バニラアイスと色仕掛け
「アイスもらった」
なんで緩羽はちょっとご機嫌なんだ。
俺は正直反応に困る発言ばかりをかます生徒会長との対話はものすごく疲れたぞ。二度とごめんだ。
「まーくんこのバニラアイスはどう料理するの?料理部っぽいことするの?」
会長からもらったアイスがうれしかったのか、ぐったりとしてうつむいている俺の顔を下から覗き込んできた。びっくりするなあ。俺以外の男にやったら色々勘違いされるぞ。
「バニラアイスはなあ、油があうぞ」
「油?デブの極みー」
「ああ、だが油はうまい。そして以外となんにでも会う。油はすごいんだぞ。」
「あ、でも部室使えないから油ないじゃん」
「ふはははは。俺を誰だと思っているんだ」
そう言って鞄のポケットから、手のひらサイズのゴマ油をだして、ちらつかせた。
「うわあ。まーくんデブの隙なさすぎ」
「誉め言葉か?」
俺がそう言うと緩羽がこれまた感情の読めない瞳でこちらをじっと見つめた。
「まーくん食べ物の話したとたん元気になった」
「やはり食あってこその元気だからな」
そうして、適当な教室に入ってバニラアイスをとりだした。
運動部の掛け声や吹奏楽部の金管楽器の音、軽音部がドラムをたたく音、青春の音に囲まれながらだらだらと食べる背徳感。あぁ、部室が恋しいくなってきたな。
そんな事を考えながら、鞄のミニポケットからごま油とオリーブオイルを取り出した。
「二種類…」
「どちらも合うぞ」
俺はごま油の方を取ってひとかけする。緩羽はそれを真似してオリーブオイルをひとかけした。
「オリーブオイルの方は塩をひとかけするとよいぞ!」
油と同じポケットから塩を取り出して緩羽に手渡した。緩羽はいぶかし気な目で塩を見つめつつも一振アイスにかけた。
「ん、おいしーとってもイタリアンー」
そうだ。オリーブオイルと塩で、イタリア料理店のデザートのような味になる。フルーティーだし、塩が甘さを引き立てている最高の組み合わせだ。
俺はごま油をかけたバニラアイスを口にいれる。こちらは逆に大学芋を彷彿させるまろやかで日本的な味だ。ほわりと冷たい暖かさが口の中に広がる
こうしてゆったりと会長からもらったアイスを味わっていると、やはり幸せを感じる。
食べることはいい事。食事は信仰、カロリーは味方。
そんな時、道場破ぶり(以下略)で扉が開いた。
「一年の教室で何をやっているのですか!先輩方!」
ドアの開け方ですでにわかっていたが、やはり開けた人物はつい先ほど生徒会室を追い出されていた有亜だった。
長年追っていた殺人犯を見つけたような勝ち誇った笑みで突っ立っている。
「お前平和にドアを開ける方法知らないの?」
「っていうかなんでそんな悪い事してるみたいに言われなきゃいけないわけー」
「部活動停止状態なのに勝手に教室を借りて部活動をするなど…」
「おいおい、これが部活動をしているようにみえるのか?」
一応いつも部活動としてやっていることと変わらないけど、どうみても活動じゃない。
「た、確かにアイスをむさぼっているだけ…部活動ではないですね。失礼しました…」
そういっておずおずと教室からでようとした。
しかし、今日の俺は滅茶苦茶に冴えていた。
いや、待て、カモがネギしょってきてくれたようなものじゃないか。今、有亜を逃すのは惜しいぞ!
俺は緩羽と目を合わせて、作戦を実行する意を確認する。緩羽は「まかせて」と口パクで答える。
俺は一度咳払いをしてから笑顔で話しかけた。
「なあ、有亜ちゃんは、どこか部活に入る気はないのか?」
「…料理部に入れという話ですか?」
「おお、察しがよくて助かるぜ」
いかにも嫌そうな顔をしやがって。
「大方、朱理亜お姉さまに頼まれたのでしょう。あまり協力する気なりませんね」
言いたい放題いいやがって!全くその通りだよ!!
「いやーこう見えてちゃんと活動してるんだよー」
そう言いながら緩羽が有亜に後ろから抱き着いた。
「へ!!?」
さっきまでの凛とした態度はどこへやら、録音しておきたいほど間抜けな声を発した。
「アリーも一緒に料理部でごはん食べよー」
緩羽はそう言ってつーっと有亜の顎をなぞった。
愛澄の仕草をまねたのだろうか。
複雑な気分だが、ターゲットは、はわわわわと顔を真っ赤にして唇が震えている。
よし、効果は抜群だ!!
―「やはり血は争えないね。あの愚妹もかなりの女好きだよ。色仕掛けでもしたらどうだい?」
会長が言った言葉だ。
自分の妹に色仕掛けしかけてこいだなんて常人のいえる言葉じゃないぜ!さすが会長!イカシテル!!
「入部してアリーと仲良くなりたいなー他にもものすごい美人が一人いるし、アリーのハーレムじゃーん」
「は、ははハーレム」
「あ、鼻血でてる。何想像してんのーうけるー」
想像以上に効果抜群でちょっとひいたけど。
「もう一人の美人はすごいよーおっぱい大きいし」
「おおおおおおおおっぱい」
「アリーならかわいいから仲良くできるよー」
「仲良く、仲良く…」
たぶん緩羽は何も考えずに言っているのだろうが、有亜が「仲良く」を深読みしてしまっているのは見てればすぐにわかる。
自分の双子の姉を目の前で妄想されるというのは弟的にはなんとも言えない気分になるが、同じく妄想されている張本人である緩羽は一体どんな気持ちで誘惑しているのだろう?何も考えていないのだろうか?何も考えていなさそうだ。
「ほらあ、ここにサインするだけで天使の園の一員だよー」
天使の園ってなんだよ。俺が部長を務めていいところじゃないだろ。
しかし有亜には色仕掛けは効きすぎていたためふるふるとコックリさんに操られるような手つきでペン先を紙にのせた。
がらり
「あ、お前らここにいたんだー!」
最悪のタイミングでこの教室に入ってきたのは、小夜彦だった。
中の光景。
顔を真っ赤にさせて、興奮している後輩。
後輩に後ろからだきついて胸をおしつける緩羽
それを見ながらアイスを食べる俺。
「…学校では、そういうプレイは控えような」
ガラガラ ピシャリ