精霊
俺は目を覚ました。
見覚えのある部屋だ。
……そうか、熊にやられたんだった。
起き上がり体を確かめる。右腕はあるし、腰や腹も大丈夫。
首と顔も確かめるが、左目以外は大丈夫そうだ
ただ、服がまたガウン的な物になっている。
翻訳の魔具は……机の上にあるな。
魔具を回収し、首から下げてアリスさんを探そうとしたら、扉がノックされる。
コンコン
「どうぞ」
扉を開けてアリスさんが入ってくる。
「おはようございます。お気分は大丈夫ですか?お体の方も異常は無いはずですが、違和感はありますか?」
アリストラさんは入ってくるなり一気に捲し立ててきた。
「だ、大丈夫です。特に異常も違和感もありません」
「それは良かったです……。この度は、試作ゴーレムが広坪様に多大なご迷惑をおかけしました!誠に申し訳ありません!」
と、勢い良く頭を下げてきた。
「いやいや、あれは俺が使いたいと言って使わせてもらったんですから、アリスさんに非はありませんよ。それに、俺が発見される原因を作ったんですし、全て俺が悪いですから気にしないで下さい。それより、俺がご迷惑をおかけしたみたいで申し訳ありません」
「いえ、広坪様は悪くありません。同期して間もないのに、森の様な足元が悪い所だったので、もっと距離を取るべきでしたし、護衛を随伴すべきでした。そしてなにより、試作ゴーレムにあの様な問題があるとは……もっと慎重に事を進めるべきでした。申し訳ありません」
「試作ゴーレムの使用は俺がお願いしたことなので、これ以上は気にしないで下さい。森の散策も俺から言い出した事ですし、準備不足はあったと思いますが、俺の責任です。アリストラさんは良くしてくれて感謝しています。それより、ゴーレムですが、壊れてしまったんですよね……。所長さん達が作った物なのに申し訳ありません」
「準備不足は私に責任があります。以後準備に怠りが無いよう最善を尽くします。ゴーレムですが、破損は酷いですが、重要な所は無傷でしたので、すぐに復元出来ます。それに、破損した本体は私が作成したような物です。そして、所長達が作った物を壊した事を気にする必要はありません。物はいずれ壊れますし、使ってこそ意味があるのです。魔方陣タイプの魔具なら私でも作れますから、どんどん使って壊して下さい!」
「いやいや、そんな雑に使うつもりはないので、そんなに壊れないと……思いたいです。俺が大分悪い気がしますが、今回の事は今後に生かすとして、お互い足りなかったって事で終わりにしましょう。それで、あの後どうなったんですか?」
俺が意識を失ってからの事を聞いた。
熊だが、俺の異常を察知したアリスさんは俺が同期したゴーレムを庇おうとするも、俺は頭を飛ばされ意識を失い、近付いたアリスさんも熊に弾き飛ばされダウン。
その後すぐに戦闘用ゴーレムが3体駆けつけ、熊と戦闘で一体が中破したものの、撃退に成功し、その後作業用ゴーレムによりアリスさんと俺のゴーレムが回収されたそうだ。
そして、俺だが、痛みで叫び声を上げ、ゴーレムの頭が無くなった事によって意識を失い、同期も強制解除されたそうだ。
あのまま痛みを感じ続けていたら何らかの後遺症が残った可能性があり、ゴーレムの頭が無くなった事による意識消失と同期解除は不幸中の幸いだったそうだ。
そして、俺が気を失って一日近く寝ていて、現在昼前だそうだ。
一応服についても質問したのだが、だだ漏れだったみたい。
俺はあの熊より深いダメージを負い、アリスさんに再び謝った。
そこで、アリスさんは何やら言いにくそうにしていた。
もしかして、俺の体が何か変だったのか、異世界の人とは違う何かを、いや、男として……。とにかく、聞こう。
「あの、俺の体に何か、ありましたか?」
「いえ、その、お体に異常は……無くは無いと思うのですが……」
「今後の参考にもなると思うので、ハッキリ言ってもらって大丈夫です!」
「では、広坪様が意識を失った直後の事です。同期型ゴーレムの失敗作である一号が起動しまして、原因を調べたのですが、何かが同期しているみたいでして……。どうやら同期してるのは精霊らしく、しかも、広坪様と融合状態にある精霊の可能性が非常に高いとの思われます」
俺の身体的な事じゃなかったのか。
それにしても、精霊がゴーレムと同期?……それは、非常に不味いのでは?
