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10年越しの恋

 自己紹介の後も大井先生によるオリエンテーションは続いたものの、詳しい規則の説明も一段落したところで丁度チャイムが鳴った。


「チッ、昼休みか。次の授業には遅れるなよ? 遅れた奴は……分かってるだろうな?」


 最後に生徒達への舌打ちとガンを飛ばすのを忘れず、貧乳先生は教室を後にした。この人本当に教師かよ……。ここって一応国内屈指の進学校じゃなかったっけ? なんか約一名、教師のフリしたヤ〇キーみたいな人が紛れ込んでるんですけど!! と、この学校の採用担当者に、心の中で抗議していた俺だったが、


「ねぇ、あの習志野さん………だっけ? いきなり告白とかどういうつもりかしら?」

「さぁ? なんかあの男子……氷室だっけ? あの人も初対面みたいな反応だったし……もしかしてストーカーとかかな?」

「えー? でも でも氷室君って、ストーカーされる程格好よくなくない?」

「いやいや、逆にああいう微妙なタイプの方がストーカーされるんじゃない?」


 先生がいなくなった途端、クラスの連中は俺や習志野を指さしヒソヒソ。

 ていうか、最後の方酷くない? 何もしてないはずなのに、習志野本人よりも酷い言われようなんですけど!! 俺のライフポイント既に半分くらい削られちゃってるんですけど!!


「ていうか、習志野さん。せっかく可愛いと思ったのに……いきなり告白とかさすがにないわ……」

「何言ってんだよ。お前なんてどうせフラれて終了に決まってんだろ?」

「お前、殺す! そして、あの習志野さんにコクられていた氷室ってやつも殺す!」

「はははっ。お前、必死になり過ぎだろ! まぁ、ちょっと頭はゆるそうだけど確かに可愛いもんな、習志野栞」

「それより、あの二人どうするんだ? 付き合うのか?」

「ていうか、もし氷室が告白断ったら、習志野さん退学なんだよな」

「まぁ、告った張本人は何にも考えてなさそうだけど 笑」

「それにしても、二人とも全然話に行かねぇな」

「確かに。早くはっきりさせろよな」


 あの、何故か俺と習志野をダシに、初対面のはずのクラスメート達が急速に仲好くなってる気がするんですが、気のせいだろうか……? まぁ、元々友達なんて作ろうと思ってなかったし、別にいいんだが。と、入学初日から既にぼっちロードまっしぐらの状況にため息をこぼしつつ、ふと、もう一人の話題の中心、習志野栞に視線を向けてみると、

 チラチラとこちらを見ながら、目が合う度に顔を赤くしてオロオロ。

 いや、そんなに恥ずかしがるなら告白なんてしなくてよかったじゃん! ったく、俺だってアイツに聞きたいことが山ほどあるって言うのに!!

 だが、ここで俺があいつに話しかけてもこの注目度の中だ。とてもじゃないが込み入った話なんてできないだろう。

 とりあえずここにいても何も良いことはなさそうだしな。――そう思い、俺は黙って席を立つとそのまま教室を出て、一人でゆっくり寛げそうな場所を求めて旅立った。


※※※※


「まぁ、一人で寛げる場所と言えばまずはここだよな」


 そして、俺は階段をひたすら上り、目の前の現れた扉を開け放った。


「定番だが……いや、定番の場所だからこそいい」


 そこには誰もおらず、何もない。ただ、青い空がいつもよりも近くに感じるだけ。

 一人になりたい時に学生が行く場所ナンバーワン(俺調べ)スポット・屋上だが、今は運よく誰もいないようだ。この運の良さが少しでもあの自己紹介の時間で出せていればこんなことにはならなかったのに……と、嘆きつつ。

 よし、ここならいいだろう。俺は再度周囲を一通り見渡してから口を開いた。


「おい、隠れてないで出てこいよ。ここならゆっくり話せるぞ」


 俺は出入り口の方を振り返り、呼び掛けた。

 教室を出た後から後を付けられていることには気付いていた。誰かは確認していないが、まぁ流れ上、大方の予想は付いている。


「おい、俺に用があった付いてきたんじゃねぇのか?」


 しかし、なかなか出てくる気配のなく、もう一度声を掛けてみる。


「……」


が、返事はない。

 もしかして、俺の勘違いか? まさか本当にそこには誰もいないのか……? 

 い、いやいや! そんなの恥ずかしすぎるって! あんな確信持って呼び掛けておいて、実はただの勘違いでした、ってダサいにも程があるでしょうよ!!


