認も済んだので、ルティリアさん達の馬車を見に行く。
馬車を見ると、ルティリアさんや三姉妹が木箱などの荷物を横転した馬車から運び出そうとしていた。
だが、重そうにしていたので、流石に荷物を運ぶのを代わるぐらいなら嫌がられないだろうと思うし、見てられずに、手伝いを申し出て、荷物を馬車から運び出した。
木箱は全部で10箱あり、壊れたのは2箱のみで、壊れた木箱の中身が見えたが、干肉や根菜類など、保存の効きそうな物ばかりだった。
他にも荷物があったが、それらはルティリアさん達が運び出していた。
荷物を運び出し、改めて馬車の確認をする。
幌の方は骨組みが折れ、布も大きく破けている。
車輪は片方が完全に壊れ、車軸は折れていて、車軸を固定する部分も破損しており、修理には時間がかかりそうだ。
馬車はルティリアさん達も確認しており、困り果てていた。
何より、馬が居ない。
どうしたものかと思っていると、今度は20体の作業用ゴーレムを引き連れたアリストラさんのメイドゴーレムがやって来た。
……まだ離れているが、圧力が見える様な気がする。
怒ってますな。完全に……。
どうしたものかと思うが、どうしようも無い。
大人しく怒られよう。
そうこうしてるうちに、アリストラさんが来た。
アリストラさんの合図で、作業用ゴーレムが魔石回収に散開し、アリストラさんが、俺に詰め寄り言った。
「広坪様、何か言うことはありますか?」
オシホ様と同じ様な事を言ってきた。ただ、ゴーレム越しではなく、直接対峙しているからなのが、強い圧力を感じる。
かつて無いほどお怒りだ。あぁ、膝が笑いだした。
「広坪様、何か、言うことは、ありますか?」
アリストラさんの圧力に黙っていると、語気を強め再び聞いてきた。
俺は反射的に答えた。
「はい!独断専行し、危険な行動をとってしまい申し訳ないません!以後この様な事がないようにする所存です!」
「違います!オシホ様のメイド姿は褒めたのに、なぜ私を一度も褒めてくださらないのかですか?!私のメイド姿に何かご不満があるなら言って下さい!」
「……え?」
俺はアリストラさんの言ってることが理解できなかった。
アリストラさんはなんと言った?オシホ様のメイド姿を褒めた?何故知っているのですか?メイド姿に不満?そんなものは無い。
……俺が独断専行した事よりも、褒められる事が重要?
「聞いているのですか!」
「はっはい!オシホ様のメイド姿は意外だったので驚いていて褒めました!ですが、メイド姿はアリストラさんが一番だと思っています!」
「……本当ですか?」
「はい!今まで見てきた中でアリストラさんが一番似合っています!」
「……そうですか、なら良いです。それから、私の事はアリスとお呼びください。たまにアリストラと呼ぶことがあるので、注意してください」
「はっ!承知しました!」
思わず敬礼してしまった。
だが、アリストラさんは納得したのか、圧力が無くなった。
「お願いいたします。それと、今回の事は改めて話を聞かせてもらいます」
「はい」
「それで、助けたのはその人達ですが?」
「はい。彼女達です。ここから北西に馬車で2、3時間程の聖堂院と呼ばれる場所に行く途中だったそうです。知っていますか?」
「……その辺りには、物資集積のための施設があったと思いますが、現状どうなっているかは不明ですね」
「そうですか、まぁ、仕方がないですね。他にも相談したいことはあるのですが、まずは彼女達を紹介しますね」
そう言って、アリストラさんを連れて、荷物の整理をしているルティリアさん達の元に行く。
「ルティリアさん、今よろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
「紹介します。彼女は、俺の居る場所のほぼ全ての管理をしてくれてるアリストラさんです。アリストラさん、こちらがルティリアさん、ルティリアさんの妹のマリーディアさん、ルティリアさんの娘のレイシアさん、アムリスさん、クリスティアさんです」
