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クロノ・コア  作者:
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第一話 静かな日常

「はぁ…結構暖かくなってきたなぁ」

 

 黒髪に黒い瞳、白いTシャツにチェックのシャツを着てジーンズを穿いた、何処にでも居そうな青年が晴れ渡った空を見上げながら独り言を言う。

 

 独り言を呟い歩くのは人通りの疎らな、早朝の商店街。両手には野菜と肉が結構な量入ったエコバックを持っている。少し重いな、やっぱり買いすぎたかな?

 商店街を出て、ビル街とは反対方向の住宅街へと向かう。


 朝早い事もあってか、人とすれ違うことは殆どなく静かなものだ。

 緩い坂道を足早に上り、T字路を右に曲がる。ほどなく進むと民家に挟まれた少し古い建物が見えてきた。

 

 クリーム色の壁は少し色褪せ、地面から延びるツタが壁の一角を覆っている。窓は大きく、木製の開きドア付いている。色の濃い木製のドアはかなり年季が入っていて、ドアの上には小さな看板で「Brezza」と書かれている。


 少し重い木製のドアを開けると、ドアの上についている鈴がカランカランと、小気味いい音を鳴らす。

 中は結構広く、壁紙は淡いクリーム色で天井からはランプ型の照明が吊るされている。入って右側にはカウンターと反対側には四人掛けの丸テーブルが二台ある。


 カウンターの中に入り、エコバックの中から食材を取り出し野菜と肉を分けて冷蔵庫に入れる。冷蔵庫は業務用の大きなもので、店の雰囲気に合わせて木目のシートを貼っている。


「うし、これで今週は持つかな…あの馬鹿が来なければ、もっと余裕を持てるんだがな」

「あ?馬鹿とは失礼な奴だな~。それよりも、腹減った。今日はナポリタンな」


 冷蔵庫の中を整理していると、突然後ろから声をかけられる。

 振り向くと、見知った顔がカウンターに顎を乗せていた。


「はぁ…真一しんいち、いつも言ってるけどここはお前の家じゃねえ。そして、俺はお前のおかんじゃねぇ」

「あぁ?そんなことは知ってるよ。幼馴染の俺のために、いつも美味しい食事を提供してくれてありがとうございます」

 

 高めの身長ながら、無駄な肉はついていない体つきで、栗色の長めの髪を後ろで縛っている。薄い赤色の鋭い目つきのこの男は、俺の親友の神奈真一かみなしんいちだ。

 家が隣同士なのもあって、昔から仲が良い。


 俺がこの店を継いでからはほぼ毎日飯を食いに来ているので、そろそろ金を取ろうかとも思っている。


「ナポリタンとか、お前朝から重いの注文しやがって。しっかり野菜も食べろよな!」

「そう言いながら準備してくれるお前に、優しさを感じるよ。あ、サラダはトマト抜きな~」

「好き嫌いするなよ」


 流し台に掛けてあったエプロンを着けて、冷蔵庫から先ほど買ってきた野菜とベーコン、ナポリタンの中太麺を取り出す。

 ナポリタンのピーマン、マッシュルーム、ベーコン、玉ねぎを一口大に切る。熱したフライパンにオリーブオイルを垂らし、食材を炒める。

 炒める間にタコとイカ、カニの入った海鮮サラダを作る。もちろんミニトマトたっぷり、普通の二倍増しで。


「お前って、もしかして俺の事嫌いなのか?」

「……」

「おい……なんか言ってくれよな」

「はいはい、嫌いじゃないですよー」


 真一が少し拗ねたように、サラダのトマトをフォークで刺す。好き嫌いは良くないし、トマトにはビタミンCが多く含まれていて、しかも今の季節は味が濃くて美味しいんだぞ?