「そのゴーレムは今どうしてますか?」
「意志疎通が図れたので、整備区画に拘束されたまま待機してもらってます。広坪様が気付かれたのも精霊が教えてくれました。敵対的では無くてひと安心です」
「意志疎通が出来たのですか?喋るか、筆談でもしたのですか?」
「いえ、文字はわからないみたいでしたが、こちらの言葉が分かる様だったので、身振り手振りで意志疎通ができました」
「そうですか、どのぐらい情報が集まりましたか?」
「まず、広坪様と融合状態にある精霊であること、土の精霊だということ、敵対や破壊ではなく対話の意思があることぐらいです」
「あまり進展は無さそうですね。ですが、敵対ではなく対話ができるのは良かったです。早速会いに行きましょうか」
「いえ、お昼ですし、お食事をなさってから向かわれた方がじっくりと話せると思います」
「そうだね。じゃあ食事と着替えをお願いします」
「着替えはそこに準備できております。お食事はすぐにご用意しますので、着替えてからテーブルの方へお願いいたします」
「了解です」
アリスさんが出て行き、机に用意されていた服に着替える。前と変わらず真っ黒だ。
テーブルに行くと既に食事が用意されていて、前回同様コーン的なスープと肉と野菜のサンドイッチだ。
お昼の定番なのかな?
食事に満足した俺は一応クリーンでキレイにしてから精霊の元へ向かった。
整備区画に到着した。そこには、鎖に吊るされ俺に手を振る試作一号とメイドゴーレム、防御型ゴーレムが3体と汎用型ゴーレムが2体が待機してた。
防御型と汎用型は護衛か。
一号は俺に軽く手を振ってるので、振り返してみたら、なんだかテンションが上がったように見える。
す、好かれてるのか?まぁ、悪い印象では無い。
とりあえず精霊に声をかけてみる。
「こんにちは精霊さん、俺は土倉 広坪です。あなたと融合してると思うのですが、合ってますか?」
俺の声に反応して、頷きながら右手を上げる。
「右手は肯定の合図です。左手が否定で、両手で不明です」
なるほど、定番だな。
それから質問を重ねた。
融合を安全に解除は可能か?
否定
融合の危険な解除は可能か?
肯定の後に否定
融合の危険な解除は可能だが、やりたくない?
肯定
危険なのは精霊さんですか?
否定
危険なのは俺?
肯定
俺のためにしたくない?
肯定
危険は死ぬほど?
肯定
俺のために融合の解除をしないで居てくれてる?
肯定
俺が異世界人だから守ってくれてる?
否定
(俺にリスクがある融合解除、精霊は俺のために解除しない。何故だ?理由が全くわからん。俺は魔法の適性が水特化型だったみたいだし、土の精霊と特別相性が良いとは思えない。あの適性は土の精霊の影響が高いハズだし……。まぁいい、今後の事だ)
それから質問を重ねた。
ここに留まり、俺達に危害を加える意思はなく、何か目的があるわけでは無い。
何となく好かれてるのだが、好かれた理由は分からなかった。
ただ、精霊は俺が目覚めた後も休眠状態にあり、目覚めたのはゴーレムとの同期が解除される前、つまり、俺が痛みを強く感じたのがきっかけの可能性か高いみたいだ。そして、同期をするのに使っていた魔具を通じて一号と同期をして、今という事だそうだ。
肯定と否定と不明では質問の仕方が重要なのだが、俺の頭とコミュ力ではこれ以上の事は聞き出せそうも無い。
なんとかならないものだろうか……と考えていると、お茶を用意しているアリスさんが目に入る。
……喋るゴーレムが目の前に居るじゃないか!