「……え?アリストラ……さんですか?……あっ!失礼しました。広坪様に助けていただいたルティリアです。助けていただけなければ、確実に死んでいたと思います。改めて感謝申し上げます。ありがとうございました」
「「「「ありがとうございました!」」」」
俺達のやり取りを見ていたのか、緊張気味に再び感謝された。
「いえ、全て広坪様の判断でなされたことなので、感謝は広坪様にお願いいたします。それから、私はアリストラです。アリスとお呼びください。広坪様の補佐全般を行っています」
「まぁ、それくらいにして、今後の事を話したいので、一度シェルターに戻りましょう」
「そ、そうですね。荷物の整理も大体終わりましたし、戻りましょう」
作業用ゴーレムをオシホ様に任せ、アリストラさんとルティリアさん達を連れてシェルターに入る。
ルティリアさん達は先程と同じように座り、俺も台に座る。アリストラさんは、俺の横に立っている。
アリストラさんも座るようにすすめたが、座ってはくれなかった。
人も揃ったので、今後について話し合いを始める。
「改めて状況を確認しましょう」
「そうですね」
「では、簡単に説明します。まず、ルティリアさん達はここから北西に馬車で2、3時間の聖堂院と呼ばれる場所に向かう途中に熊と遭遇し、それを偶然に発見し、俺の独断による介入をして、熊を倒してルティリアさん達を救助しました。その直後ゴブリンによる襲撃があり、ルティリアさん達の安全確保のためにシェルターを設置して、援軍によりゴブリンを撃退。今は現状の確認と後始末の最中です。これでいいですかね?」
ルティリアさんに確認する。
「はい。問題ないと思います。ただ、聖堂院ですが、正確には……アリストラ聖堂院と呼ばれる場所です」
「……え?」
俺はルティリアさんの言葉に驚き、アリストラさんを見る。
「アリストラ聖堂院?アリストラさん、何か……知ってますか?」
「いえ、全く分かりません」
「あの、ルティリアさん、そのアリストラ聖堂院はいつ出来たものか分かりますか?」
「確か……4、500年前だったと思います。その後大氾濫により、一度失われましたが、50年前に地域奪還と共に再興されたと聞いています」
4、500年前なら、アリストラさんと関係は無いのか?
「その、アリストラ聖堂院の、名前の由来とか分かりますかね?」
「一応ですが、大昔の大氾濫の時に多くの人々を逃がす時間を稼いだ聖女がいて、その聖女が、ユークリア大山脈のどこかに封印されていると、何かの伝承に残っていて、4、500前に当時のミリア司祭がその場所を発見し、女性の聖地としました。たた、287年前に大氾濫が再び起こり、失われましたが、50年前に奪還され、今も聖地とされていると聞いています」
……これは、アリストラさんの話が何かの形で残っていて、ミリア司祭が間違えた場所を発見し、アリストラ聖堂院なんてものが出来たのだろう。
聖女か……。
アリストラさんを見つめてしまう。
アリストラさんも俺に顔を向けたが、圧力がががが。
「き、きっとアリストラさんの両親がその話を知っていたのかも知れませんね。私達は、そんな話を全く知らなかったので、面白い偶然ですね」
少ししどろもどろになりながらも、誤魔化せた……と思いたい。
「本当に面白い偶然ですね。名前を聞いたときは驚きました」
「あぁ、確かに驚いていましたね。ですが、今は今後について話しましょう」
「ええ、そうですね」
「それぞれの目的ですが、ルティリアさん達は、その、聖堂院に行きたい。我々はルティリアさん達が知るこの辺りの一般的な情報が知りたい。そして、出来るかだけ我々の事は秘密にしてほしい。って事でいいですかね?」
「はい。ただ、本当に特別な事は何も知らないので、満足してもらえるかわかりません。それにお渡し出来るものも少ないので……」
