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それでも世界はブラックだった  作者: 菊日和静
第2章 魔法の受託開発始めます
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第39話 偉い人との商談は胃に悪い

 冒険者協会は言うなれば人材派遣会社みたいなものである。

 これだけを聞けば途端に夢もロマンも無い言葉に思えてならないが、前世で読んでいた漫画とかでも突き詰めて言えば人材派遣だったことを考えると、あながち本質的には間違いではない。

 ざっくりと説明すれば、冒険者協会に仕事の依頼を出すと、冒険者協会は登録している冒険者に仕事を割り振る。協会は冒険者から達成報酬の2割程度を仲介料として、冒険者は残りを報酬として受け取るというシステムらしい。

 ならば、冒険者は協会に登録しないほうが仲介料を引かれないからより儲けが出ると思いがちだが、そもそも実績の何もない冒険者には仕事がない。仕事がないので報酬が出ないので、そういった負のスパイラルを防ぐべく自然な流れで冒険者協会が設立されたそうだ。

 なので、名が売れてきた冒険者は協会から独立して仕事を始めたりすることもあるそうなので、互助組織としてはごくごく一般的な部類である。戦争期が終了してからは、傭兵や体力自慢の人間たちが冒険者協会に登録するようになり、そこから一気に影響力のある巨大組織にまで成長したとのことだ。

 そんな説明を、ステイブからは事前に受けた。


「ここが冒険者協会か。結構でかいなー」

「うむ。民間の建造物の中では大きい方だろうな」


 無論、一番大きい建物はステイブたちがいる城なのは間違いない。

 それに対し、冒険者協会の建物は日本の市役所的な建物をヨーロッパ風に豪奢にした感じと言えばいいのだろうか。機能的でありながらも華美な要素を忘れない拘りが見え隠れする。建物の裏側には訓練用の広場もあるようで、仕事のない冒険者は自発的にそこで訓練したりもすると聞いた。


「ではゼロイチ。準備はいいか?」

「お、おう。大丈夫だ」


 訪問前で緊張しているゼロイチ。

 前世では営業ではないので、こういう何処かへ赴いて説明するという仕事は慣れていない。プロジェクトの打ち合わせや、自分の担当範囲の説明とかは慣れているし咄嗟の質問にも答えやすいが、ゼロベースからの仕事は今回が初なのだ。

 ちなみに、今回のアフルはゼロイチの護衛役としては来ていない。

 ステイブから話があった通り、今後のアリアドネにとって基幹産業になり得るかもしれない第一歩だ。どこまで本気かを示すべく、領主の娘であるアフルが同行することになった。

 いつもの動きやすさ重視の騎士服ではなく、膝丈の白のスカートに紺色のブレザータイプの上着を着ている。袖や襟元に刺繍があったりするので、見るからに高級品であるのは服に明るくないゼロイチにだってわかるぐらいだ。


「なーにゼロイチ。取って食われるわけでもあるめぇ。気軽に行っときゃいいんだよ!」

「わかってるよ。でも緊張するものはするんだよ」


 豪快に笑い飛ばすジェクトは護衛役として来ている。

 機密保持の観点から他の文官とかは来ていない。ステイブからの指示で、プロジェクトが軌道に乗らない限りは対外的に情報を漏らすことを防ぐためとのことだ。

 最初のうちはそんなものだろうとゼロイチも納得した。

 そして、いざ冒険者協会の入口を抜けて中に入る。

 すぐ目の前には受付があり、受付嬢がアフルの姿を見るとすぐに駆け寄って来た。


「ようこそ冒険者協会へ。本日ご面会の依頼をいただいたアフル様でございますね?」

「あぁ、そうだ。協会長ビルツ殿への面会手続きを頼みたい」

「かしこまりました。只今呼んで参りますので、申し訳ございませんがこちらの部屋で少々お待ちください」

「承知した」


 受付嬢に案内されるがまま貴賓室へと案内された。

 さすがはお嬢様だ。待遇が全然違う。

 待たされること5分程度。扉が開かれ一人の男性が入ってきた。


「よう。待たせちまって悪かったな」


 開口一番、そんな気安い挨拶をされた。

 見事なまでの白髪を短く刈り込んでいる壮健な男。

 老人とまではいかないが、50代ぐらいであろうはずなのに双眸の鋭さは一切の老いを感じさせない。一挙手一投足に貫禄を感じさせ、ゼロイチの主観的には任侠という言葉が一番しっくりとくる。

