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魔法王国の王女と千年勇者  作者: 桜山うす(J.I.A)
グラディエイターシティ編
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魔法王国の王女と千年勇者

 ヴェートラーナの一族が代々入るとされているその霊廟は、魔王城の片隅にこの世のすべての絶望と静けさを集めたようにひっそりとたたずんでいた。

 俺の前を行くちっこいヴェートラーナの祖母、大魔導ヴェートラーナもこの墓に入っているという。

 しかし、彼女の母親はそこにはいない。


 大霊廟の前を通り過ぎた、すこし離れた場所に壁がある。

 一体何かの施設の跡だったのか、およそ100メートルにおよぶレンガの壁。

 そこには、銀色の金属板が取り付けられていた。

 何層にもわたって積み重なり、鱗のようにぎらぎらと夏の日差しを反射して光っていた。

 それらはすべてネームタグ。

 ネームタグの壁だ。

 その無数のネームタグを見張らせるような位置に、石碑のような墓が立っていた。


「これがお母様の墓よ」

「一族の大霊廟とはずいぶん違うな」


 俺が感想を漏らすと、ヴェートラーナは言った。


「この一角だけは勇者のための墓地だから」

「勇者のための墓地? なんでそんなものが魔王城に?」

「このレンガの塀……昔はこの向こうに、勇者を捕虜として捕まえておく捕虜収容施設があったの。1000年の間に勇者たちの新しい自治区ができて、お墓もみんなそっちに引っ越しちゃったけど」


 だから……それまでここは生き残った勇者の土地だった。

 しかし、1000年の間に生き残った勇者たちは死んだ。

 彼らの持っていたネームタグは、誰ともいわずここに集められるようになったらしい。


「お母様は、自分が死んだらここに埋めて欲しいといったの」


 このおびただしい数のネームタグの壁の前に。

 150億ぜんぶあるかはわからないが、おそらくそれに匹敵するだろう。


 俺は墓の前に立った。頻繁に誰かが手入れしに来るのか、雑草やつたの類は綺麗に取り除かれ、墓の前の地べたはすり減ってくぼみができていた。

 ウェハースが数枚そなえられている。死者を弔うためのものだろう。

 俺が墓に花をそえると、ヴェートラーナは目を丸くしていた。


「花を添える習慣はないのか?」

「どうして花を添えるの?」

「だって綺麗だろ」

「花は魔力が強い植物なの。どちらかというとぴかぴかしてて……怖い」


 そういえば、彼女の緑色の目には俺と同じ風景は映っていないのだ。

 けれども、マリエルは魔力視の異能を持っていなかったし、彼女に手向ける分にはいいのかもしれない。

 しばらく考えた末、ヴェートラーナはいった。


「花は……綺麗?」

「ああ」


 ヴェートラーナは、彼女にしては急ぎ足でどこかに走っていった。

 そして俺が摘んできたのと同じ花を、俺に見せた。


「これは綺麗?」

「ああ、大丈夫だ」


 ヴェートラーナは花を俺と同じように墓にそなえ、じっと何かを見つめていた。


「知ってるか。あいつ、ここにあるネームタグの名前と誕生日、ぜんぶ言えるんだ」

「そう……それは知らなかった」


 ヴェートラーナは、小さな謎が解けたようにつぶやいた。


「いつも眺めていたのよ、この壁を」


 ******


 ヴェートラーナをそこに置いて霊園から出てゆくと、出入り口の門付近で、不満げな表情の天使が腕組みをしていた。

 シンギスベリエだった。魔王城に来るのに抵抗があるのか、完全武装している。鎧が臭うのではなく、彼女はなぜか俺の墓参りに納得いかない様子だった。


「墓参りしてきただけだろ、どうしたんだ」

「だって、裏切り者の墓よ?」

「ああ、裏切り者の墓だな」


 そういえば彼女は、あんまり自分の召喚師のことを好きではなかったっぽい。

 まあ、そりが合わなかったというか……。大雑把な勇者とは違って、几帳面なタイプだったからな。

 シンギスベリエは空から降りてきて、真正面から俺をのぞきこんできた。


「だいたい、私は勇者が生きるために魔王に服従しているなんてあったまくるの。光と闇は永遠に相容れないものだってのが私の世界の常識なのよ。ディップももうちょっとその辺、ポリシーってのを意識しなさいよね」