 

 顔を歪ませながらも、トマトをしっかり食べる真一。

 ナポリタンも最後の仕上げに特製トマトソースをかけて、皿に盛り付けて真一の前に出す。サラダを食べ終えて、すぐさまナポリタンを美味しそうに食べ始める。


「何でトマト嫌いなのにナポリタン食うんだよ…」

「あ?俺はトマトのあのぐじゅってした食感が嫌いなんだよ」

「はぁ、まぁ良いけどな…そういえば詩音しおんはどうしたんだ?」

「まだ支度してたぞ。そろそろ来るんじゃないのか?」

「…てか、お前も詩音を見習ってしっかり支度しろよな」


 ナポリタンをフォークで巻き取って大きな口で食べる。

 詩音より早く来ているが、かなりだらしない格好だ。いつも通りと言えばそれまでだが。

 真一はブレザーが嫌いらしく、年中Yシャツしか着ていない。しかも未だにネクタイの結び方すら覚えていないので、今も首にかけているだけだ。


 俺らの通う学校はリベルノア学園だ。

 中高一貫教育で、生徒数総勢二千人を超える。その為見た目で分かるように制服は分かれている。中等部はセーラー服と学ラン。高等部は藍色のブレザーだ。

 

「まぁ、別に良いじゃねえか。うちはそこら辺緩いんだしさ。あ、コーヒーはブラックな」

「お前、マジで金取るぞ」


 しょうがないので、一番安いブレンドの豆を挽く。店の中にコーヒー豆のいい香りが漂う。豆を挽いている間にフレンチプレスにお湯を入れてポットを暖めておく。その間に詩音用にサンドイッチをさくっと作っておく。今日は真一に作ったサラダの野菜と焼いたベーコンを使ったものだ。


 挽いた豆を温まったポットに入れて、お湯を適量入れて少し蒸らす。その後残りのお湯を入れて、ヒィルターを下ろしてカップに注ぐ。


「…うん。今日も美味いな」

「はいはい、ありがとな。じゃあ、俺は支度してくる」

「おう、行ってら~」



 エプロンを外し、洗濯機に放り込んで回す。そのまま二階に上がり、突き当たりにある自室に入る。


 物が少し雑に置かれた、お世辞にも綺麗とは言えないだろう。クローゼットに掛けてあるYシャツを着てネクタイを締める。だんだん暖かくなってきたから、今日からはブレザーじゃなくてセーターでいいかな。


 授業の時間割を確認して、通学用の鞄に入れる。

 

「……行ってきます」


 部屋を出る際に、いつものように写真に手を合わせる。写真には笑顔で笑う男女が写っている。俺には両親の記憶すらないが、この二人の写真を見るにいい親だったのだろうと思う。


 下に降りてくると、白と藍色を基調としたセーラー服を着た女の子がちょこんと真一の隣に座っていた。

 真一と同じ栗色のセミロングの髪に、猫の形の髪留めをしている。兄よりも少し濃い赤色の大きな目で、まだ幼さを残す顔つきだ。

 

「あ、幸一こういちさん。おはようございます。朝食いつもありがとうございます、今日も美味しかったです」


 しっかりとあいさつをしてくれる、常識人の女の子が神奈詩音かみなしおん。真一の妹であり、俺の幼馴染でもある中東部二年生の女の子だ。


「うん、おはよう」

「おい、幸一。いくら詩音が可愛いからって、やらんぞ!」


 真一が詩音の頭をクシャクシャと撫でながら、俺を見る。


「ちょと、お兄ちゃん」

「まったく…このシスコンが」

「シスコンで結構…いや、俺は胸を張って言えるぞ。俺は妹が好きなシスコンだ!!」


 これは何時もの事なので軽く流す。そう、この真一は重度のシスコンなのだ…もはや病気と言って差し支えないだろう。


 でもまぁ、分からないでもない。幼馴染ながらにも、詩音は可愛いと思う。背が小さくて可愛いらしいし、男女共に分け隔てなく接するし、気遣いもできるし頭もいい。こんな子がモテないわけないのだが…馬鹿な兄貴が目を光らせているので迂闊に告白は元よりラブレターすら渡せないのだ。

 

 皿を食器洗浄器に入れて戸締りをチェックして店を出る。

 学園までは大体一キロぐらいで、いつも三人で歩いて通っている。いつものように他愛のない話をしながら学園に続く道を歩いていく。

 


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