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恋星高校恋愛学科 2

 退学を懸けるだけでなく、結婚という人生の中の一大イベントと自分の夢を天秤にかける恋星高校恋愛学科のルールを聞かされ、教室は未だざわついていた。そんな中、


「先生」


 一人の男子生徒、氷室辰巳――つまり俺が手を挙げた。

 あの、皆さん? そんなに見られると話しにくいんですが……。ていうか先生、挙手した生徒全員漏れなく睨みつけるのやめません?


「なんだ? まだ文句でもあるのか?」


 敵を目で殺すとはこのことを言うのだろう。その目はとても教師のそれとは思えない。


「いや、ルールってこれで全部なのかなぁと思って? ほら、正直これで全部とは思えないような気がして……。まだあるなら、まずはルールを全部把握しておきたいなぁっと……」


 目は泳がせ、声を上ずらせながらも、なんとか気になるところを聞いてみた。

 確かに結婚のこととか、この学科のルールは問題だらけ。だが、今の俺にとってそんなことは二の次だ。

 とりあえず主席で卒業する――今はそのことだけに集中しよう。結婚の件についても、もしかしたら意外にペアの奴と気が合うかもしれんしな。


「あ? お前、名前は?」

氷室辰巳ひむろたつみです……」

「なるほど。なかなか冷静な奴だな。いや、ひねくれてるだけか? ――だが面白そうではある」


 そう言って、先生はニヤリと口の端を吊り上げた。――先生、笑顔怖っ!!

 ていうか、これ、何か知らんけど気に入られたっぽいな。まぁ、嫌われるよりはましか……。

 どうやらこのドS教師、気に入った生徒には名前を聞くらしい。

 周りの生徒からもそのシステムに気が付いたのだろうか。俺に向けられる視線もどこか尊敬の念が込められているような気がしないでもない。

 あれ? そう言えば、最初に大井先生のお気に入りリストに登録された巨乳少女――たしか、市川だったか――はどんな反応してるんだろ? もしかして、先生のお気に入り同士興味津々なのでは?

 いやいや、もしかしたらライバル視しているのかもしれん。しかし、ライバルだと思っていたのに気付いたら好きになっていたっていうパターンもあり得なくはないよな!?

 『もしかしてこれがきっかけで俺にも春が訪れるのでは!?』――と、期待に胸を躍らせつつ、チラッと後を振り返ってみた。すると……


「……なんか用?」


 ……ザ・塩対応。

 俺の視線の先にはつまらなさそうに目を細める巨乳少女が。『話しかけないでくれる』――彼女の目がそう訴えているように感じたのは、多分気のせいではないだろう。ていうか、この娘もなんか怖いんですけど!!


「……いや、なんでもないです」


 やっぱりそこらのラブコメのようにはいかないか……。

 現実の厳しさを痛感した俺は気を取り直して顔を前方に向け直す。


「とは言っても、残りは細かいルールばかりだ。生徒端末にも載っているから見ながら聞け」


 いや、先に言えよ。端末に載ってるならわざわざ質問する必要なかったじゃん!

 無駄な労力を使ってしまい、なんだか損した気分に陥った俺は若干肩を落としながら、自分の端末を操作し、校則のページを開いてみた。


「とりあえず順番に説明していくぞ。まずは――」


 大井の説明が再開される。

 俺は、その説明を聞きつつも勝手に先の校則まで目を通す。

 さっき説明したものも含め、ルール(校則)は次のように記載されていた。


一、告白をしてフラれたら即刻退学。※但し既にペアを組んでいる生徒に対する告白は2回フラれた時点で退学とする。

二、8日以上恋人ペアがいない生徒は退学。

三、卒業する生徒は、卒業時の恋人と結婚する。

四、恋人同士になった生徒は部屋を共有し、共同生活をしなければならない。

五、卒業の資格を得た者には返済無用の奨学金や希望進路への推薦等優遇を約束する、

六、主席卒業者には当人の願いの実現に向け、学校が可能な限り援助する。

七、告白し、成功した場合は告白した生徒に100ptプラスされる。

八、告白され、フッた生徒は告白してきた相手のポイントを半分受け取れる。

九、ペアの解消は何度でも可。※その際ポイントはそれぞれの個人ポイントが配分される。

十、四半期が終了する度に、各クラス最下位のペアは退学とする。



以上、左記ルールを破ったものは退学処分とする。


「かなり厄介だな」


 さすがは卒業率3%。そこまでして卒業させたくないのか、と言いたくなるレベルだ。特に、七以降とか明らかに生徒同士でつぶし合わせようとしてんじゃん!

