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森へ

 森の中は光が届かないせいか、すごくじめじめしていた。証拠にどこを歩いても土が湿っていて、足跡が出来る。地面一面に落ち葉が散乱しているが、湿り気の影響があったために、踏んだ時に発するはずの音が出なかった。そのためか、地面を踏んだ時とは違う感触に眉を顰める。怖がりな人は、逆にビビってしまう状態かもしれないが、あいにく俺は剛腹なのだ。


 森を真っすぐ進んでいるようだが、基本的には軽い傾斜になっている。ところどころ急な傾斜になったりするが、順調に歩を進めている。


(なんか力が漲ってきてるような・・・)


 思えば、目を覚ました時から、力が溢れているような気がしていた。おまけに、周りの気配に敏感になっている気もする。しかし、目を覚ました直後は、ただ興奮していたためにそう錯覚しているのだろうと思い込んでいたのだが、冷静さを取り戻した今尚、漲ってきているのだから錯覚ではないと感じてしまう。それこそ、異世界に召喚されたためだと期待してしまう。


 そんな、嬉しい誤算に遭遇しながらも着実に森の中心へと向かっていく。

 

 どれだけ歩いても、光がまともに差すことはない。辛うじて、木漏れ日が僅かに差し込むほどで、この木漏れ日のおかげで足元に注意しながらも、何の問題もなく歩くことが出来ている。日光で、時間帯を推測できるが、時間が経ち夜になれば、まず歩くことも、ままならないだろう。そう言い切れる根拠は、森の暗さだけではなかった。木の根が、地表に浮き出ている箇所が多々見られるため、木の根に引っかかり足が縺れそうになることがあるからだ。常に足元に注意を払わなければならないのだから、これ以上環境が悪くなれば、どうなるかは火を見るより明らかだろう。


 春彦は、森を進んでいる間、記憶が抜けていることを考えていた。覚えていないのは何日ほどなのか正直分からない。最近したことで覚えていることと言えば、大学でテストを受けたこと。すごく難しかったという記憶がある。逆にそれ以前の基本的な記憶は、細かく覚えている。名前は、水瀬春彦(みなせはるひこ)。大学2年。今は何の変哲もない一大学生である。今はというのは、過去の名誉に縋りつくってわけじゃないけど中高と6年剣道をやっていて、高校では全国大会に出場したこともあり、剣道界ではちょっとした有名人だったからだ。こんな感じで、普通に覚えている。なのに、一番新しいはずの3日間の記憶がない。そのことを非常に疑問に感じていた。


 そんなことを思いながらも、足元に気をつけながら、足を進める。


 再び風景に意識を向けていると、ガサッと草が揺れる音がした。こんな状況だけあって、神経を張り巡らせていたことが幸いし、すぐに反応することが出来た。


 春彦は、即座に警戒する。しかし、警戒の意味はなかった。そこにいたのはウサギだった。

 

 (何だ、ウサギか)


 春彦は、胸をなでおろす。さすがは森。何が出てくるかわかったもんじゃない。


(気のせいかな。なんか角っぽいのが生えていたような・・・。)


 突然現れたウサギは、直ぐに木の陰に隠れて姿をくらましてしまったおかげで、その姿をきちんと確認することが出来なかった。それでもウサギだと判断できたのは、ウサギの移動速度が、目で追えないほどではなかったことと、一瞬見た姿がウサギそっくりだったからであった。ただ、それだけじゃなく、頭に何か付いていた気がしなくもなかったのだが。


 このとき、警戒を解いていたのも原因の1つかもしれない。春彦は、後ろから迫ってくる物体に気付いていなかった。後ろから迫ってくる物体が春彦の背後、数メートルまで来たところで、ようやくハルヒコセンサーが作動する。


 春彦は、背後に気配を感じ、徐に振り返った。












 振り返った先にいたのは、人のような、しかし黒っぽい皮膚の化け物だった。

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