 言いたいことは分かる。けれど、その前にちょっと抱擁させてくれ。

俺は真正面から俺につっかかってくるシンギスベリエを、がばっと抱きしめた。


「ふえっ……えっ……えっ……」

「ごめんな、お前の事もっと大切にしてやればよかった」


『やり直し』の世界で、俺は彼女を死なせてしまったんだ。

 もう二度とあんな思いはしたくない。

 俺の気持ちが分かってはいなかっただろうが、シンギスベリエは俺をがばっと抱き返した。クマがサバ折りするみたいな体勢で、ぎゅーっと両腕に力を込めて俺を抱きしめながら、だらしなく顔をにやけさせていた。


「うへへー、なんかしんないけど、これはゴチになれそうな予感!」


 彼女の脳にかかればどんなイベントでも食欲に変換される。

 アイスキャットもいればよかったんだけどな。

 今、手元にあるのは彼女のネームタグだけだ。


 ふと木陰を見ると、シレンシズがなにか言いたげな表情で立っていた。

 そういえば……シレンシズの召喚師はまだ異世界で生きている可能性があるのだった。


「シレンシズ……ごめんな、お前も自分の召喚師の事が心配だよな」

「いいの、私はもう10年も同じことを考えていて、自分なりに心に整理をつけられたから」


 彼女は、抱擁しようとする俺をやんわりと手で拒絶した。わりとショックだった。ごめんなさいお前が一番だからいやマジで。


「たぶん、私も自分の召喚師が本当は私たちの敵で……仲間の誰かに殺されたんだとわかったら、他人の事を考えている余裕はなくなると思う」


 そう……ヴェートラーナの分散時空転移は、1対多数の有利な戦闘状況を生み出すための魔法だ。

 その後、彼女は1000年をかけて勇者を虐殺しつづけた。

 代々引き継がれる呪われた魔女の業を、ヴェートラーナの娘は受け継いでいたはずなんだ。

 それで千年勇者の最初の1人に反撃を受け、彼女は死んだ……。

 わかっている、因果応報、正当防衛だ。

 そう結論付けたじゃないか。

わかっているはずなのに……。


 俺が打ちひしがれているのを察知したのか、シレンシズはなにやらそわそはし始めた。


「もう……しかたないわね」


 俺の後頭部に両手をまわして、むぎゅっと抱きしめてくれた。胸の盛り上がりに顔をうずめて、なんかこう、俺の鼻孔いっぱいに甘い香りがふわぁっと広がって、そういえば今のシレンシズって母乳が出るんだよなぁと……シンギスベリエにはない魅力があるよな。


 ふと木陰を見ると、黒髪ポニーテールのメイドが俺の様子をちらっちらっと窺っていた。


 俺はシレンシズに「ちょっと待っててくれ」と言い、シンギスベリエにも「すぐ戻る」と言って、2人にどこかで時間をつぶしてくるよう言っておき、それから木陰のメイドの所へ、すたすたと歩いていった。


