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第二話 リベルノア学園

「幸一。今日の一時限目って何だっけ?」

「歴史だけど?」

「うし、ゆっくり寝れるな」


 真一は事ある毎に授業中昼寝をするのだ。特に歴史は先生が緩い事もあって、九割の確率で寝ている。寝ていない時は漫画を読んでいるので、十割授業は聞いていない。

 確かに、歴史は眠くなるのは分かるけどな。


「まったく…たまには真面目に授業受けろよな。シバゲンが可哀そうだろ?」

「シバゲンがそんな玉に見えるか?」


 確かに、見た目があれじゃあな…でも自分の仇名を生徒に付けてもらって喜ぶ人だから、心は以外にもピュアなのかもしれない。


「もぉ、お兄ちゃんはちゃんと授業受けてよね。じゃないとまた赤点取っちゃうよ?」

「大丈夫だぞ詩音。赤点は二教科までなら進級できるからな!」

「そういう問題じゃないの!妹の私が恥ずかしいの!そんな赤点ばっかり取るお兄ちゃんなんか、嫌いになっちゃうよ?」

「なん…だと……」


 詩音の『嫌いになっちゃうよ?』のダメージが大きすぎたのか、道のど真ん中で両膝をついて落ち込む真一。こいつにとって詩音に嫌われるのは相当なダメージになるらしい。流石シスコンと行った所か。


「幸一さん。こんなどうしようもないお兄ちゃんなんか置いて行きましょう」

「あぁ、そうだな」


 そのまま打ちひしがれる真一を放っておいて、二人でさっさと学園に向かう。

 時折真一の傍を通る生徒が奇怪な目で真一を見るが、これもまあ、たまにある事なので誰も声をかける様子はない。そんなんだから、残念なイケメンって言われるんだよ。



 しばらく二人で緩い坂道を登っていくと、大きな建物が見えてきた。

 建物は三つに分かれていて、真ん中の円形状の建物が職員棟、その左に中等部棟、左に高等部棟がある。それぞれ五階建てで、各棟は渡り廊下で繋がっている。


 校門の所で見知った顔に会った。

 青銀色の少し寝癖の付いたような跳ねのあるショートカット、空よりも深い濃い青色の目の女子生徒だ。肌はシミ一つなく白く綺麗で、何よりも目立つのが尖った耳だ。

 女子生徒は俺達に気が付いたらしく、こちらに歩いてくる。


「やあやあ、詩音ちゃんに幸一。あれ?今日はシスコン馬鹿は居ないんだね」

「おはよう、ミリア先輩。真一なら面倒なので途中で捨ててきました」

「おはようございます、ミリアーナ先輩」

「ふむふむ…順調に育っていますなぁ」


 いつの間にか詩音の背後に回り、両手で詩音の胸を揉んでいる。


「キャッ!何するんですか先輩!」

「まぁまぁ、いいではないか、減るもんじゃないし」


 この変態はカルナ・ミリアーナ。俺よりも一つ年上で三年生で、ガルディア人だ。 

 ガルディア人は基本的に地球人と体の構造は同じだ。しかし、違う所も幾つかある。その代表的なものが色白な肌、尖った耳、そして左右どちらかの手の甲にある痣だ。

 痣はそれぞれ濃さや模様が違うが、ガルディア人なら例外なくあるらしい。でも、それがあるからと言って特別な力が使えるわけでもなく、本当にただの痣らしい。

 そして、ガルディア人は基本的な身体能力も地球人よりかなり高い。そして、頭も良いのだから俺ら地球人からしたらチートものだ。

 

 因みに、ミリア先輩の変態性は種族は関係なく、先輩独自の性癖だ。まぁ、自分の胸がアレだから人の胸を揉みたくなるのかもしれないな。


「幸一、今すんごい失礼な事考えなかった?」

「さあ、どうでしょうかね…それよりも、結構時間過ぎてますよ?」

「ん?……あぁ~~~!!今日日直だったの忘れてた。詩音ちゃんのあまりの触り心地の良さに、すっかり早く来た目的を忘れてた。と言う事で私は行くね!」


 そう言って生徒の脇をうまく縫って走り、高等部棟の三階の開いている窓にジャンプして入って行った。

 あぁ~またあんな事やって。また教育指導の先生に掴まっても知らないぞ。


「はぁ…疲れた」

「お疲れ。ほら、大丈夫か?」

「あ、はい」


 少し顔が赤くなっている詩音の手を引いて、少し足早に校舎に向かう。



 チャイムが鳴り、先生が教室に入ってくる。

 短めの濃い灰色の髪に、右目に黒い眼帯、真っ黒の左目は鋭く、頬には傷跡がある。如何にも強面のこの先生が我らが二年Aクラスの担任兼、歴史の先生でもある柴北源蔵しばきたげんぞう通称シバゲンだ。