「それは分かっています。先程みたいな一般的な事で良いのです。それと、追加の報酬は必要ないと何度か言っています。もう気にしないでくたさい。問題なのは、我々が貴女方にどのくらい協力できるかが問題でして……。アリストラさん、彼女達を聖堂院に送って差し上げたいのですが、現状では到底無理そうなのですが、技術的にはできそうですか?」
「そうですね……。今考えられるのは三つあります」
その言葉にルティリアさん達の顔が明るくなる。
「おお?意外です。そんなにあるのですか?説明してもらって良いですか?」
「はい。まず、一つ目ですが、活動範囲の延長です。これは、現在試作段階にある魔具を使うのですが、現在の性能では、数が必要であり、必要数を揃えるのに時間がかかります。それこそ春ぐらいまでかかってしまうかもしれません。二つ目は、今あるゴーレムの性能を大きく下げて活動時間特化型にする方法です。これは、強力な敵が出た、時を考えると不安がのこります。三つ目は活動時間延長です。これが一番現実的な方法だと思います。援軍に使ったゴーレムなら、問題なく往復できるはずてす。ただ、これも数に不安が残ります。最大でも10体ほどになると思います。時間があれば増やせるとは思いますが、その場合雪が問題になりかねません。雪上装備はまだテストもしていないのですから……」
「なるほど、一つ目は時間がかかりすぎて駄目ですね。二つ目は危険が大きい。実質的に三つ目のみですね。どのくらいで準備できますか?」
「今晩中には準備できますが、広坪様も行かれるのですよね?」
「そのつもりです。俺の責任ですし、聖堂院を一度見ておきたいのです。駄目ですね?」
「正直かなり、行ってほしくありません。ですが、広坪様の判断です。全力でサポートします」
「アリスさんありがとうございます。無事に戻ります」
アリストラさんとの話も終わったので、ルティリアさんに確認をとる。
「ルティリアさん聞いていたとおりです。早ければ明日には聖堂院に送って行けますが、どうしますか?」
「是非お願いしたいです。ただ、荷物が運べないと行けても意味が無いかもしれません。私達は聖堂院に保護を求めて行くのですが、あそこは女性が逃げ込む場所です。この時期に行くには食料を持っていかなければ、皆が飢えてしまう事になってしまいます。今年は不作が多かったみたいなので、食料の値上がりもありましたし、逃げ込んでる人も例年より多いかもしれません。なんとかお願いできないでしょうか?」
「アリスさんどうです?馬車の修理などはできますか?」
「問題ないですね。明日の朝までには終わらせられます」
「だ、そうです」
「良かった……是非お願いいたします!」
「「「「お願いします!」」」」
ルティリアさん達が立ち上がり頭を下げる。
それにアリストラさんが答える。
「はい。承りました。お任せください」
「それじゃあ、明日の朝か昼前に出発で良いですかね?」
「はい。お願いします」
話は決まったので、明日までの事を相談だ。
「では、今夜はどうしましょうか?シェルターで過ごしてもらうか、招くか」
「私達はここで十分です」
「いや、このシェルターも試作品でして、その……トイレが無いのです。外は雪が降ってますし、招いた方が良いかなぁ、と思いまして……」
「迂闊でした。ベッド用の台を三つもつけてる場合ではありませんでした」
「そうだね。使ってみないと色々分からないものだね」
「広坪様のオーダーで作ったのですが?」
「すみません!俺がうっかりしてました!」
俺は立ち上がり、アリストラさんへ深々と頭を下げた。
「というわけで、我が家へお招きしたいのですが大丈夫ですか?」
「あの、本当に大丈夫ですよ?何度か夜営してますから問題はありません。このシェルターがあるだけでも、十分てす」
「しかし、お話も聞かなければならないので、お越しください。俺は部屋に引きこもるので、アリストラさんに周辺の事を話して下さい」
「そう、ですね。てはそうさせてもらいます」
こうして我が家へ初のお客様が来ることになった。