 メイドは俺が近づいてくると、両手をエプロンのおへそのあたりで組み合わせ、いかにもメイドっぽくうやうやしいお辞儀をした。


「御用でしょうか、ご主人様」

「……お前、だれだっけ?」

「なあああああっ!!?」


 黒髪ポニーテールのメイドは目をむいて、俺を説得するように両手をぶんぶん振って訴えた。


「主様、ひどい! ひどすぎます! 私にございます! 自分から私をメイドにしておきながら!」

「え、すまん記憶にない……そうか、また俺、無意識のうちにいろんなことしてたんだな……」

「それは無意識ではなく記憶喪失でござる! 明らかに意識があったでござる! ほら、私! 主様の! 愛剣の! ツクヨミにございまする!」

「あいけん? ああ、冗談に決まってるだろツクヨミ、よく覚えてるよ。犬から人間になったんだったっけ?」

「愛犬ではありませぬ愛剣でありまする! さも相手の言葉から適当な事実を推察したかのようなフリをするのはおよしいただきとうござりまする!」

「はぁー……わかってねぇなあ、ツクヨミ。俺がお前の事をもと犬だって言ったらさー、お前どうしたらいいの?」

「はっ!? あっ!! わ、わんわん! そ、そういえば拙者、犬だったでございましたわん! きゅーんきゅーん! ご主人様、捨てないでほしいわん!」

「……だめだお前根本的にぜんぜん萌えねぇ……」


 根本的に何か違う。シンギスベリエともシレンシズとも違う。なにか萌えない。

 四つん這いになって犬的な格好で俺の靴を舐めようとしていたツクヨミは、はっと我に返ってイヌミミ尻尾を取り、片膝を立てる忍者的なポーズをして俺に言った。


「主様……報告したき義がございます。先ほどから不審な者が霊園を遠巻きにうかがっております」

「お前さ……そういう連絡は俺のどーでもいい話をさえぎっても第一にするべきだとは思わないの?」

「はうぅぅぅ! 次こそは、次こそは必ず役に立ちますからぁ!」


 ******


 とにかく、俺がその不審者のいるという方に行ってみると、城砦の片隅に、壁にへばりつくようにしてスキルテイカーがいた。


「こーほー、気配がバレバレだぞ……チメイズマン」

「隠すつもりなんてねぇよ」


 忍術は苦手だもんな。気配を消すなんて高等スキル使えねぇし。

 スキルテイカーは、首に提げた銀色の金属板を俺に見せた。


「そんなに警戒するな、ネームタグを返しに来ただけだ」


 霊園を見ると、ヴェートラーナが精いっぱい急ぎながら、白ストッキングの脚でちょこちょこと走って出てくるところだった。

 何か目的があるのか、そのままどこかに走り去って見えなくなってしまった。


「ダウザーと提携する際に、俺の正体がわからないと話がややこしくなるのでな。身分をいつわるためにあそこからダウザーの祖先のものを拝借していた。こーほー」

「なるほど……じゃあ、1000年前のダウザー伍長とお前は」

「まったくの無関係だな」


 こーほー、とスキルテイカーは言った。

 この前、現大魔導ドリスタンに捕まった彼は、魔王軍の上層部からネームタグを返却するよう指示を受けたらしい。

 ただし、ヴェートラーナに見つかると逆鱗に触れる恐れがあるので、こっそりとしなくてはならない、とのことだった。


「……なあ、本当にヴェートラーナの娘は、千年勇者たちを殺していたのか?」

「彼女が手に入れたこのネームタグが証拠だろう」と、スキルテイカーは言った。「こいつがなければ、基本的に勇者は異世界で生きてゆけない」

「いや、実はそうでもないんだ」


 ネームタグは、はるか遠くの召喚師が勇者を魔法の標的にするために必要なものだ。

 これがないと、勇者タブレットを手放せば死ぬ……というが、じっさい勇者タブレットが放つ魔法の効果範囲は半径30メートル程度とけっこう広い。

 家の中ぐらいなら置きっぱなしでも活動できる。なので、タブレットを肌身離さず持ってさえいれば、ネームタグがなくてもさほど困るということはなかった。


「どちらかというと、自分の召喚師への忠誠を示すものなんだ。召喚師が自分を召喚すれば、いつでも駆けつけるっていうさ……俺、ちょっと考えたんだよ。ヴェートラーナの娘は、召喚師なんだろ。だから……」

