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知力

 

 市川と葛西の宣戦布告から数日。あれから特に何もないままオリエンテーション当日の朝を迎えた。

 クラスの連中の大半は無事にペアを組むことに成功し、今はオリエンテーション初日の『知力』対策のため、組んだばかりのペア同士で勉強を教え合っている。

 しかし、残念ながら全員がペアを組むことができたわけではなく、クラス40人のうち8人がペアを組むことができず、志半ばで早くも退学していった。――まさか、本当にこうもあっさり退学させるとは…この学校も本気ってわけか…。


「い、いよいよ始まりますね。」


 そんな空席が少し見受けられる教室で、俺と習志野はいつも通り俺の席で集まっていた。

 習志野は緊張のせいか、さっきからそわそわしっぱなしだ。――とりあえず落ち着かせるか。ただでさえ今日は学力の日だってのに、このままじゃ自分の名前すら書き間違えかねん!!


「とりあえず落ち着け。」

「そ、そんなこと言われましてもぉ…。」


 既に涙目の習志野が助けを求めるようにこちらを見つめてくる。


「じゃあ、周りを見てみろ。」

「周りですか…?」


 言われた通り、習志野は軽く袖で涙を拭って周りを見渡す。

 そして、そこには…


「やべー、もうすぐはじまっちまうよ!」

「最初のテスト何の教科だったっけ?」

「も、もう一回全教科復習しようよ!」


 周りも習志野と同じように緊張で完全に浮足立っている。まぁ、高校初めてのテストで、しかもそのテストに自分の学校生き残りがかかっているとなってはこうなるのも当然だろう。


「…みんな緊張してる…。」

「そうだ。そして、緊張で縮こまってる奴は自分のベストなんてとてもじゃないが出せない。緊張の具合や個人差にもよるが、今のあいつらなら普段の7割くらいだろ。」


 まぁ、全く根拠はないわけだが…。


「あいつらが普段大体5教科で350点くらい獲る学力だとしたら、その7割だから…今回は245点くらいになるってわけだ。お前の入試の成績は298点だから、入試当時の実力が出せればいいってことだ。さらにお前はここ最近の勉強でかなり学力もまし…いや伸びてきてる。――どうだ?あんな奴ら相手にまだ負けるのが心配か?」

「な、なるほど!そう言われると、なんだかイケるような気がしてきました!!」


 俺の適当な理論を聞いた習志野は胸の前で拳を握り、すっかりヤル気になっていた。――っていうか、こいつこんな簡単に騙されてて大丈夫なのか…?なんか将来訪問販売でインチキグッズかわされそうだな。まぁ、とりあえず今はこいつが単純な奴で良かった…。


「いやぁ、もうすぐオリエンテーション開始だっていうのに、ラブラブだねぇ。」


 習志野のあまりの素直さに一抹の不安を感じていると、不意に後ろから聞き覚えのある軽薄な声が聞こえてきた。


「…なんか用か?」

「相変わらず僕には冷たいなぁ。」


 振り返ると、案の定そこに立っていたのは長身に茶髪のイケメン、葛西寛人と…


「なんだよ、そっちも十分ラブラブじゃねぇか。」


 我がクラスの誇る巨乳美人、市川凛だった。

 

