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助けた5人

 



 研究所 南側出入り口 西


 熊を倒し、助けた人達と交渉しようとしたら、数百を超えるゴブリンが森から溢れた。




 馬車に乗っていた彼女達を見ると、顔が青ざめている。

 ポーションはまだ使っておらず、北の森に行くには丘を迂回する必要があり、彼女達がゴブリンから逃げ切るのは難しそうだ。

 俺はゴーレムに乗ってるから大丈夫だが、ゴーレムの状態を考えると、彼女達を守りながらの戦闘は難しいだろう。

 それ以前に、多勢に無勢だ。囲まれれば彼女を守れない。


 選択肢は無い。シェルターを使おう。


「簡易シェルターを設置します。その中なら安全です。ゴブリン程度には破れませんし、三日間はもちます。すぐに増援も来ますから、シェルターの中に居てください」


 そう言いながら左腰の簡易シェルター魔具を手に取り、彼女達の近くに起動させて設置する。

 すると、魔具の周囲に土が発生し、あっという間に簡易シェルターを形成した。


 俺はゴーレムから降りて、簡易シェルターの扉を開けて彼女達に説明する。


「中に水の出る魔具もあります!それからこれはマジックバックで、中に非常食が9食分入ってます。あと、解毒ポーションも入ってますが気にしないで下さい」


 彼女達は俺に驚いて居る様子だが、時間がない。

 言うだけ言ってマジックバックを渡し、ゴーレムに再搭乗する。


 馬を見るが、既に逃げだしていた。

 賢い選択だろう。



 森を見る。ゴブリンが溢れているが、既に戦闘用ゴーレムの遠距離攻撃が始まっている。

 距離が遠く、精度は低いが、あれだけ居れば適当に撃ち込んでも当たってる。貫通して複数匹に当たってる攻撃もある。

 さっき見たときは戦闘用ゴーレムは7体いたが、ゴブリンの数が多い、もう千以上はいそうだ。

 ゴブリン達はこちらに向かって来てるが、戦闘用ゴーレムの遠距離攻撃が阻止しようと、先頭に集中するが、もうすぐ丘の影だ。

 まだ彼女達はシェルターに入れていない。


 仕方がない。時間稼ぎのために、先頭集団に攻撃を仕掛ける。


 先頭集団は30匹ほどだ。

 熊との戦闘で足に損傷があり、走れないので迎え撃つ。

 盾というか、右腕が無いので、左腕の剣のみだ。

 蹴りも少し難しそうだ。


 俺は攻撃のみを意識して、剣を封振るう。

 先頭の2匹を左から右へまとめて切り払った。

 そして、一歩下がりながら右から左へ凪ぎ払うと、前に出てきた3匹を運良く切り払えた。

 すると、勢いが止まった。一歩前に出ながら右前方の2匹を切り払い。返す刀で左のゴブリンを2匹凪ぎ払う。


 ただ、左右に剣を振り、力業で凪ぎ払っていく。

 少しずつ後退しながら、複数匹のゴブリンを斬る。多少攻撃を受けるが、全く問題が無い。

 ゴブリンは大した驚異にならないが、3mの高さからの視界には大量のゴブリン。斬っても斬っても後から涌いてきている。

 というか、減ってる気がしない。




 どれくらい経ったかわからないが、疲労してきた。魔力的にはまだ余裕があるのだが、精神的に疲れてきている。

 熊との戦闘で思っていたより疲弊していたのかもしれない。

 当初は囲まれないように注意していたが、数が違いすぎて、すぐに囲まれ、四方から攻撃をされる。

 攻撃を受ける回数が増えた。

 問題は無いが気分のいいものじゃない。

 だが、剣を振り回すだけで、多いときは5匹をまとめて倒せたりして、効率は上がった。



 そんな事をしていると、ゴブリンの群れに突っ込んでいくゴーレムが見えた。数は30ほどだが、ゴブリンを蹂躙していく。

 すると、後方からもゴーレムが10体やって来て、俺を囲みながらゴブリンを潰していく。


「ハァーッ」


 これで安心だ。


 ほっとしていると、足元に1体来た。……メイド服を着たオシホ様のゴーレムだ。


 戦闘用では無く、作業用だろう。