 冒険者協会会長ビルツ。

 それが目の前にいる男だ。


「お久しぶりです。ビルツ殿」

「久しぶりだなアフルちゃん。前に会ったのは騎士団に入った頃だっけか?」

「はい。稽古をつけていただいたのは良い経験になりました」

「なんのなんの。若い子と遊ぶのは年寄りの楽しみの一つだから気にしなさんな」


 カラカラと笑うビルツ。

 怖そうな見た目とは裏腹に気さくな人柄なのか、孫ほどの年齢の違いはあるだろうアフルと和気藹々とした雰囲気が見える。

 

「ジェクトも元気にやっているようだな」

「ぼちぼちやらせてもらってますよ。旦那は少し老けましたかい?」

「バカ野郎老人扱いするんじゃねぇよ。オイラはまだまだ男盛りだよ!」


 どうやらアフルとジェクトの二人とも知り合いだったらしい。

 冒険者協会の長ともあれば、領主一族と縁があっても不思議はないか。

 おそらく、ステイブも顔見知りだったということもあって、このビルツに話を持ちかけたに違いない。


「それでオイラに直接話があるってことだったが、一体どんな用向きなんでい?」

「その話をする前に一人紹介したい者がいます。こちら我がアリアドネ領で魔技師として雇い入れたゼロイチです」

「ほう。このご時世に新しい魔技師とは物好きな奴もいたもんだな!」

「えーと、魔技師のゼロイチと申します。以後よしなに」


 簡単に自己紹介をすますゼロイチ。

 まだ、どこまで砕けてもいいかわからないので無難にしておいた。


「このゼロイチは少々風変わりな考え方をする奴でして。そのせい――おかげで父上の目に止まり、こうしてお話に上がることになったわけです」

「ほほう。ステイブの野郎の目に止まるとは中々の大物だな、あんちゃん」

「あはは。自分では普通にやっているつもりなんですがね」


 自分の常識は他人の非常識とはよく言ったものである。

 今は物珍しさが勝っているだけで、いずれは普通ぐらいに落ち着くだろうと思っている。落ち着いたらいいなと思っている。でないと、仕事の無茶振りがどんどん増えそうで怖い。


「つまり、魔技師がいるってことは、話は『魔法』に関することってところかい?」

「その通りです。ですが、今までの魔法ではなく、全く新たな魔法の可能性――その普及について冒険者協会のお力を借りたいのです」

「――面白そうだな。話してみな」


 アフルが一同を代表して話し出す。

 内容としては以前ゼロイチたちと話したことと同じだ。

 多少ぼやかした部分はあるが、大まかな流れは変わっていない。


「なるほどな。大体は理解したぜ。だが、今一つ攻撃魔法以外の魔法ってのが想像できねぇ。この場で簡単に見せられそうなものはあるかい?」

「そう言うと思って、こちらを用意しました。ジェクト」


 ジェクトがすっと前に出て、持参して来た包みを広げる。

 出て来たのは木箱で、その中には酒の瓶が詰められていた。


「おう気が利くねぇ〜。ってキンキンに冷えてやがるな! 氷まで使って冷やしてくれるたぁ太っ腹だねぇ! って、ん? 氷が見えないがどういうこったい?」

「ゼロイチ。説明してくれ」

「かしこまりました。この酒を入れている箱に『冷蔵庫』という魔法を仕込んだ魔石を入れています。長時間ものを冷やすだけの魔法ですが、こうして食べ物を冷やす時などに使います」

「なるほどねぇ。これが攻撃魔法以外の魔法って奴かい」


 ビルツは箱を手に取りジロジロと眺めたり、魔石を手にとっている。

 多少は興味を引けただろうか?

 アフルはこの機に話を展開した。


「今まで魔法とは敵を倒すものしかありませんでした。ですが、こうした人の役に立つ魔法もある――ということを知らしめたいと父上はお考えです」

「確かに冒険者協会は規模でいえば随分とでけーからな。普及させるならうってつけだわな」

「全くその通りです。ですから、冒険者協会のさらなる発展のために、新しい魔法の導入を検討していただけたらと思っています。如何でしょうか?」


 沈黙が降りる。

 ビルツは腕を組んで「うーむ」と天井を見上げて考えている。

 感触としては悪くないと思うがどうなんだろうか?

 営業や商談をしたことのないゼロイチにとって、待たされる時間は胃に悪い。ジワジワと焦りと緊張感が押し寄せてくる感じで気持ち悪くなってきた。

 待つこと5分ほど。

 ビルツが目線をこちらに合わせて言った。


「面白い試みだとは思う――が、導入はちっとばっかし厳しいかもな」

大きな商談とか経験したことはありませんが、胃に悪そうなイメージしかありません(笑)

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