「……貴様、それをどこで知ったかしらんが、軽々には口に出さんことだ。ヴェートラーナの一族は本当に恐ろしいからな。あいつらは正真正銘の魔女の一族だ」

「…………」


 俺は言いたい言葉を飲み込んだ。俺の召喚師を悪く言うなよ。


「……この世界って、異世界から召喚することは禁止されてるんだよな。じゃあ、異世界に送り返すことは禁止されているのか?」


 スキルテイカーは答えなかった。


「どうなんだ、お前のスキルなんだろう、スキルテイカー。この世界の異世界召喚を封印したのは、四天王のお前だ。お前がこの世界の異世界召喚を封印したんだから、お前ならわかるはずだ」


 スキルテイカーは、ガスマスクの端から煙草を突っ込んで、しゅこー、と煙をガスマスク内部に充満させていた。

 いつの間にかガスマスクをつけたまま煙草を吸うテクニックを身に着けたらしい


「やれやれ、どこで俺の正体を掴んできたんだ、お前。……けれど四天王っていっても、俺はそんな大した奴じゃねぇよ。

 お前の嫁が四天王の1人を倒しただろ(1話後編あたり参照)。そいつの後釜になることを期待して魔王が急きょ位を押し上げた道化師ってとこだ。まあ、魔王からすれば富を独占した四天王が力を持ちすぎるのを避けたいってところだな。

 ところが四天王どもは前の4人で順当に取り分をわける算段を練っていてな、1人減れば取り分が増えると前もって計算していたらしい。それで後から四天王の1人に持ち上げられた俺が目障りでしょうがなかったんだ。

 悪の召喚師マイコフは何度も事故に見せかけて俺を殺そうとしたし、竜王ミュシャは俺の身分が低いのに同列ってのが気に食わないみたいで敵視してくるしよ。

 唯一俺の味方だったヴェートラーナは味方のふりをしていただけだ。おいしいスキル持ちの勇者がいても俺にスキルを取らせる前に次々と殺していった。すべてのスキルをマスターするという俺の野望なんて「知らなかった、ぜんぶ娘に任せていたから」の一言で片されちまったよ。だからな……」


 そうか、ヴェートラーナは完璧な合理主義者。『わざわざ自分では手を下さない』。すぐに娘にそのお鉢が回ってくることを読んでいたんだな。


「そうか……ありがとう、ダウ……スキルテイカー」

「はぁ!? 勘違いするな。娘が肩代わりしたからなんだというんだ!? ヴェートラーナの娘だぞ!?」

「……ファッ!?」


 てっきりスキルテイカーの手引きで、勇者たちは殺されるのを免れ、異世界に帰還させられたとかいう展開じゃないかと思ったが、どうやらそうでもないみたいだ。その後の勇者たちの顛末など、彼はまったく知らないという。


「いいか、ヴェートラーナの娘が勇者を殺したか、それとも異世界に送り返したか、なんて俺が知るところではないからな。

 俺が帰還魔法を禁止していないのは、わざわざ異世界勇者をこの星から追い払う手段をなくす理由がなかったから、手を付けていないだけだ」


 スキルテイカーはそう断言した。それもそうかもしれない。


「いちど召喚した者を元の世界に送り返す『帰還魔法』が禁止されていないことを俺は誰にも言っていないし、それに気付いた者がいったい何人いるかもわからん。そもそも召喚師はマイコフがどっかに連れていったんだからな」

「えっ、けどお前、じつはいい人で、こっそり俺たち勇者の味方になってくれる的なポジションじゃねぇの? 敵の敵は味方ってやつじゃないの?」

「なんで俺がそんな安くみられているのか逆に俺の方が質問したいんだが。……俺は徹頭徹尾、ヴェートラーナのせいで取り損ねたスキルを少しでも回収することしか考えてなかったはずだぞ? いったいどのへんからそんな話が出てきたんだ」