それからアリスさんに話し、大破したメイドゴーレムの発声部分を精霊ゴーレムに装着させようとしたのだが、精霊さんに奪われた……というか、手を差し出して来たので、渡してみたらそれだけで話せた。
そして、アリスさんと同じ声で喋りだした。
「あーあー、土倉広坪聞こえておるか?」
「あ、はい、聞こえています。精霊さん……ですか?」
な、なんか、態度が大きい気が……。
「そうじゃ、おぬし達が言う所の土の大精霊と言うやつじゃ」
ん?……今大精霊って言わなかったか?
隣のアリスさんを見るが、完全に止まってるな。つついてみるが、全く反応しない。
大精霊って、おとぎ話に出てくる様な存在で、怒らせた国が滅んで、砂漠になったとかなんとかいう、あの大精霊ですか。
超レアな存在ですな。
………いかん、思考が止まりそうだ。何か喋らなければ……。
「大精霊、様でしたか。あの、大精霊様は国を滅ぼして砂漠にしちゃったりした、あの大精霊様でしょうか?」
「それは水のじゃの、ワシでは無い。それにあれは砂漠を緑にしたいのをやめただけじゃったと思うが、昔のこと過ぎてこれ以上は覚えておらんな」
「そ、そうでしたか、失礼しました。あの、それでですね。大精霊様が同期してるゴーレムを降ろしたいのですが、操作出来る者が固まってしまいまして、今しばらくそのまま居てもらってよろしいでしょうか?」
「うむ、よいぞ。それより、お主はワシに質問があるのではないか?」
「はい。ですがまず、大精霊様がどの程度事情を知っているのかお聞かせ願いないでしょうか?」
「うむ。お主が異なる世界から来たこと、わしが死にかけのお主と地脈内でぶつかり、融合してしまっていること、そして、昨日お主が死を感じた故に休眠状態のわしが目覚め、近くにあった人形を支配下に置いて、今じゃの。そして、先程の質問じゃがの、融合の解除ではなく、分離という形になると思うが、融合を解除する事はできる。だが、お主の魂がそれに耐えられぬ。よって、危険故分離はせぬぞ!」
大精霊様が語気を強め、しないと言う。
これは理由を聞かねば。
「大体は知っているのですね。融合の解除ですが、私に危険があるから解除しないとのことですが、私としては非常にありがたいです。ですが、その、何故でしょうか?大精霊様からみれば自由になれますのに、それをしない理由が知りたく思うのですが、よろしいでしょうか?」
「そうじゃの……。ワシが特にする事が無くて暇じゃからお主に付き合いたい。それでは駄目かの?それに、一度お主を殺しかけてるしの、その償いにお主が死ぬまで付き合うのも悪くないかと思うておる」
「殺しかけてるとは、融合当初に傷を治そうとしたことで死にそうになった事でしょうか?」
「そうじゃ、あれはわしが迂闊じゃた。すまぬ」
「いえいえ!助けてくれようとしたのですよね?感謝こそしますが、恨んだりしません。大精霊様がなにもしなくても死にそうにだったのです。助けようとしてくれたお心に感謝します。ありがとうございました」
「うむ。そう言ってくれると助かる。しかし、融合の件もわしが悪かったしの、しばらくは付き合おうと思うておる。左目や細かい所の再生が終われば魔力の消費も収まるからの、そうなれば、ある程度自由に動けるはずじゃ」
今気になる発言がいくつかありましたな!
