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氷室辰巳の選択~名門校の秘密3


「それじゃあ、いろいろと聞かせてもらっていいですか?」


 酒々井が立ち去った後、俺達4人と大井先生は場所を教室に移して各々聞きたいことをじっくりと聞くことにした。


「ああ、構わん。」


 俺達の視線を一身に浴びながら、首肯する大井先生だが、


「だが、私に質問する前に話しを聞かなきゃならん奴がいるんじゃないのか?」

「「「!!」」」


 面倒臭そうにチラリと視線を移す。


「確かに、まだお前から詳しい話を聞いてなかったな。――習志野。」


 そして、全員の視線は事の発端となった習志野へと移る。


「わ、私は……その……」

「まぁまぁ、みんな。そんな急に話振られても喋れないし、ここは各々質問形式で行こう。」


 何からどうやって説明しようか迷っているのだろう。習志野がなかなか話せないでいる中、葛西の提案を全員が了承した。


「それじゃあ、まずは僕から。――この学校で特待生に選ばれるためには相当飛び抜けた才能とか実績がないといけないみたいなんだけど…そもそも、栞ちゃんって何の『特待生』なんだい?」


 らく大井先生を除く、この場の全員が気になっている質問だ。

 その質問に対し、習志野は数秒の沈黙の後、


「私には、何もありません。――私は“見せかけの特待生”ですから…。」

「「「!?」」」

「何もないってどういうことだ!?いくら酒々井に頼んで特待生にしてもらったって言っても、何の才能も実績もない生徒を『特待生として入学させる』なんてさすがに無理だろ!?」


 返ってきた習志野の回答に思わず聞き返す。

 いくら“特待生の特権”でとは言っても限度があるはずだ。学校としては特待生=主席で卒業させて将来の大物に育て上げる予定の宣伝用の人材、いわば“商品”だ。

 いくら特待生からの推薦でも、そのうちの片方を“普通の生徒”で埋めることを許可するとは思えない。

 だからこそ、習志野には今まで隠していた“何か”があると思っていたんだが……。


「ほ、本当に、何もないんです…。」


 しかし、返答している習志野の様子を見る限り、とても嘘を言っているようにも見えない。


「習志野の言っていることは本当だ。“特待生”にはそれだけの特権があるってことだ。――まぁ、こんなことは恋星高校史上初めてのことだがな。」


 大井先生が相変わらず気だるそうに習志野の説明を補足する。


「へぇ。それで、“見せかけの特待生”って具体的には何なの?」


 大井先生の説明を受け、続いて葛西が質問を投げかける。


「ああ、それは私から説明してやる。」


 学校の制度の説明だからか、習志野に代わって先生が口を開く。


「まず、“通常の特待生”の説明をもう一度しておく。彼らに与えられた特典は大きく分けて二つ。――入学試験の免除と主席で卒業するための全面バックアップだ。ここまではいいか?」

「はい。」

「ああ。」

「大丈夫ですよ。」


 先生は俺達の反応を確かめ、一呼吸おいて再び口を開いた。


「一方、“見せかけの特待生”――まぁ。習志野のことだが。こいつに与えられた特典はその二つのうち、入学試験免除だけだ。」

「「「!!!」」」

「普通入学試験免除なんて特待生に選ばれる奴ならおまけみたいな物だからな。特待生に選ばれた人間からすると(・・・・・・・・・・・・・・・)、何も特典を与えられてない特待生――“見せかけの特待生”ってわけだ。まぁ、そんな生徒、過去を遡っても習志野だけなんだがな。」


 なるほど。まぁ、もし習志野が支援を受けてるなら、今までの対戦ももう少し楽に勝ててただろうしな。


「ちょっと待ってよ!何で学校は習志野さんにだけ特典を与えないのよ!?いくら“推薦”だろうと選ばれたんだから特典を受け取る権利はあるんじゃない?」


 今度は市川が質問を投げかける。


「それも…酒々井くんとの契約に入ってたので…。」


 習志野が申し訳なさそうに、俯き加減に応える。


「まぁ、学校としてもその条件がなければ受け入れは難しかっただろうけどな。」


 そりゃそうか…。大井先生の補足に納得してしまった。

 学校側としても、“普通の学生”を支援してまで主席にする程寛容にはなれないってことか。

 しかし、俺としては他に気になっていることがいくつもある。例えば…


「じゃあ、俺から…。習志野、何で今まで話さなかったんだ?ある程度“この状況”になることは分かってたはずなのに、なんでパートナーの俺に一言も相談しなかったんだ?」

「そ、それは……。」


俺の厳しい質問に習志野が口ごもる。

 俺が今回の件で主に気になっていたことのうちの一つ、そして、恐らく習志野にとっては今回の件で後ろめたく思っていたことだろう。


「言えなかったんだよ。」


 なかなか喋れないでいる習志野に代わって、再び大井先生が口を開いた。


「…どういうことですか?」

「決まってるだろ?学校に禁じられてるからだよ。」

「!!」

「当たり前だ。この制度は学校側にとっては絶対に外に漏らしちゃいけないもんだ。特待生には全員口止めとして誓約書が書かされるんだ。勿論、破ったらシャレにならない罰則が与えられる。――ま、その口止め料が全面バックアップなんだけどな。」