とはいえ、郷に入っては郷に従えとも言うし、今俺がやるべきことはただ一つ。とりあえずさっさとルールを覚えて優位に進めないとな。


「――とまぁ、ルール説明はこんな感じだ。ちなみに他人を蹴落とすことを躊躇ってると真っ先に脱落するから気をつけろよ。――分からないことがあったら後から適当に聞きに来い!」


 教師の口から間接的にではあるが他人を蹴落とすことが肯定されるとは……。こりゃ、他の奴らに遅れを取るわけにはいかねぇよな。と、先生の説明が終わった後も、端末に記されたルールを読み返していた俺だったが、そんな時間は我らがボス・大井みどりの言葉ですぐに終わりを告げた。


「お前ら、ルールを覚えようと躍起になるのもいいが、これから最初の重大イベントを始める。――みんな大好き、自己紹介タイムだ!」

「「「!?」」」


 自己紹介……確かに重要なイベントだ。おそらく他の連中も分かっているはず――良い相手を探す意味でも、自分をアピールするという意味でも……少しでも良い相手とペアを組むため、ここが最初の正念場だということを。


「じゃあ、最初は――」


 教室全体に緊迫した空気が流れる中、大井先生が生徒名簿を眺めながら記念すべきトップバッターの選定し始めた。

 頼む! トップバッターはやめてくれ!! 絶対に失敗が許されず、かといって無難な自己紹介では不十分。そんな中トップで自己紹介するなんて……リスク以外の何物でもない!!

 多分、クラスのほとんどが俺と同じようなことを考えていたことだろう。みんながみんな『トップバッターは自分以外で……!』と祈る中、


 「すみません!クラスを間違えて遅くなりました!!」


祈りが通じたのだろうか。なんと全員の祈りが届いてしまった。

 ガラガラっという音とともに勢いよく教室の扉が開かれ、一人の少女が息を切らして入ってきた。当然、クラス全員からの視線を一身に浴びながら。

 腰ほどまで伸びたストレートの黒髪にぱっちりとした目、白い肌に整った顔立ち……小柄の童顔で美人というよりは可愛いという印象。とりあえず、市川凛とは異なり、胸的な意味ではこの習志野栞も大井先生と同種のようだ。

 そして、そんな彼女はキョロキョロと周りを見渡した後、『あっ!』と何か閃いたような顔をして、


「すみません! 六里中学校ろくさとちゅうがっこう出身、習志野栞ならしのしおりです!」


何を勘違いしたのか、勢いよく頭を下げてクラス全員の前で名乗ってみせた。…………トップバッター、お前かよ!!


「貴様、この私の授業に遅れ、さらに勝手に自己紹介タイムとは……良い度胸だな? もちろん学校のルールについては理解してるんだろうな?」


 当然そんなKY娘に我らがボスはおかんむり。その表情は怒りでヒクついており、その目は『万が一知らないようならブッ殺す!』と告げていて、それを見たクラスメート達は『ひっ!!』と小さく悲鳴を上げた。

 しかしこの少女、相当度胸があるのか、もしくはただの馬鹿なのか、鬼の形相の大井先生に、


「はい! この学校のルールについてはさっきまでいたクラスでしっかり聞いてきました!」


幼く純真な笑顔で、元気よく答えてみせた。


「…………チッ、まぁいい。とりあえず、お前から自己紹介をしろ!」


 その穢れなき笑顔に負けたのか、それともこれ以上言っても無駄だと諦めたのか、はたまた貧乳同士のよしみか、とにかく大井先生は怒りを飲み込み、自己紹介の続きを促した。

 あの鬼軍曹が折れた、だと……!? その光景に俺だけじゃなく、クラス全員が目を丸くした。


「改めまして、習志野栞ならしのしおりです!得意な教科は――」


 最初の登場が派手だったせいか、自己紹介でも何かやらかすのではないか、とクラス中が注目するが、特に変わったところはなく、オーソドックスな自己紹介の内容が続く。

 が、しかし……


「そして最後に、私には好きな人がいます」


その直後の発言に再びクラスがざわついた。

 へぇー。でも、この学校で普通に恋愛なんて無理そうだよな。好きな人がいるってことは、おそらく自分の夢か好きな人のどっちかを諦めなきゃいけないだろうし……とにかくご愁傷様だな。――などと呑気に考えている場合ではなかった。

 次の瞬間。大井が怒りを取り下げたことなど比べ物にならないような衝撃が、俺を襲った……。


「――氷室辰巳ひむろたつみ君、私はあなたが大好きです!」

「……は?」


 突然自分の名前が呼ばれ、思わず間抜けな声が飛び出した。

 え? 今、何か衝撃的なセリフが聞こえた気がしたが……聞き間違いか? そうだよな! そうだ、聞き間違いだ!! 聞き間違いに違いない!! と、必死に自分に言い聞かせる俺だったが、


辰巳たつみ君、私と付き合ってください!!」


完全にこちらに向かって頭を下げる習志野。どう考えても聞き間違いではなかった……。

 改めて声の聞こえた方――習志野を見てみると、頭を下げたまま、頬を赤らめて恥じらい、こちらを上目遣いでチラチラと見ながら返事を待っていた。


「……おいおい、アイツ何考えてんだよ」


 思いっきり顔を引きつらせた俺の高校生活は、見事なまでに波乱の幕開けとなった。


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