「融合は私が魂でぶつかったのが原因では?それに左目治るのですか?」
「左目は、治るというか、新しく作っておる。水の程じゃないが、良いのが作れておる。それに他の細かい所も再生が必要な所がある。それもワシが原因なのじゃが、お主を強くしてるとも言える故今しばらく我慢してほしいのじゃ。融合したのはそうなのじゃが、本来ならぶつかるのを回避できたのじゃ、あの時わしはこの場所に気をとられておっての、珍しい場所じゃし、封印されておるようすじゃだたから、集中して見ておったら回避できなんだ。すまぬの」
なるほど、大精霊様と事故ったのは、大精霊様が俺の召喚の終着点で余所見をしていたからだったのか。
「そうだったのですか、ですが、融合したからこそ左目が治るのですし、私としては非常に助かります。大精霊様には重ねて感謝申し上げます。ただ、それより一つ気になる事がありまして大精霊様は特別なお役目があり、特別な地に住むと聞いたのですが、先程『特にする事が無い』と仰っていましたが、ここにと言うか、私と居ても良いのでしょうか?」
「すまぬの、左目は必ず治す。それから、役目は確かにあった。だがの、今はもう無いのじゃ、よってわしは暇なのじゃ。人一人の人生に付き合うぐらいあっという間じゃ、お主は気にせずとも良い。それに、面白い物もここにはあるしの」
そう言ってアリスさんを見る。
見られたアリスさんはようやく再起動したらしく慌て出す。
「はっ!も、ももももも申し訳ありません!全て私の責任です!広坪様を召喚したのも私でして、広坪様に罪はありません!罰するなら私のみでお願いいたします!」
と、言いながら膝を突く。
「ふむ。まずはこの鎖を外してからじゃの、それから罰しようぞ」
アリスさんが大精霊ゴーレムを外そうと動くが、俺は慌ててそれを止める。
「お待ち下さい!全ての責任がこの者にあるとは言えません!何卒ご容赦のほどをお願いしたく!」
「大丈夫じゃ分かっておる。だから鎖を外させるのじゃ」
「……承知しました。アリスさんお願いします」
「は、はい。広坪様庇って頂きありがとうございました」
アリストラさんの操作で大精霊を下ろし、鎖を解く。
「それではそこのメイドに罰を与える。てい!」
大精霊様はそう言って発声魔具を持たぬ方の左手でメイドゴーレムを軽くチョップする。
「それで、罰は終わりじゃ。本来ならこの地ごと潰してもいいのじゃが、わしが暇で、さらにここを気に入り、土倉広坪の願い故これで済ます。まぁ、お主に悪気が無いのは分かるしの。ワシは人が少ない所でゆっくりしたいのじゃ、しばらくわしの面倒もみよ。良いな?」
「はい!ありがとうございます!精一杯おもてなしさせていただきます!」
「大精霊様、寛大な処置ありがとうございます。これからは同居人ですね。よろしくお願いいたします」
「うむ。よろしく頼むのじゃ!まぁ、食べたり飲んだりせぬから、たまに相手してくれれば良いぞ。そうじゃ!人には名前があったの、わしには無いから名をつけてくれ広坪!」
「名前ですか?!か、考えてみます。ところで、私は大精霊様に気に入られてる気がするのですが、何故でしょうか?もしかして気のせいだったりするのでしょうか?」
「そうじゃの、精霊達は人と契約して力を貸す事があるのじゃが、大精霊ともなると、まず無い。じゃが、今は契約どころか融合状態じゃし、初めて人との直接的な関わりじゃからな、愛着もわくと言うものじゃ、しかも悪意があまり見られぬし、相性も悪くないからの。なかなかの逸材じゃぞ?それより、良い名を頼むぞ!」
「わ、わかりました!」
名前か……。土の大精霊。
確かアマテラスの子でアメノオシホミミってのがいるっておじいちゃんに何度か聞いて印象に残ってたな。豊穣系の神様だったかな?曖昧にしか覚えてないな。
オシホとかどうだろうか?
「あの、オシホとかどうでしょうか?」
「ふむ、まぁまぁかの、じゃがそれで良いぞ。今日からわしの事はオシホと呼ぶが良い!」
「はい。オシホ様よろしくお願いいたします」
「よ、よろしくお願いいたします。オシホ様」
こうして大精霊のオシホ様が仲間になった。