「お、おい! 居るんだろ? 勿体付けてないでさっさと出てこいよっ!! いや、っていうか早く出て来てくれません!?」


 勘違いだった時のことを想像し、あまりの恥ずかしさに耐えられなくなった俺は、入口の方へと早足で確認に向かい、


「す、すみませ――きゃっ!」

「うおっ!?」


 そして、入口前でドアを開けようと思ったところで、タイミング悪くその少女がいきなり顔を出したため正面衝突。


「……出てくるなら早く出ろよ」

「うぅ~……すみません。付けているのがバレていることに焦って、出ていくタイミングを逃してしまいまして……」


 少女はぶつかった衝撃で尻持ちをついていて、俺の胸板とぶつかった鼻をさすりながらこちらを見上げていた。

 うん。まぁ、ホントいてくれてよかったよ……。もう少しでとんだピエロになるところだったぜ……。


「いや、こっちこそ悪かったよ。……立てるか?」

「は、はい、ありがとうございます」


 少女は俺の差し出した手を掴むと、立ち上がり、


「とりあえずここで話してるのもなんだし、とりあえず屋上入れよ」

「は、はい」

 

と、彼女を促し、再び屋上へと戻り、ゆっくりと柵の方へと歩いて行った。


「それで、あれはどういうことだ? ――習志野」


そして、柵に到達したところで、その少女――習志野栞に本題を切り出した。


「どういうことだ?と言われても……私はたっくんのことが好きだから告白したとしか……」


 習志野は困ったような顔でこちらを見上げるが、残念ながら困っているのは俺の方。


「いやいや、そんなわけないだろ? この学校で『告白』がどういう意味を持つのか、お前も説明は受けたんだろ? フラれたら即退学なんだぞ!? それにそもそも俺達は初対面。お前に好かれる覚えなんて一つもない!!」


 そう。こいつの行動はあり得ないことだらけだ。

 フラれたら退学だと説明を受けたにも関わらず即告白。それも相手は初対面で、わざわざ大勢の前での公開告白――どう考えても裏があるとしか思えない。

 しかし……


「初対面……? もしかして、私のこと覚えてないんですか……?」


 俺の言葉を聞いた習志野は、信じられないといった目でこちらを見ていて……その目はとても演技には思えなかった。


「いや、悪いが全然覚えがないんだが……」

「あんなに一緒に遊んだのに……? 結婚の約束までしたのに……?」

「え!? 一緒に遊んだ……って、結婚!?」


 習志野の目にうっすら涙が浮かんでいるのを見て、罪悪感は感じるものの、覚えがないものは覚えがない。一緒に遊んだことも、ましてや結婚の約束をしたことも……。


「本当に私のこと、覚えてないんですか!? たっくん!」

「ん? たっ……くん?」


 ……ちょっと待てよ? 結婚の約束……それに何よりこの『たっくん』という呼び方……。こいつ、もしかして……


「お前、もしかして小学校の時に隣に住んでた――“しおり”、か……?」

「は、はい!! たっくん、やっと私のこと思い出してくれたんですね!?」


 俺がその名を呼んだ瞬間、さっきまで泣きだしそうになっていた彼女は、表情をぱぁっと明るくさせて、嬉しそうに笑った。

 “しおり”――それは、俺が小学校低学年の時に隣に引っ越してきた少女の名。そうだ! 思い出した!! そういえば当時は毎日のように一緒に遊んでたよな。

 まぁ、当時はまだガキだったし、普通仲が良くても相手の名字なんか気にしないよな? だから忘れていたのは仕方がないよな? と、見苦しい自己弁護をしてみても、俺が悪いということは誰の目にも明らかで……


「もう、ひどいじゃないですか! あんなに仲が良くて、結婚の約束までしたのに、それを忘れるなんて!!」


習志野は頬を膨らませてムーっと睨む。が、子供っぽい容姿のせいか、全くもって怖くない。


「仕方ないだろ? いくらよく遊んでたっていっても半年だけの付き合いだったしな」


 そう。こいつが引っ越してきて半年後、今度は俺が転校することになり、“しおり”とはそれっきりになっていたはず。


「半年とはいえ、それはそれは濃密な半年間だったじゃないですか! ラブラブの日々だったじゃないですか!! 結婚の約束だって……してましたよ!!」

「いやいや、今変な間あったから! 勝手に思い出を脚色し過ぎだろ!! それにあれはお前が一方的に宣言しただけだろうが!!」

「うぅ……そこは別に思いださなくてもいいのに……」


唇を尖らせ、悔しがる少女。……こいつ、あわよくばこのまま結婚まで強引に持っていこうとしてやがったな……!! まぁ、俺がそう簡単に流されない奴だということはこいつも知っているだろう。なにせ子供のころの結婚の約束すら流されずに断った男だからな。

