プロローグ
「ねぇねぇ、私、大きくなったらタッくんのお嫁さんになってあげるね」
小さな少女は元気な声で男の子に笑顔を向ける。
子供のころの結婚の約束――仲の良い幼少の男女ならそれほど珍しいやり取りではない。むしろ、ありふれている出来事と言っても過言ではないくらい。
しかし、この二人に関しては……
「いや、遠慮しておく」
男の子は部屋に転がっていたサッカーボールをいじくりまわしながら素っ気なく答えた。その表情は平静そのもので、幼少の男子特有の照れ隠しで拒否しているわけではないと思われる。
「え~! なんで~いいじゃん! 結婚しようよ~」
それに対し頬を膨らませながら、両親に『このおもちゃ買ってよ~』とでも言って駄々をこねるように少年に詰め寄る少女。
「いや、だって、ここで勢いのままに約束しても、将来お互いに結婚したいと思ってるかわからねぇじゃん。俺そこまで責任持てねぇし」
だが、それは少年には通じない。ただ、幼稚園児とは思えない冷静で現実的な意見を淡々と告げるだけ。
「私は大人になってもタッくんのこと好きだもん!!」
「お前は好きでも俺は好きじゃないかもしれんだろ」
「えー!? ……もしかして、たっくん………私のこと嫌いなの……?」
「いや、嫌いじゃないけど、結婚したい程好きかと言われると、そうでもない」
「う~……」
人生初の告白を容赦なくバッサリと切り捨てられ、涙目で唸る少女。
だが、これで泣いたり落ち込んだり、はたまた諦めたりしなかったのは彼女の偉いところであり、彼にとっては計算外のことだった。
「よし、決めた! 私、絶対たっくんと結婚する!!」
「いや、だから――」
「絶対に大人になるまでにたっくんのことメロメロにしてみせる!!」
少女は意を決した顔ですくっと立ち上がり、ヤル気に満ちた表情で高らかに宣言してみせた。
「……普通に結婚の約束しといた方が良かったかも……」
そして、それ見て、少年は静かに嘆くのであった。