 作業用ならば、多少魔力供給範囲外でも行動は可能だ。


「広坪よ、何か言いたいことはあるか?」


「えっと、救援ありがとうございます。助かりました」


「……うむ。まぁ、話しは後じゃ。助けた者達はあの中か?」


「はい。離脱が間に合わないと思い、シェルターに退避させました!」


「分かった。ゴブリンどもはこちらで片付けておく、お主もシェルターで待機しておれ」


「まだ戦えます!」


「お主は十分戦った。後は休んでおれ。……分かったな?」


 オシホ様はそう言って俺に顔を向けてくる。

 仮面なのだが、圧力が……。

 おとなしく引き下がる方が良い。


「承知しました!シェルター内で待機します!」


 そう言って下がる。

 ゴーレム達は順調にゴブリンを殲滅してる。

 俺が居ても、少しぐらい殲滅時間が減るかもしれない程度だろうし、大人しく休もう。





 なんとか、シェルターまで来た。もうゴーレムの足がガタガタだ。

 シェルター横にゴーレムを座らせ、降りる。


 寒いな。


 そこで、ふと気付く。


「雪か……」


 去年より少し早い。去年が遅かったのかも?


 まぁいい、早く中に入ろう。

 ドアに触れる。きちんとロックがされている。俺の魔具なので解除可能だ。ロックを解除し、中に入る。

 中では突然ドアが開いたので、驚いている5人が居た。


 中は六角形になっていて、左の二面と右の手前の面にベッド用の台があり、ドアの対面に調理用熱源、その隣の右側奥面に水を出す魔具、その間に空調用の魔具が設置されている。

 ドアから見て左のベッド用の台に全員が居た。

 奥に弓使いな人が寝ていて、手前の台に残りの四人が身を寄せ合い座っていた。


 ドアを開けっ放しにしておく訳にもいかないので、シェルター内に入り、ドアを閉め、ロックする。

 改めて5人を見るが、怯えや敵対的な目で見ており、奥の台に寝ていた女性も身を起こしている。



 視線に晒されてる。

 何の考えも無しに入ってしまった。

 外に出るのもなんだし、交渉をしておきたいが、なんと言うか、空気が悪い。友好的な関係とは言えないが、敵対的な行動もとった覚えは無いのだが……。


 あー、なるほど、分かった。

 俺が用意した密室に女性が5人居て、俺は自由にドアのロックを操作できる。

 つまり、監禁的な状態に見えなくもないのか。

 否定しておかなければならないだろう。


「先ほども言いましたが、貴女方に危害を加えるつもりはありません。俺がここに入ったのは、援軍が来て、ちょっと逆らえないお方に休むように言われたからです。ゴブリンは援軍が処理しています。しばらくすれば終わると思いますし、少し話し合いがしたいのですが、大丈夫でしょうか?」


「分かりました。信じます。ですが、あまり渡せる物が無いのです……」


 魔法使い的な人が答える。


 やはり皆が美形だ。特に魔法使い的な人が俺の好みど真ん中だ。

 ついつい見入ってしまいそうになる。

 これほど好みな女性が居るとは……。


 ん?


 彼女目線が、俺の足にあるナイフにいっていた。


「あぁ、ナイフですか、そちらに渡しましょう」


 そう言ってナイフを外し奥の台の方にそっと投げる。

 疲れたので座りたいのだが、雪が降っていたせいか、寒く感じる。


「少し寒いですね。温度を上げましょう」


 空調の魔具を操作して、少し温度を上げる。


「では、少し疲れているので、座らせてもらいますね」


 そう言って右側の台に腰をおろし、今後について話し出そうとするが、顔を見て話せない。仕方がないので、足元を見て話す。


「では、貴女方に対する要求ですが、特に無いのです。ただ、できれば貴女方が知る情報が欲しいです。それから、ポーションの対価も必要ないのですが、我々事を秘密にしていただければありがたいです。秘密と言っても、できるだけで良いです。絶対とは言いませんし、口封じ的な事もしないと約束します。どうでしょうか?」