「お前の正体がじつはダウザーだったってあたりから……」


 そこから大間違いだった。


「だから俺はダウザーじゃないと何度言ったら分かるんだ、俺はスキルテイカーだ」


 スキルテイカーは、またガスマスクの端から煙草を突っ込んで、しゅこー、と煙をガスマスク内部に充満させていた。


「……まあ、ひとあわ吹かせてやりたい気分ではあったな」


 スキルテイカーはそういったが、実は内心、俺たち勇者に期待しているのかもしれなかった。

 ひょっとすると、俺たちなら何かできるんじゃないか。この世界のあり方を変えるために異世界から召喚された俺たち勇者なら、ひょっとすると……。


「チメイズマン、ヴェートラーナの娘のことなんざ俺はほとんど知らない。俺の考えなんてどうでもいいだろ。じゃあ、お前はどう思うんだ……」

「俺は……」


 ……あいつが勇者を殺せるわけがない。

 そう思っていた。

 ああ、殺すはずがない。


 バカだな、俺は。一体なにを悩んでいたんだ。

 俺の召喚師の事は俺が一番わかっているだろ。


 普通に考えろ!

 あんなひ弱な女の子に殺されるような勇者が何人もいてたまるか!?


「最初の千年勇者について、教えてくれ」

「迷いが吹っ切れたみたいだな」

「ああ」俺はうなずいた。「そいつがマリエルを殺したらしい」

「復讐か」

「いや、知りたいだけだ。……ただ結果的に復讐になるかどうかはわからない。俺の無意識の行動は凶悪だから」


 何をするかはわからない……俺でもわからない。

 犯人を捕まえて、ロシアンルーレットで生死を分ける。その結末は神のみぞ知る。

 優柔不断だろうか。けれど俺は本心から、ただ知りたいと願っただけだ。……本心からな。


「真実を知りたい。たとえその結末がどうなろうとかまわない……俺は真実を知りたい」

「いいだろう……」


 スキルテイカーは、面白そうに笑った。


「モルドレッド台地に行け。そこに勇者の自治区、《ブレイブシティ》がある。

 多くの千年勇者たちは、それぞれ身分を偽って隠れ住んでいる。

 10年前にやってきたその数、110人。

 ……その中に、『最初の千年勇者』がいる」


 ******


 マリエル、俺たち勇者は召喚師の代わりになんでもしなきゃならない。召喚師の代わりに、戦うことも、考えることも……そして、悪いこともだ。


 スキルテイカーと別れた俺は、ネームタグの壁に向かい、召喚師マリエルの墓に2つのネームタグをかけた。


 伍長ダウザー(急がば回れ)

 そして俺(時は金なり)


「……よく考えたらこれって矛盾してる気がするな」


 いずれも召喚師マリエルが彫ってくれた文字だ。

 アイスキャットのタグは本人にかけさせよう。


 俺にはもう、このネームタグは必要ない。

 俺を必要としてくれる召喚師は、ここいるのだから。


 木の葉みたいに茂った銀色のネームタグに囲まれて、召喚師マリエルは眠っていた。



「チメイズマン」


 そのとき、ヴェートラーナがやってきた。

 どこまで行ってきたのだろう。

 泥だらけになって、手にはうねうねとくねる、不気味な植物をかかえていた。


「この花は、綺麗かしら?」


 俺は苦笑いを浮かべた。

 食虫植物を選択するとは、なかなかやるな。実用的だ。


 そうだ、ヴェートラーナ。

 俺と共に戦う、マリエルのもう1人の勇者だ。

 たとえ俺が悪に手を染めようと、どうかお前は正しい勇者であってくれ。

 そしていつか俺を正しく裁いてくれ。

 まいった、目的を共有できないなんて、きっと俺は彼女を勇者として見られていない。

 たぶん、マリエルの娘として見ているんだろう。

 だって笑うとな、けっこう似てるんだ。天文学的な確率で笑わないが。


「うーん、そうだな、そいつは綺麗かどうかでいうとな……」


 あいつを笑わせるために、とびっきり上等な冗談を考えているわけでも、捻りの利いた言い回しを考えているわけでもなかった。

 俺は、こいつの母親なら、きっとこう言うだろうという言葉を胸に、ヴェートラーナの方に歩み寄っていった。

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