村人の受け入れ準備
研究所
俺達は、村人受け入れのために、研究所に戻ってきた。
ステラさんには、眠ってもらって研究所まで連れてきた。
聖堂院に残すことも考えたが、これから慌ただしくなる聖堂院に置いておくよりは、多少眠りのバランスが一時的に崩れるが、早々に研究所に戻した方が良いと判断したからだ。
聖堂院を経由して戻ったので、聖堂院に待機していたツヴァイの部下扱いになっているシグマとタウをツヴァイの増援に向かわせ、聖堂院はベータに任せた。
そして、ガンマとデルタを呼び戻す様に伝言を伝えた。
村に戦力を維持したまま交代させるためとは言え、面倒だ。
通信機でも開発出来ないだろうか……?
モールス信号とまで言わなくても、何らかの意思疏通ができる信号パターンを作った方が良いのだろうか?
落ち着いたら考えよう。
研究所に戻った俺達は、報告を行い、ルティ達が村人を助けれた事を喜んだ。
その後は、方針を伝え、村人を受け入れるための準備に入った。
聖堂院はまだ宿屋が二つと倉庫が三つしか無い。
なので、800人程の村人を受け入れる為には、建物が全く足りない。
村人が暮らせる建物が必要なので、これはオシホ様に任せる事にした。
建てる建物としては、仮設住宅や集合住宅をイメージした物を伝えた。
そして、アリスさんには、土魔法で作れ無い扉やその他雑貨等を準備してもらう。
これでなんとかなるだろう。
次にアルファだ。
アルファには、今帰還中のガンマとデルタと共に戦闘用ゴーレムと作業用ゴーレムを率いさせて、メイダ村の有志を連れて物資を回収してもらう。
メイダ村の人達の話では、避難できる最低限の物しか運び出せなかった、との事だったので、俺達の村人受け入れの準備中に、村へ荷物を回収しに行ってもらうつもりだ。
全員は迎えないので、人数は少なくなるが、荷物を運ぶための人手や労働力は、作業用ゴーレムが代行できるだろう。
最後にドライだ。
ドライには、ファイとオメガと共に、遠征用のゴーレムを率いて偵察に出てもらう。
オークの驚異はまだ残っている可能性があり、森の中などは監視所からでは発見が難しい。
なので、しばらくは直接の偵察に出てもらう。
これで、指示は出し終わった。
俺はというと、自室のベッドの上に居る。
研究所はアインが待機するので、戦力的には大丈夫だし、他は俺が居なくても大丈夫、と言うか、待機するように言われてしまっていた。
新精霊達が来たお陰で、各所に十分な戦力を置きながら、様々な行動がとれる様になった。
新精霊達が居なかったら、これほどの行動を安全に行う事は出来なかっただろう。
場合によっては、研究所をアリスさんに任せて、オシホ様と精霊トリオを総動員しなければならなかっただろうし、十全な行動が取れなかったハズだ。
特に護衛や偵察だ。
戦力的には精霊の一人と、戦闘用のゴーレムがあれば十分だが、護衛では話を聞ける人数が多い方が安心を与えられ、偵察ではより広くを索敵できる。
こればかりは、人数が多い方が良い。
という訳で、俺は研究所で待機を……、いや、俺にもやることがあった。
保護している女性達への説明だ。
研究所はしばらく警戒体制を維持するし、聖堂院は避難してくる村人を受け入れる。
これらの事を説明するなら、責任者である俺がすべきだ。
すぐにこの事をオシホ様達に伝え、俺も明日聖堂院に向かう事になり、研究所の皆には今日は遅いので、明日ここを出発する前に伝える事になった。
ただし、オシホ様は準備ができ次第聖堂院へ向かい、夜間も作業をする事になっている。
翌日、早朝に研究所で保護している女性と少女達に事情を説明した。
少女達の何人かは反応が鈍い。
ステラさんから聞いていたのだろう。
保護女性達は、またか。そんな感じだった。
カティを始め、ルティ達とも交流をしているので、色々と話を聞いているのだろう。
聖堂院
研究所に居る人達には説明が終わったので、朝食を食べてから聖堂院へ向かった。
聖堂院では、既にオシホ様が住宅の形を作り終えていた。
住宅は、室内が縦横10m高さ3程の箱だ。
壁の厚さが1m近くあるので、外見は縦横12m高さ4mになる。