 小学生の頃、確かにこいつから『大きくなったら結婚しよう』と言われたが、俺はそのプロポーズを即座に断った。


「そうですよ! 当時はそれはもうはっきりと断られましたよ!! ――ですが、私はその後にこう言ったはずです!!――」


『絶対に大人になるまでにたっくんをメロメロにして結婚してやる!』――確かにその言葉も覚えている。


「そして、今日。私はその約束通りたっくんと結婚するため、この学校に来たのです!!」


 そう言いきった彼女は腰に手を当て、何故か満足気な表情でこちらを見据えてる。

 え? マジで? っていうことは……


「あの、ちなみにお前がこの学校を選んだ理由って……」

「もちろん、たっくんがこの学校を受験するのを知ったからです」

「……なんで俺がこの学校を受験すること知ってたんだ?」

「そんなのあらゆる手段を駆使して事前に調べたからに決まってるじゃないですか。さすがに焦りましたよ。まさか中3の秋まで志望校を決めないなんて」

「…………ちなみにお前が主席で卒業した時の願いって何だ?」

「決まってるじゃないですか! 勿論たっくんとの結婚にかかる費用の援助です!!」

「…………」


 最早言葉も出なかった。コイツ……ヤバい!!

 どうやって俺の志望校を調べた!? こいつ探偵の才能とかあるんじゃねぇの? むしろマジでストーカーなんじゃね!? っていうか”卒業時の願い”が結婚費用の援助って、やけに現実的で具体的じゃねぇかよ!! ただ単に『結婚する!』とかじゃない分、本気度が半端じゃないぞ!! ――と、目の前の少女に軽く恐怖を覚える中、


「だから、私に”フラれたら退学”なんていう校則は通用しません! だって、たっくんと結婚できないならこの学校にいる意味はないんですから!! ――たっくん、改めて、結婚を前提に私と付き合ってください!!」


 習志野はまっすぐこちらを見据え、もう一度”告白”をしてきた。その表情は真剣そのもの。

 だが……まだ信じられない。

 多分、コイツは本当に俺のことを好いてくれているのだろう。

 多分、コイツの言ってることに嘘はない。

 だが……それはあくまで”多分”の話で”絶対”じゃない。

 そして、なにより俺は知っている。人間誰しも最終的には自分の損得でしか行動することができないということを……。


「悪いが、俺はお前を信じられない」

「そ、そんな……」


 当然、俺の返事を聞いた彼女の表情はみるみる絶望に染まっていき、彼女はそのまま俯いてしまった。それを見て、罪悪感が俺の心を支配する。

 が、しかし、それでも『もしかしたらこれは演技かもしれない』『ただ俺を利用しようとしているだけなんじゃないか』という疑念がそれを上回る。


「お前の告白を、俺は正式に――」


 習志野の”告白”をはっきりと断ろうと口を開くが、どうしても後が続かない。

 不意に幼少の頃の楽しい思い出が頭をよぎり、目の前で泣きそうな顔をして、力なく俯いている少女を放っておけない、という感情が渦巻いていく。

 何で俺は躊躇してんだよ? 断ればこいつは退学になるからか!? 

 よく考えろ! 冷静になれ! そもそも俺は『泣いてる女は見過ごせない』とかほざくような善人じゃないはずだ! 氷室辰巳! お前はそうやってまた一時の感情に流されて、結局裏切られるのか!? 

 答えを告げるのを躊躇う自分自身に、そう必死に言い聞かせた。が、しかし……


「……お前の告白に対する返事は一旦保留にする。」


結局俺はこいつを捨てきることができず、中途半端な答えを出した。


「……え?」


 彼女の方も完全に断られると思ったのだろう。何が起こったのかわからない、といった表情でこちらを見上げてきた。


「だ、だから……旦保留だ! 別にこの場で答えを出す必要なんてねぇからな!! 主席で卒業するためにはお前を逆に利用するって手もあるかもしれんしな!! ”告白”の返事は2日間以内っていうルールに従っただけだ!!」


 俺は自分の生徒端末の”ルール詳細”というページの一文を指さし付きつけた。


『告白された生徒は2日以内に告白してきた生徒に答えを告げなければならない。期限を過ぎれば自動的に「断った」と判断され、告白した生徒は退学となる。』


「言っとくけど、これはただの気まぐれだからな! 2日後にはきっちり返事するから、覚悟しとけよ!!」

「つまり、まだ2日間はチャンスアリってことですよね!? 私、諦めませんからね!」


 俺の話などろくに聞きもせず、先ほどの悲しそうな表情からまた一転。ヤル気に満ちた表情を見せる習志野栞。……こいつ切り替え早ぇな。

 そして、


「それでは、私はたっくんを振り向かせる作戦を考えるので、先に教室にもどります!」


彼女は笑顔を浮かべて、走って屋上を出ていった。

 まぁ、ちょっと延期しただけの話だ。3日後だろうと俺の答えは変わらない。そんなことを考えながら、彼女の後ろ姿を見送っていた。



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