「葛西君とはペアだから仕方なく一緒にいるだけよ。――こんな奴とラブラブとか…次言ったら名誉棄損で訴えるわよ。」

「やだなぁ、凛ちゃんは相変わらずツンデレなんだから♪」

「殺すわよ。」

「痛いっ!!」


 市川は軽口を叩く葛西の足を思いっきり踏みつけながら殺気のこもった目で睨んでいた。

 一方の葛西は足を押さえて床に転がっている。――今後市川をイジるのは止めておこう…。


「お、お二人とも、私達に用があるんじゃないんですか?」


 俺がしびれを切らして言おうと思ったセリフを、ほぼそのまま習志野が先に言った。

 すると、足を踏まれて転がっていた葛西が起き上がり口を開く。


「まぁ、敵情視察ってやつかな。元々僕らがライバル視してるのは君達だけだからね。――まぁ、どうやら警戒する必要もなかったみたいだけどね。」


 そう言ってニヤリと笑うと、市川と一緒にそのまま自分達の席に戻っていった。――何か策があるみたいだが…まぁ、とりあえずお手並み拝見といくか。


キンコーンカーンコーン


 そんなことを考えているとチャイムが鳴り、教室の扉が開いた。

そして、


「お前ら、準備はいいな?さっそくオリエンテーションを始めるぞ。」


 まっすぐ教卓まで登った大井先生が清々しい程の悪役じみた笑顔を湛えながら宣言した。


「お前らも分かってると思うが、今日は『知力』の日、つまり学力テストの日だ。――まず1時間目は英語だ!さっさと机の上片付けろ!!」


 大井先生の号令と共に全員迅速に机の上を片付ける。

それを確認した大井先生は慣れた手つきでテストを配っていった。

 テストが全員に配られ、しばし静寂が流れる。――習志野が得意なところだとありがたいんだが…。

 そして…


「それでは、テスト開始!!」


 先生の合図と同時に全員が問題用紙を開く。


「…もらったな!」


 問題にざっと目を通した俺は心の中でガッツポーズをした。

 このテストの問題はこの前、習志野に教えてやったところだ!これなら俺だけじゃなく習志野も高得点を獲れるはずだ!!

 チラリと習志野の方を見ると、小さくガッツポーズをしていた。――これなら大丈夫そうだな。

 自然と俺にも笑みがこぼれるのを感じた。


※※※※


「名門高校のテストといっても大したことありませんでしたね。」


 昼休み。5教科のうち半分以上が終わり、昼飯の準備をしていると目の前にニヤニヤしながら習志野がやってきた。――完全に調子に乗ってんな、こいつ…。


「おい、まだ2教科残ってんだぞ?」

「う~。確かにそうですけど。いいじゃないですか、ちょっとくらいほめてくれても。」


 冷静に返してやると、習志野は口を尖らせて拗ね始めた。――ホントガキだな…。

 午前中のテストは俺が教えてやった範囲がかなり的中し、本人もかなり手応えを感じているらしい。


「褒めるのは結果が出てからだ。」

「えぇ~!いいじゃないですか!!たっくんのケチ!!」


 しつこく食い下がる習志野をスル―し、俺は淡々と食事を済ませた。――まぁ、こいつの場合褒めた瞬間に調子落としそうだしな…。

 ――それにしても、あいつら全く動く気配がねぇよな…

 俺は教室の端の方で昼食を食っている葛西と市川の方を見やる。

 しつこく話しかける葛西を全スル―し、表情一つ崩さず弁当を食べる市川。一人しゃべり続ける葛西に返事一つ返さない徹底ぶり。……さすがに葛西が少し不憫に見えてきたな。


(もしかして、あいつら一日目の『知力』は何もせず普通に勝つつもりか?)


 まぁ、なくはない話だ。元々入試学年一位の市川凛。そして、葛西の方も入試の順位は学年15位、クラスでは4位とかなり優秀な方らしい。つまり、普通にテストを受け、実力通りの結果が出せれば一位を獲ることくらい簡単なはずだ。

 しかし…


(あの、葛西寛人って男がそんな普通なやり方で満足するか?)


 葛西は別に勝つことを目的にしているわけではない。自分が楽しめればそれでいい、という異常者だ。そんな奴が正攻法で勝ったからって満足するもんなのか…?


(まぁ、とりあえず警戒だけはしておくか…)


 ふと、葛西が俺の視線に気付き、ニヤリと不敵な笑みを投げかけてきた。



※※※※


「それじゃあ、さっそくオリエンテーション一日目、『知力』の結果発表を行う。」


 午後のテストも無事に終わり、あっという間に結果発表の時間となった。

 通常、1~2日後に結果発表を行うものだが、今回はオリエンテーションの一部ということで特別にテストの当日返却を行うらしい。

 俺もかなりの高得点の手応えがあるし、何よりあまり期待してなかった習志野の出来が良かったのがデカイ!これはかなりの順位が期待できそうだ。

 まぁ、市川と葛西がいる以上、ここで一位を獲るのは正直難しいが僅差なら残りの2日間で十分逆転できるはずだろう。


「それじゃあ、まず、今日のテストの結果の上位3ペアを発表する。」


 大井先生の発表をクラス全員が固唾をのんで見守っている。


「第3位、合計821点!舞浜学・千鳥知恵組!」

「「「おおっ!!」」」

「さすが、メガネコンビ!!」

「やっぱメガネには敵わなかったか…」

「…私もメガネにしようかしら…」


 クラス中から拍手やら歓声が響き渡り、みんなから祝福されている。

 逆に、黒髪眼鏡の男子と、短髪のロングの髪に眼鏡の少女はかなり呼ばれる確信があったのか、冷静に握手してお互いの健闘をたたえ合っている。… ほとんどメガネしか聞こえてこないきもするが…。

 ――っていうか、こいつら誰だ…?俺、こんな奴ら全く知らないんだが…。そもそも、なんか意外とみんな仲良くね…?

