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無名

作者: 登木 白湯

前書きがあるなんて...知らなかった。

完全に私のミスです、詳しくはあらすじに纏めています。

ご不便をおかけしますがよろしくお願いします。

カンカンカンと云う音が、眠りに就く前の耳に反響し脳の味噌が冴えてくる。別段、寝不足と云う訳でもなく早起きする理由も無いのだから、少しぐらい寝る時間が遅くなっても構わないのだ。




しかし、考えてみると電車の音は不思議だ。




どんな時でも働かない、ただ頸に乗っかっているだけの肉塊が、こんな時には嬉々としてそして悠々として暴走する。嫌いではない。


それこそ水平線の如く、真っ直ぐなレールを進む電車が発車する様と良く似ている。




電車は心地の良いリズムで揺れる。左右だけでなく上下にも揺れる。強いて挙げるなら、私と違う所は高い確率で目的地に辿り着ける、と云うぐらいであろう。


逆に私が妄想の終着駅まで辿り着いた事はまだ無い、終着駅かなと思っても一向に速度を下げない。もう、ここらでよか。って思ったって、止まってはくれない。終着駅は、神のみぞ知ると云う具合なのだろう。




現実の方の電車にも何回か乗らせてもらっているが、頗る威勢がいい。


此方は便利が良く、殆どの確率で目的地に着いてくれるので此処で幾ら強がっても仕方が無い。




大概電車に乗る時は太陽が昇ってる時だが、私の完全なる自論では音を聴く時と云うのは夜に限る。此れからの事は夜に限った事では無いが、敢えて云うとすると必ず踏切の音の後には電車特有のあの音が聴こえる。林檎が木から墜ちる事と同じぐらい、此の法則が全世界に溢れていると思うと、常々私は、全神経が射竦められた気分に陥る。


私は踏切のカンカンカンと云う音が聴こえると全身の神経が臨戦態勢に入る、臨戦態勢と云っても攻撃の方では無く、来るべき時に備え砦を守る。


精神の緊張状態によるのかもしれないが、電車が来るまで長い時もあれば短い時もある、云うまでも無いと思うが特に長い時は最悪だ。


結果が出る前に壊された地球ですら、私の事を切に危惧してくれるに違いない。




電車は踏切が下がって電車が通り、数秒してから踏切が上がる。平面的に観るとこんな感じだろう、しかし踏切が下がりきってから電車が来るまでの黎明期の緊張感は何事にも例えようがない。緊張感には2種類あって、心地の良い緊張感など存在しない。1つはジェンガの序盤の緊張感であり、2つ目は、ジェンガの終盤の緊張感であるからだ。




しかし其の数秒後には、また違う音が聴こえてくる。愈々、愈々だ。


電車は1両編成かもしれないし、それ以上かもしれない。1両編成の場合、その時間は儚くも一瞬で消えてしまう。だが、しかし私にとっては電車が何両編成であろうと、その時間は灼熱の烈火で温められた鉄板の、上に舞い降りたひとつの雪の結晶に過ぎないのだ。


しかし誰が何と言おうと、其れが至福の時であり、其れが唯一の矜持なのである。


殆どの人は、此処がたけなわだと決めつける。一部の議論好きな人達は、やはり此処は酣だ。とか、いやいや闌であろう。などと不毛な会話を楽しむ所だろう、しかし私にとってそのようなことは正直どうでも良い。


只、耳を澄まし、愉しむ。


踏切の音と電車の音が調和し、見事な旋律を醸し出す最後の一滴迄、愉しむ。辿り着ける所は限界があるだろう、しかし私は不毛な事だとは思ってはいない。少なくとも議論するよりはよっぽどましだ。




その一滴まで飲み干すと残るのは踏切の音だけとなる。しかし不思議なことだ、電車が来る前の踏切の音となんら変わらないはずなのに、何かが違う。この答えに明確に辿り着けたものは少ない。ある者は緊張感の有無だと云うし、またある者はこの後に来ると思われる虚無感が影響していると云う。


私はそうは思わない、精神面から捉えるから誤謬に繋がるのだ。


電車の過ぎる前の踏切と後の踏切を比べるのがそもそも可笑しい、その者に問いたい。お風呂に浮かんでいる黄色いアヒルの人形と冬物のセーターを比べるのかと。




しかし電車が過ぎたとなると踏切はもう、過去の遺産と化す。




電車が過ぎた後、踏切は変わらずカンカンと短く、それでいて優しく泣く。私はこの瞬間も好きだ。




踏切が下がってから上がるまでの数秒間には人生の殆どが詰まっている、緊張感、高揚感、虚無感。其れだけでは無い。





電車と一緒に旅するのも悪くは無い。

次の考察の題材は未定ですが、近日書きたいと思っています。

宜しければ次回もお願いします。

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