この部屋が一列5戸が二列くっついた塊が21あり、全部で210戸用意してある。
既に扉が取り付けてはあったが、中身はまだまだだ。
村の住人は400人程、一家族平均4人として、100戸分で、それが二村分、10戸は予備だ。
部屋が大きいだけのワンルーム仕様になっているのは、後でそれぞれの家族に合わせて変更できる様にだ。
勿論、すぐには対応ができないので、臨時で仕切れる物を用意はしてある。
後は灯りとトイレ、空調を完備させ、台所は共同の物も用意してあるが、希望が個別であれは後付けする。
風呂は共同の物を用意する予定だ。
ベッドやその他の家具は、予備がかなりあるので、それを持ってくればなんとかなる。
それから、洗濯物を屋根、屋上に干せるようにする予定でもある。
オシホ様の魔法とは言え、トイレのための下水に空調の整備でかなり時間がかかったみたいだ。
俺が来たことで、オシホ様は作業を中断して、聖堂院に居る人達へ説明する俺の護衛に就いてくれた。
聖堂院を任せているベータも、聖堂院で保護している女性達を集めてから、オシホ様同様に俺の護衛に就いた。
「皆さんに集まってもらったのは、ヤハナリ村とメイダ村の村人を聖堂院で保護する事にしたからです」
保護女性達は、多少ざわめく。
「保護理由は、この辺りにオークの大規模な接近が確認され、村に退避勧告が出て、二つの村が我々に保護を求めたからです。メイダ村は実際に襲われ、我々の到着が遅れていれば、全滅していたでしょう」
オークの襲撃に、村の全滅の危機、これを知って皆が真剣な顔になる。
「それに、聖堂院と言っても、第二防壁の内側で、です。なので、皆さんには第二防壁の側へは出ないように注意してください。出るな、とは言いませんが、自己責任でお願いします。それから、村人を第一防壁内に勝手に入れない様に願います。もし違反したら、追放か軟禁の処置をします」
追放と軟禁の言葉に、何人かが反応する。
「それから、もしオークの襲撃がここにあった場合、村人を第一防壁の内側に緊急避難させる場合がありますが、その場合は我々が誘導しますし、皆さんには聖堂院の内部で待機してもらいます。なので、勝手な行動は慎んでください」
ついでなので、保護女性達に注意と提案をしておく。
「一応、改めて注意しておきますが、俺の事を非難するのは構いませんが、暗殺や殺人、そういった犯罪行為に出た場合も、同じように追放か軟禁になります。ここを出て行きたい人は、申し出てください。今なら避難民に紛れて通過する事も可能かも知れません。馬に馬車、当座の資金、食糧等必要な物を渡しますよ?」
また、彼女達の中の一部で、で俺への不満や非難の声が高まっているので、釘を差し、早期離脱を呼び掛ける。
早期離脱は、嫌味では無く、今なら高確率でこの地域を抜ける事ができるので、オススメなのだ。
彼女達の訓練もそれなりになり、旅に耐えられるだけの体力はあるハズだ。
「……」
保護女性達にこれといって反応が無い。
「ここでは言い難そうなので、希望者がいれば、オシホ様かこのベータに申し出てください。他の人も早期離脱を妨げない様にお願いします」
危険分子が出ていってくれるなら、それは有り難い。
「それから、離脱するなら南は危険なので止めておいた方が良いでしょう。行くなら西です。王国の魔境侵攻が失敗し、こちら側にも流れてきているみたいです。今なら、西にまっすぐ向かえば、オークから逃れる事ができるでしょう。それから他の地域へ向かえば、他国へ向かうことができるハズです。ただ、オークは北へ向かっている様子なので、離脱するはなら早い方が良いですよ?」
用件は以上なので、話を聞いている切り上げよう。
「話は以上です。離脱は軟禁している人にも伝えてあげてください。それでは、解散してください」
保護女性達を解散させ、第一防壁を出て仮設住宅がある場所まで進む。
「良いのか?既に何名かは処罰てきるのじゃが?」
「構いません。彼女達では、ルティ達を害せませんし、俺はオシホ様達が守ってくれますからね」
「まぁ、そうじゃな。だが、油断はするな。絶対は無いのじゃ」
「了解です」
「それで、お主はどうする?もう帰るか?」