 いや、冷静に考えれば俺は葛西や市川くらいしかクラスのメンバーを覚えていなかった。

 そして、その原因についてもすぐに思い至った…。


(まぁ、入学してからほぼずっとこいつと一緒だったしな……。)


 俺は原因となった少女・習志野栞に目を向けると、習志野も気付いたらしく満面の笑みで手を振っている…。――まぁ、こいつと一緒じゃなくても俺は多分あの話の中には入ってなかったけどな…。


(それにしても仲良くなるの早過ぎじゃねぇの…?)


 そんな俺の些細な疑問などそっちのけで順位発表は進んでいく。

 そして…


「第2位、合計832点!氷室辰巳・習志野栞組!!」

「「「マジかよ!!」」」


 名前が呼ばれた瞬間、クラス中に衝撃が走った。


「氷室君が頭いいのは知ってたけど…」

「あの学年ブービーの習志野さんが…!?」

「こんなのあり得ない……」


 周りが驚くのも当然だろう。いくら俺が高得点を獲ったからって、学年の底辺である習志野とペアを組んでクラス3位なんて普通あり得ない。何か裏があるはずだ!と言いたくもなる。――まぁ、今回に関しては本当に何もしていないんだが。


「フン、まぐれだろうがとりあえず今回は褒めておいてやる。」


 そんな素直じゃない褒め言葉と一緒にテストが返却された。


テストの結果は…

俺、5教科合計478点。

習志野、5教科合計354点


「や、やりました!たっくん、わ、私、遂にやりましたよ!!」


 ――習志野は人生で初の70点以上を叩きだし、感動のあまり泣きじゃくっていた。


「そして、第1位!合計848点、葛西寛人・市川凛組!!」

「「「おおっ!!」」」


 クラスから再び拍手が鳴り響いた。最後はやはり誰もが予想した大本命が一位という結果に終わった。


(まぁ、差はほとんどねぇし、こりゃ予想以上の結果だな。)


 俺は内心笑いが止まらなかった。これなら正攻法でも十分逆転できそうだ。

しかし、俺のそんな考えはすぐに瓦解することとなった…。


「それじゃあ、テストの結果も発表したことだし、改めてオリエンテーション本日の結果発表を行う。」

「…は?」


 大井先生の言葉に耳を疑った。――おいおい、今日のオリエンテーションの順位なら今発表したはずだろ…?この教師は一体何を言ってんだ…?ここは クラスの連中の騒ぎに紛れて一言文句でも――


「!?」


 口を開きかけて、俺は周りの異変に気付いた。


(…誰も騒いでない…だと…?)


 いつもなら、大井先生が虚を突いた言動を取ると、決まってクラスがざわつくところだが、今は俺達以外誰も驚きの表情一つ見せず、ただじっと先生の発表を待っているのだ。

 ――なんでみんな無反応なんだ?もしかして俺がルールを聞き間違えてんのか…?

 戸惑う俺を差し置き、結果発表は続く。


「まぁ、いちいち読み上げるのも飽きたし、後はここに張り出しとくから適当に見とけ!」


 そう言って、先生は黒板に、バンっと勢いよく一枚の紙を張ると、そのまま教室を出て行った。

 そして…


「…なんだよ、これ…?」


 先生が残していった順位表を見て、俺は目を丸くした。


 順位表 一日目


1位 葛西・市川組(1128点)

2位 氷室・習志野組(832点)

3位 舞浜・千鳥組(821点)


「どうしたんだい、辰巳君。随分驚いてるみたいだけど?」


 不意に背後から軽薄な口調が聞こえた。

 振り返り、その胡散臭い笑顔を見た瞬間、気付いた。


「…なるほど。葛西、お前がなんかしたのか?」

「うーん…。まぁ、半分正解かな。」


 そして、葛西のその言葉と同時に一人の女子が俺の前に出てきた。

 

「言ったはずよ。あなた達を全力で潰すって」

「市川凛…!!」


 ツリ目の巨乳美少女が勝ち誇ったような顔で葛西の隣に並び立つ。

 ようやく俺は気付いた…。既にこいつらの攻撃が始っているということを……。



ここまで読んでいただいた方ありがとうございます。


このお話で本作5万字を突破致しました!!

5万字突破記念ということで、感想や評価など頂けると嬉しいです!!

よろしくお願いいたします。



次回更新は11月22日 10時ころになります!!


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