 見た目に反してかなり面倒見がよく、優しいのでクラスでも人気の先生だ。 


 朝のHRの最中に真一が教室に入ってくる。どうやら今日は結構ダメージが大きかったようで、足元がふらついている。まぁ、でも自業自得なんだけどな。


 真一が遅れて来るのはたまにある事なので、特に誰も気にする素振り無くHRは再開される。

 HRは簡単に連絡事項を伝えて終わった。この後の一時限目がシバゲンの歴史の授業なので、クラスの皆も結構まったりしている。


 真一が今朝のダメージを引きずっているからか、かなり大人しいので俺も暇だ。特にやる事が無いので、今月の店の収支の計算を確認して時間を潰した。

 今月は新メニューの開発で結構食材費が嵩んだので、少し倹約しないといけないかな。てか、真一から金取れば全部済むんだよな。


 今の所真一達からはお金をもらっていない。それと言うのも最近まで俺は真一の所で同居していたので、その時の恩を返す意味でもお金は貰っていない。


 俺は昔の記憶が一切ない、記憶喪失と言う奴だ。しかもかなり酷いもので、普段の生活の事…服を着たり、字を書いたり、物の食べ方などの一般常識すら忘れていたのだ。

 その一般常識を根気よく教えてくれたのが真一達のご両親の彩華あやかさんと健一けんいちさんだった。二人とも俺の両親の親友であり、今の俺の身元保証人ある伯父の頼みから快く面倒を見てくれたのだ。


 そのおかげで俺もこうして普通に暮らせるまでになったのだ。だから、神奈家には返しきれないほどの恩がある。だから、今は居ない彩華さんと健一さんの頼みを聞いて神奈兄弟に飯を提供している。


「そういえば、二人が行ってからもう一年弱になるのか…」

「あぁ、今は地球の裏側で遺跡発掘に夢中なんだとさ、昨日連絡来たけど無駄に元気だったぞ」


 俺の後ろの席の真一が机に伏せながら力なく答える。


「二人とも仕事熱心だからちゃんと飯食ってるか心配だったけど、それなら大丈夫そうだな」 



「え~と、今日はこの前の邂逅の日の続きですね。皆さんも覚えている人が居るかもしれませんが…」 

「………しおん~」


 歴史の授業が始まったとほぼ同時に、俺の後ろから寝言が聞こえてくる。

 俺も流石に邂逅の日は聞き飽きたでの、新メニューの思考をしながら聞き流す。


 邂逅かいこうの日…2350年3月20日に異星人であるガルディア人の侵略派の宇宙戦艦が飛来し、地球に対し無差別攻撃を開始した。その時の地球人の科学力ではまともに戦うことはできずに、ほとんど一方的に侵略されていた。


 その異星人の侵略行為開始から二週間後に、別の宇宙船が地球に飛来した。当初人々は新たな敵に絶望したが、その新たに来た宇宙船は先に来ていた侵略派の宇宙船を攻撃し始めた。

 理由は分からないが、それを好機と見た地球連合は全戦力を使って侵略派の宇宙船を一旦退けた。


 一旦の休息を得た地球連合は、二隻目の宇宙船に対してコンタクトを試みた。そしてそのコンタクトに応答があり、初めて異星人との対話に成功した。

 異星人達は自分たちをガルディア人と名乗った。この地球に来た理由、そして先の侵略派の宇宙船を攻撃した理由も。そして互いに利害が一致したため、共同戦線を張り無事に侵略派を打ち破った。

  

 初めての異星人との出会いの日、2350年3月20日が邂逅の日と言われ、その後の侵略派との戦争を邂逅戦争と名付けられた。


 邂逅の日…俺の記憶はその悪夢の日の前後にきれいさっぱり消えた。伯父が言うに両親を失ったショックから来たものと言ったが、本当にそれで一切の記憶が消える事はあるのか…もしかしたら何かもっと別の事が原因ではないのか…



「では、なぜガルディア人は地球に来たかと言うと。母星であるガイアの崩壊が始まっていたからです。その時に、すでに存在を確認していた地球に行く事を決定した。しかし、その時に意見の食い違いが起こったのです。攻撃的に地球を侵略して私たち地球人を屈服させようとしたのが侵略派。そしてその意見に反対し、共に共存する道を唱えたのが共存派だったのです」


 母星の崩壊…確かに地球に来るには十分な理由だろう。だが、わざわざ遠く離れた地球に来る理由にしては弱い気がする。なぜなら、ガルディア人母星である「ガイア」の近くには、崩壊の影響を受けなく、尚且つ生存可能な星があったからだ。


 今は非公開らしいが、お喋りな伯父さんが『ガルディア人が地球に来た本当の目的は別にある』と俺に言ったのだ。

 その理由は俺たち地球人の遺伝子だ。ガルディア人はとある病気にかかっていたらしく、自分たちの間では決して子供が生まれなくなったのだ。

 だから、体の構造がほぼ同じで、文化レベルも最低限満たしていた地球に調査員を送り込み、試験的に地球人と家庭を築かせて無事子供が生まれるのを確認したらしい。  

 

 共存の道を歩み始めてすでに十年近くたっている。その間にも地球人とガルディア人との結婚は普通に行われている。そして子供も生まれている。

 その地球人とガルディア人の子供は母体の種族によって変わるらしい。例えば、母体が地球人なら地球人の子が。母体がガルディア人ならガルディア人の子供が、という仕組みだ。


 どんな事があろうとも、この法則は変わらないらしく、地球人とガルディア人のハーフは決して生まれないらしい。


「だったら、俺は何なんだろうな…」


 自分の右手の、手の甲から肘にかけて伸びる不思議な痣を見て、誰にも聞こえない声で呟く…


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