二年目のある日
俺が召喚されて一年が過ぎた。
この一年俺ははなかなかに充実した年を過ごしたと思う。
体力作りに武器と魔法の訓練に、ゴーレムと魔具の製作と改造をしていた。
そう言えば、俺の左目だが、半年ほどで再生が完了した。
魔眼開眼か?!と思ったが、至って普通の目だった。なにか変なものが見えたりもしなかった。
研究所 室内演習場
俺は今、武具を身に着け、三体の剣を装備した戦闘用メイドゴーレム改の試作機の攻撃を受けている。
一体が正面上段に構えた剣を降り下ろして来たので、後ろに下がり回避し、左からの来たもう一体の横薙ぎを左手の剣で受け、右からの突きを右手の盾で受けながら反時計回りに移動して三体同時の攻撃を受けないように移動しながら、訓練を継続する。
そして、終了のベルが鳴り、戦闘訓練が終了した。
俺は右手に盾、左手に剣を持ち戦闘をしている。
これには理由があり、俺は攻撃が不得意な防御型で、利き手の右手に剣を持つより、盾を持った方が便利だったのだ。
事実、ゴーレムによる戦闘訓練も右手に盾を持った方が強かった。
端的に言ってビビリなだけなのだが、それが分かってからは先程の様な防御重視の訓練を続けている。
今回は直径が20mほどの円の中で、3対1の生き残り戦だった。
ハーフプレートアーマーを着て囲まれないように移動しながら、攻撃を一時間しのぐ訓練だ。
最初の頃は鎧なんて着たことないので、四苦八苦してたのだが、人間は苦痛を伴うとなんとか出来る様になるのだと知った。
お陰で体力もついて万々歳なのだが、正直あの時の大精霊オシホ様は楽しんでいたと思う。
鎧に馴れはしたものの、今回はアリストラさんと大精霊オシホ様が共同開発した新型を三体相手で、非常に大変だった。
この戦闘用メイドゴーレム改の試作機は、熊事件の時の教訓を生かし、外に出た時様に開発された戦闘用メイドゴーレムの改良型の試作機だ。
以前の物より速さとパワーが上がっていて、何度か囲まれそうになって危なかった。
訓練だけでは無く、ゴブリン相手だが実戦も経験した。
問題点が改善された同期型ゴーレムによる戦闘、搭乗型ゴーレムに乗って戦闘、そして、生身で防具を着けて戦闘をした。
ただ、搭乗型と生身の時は護衛戦力が過剰だった。
たったゴブリン4、5体相手にするだけなのに、新型の戦闘用ゴーレムが投入され、直近に10体、周囲を囲む様に40体の完全警護のもと実戦を経験した。
この護衛に使われた新型の戦闘用ゴーレムだが、俺も改良に参加しており、1体でゴブリン100体を一瞬で殲滅できる性能になっている。
ちなみに、この戦闘は南にある出入り口付近で行われた。
南は熊事件があり、敬遠されてたのだが、熊の縄張りが南西に移動した事と、北側に重大な危険が判明したため南で実戦が行われた。
北側の危険は、出入り口から東へ行ったところで観測されたドラゴンだ。
調査の結果、北側はドラゴンの狩り場が近いと分かったので、完全閉鎖され、さらに、防壁を増設し、通路も何重にも封鎖してある。
俺も同期型ゴーレムで遠目に見させてもらった。
黒い西洋竜だった。
見たときは超感動した。
遠くて大きさは良く分からなかったのだが、それでもとても大きく感じた。
ブレスを吐くところは見れなかったが、飛んでる姿はキレイで、ホバリングもしてた。
あれが空で止まってるのはなかなか不思議な光景だった。
そして、現在対ドラゴン用の武器や防具、ゴーレムと兵装の開発が行われている。
性能はドラゴンを単独撃破か単独で逃走できる事を目標にしている。
ドラゴンが最強生物であるらしく、その性能の話を聞くと、ちょっと無理な目標な気がするが、大精霊様とメイドさんは嬉々として開発に取り組んでいる。
俺は戦闘訓練を終え、装備をメイドさんに任せて、シャワーを浴びて昼食だ。
昼食はもうお馴染みのサンドイッチとスープになる。
サンドイッチは好物のタマゴサンドなのだが、これがけっこう貴重だったりする。
この施設には大量の食料や物資が貯蔵されているのだが、卵が比較的に少ない。
昔は鶏的なのを飼育していて、卵も取れていたのだが、長期休眠前に全て潰したそうだ。
量的には十分あるので、好きに食べてるのだが、お菓子とかにも使っちゃうので、消費量が多いので気になってしまう。
鶏的なのを入手するには、街にでも行かないといけないといけないのだが、外部の人類と接触を一切していないので、入手は実質的に不可能だ。
となるとだ……鶏的なのを捕まえるしかないか。
何処に居るんだろうか?