「あの、女だけだからと、見ず知らずの者と対峙して無防備になるのはいかがなものかと思いますよ。それと、その条件ではこちらに有利すぎる気がして安心できません。私達は、特別な情報など持っていないのです」


 魔法使い的な美人さんが引き続き答えるが、困惑した雰囲気が伝わってくる。


「完全に無防備と言うわけではありません。俺も魔法は使えるので、多少は抵抗できます。それに、俺が死ねば貴女方も無事ではすまないでしょうから、そんな無意味な事にはならないと信じています。それから、情報の価値はそれぞれで違います。俺にとって、貴女方が知る一般的な情報は非常に価値があります。それと、ポーションですが、きちんと使いましたか?足りないなら追加で持ってきてもらう事も可能ですから、遠慮せずに使ってください。それに、我々の事をできるだけ秘密にしたいので、恩を売った方が長期間効果が続きそうと思っての行動です。それから、これ以上の要求はしないつもりです。貴女方を助ける時にある程度の情報漏れは覚悟しましたから、大丈夫ですよ」


「仰りたいことは分かりました。私達も恩を仇で返すつもりはありません。できるだけ協力します。それと、ポーションはとても助かりました。ありがたく使わせていただきました。それから、貴方が助けてくれなければ、ブラックベアーかゴブリンに殺されていました。改めて助けていだだきありがとうございました」


 そう言って立ち上がり、深々と頭を下げる。10代の子達も慌てて立ち上がり魔法使い的な人に倣う。台に寝ていた人も座ったままだが頭を下げた。


「いえ、こちらの都合で助けただけですし、運が良かったと思います。発見できたのは偶然でした。ですから、あまり気にしないで下さい。それより座って下さい」


「ありがとうございます。申し遅れましたが、私がルティリア・アストラーデと申します。奥に居るのが、妹のマリーディアで、こちらが私の娘で、長女レイシア、次女アムリス、三女クリスティアです」



 …………え?今なんて?娘?



「お、親子なんですか?5人姉妹とかでは無く?」


「はい。良く間違われますが、親子です」


「あの、旦那さんは……」


「三年前に亡くなりました」


「それは、失礼しました。お悔やみを申し上げます」


「いえ、もう三年前ですから、それに、家同士が決めた結婚だったので、元々仲も良くありませんでした。男を生めなかった私には興味が無い人でしたから……。すみません、関係ない話でしたね」


 魔法使い的な美人さんは、こんなに大きな子供が居るとは思えない若さだ。

 それに未亡人か。

 今は独身なのだろうが、子供を護る母親……なんだろうな。


 それにしても、家同士が決めた結婚か、本当にあるんだな。

 家同士でって事はこの人もそれなりの家の人って事になるのかな?

 そんな人がこんなところを馬車で?ますます分からなくなってきた。


「いえ、私も不躾な事を聞いてしまいました。すみません。まだ名乗ってませんでしたね。俺は広坪、広坪土倉です。ここからそう離れてない場所に住んでます。人と話すのも、名前を覚えるのも苦手です。ルティリアさんとマリーディアさんと……」


「レイシア、アムリス、クリスティアです。もしかして、ですが、聖堂院の方でしょうか?」


「レイシアちゃん、アムリスちゃん、クリスティアちゃんですね。本当に名前を覚えるのが苦手でして、忘れたら、申し訳ありません……。聖堂院ですが、聞いたこともありません。この辺りの事も知らないのです。この辺りの国や街、村などの話も聞きたいのです。聖堂院はこの辺りにあるのですか?」


「やはり、違いましたか。聖堂院は女性のみとの話だったので、違うとは思いましたが、この辺りには聖堂院しか無かったと思いましたので……。情報ですが、街から離れた事が無いので、その周辺ぐらいなら、お教えできると思います」


 女性しかいない聖堂院。修道院的なものなのかな?そして、女性しかいない場所の近くに女性のみの一行。駆け込み寺の様な役割もあるのかも……。


「情報はそれだけでも十分です。他にも話を聞かせたい人が居るので、後で聞きますね。それと、もしかして、ですが、この辺りに聖堂院しか無いなら、そこが目的地だったりするのでしょうか?」