 考えてみれば当たり前だ。この制度が公になればこの学校は間違いなく糾弾される。

 それを避けるために、情報管理は学校が最も力を入れるもののはずだ。

 そして、勿論その対象者は制度について知っている者全て――“特待生”自身にも及ぶに決まっている。


「じゃあ、習志野は特典は貰えないのに罰則だけは課されてるってことですか…?」

「ま、そういうことだな。」


習志野の方を振り返ると、彼女はゆっくりと口を開いた。


「私、ずっとたっくんのことが大好きで、今でも本気で結婚したいと思ってますしするつもりです。」


 そして、習志野は俺の方を真っ直ぐ見据えて苦笑混じりに続ける。


「だからこそ、たっくんが恋星高校を受験するって知った時は本当に焦りました。何せ、私は勉強もできないし、運動も普通、そして特別優れた才能もない。どう考えても私が入学できるところではありませんでしたから……。」


 この学校の偏差値はかなり高い。それなのに、ただでさえ勉強ができない習志野が短期間の努力で合格出来る程、この恋星高校は優しい学校じゃない。



「勿論必死に努力はしましたが、結果は予想通りでした。最初から無理だと分かっていたはずなのに、結果を知らされた私は誰よりも落ち込み、泣いていたと思います。――そんな中声をかけてきたのが酒々井くんでした。」


「恋星高校の特待生だという彼は、いくつかの条件を飲む代わりに私を恋星高校に入学できるように取り計らってくれると言ってきました。――勿論、最初はそんな都合の良い話信じられませんでしたし、彼が提示してきた条件もかなり危険なものだってことも理解してました。――でも、それでも、私は自分が小さい頃から抱き続けてきた気持ちを大切にしたかったんです。――だから」


 習志野はそこで、一旦言葉を止め目を閉じる。

 そして、目を開き、意を決した表情で…


「だからこそ!私は自分の力でたっくんの下へ帰ってきたいと思ってます!ーーな、なので…たっくん、それまで、私を待っててくれますか?」


 決意を述べた後、上目遣いで恐る恐る尋ねてくる。

 ――それは反則だろう…。

 自分でも顔が熱くなっているのが分かる。


「いやぁ、女の子にここまで言わせるなんてさすがだねぇ!辰己君、これはやらざるを得ないんじゃない?」

「フン、あんたのことだしどうせ勝負するんでしょ?――まぁ、そっちの方があんたらしくていいけど…。」


 そんな様子を見て、葛西がからかい、市川が頬を膨らませながら、少し顔を赤らめている。

 なんとなく、俺が酒々井に勝負を挑む流れになっている。


「い、いえ、たからこれは私の問題で…」


 そんな意図していない展開に習志野がオロオロ。


「まあまあ、好きな人のために頑張るのもいいけど、好きだからこそ頼るのも大切だよ。――勿論、僕と凛ちゃんも協力するしさ!」

「フン、どうせあんただけじゃ何もできないでしょ?」


 二人とも、なんだかんだでヤル気満々だ。

 俺としても、できれば協力してやりたいとも思っている。

 だが、どうしても、もう一つ気掛かりな点がある。その答え次第では……。

 俺は意を決して先生に問いかけた。


「すまんが、その前にもう一つ確認したいことがある…。先生、“特待生”ってのは本当に誰でも、今回みたいに“普通の生徒”を入学させれるんですか?」


 酒々井は習志野は自分がこの学校の特待生にしてやった、と言った。

 先生は習志野のような例は初めてだ、と言った。

 酒々井の言う通り、特待生なら簡単に一般生徒を入学させられるなら、習志野みたいな生徒が過去に存在してても不思議じゃない。

 いや、むしろいない方が不自然だ。


 そして、俺の問いに大井先生は一つ溜息をつき、


「 そんなわけないだろ。こんなことできるのはアイツくらいだ。」


 やっぱりそうか…。ただ問題はどうやって実行したかだ。真っ当な方法で、一高校生が名門校のルールを変えられるとは思えないんだが…。

 しかし、その答えはすぐに先生の口から明かされた。


「確かに酒々井は学校が選んだ特待生だが、それ以外にもう一つ肩書きがある。――酒々井秀は、この恋星高校の理事メンバーの一人だ。」

「「「!!!」」」


 予想を軽く凌駕する、衝撃的な回答に習志野も含めた一同、絶句する。


「しかも、酒々井は理事メンバーの中でも特に大きな権力を握っているらしい。一ーまぁ、単純な話だ。権力と立場に物を言わせて特例を作ったってだけだ。」


 先生も酒々井にはうんざりしているのか、投げやりな感じで吐き捨てる。


「つ、つまり、アイツを相手取るってことは、この学校を相手にするってこと…?」

「少なからずそんな感じだな。まぁ、私たち教師はあくまで中立な立場だから安心しろ。間違っても酒々井の味方をするつもりはない。」


 俺が考えていたより、さらに最悪の答えが返ってきた。

 先生は動揺しまくりの俺達にフォローを入れるが、そんなのは気休めにもならない。

 教師や他の学校関係者が中立でも、アイツ自身が大きな権力を持っている以上、やりようはいくらでもある。

 どんな勝負になるかは分からないが、到底勝てる気がしない…。

 俺の中で、何かがプツリと切れた気がした。

 

「いやぁ、これはなかなか厳しいね。ちなみに辰己君、何か対策とかあるかい?」


 葛西の問いかけも俺の耳を素通りしていく。

 葛西への返事の代わりに、俺は習志野の方を振り返って力なく告げた。


「悪いな、習志野。俺、酒々井との勝負から降りさせてもらうわ。」




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