鶏的なのに拘らずに、卵を産む別の鳥をゲットするか……。
まぁ、今後のサブ目標ぐらいな気持ちで探そう。ついでに牛乳的なのも作れるヤツも探そう。
そんな事を考えながら昼食を終え、午後からは魔具かポーションの作成なので、今日はポーションを作る。
ポーション作りはこの施設に元々あった物を使って作っている。
何故、そんな物が魔方陣研究所だったここにあるのか、それは、ポーション作成に魔方陣を使用した道具を使うからだ。
他にも、魔方陣を使用して制作するような物を作ることができ、その最たる物が魔玉だ。
魔玉は、魔核を錬成して作成するのだが、その錬成に魔方陣を使いう。
さらに、この研究所では、その魔核を人工的に作る事が出来るのだが、それにも魔方陣を使っている。
そして、その玉に魔方陣を刻んだり、魔法を込めたりしてゴーレムや魔具にしている。
つまり、物を作る魔方陣の研究もしており、その性能テストも兼ねた生産施設があるのだ。
俺は魔方陣の刻まれた台に自分で採集した薬草を皿に入れて乗せ、魔力を流す。
この魔方陣は魔力の流しかたで、同じ薬草なのに効能を変えることができる。
今回作っているのは、濃縮ポーションだ。
濃縮ポーションは文字通り、濃縮したポーションなのだが、持ち運びや保管に便利なので、濃縮されている。
10倍ほどに濃縮されていて、一本で十本分になり、飲む時は10倍に希釈する必要がある。
もし、そのまま飲むと、ひどい頭痛や吐き気に見舞われ、最悪死ぬ事もあるので、保存する容器も普通の物とは違うものになっている。
薬も過ぎれば毒だ。
難易度がそれなりに高い物を使用しているが、これも魔力操作の訓練になっている。
皿の上の薬草が粉になり、魔力水と呼ばれる物を規定量入れ、更に魔方陣に魔力を流す。
この、魔力水も魔方陣と魔核を使用して作られていて、一時的に魔力水に過充填してあるものだ。
魔力を魔方陣に流していると、魔力水に薬草が完全に溶けて無くなり、更に魔力を流すと、魔力水が光を放ち出せば完成だ。
できたものを容器に入れて保管する。
なんだかんだで、一時間近く魔力操作をしていたので、精神的に疲れた。
お茶を飲みながら休憩をして、このあと新型の搭乗型ゴーレムの演習場内での搭乗テストが待ってる。
搭乗型ゴーレムは、同期型ゴーレムの問題が改善される前に代替案として俺が提案したゴーレムだ。
胴体内に人を格納して、ゴーレムを中から操縦するロマンに走った仕様になっている。
人が乗るので、体高は3mほどになっているが、同程度のゴーレムに比べ、前後左右に少し厚くなっている。
防御性能を向上させるためだ。
そして、搭乗は背中からになっている。
この搭乗テストに問題が無ければ、フル装備で野外活動になる。
この新型は3代目で、前の物に比べ、手の細かい操作が出来き、関節回りなども改善され、技巧派な機体になっている。
この機体で問題なければ、他のゴーレムにも採用される手筈になっているのだが、前の搭乗テストの時はかなり良い具合だった。
去年はもう少ししたら雪が降り始め、あっという間に積もってしまったので、雪が無い状態でのテストを終わらせておかないといけない。
この技巧派ゴーレムがテストする最後のゴーレムなのだが、雪が降るまでどのぐらいか分からないので、野外でのテストが何回出来るか分からない。
例年通りならもう少し先だろうとの話だが、その例年が去年と千年近く前なので、あてにならない。
まぁ、なんとかなるだろう。
雪が降れば雪上装備のテストが待ってる。
去年開発が間に合わず、雪上でのテストができなかったので、けっこうな数がある。
だが、夏の暑さ対策が万全にされたので、それの応用で寒さ対策はかなりの物になってると思うので、それほど苦にはならないと思いたい。
ただ、人間が俺しか居ないからって、最終テストを全て投げてくるのはもうやめて欲しい所だが、俺のためだと言われたら強く言えないし、俺も意見を言って暴走の原因を作ってしまってるので、あまり文句も言えない。
それに、別に売り出したりするものでもないし、自分で使うだけだと思うと自重する気にならないので、余計に暴走が加速してしまうので、あまり研究区画には近寄らない様にしている。
室内演習に来た。
今回相手にするのは精霊様の操るゴーレムだ。
そう、大精霊様では無く、精霊様なのだ。
研究が楽しくなったオシホ様は、アリストラさんが護衛に出ると研究が止まってしまうので、普通の精霊様を呼んで俺の護衛にしたのだ。
しかも三人?三精霊?まぁ三体呼んだのだ。
名前をつけろと言われましたが、ホイホイ出てこなかった俺は『アイン』『ツヴァイ』『ドライ』なんてどうでしょうと提案し、見事採用されてしまった。