「承知しました。目的地は確かに聖堂院ですが……」


「現在地からどのくらい離れてるか分かりますか?」


「ええ、大体ですが分かります。ブラックベアーに追われて東にそれてしまいましたが、馬車で2、3時間程度だと思います」



 馬車で2、3時間か……。20~40km程度ぐらいかな?そして、方角は北西~北北西ぐらいとなると……。山に近い場所になるな。下手をしたら、研究所と同じ様な場所が比較的に近い場所にあるかもしれないのか。

 確認しておきたいな。



「大体の場所は分かりましたが、どうしますか?」


「どうするとは?」


「あぁ、言葉が足りませんでしたね。我々が話を聞いた後に聖堂院なる場所に行くのですよね?馬車は車軸が折れていましたし、馬は逃げるのを確認しました。戻ってくるかもしれませんが、皆さんで移動となると徒歩になりますし、雪が降り始めましたか――」


「雪がもう降り始めたの?!」


 話を黙って聞いていた薄緑の弓使い、マリーディアさんが大きな声で驚いている。

 魔法使いなルティリアさんも困った顔をしている。


「ええ、俺がここに入る前には降り始めたのを確認しました。でも、すぐにやむかもしれませんよ?」


「駄目だ!今年の雪はいつもより早い!急いで移動しないと動けなくなる!」


「マリー、落ち着きなさい」


「でも!雪が本格的に降り始めたら移動が!」


「分かっています。ですが、今のままだと移動は難しいわ。馬車は使えない。となると、徒歩になるし、ここまでの旅で疲れてもいます。そんな状態でゴブリンが湧いたのですよ?街道も既に危険かもしれないのよ?マリーの弓も壊れてしまっているし、移動は雪の中を徒歩、疲労もあるし、荷物も運べない。とても移動は無理だわ。行けたとしても、食料も無しに受け入れてくれるかどうか……」


「それは、分かるけど……」


 彼女達の話を聞くと、ある程度の状況が分かってくる。


 そして、ルティリアさんが決意をした目で俺を見てくる。


「広坪様、私達を受け入れていただく事は可能でしょうか?」


「それは……。できる。できます。貴女達ぐらいなら十分に受け入れは可能です」


「私達を聖堂院に送っていただくことは可能でしょうか?」


「それは、かなり難しいです。我々はあまり拠点から離れられないのです。ここもギリギリの範囲に入ります。無理をすれば、もう少し行けると思いますが、それでも聖堂院があると思われる場所までは行けないでしょう。ですから、難しいです」


「難しいと、言うことは、可能性があるのでしょうか?」


「ありとは思います。ただ……」


 現状では、送って戻る事はできない。だが、技術的には可能な範囲だと思う。だが、それができるかどうかはアリストラさんにしか分からない。


「私で良ければ――」


「待ってください!渋っているのでは無く、本当に今は出来ないのです。ただ、技術的にはできるかもしれないのですが、俺ではそれを判断できないので、仲間に聞いてみないと分からないのです」


 ルティリアさんが何かを口走ろうとしたので、慌てて事情を説明する。


「そうですか、では、確認をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「もちろんです。可能な限り早く確認を取ります。それから、念のためにもう一度言っておきますが、追加の要求はしません。情報提供だけで十分です。それから、これほ余計な事かもしれませんが、貴女に不満があるとか思っている訳でも無いことは知っておいて下さい」


「ふふ、ありがとうございます」


 ルティリアさんを否定する様な事を言ってしまったので、勇気を振り絞って言ったが、本当に余計な事だったな。


 コミュニケーション能力が低いととんだ失敗をするな。

 けど、ルティリアさんの笑顔はとても魅力的だった。



 

注意

助けた5人の名前を変更する可能性があります。


未亡人母

ルティリア・アストラーデ

金髪

魔法使い


マリーディア・アストラーデ

薄緑の髪

狩人


長女

レイシア・アストラーデ

金髪


次女

アムリス・アストラーデ

栗色の髪


三女

クリスティア・アストラーデ

金髪


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