「いえ、荷物運びぐらいはできるので、手伝います」
「そうか、まぁ、良かろう。ならば、必要な物を部屋に置いていってくれ」
「了解です」
俺は、作業用ゴーレム3体指揮下に置きながら、荷物を各部屋に運んだ。
ゴーレムは、俺でも数体なら操る事ができるので、ゴーレムに荷物を運ばせ、俺が必要な物を置く。
灯り用の魔具を五つ、それらを繋ぐコード、便座、空調用の魔具等だ。
それらを先に各部屋に置く事で、作業の効率化をした。
べーも手伝ったので、昼前には全ての部屋にトイレと灯り、空調を完備させる事が出来た。
後は共同の風呂場、銭湯と共同の調理場をいくつか用意して、家具を運び込む準備をすれは、受け入れの準備は完了だ。
家具が運び込む準備だけなのは、必要個数も違うだろうから、後で必要個数を聞いてから運び入れる為だ。
そういえば、食糧も必要か。
村は小麦の収穫を終えているし、今年は収穫が例年並みにあったそうなので、食糧には困らないが、他にも色々とあった方が良いので、商人用に用意した倉庫の空きに、多少野菜や果物を入れておこう。
15時過ぎには、全ての作業が完了した。
今からでは、村人を呼んでも遅くなるし、生活の場を整えるのに時間が欲しいので、明日の朝避難を開始する事にした。
なので、今からヤハナリ斑へ向かい、状況説明に向かう事にした。
聖堂院 西の村 ヤハナリ村
「おぉ、広坪様、我々の避難はできますでしょうか?」
ヤハナリ村の村長が出迎えてくれた。
「はい。受け入れの準備は既に整いました。ですが、今からでは全員が避難する前に日が沈んでしまいます。なので、明日の朝から避難を開始します。こちらの準備はどうですか?」
「大丈夫です」
「それなら良かった」
ヤハナリ村の方は大丈夫そうだ。
メイダ村の方を確認するために、メイダ村の村長を探すと、大量の荷物の前にメイダ村の村長が居た。
「それが村から回収した荷物ですか?」
「おぉ、広坪様、その通りです。広坪様の部下の方々に護衛されで荷物を回収する事ができました。半ば諦めていたので、非常に助かりました。ありがとうございます」
「いえ、気にしないでください。それで、ですね。こちらの受け入れ準備ができましたので、明日の朝から避難を開始します。なので、準備をしておいて下さい」
「承知ひました」
村長さん達に話は通したので、ツヴァイ達と合流して、情報を共有する。
ツヴァイは特に報告は無かったが、アルファからはドライの話が聞けた。
現在、魔力供給範囲は、この村まででは無く、メイダ村にも続いている。
そして、メイダ村を中心に、ドライが偵察を繰り返している。
ドライの話では、こちらに向かったオークの足跡を辿ると、かなり南で群れが分かれたらしく、詳細は分からなかったが、こちらに向かった群れとは別の群れは、西へ向かったそうだ。
これ以上は分からないそうだが、西に向かったなら、西もあまり安全では無いかも知れない。
俺達からは、受け入れ準備の完了と明日の朝避難を開始する事を告げ、そして、俺も今日はここの村に泊まり、村人の護衛をする事を話した。
「え?いや、我々だけで大丈夫ですよ?」
アルファが軽く否定してきたので、念押す。
「護衛戦力は多い方が良いだろう。俺も残ります」
「オシホ様?」
「まぁ、良かろう。夜営の準備はあるしな」
「はぁ。まぁ、オシホ様がよろしいならそれで構いません」
「では、アルファよ。研究所に状況説明に行くが良い」
「了解です」
少し強引にこの村に泊まることにした。
決して、今夜ステラさんの強襲を警戒しての事では無い。
戦闘後に、落ち着いた夜に襲われる。こんなことがあったが、昨夜は聖堂院と研究所の移動で眠らせたから安全で、今日が危ないと思った訳ではない。
全て村人のためなのだ。
今日はゆっくりと休もう。
次で100ですが、少々書ける時間を確保できそうに無いので、遅れます。
ですが、100話と同時に人物一覧でも載せれたらと思っています。
そして、登場人物の誕生日の件をすっかり忘れていました。
多少修正が入るかも知れません。
100話が遅れる件も合わせて、申し訳ありません。
ここまで読んで下さった方々に感謝します。