そして、精霊トリオは呼び捨てで呼ぶように、オシホ様に強要された。
俺は、静かに従う。
大精霊オシホ様と精霊トリオの皆さんは、アリスさんと同型のメイドゴーレムになっていたりする。
勿論、コアは特製の物になっているが、ゴーレムの体自体は、メイドゴーレムと変わらず、そして同じ仮面を着けて、同じメイド服も着ているので、見分けがつかなかった。
なので、髪型を変えた。
アリスさんが、金髪ロング
オシホ様が、茶髪のミドル
アインが、茶髪のショート
ツヴァイが、茶髪のポニーテール
ドライが、茶髪のツインテール
と、なっている。
これで見分けがつくようになった。
そして、声もそれぞれで違う。
当初は、オシホ様がアリスさんの発声魔具を使っていたので、同じ声だったが、喋り方で区別が出来たが、この際だからと、精霊の皆さんが変えた。
声の変更は、発声魔具の調整で簡単にできたので、これで皆を間違える事は無くなった。
それよりも衝撃的な事実が判明したのだ。
この研究所は完全自立ゴーレムの作成を一つの重大な目標にしていて、それを作るのに多くの労力が割かれ、ゴーレムの開発が大きく進んでいたのだが、完全自立したゴーレム作成は出来ていなかったのだ。
完全自立ゴーレムは、ゴーレム製作時に希に作れる究極のゴーレムとされている。
魔核を使って作ったゴーレムのみに、希に製作出来るとの事で、ここでも魔核を使ったゴーレムが多く研究されていたのだが、その完全自立ゴーレムというのは、実は精霊様がゴーレムのコアに偶然入って出れなくなった状態の事で、普通には絶対に出来ないスペシャルなものだったのだ。
それを聞いた時のアリストラさんは、ゴーレムなのに茫然自失を良く体現していた。
ただ、その完全自立ゴーレムは、普通に使われるゴーレムのコアでは、精霊には小さく、その力を十全に発揮できるものではないので、精霊は休眠状態でゴーレムの中に居たのだが、他のゴーレムに比べたら格段の性能を発揮していたのだ。
つまり、何が言いたいかと言うと、魔核を生成できて、魔核を大量に使って大きなコアを作れ、精霊様に命令出来る大精霊様が居るということは、完全自立ゴーレムを上回る精霊ゴーレムを好きなだけ作れちゃったりする。
しかも、その精霊ゴーレムは普通のゴーレムを手足のように100体使えて、ちょっとした軍隊になってる。
それが、三体居る。
そして、俺専属の護衛だったりする。
俺はそこそこな強さになったと思うが、回りはまさにチート的な強さになっちゃってる。
ま、まぁ、この危険な世界でこれほどの護衛はなかなか居ないので、安心して活動できるので、良かったと思うことにする。
三精霊の皆様の性格も穏やかで、特に問題になっていないのだが、大精霊様より丁寧な扱いになってしまうので、大精霊様がちょっとお怒り気味なのだけが、心配事だ。
そして、その精霊様の操るゴーレムとの戦闘だが、精霊ゴーレムではなく、手足の方のゴーレムだ。
普通のゴーレムなのだが、精霊様の指揮下になるととても強くなり、油断すると簡単に負けてしまうので、気合いを入れて当たる。
ちなみに、精霊ゴーレムとの戦闘になると、ボコボコにされるだけの戦闘しか出来ていない。
このテストの後にフルメンテなので、思いっきりぶつかり、惜しくも負けた。
決定力に欠ける俺なので、長期戦になり、集中力が切れて終わった。
性能的には問題無いので、明日は野外でテストだ。
風呂に入り、夕食の時に皆で報告をして、解散となった。
俺は自分の部屋に戻ったが、まだ最初の部屋のままで、今は寝室の机に簡単な魔具を作る道具が乗っている。
寝るまでの時間に趣味で簡単な魔具を作って過ごしている。
材料は俺が倒したゴブリンの小さな魔石だ。
魔方陣の勉強は難しすぎて初歩で止まってるが、それでも色々作れるので、なかなか良い趣味になっている。
そして、眠くなったら寝る。
ベッドの中で思う。
俺は今とても楽しい時間の中に居る。
アリストラさんも大精霊のオシホ様も精霊トリオとも悪くない関係になっている。
俺が皆の力にどれくらいなれてるかは分からないが、皆が俺の力になろうとしてくれてるし、強くなれてる実感があり、毎日がとても楽しく感じている。
けど、俺は死ぬ。
いずれ確実に……。
そうなると、大精霊様も精霊トリオも居なくなる。
そして、アリストラさんはまた一人だ。
それを回避するには、後継者が居れば良いのだ。
いずれは人を探さないといけない。
アリストラさんのために、人が必要だ。
いずれ、皆に相談しないといけない。
そうすると、雰囲気が暗くなるかもしれない。
今はまだ、この楽しい時間を過ごしていたい。
……早く寝よう。明日は朝から野外活動だ。