第5章 少女はくじらの夢を見る。
ほとんど初めて外に出た私はまず騒々しさに圧倒された。その次は人の多さだ。ほんとに人=ゴミって感じ。人込みって言葉はよくできているなぁと関心した。
なんていうか、すごい。
外に出るのは勢いで出てきてしまったけど、何をするかは考えていなかった。お金は親が病室にいるだけじゃつまらないから、せめてなにか売店で楽しく買い物ができるようにと来るたびにくれるお金がたっぷりとある。まさに遊びたい放題だ。
「遊園地にでもいく?」
と優に誘われたけれど、優はこの足では楽しめないと思ったから、単純にふらふらと街をぶらつくことにした。私にしてはちょっとだけ相手に気をつかって。
そして今とりあえず雑貨屋さんの店内。
はやりっぽい雰囲気の曲が流れている。
僕らの見ているのは 一瞬で終わる短いユメ
いつも見ているのは 蜃気楼
たった一つ探してる
無くしちゃった 宝箱
そんな風に聞こえた。
ちょっと切ない歌詞に静かだけど明るめの曲
なんとなく「いいな」と思って耳に焼きついた。
でも、ずっと入院している私にはたいした体力がない。
外にでて30分弱で疲れきってしまった。
優に休むかと提案されたから、生まれて初めてファーストフード店に入った。
ファーストフードを食べるのは初めてだ。
なんかよくわからないけど、シェイクという飲み物を頼んだ。
優と椅子に座ってお喋りした。
主に優の学校生活のこと。
毎日毎日へとへとになるまで部活に明け暮れていたこと。
こうしてよくファーストフード店に入ってお喋りしていたこと。
そうしたらいつも「ハンバーガー」を二個も三個も食べちゃうこと。
学校の授業が難しすぎていつも赤点ぎりぎりなこと。
たくさんたくさん話して、そろそろ話題がなくなるというときに私がようやくずっと感じていた不安を口に出した。
「今ごろ病院はどうなってるのかなぁ・・・」
思えばもう二人で病院を抜け出してから一時間以上たっている。
まさか二人がいると思っていることはないだろう。
ちょっと考えると怖くなる。
「大騒ぎじゃない?やっぱりさ。二人も入院患者がいなくなったら。二人とも探し回られてるかもね」
優はおどけた感じに言った。
私はあまりの優の明るい様子にちょっと拍子抜け。
まぁ、帰るつもりがないわけじゃないし、もうちょっと遊んでようという気分になった。
「あはは。そうかなぁ?次は何処行く?」
私は当然外のことをあまり知らないから、優に聞く。
「やっぱさぁ、映画見ない?映画」
「じゃあ、映画ね。思いっきり幸せになる話の」
「決定!!歩いて五分くらいのところに映画館あるよ」
そんなことを話しながら外へでる。
本当にすぐに映画館の前まできた。
平日だったからあんまり人もいなくて結構イイ感じ。
どの映画を見るかはすぐに決まった。
優が見たがっていたファンタジーの映画。
結構流行っているらしい。
すぐ見れるらしいのでさっさと映画館のなかへ入っていく。
あんまり長く外をうろつくとその分だけ先生たちに連れ戻される可能性も高くなってしまうから・・・。
映画館の中は昼時なのに真っ暗でちょっと怖い。暗いから足元もおぼつかない。
思わず優の腕をぎゅうぅっときつく握り締めてしまった。
優の顔はちょっと赤くなっていたみたいだけど、私には良く見えないし、それどころじゃない。本当にこの真っ暗が怖い。
座席に座ったら落ち着いた。
映画が始まる。
とすごく意気込んだがコマーシャルばかりで一向に始まる気配がない。
でもコマーシャルはどれも楽しそうでまた映画を見にきたくなった。
初めてみる映画はものすごく面白かった。
感動的でわんわん声をあげて泣いてしまった。
こういう物語世界に本当に憧れた。
私も冒険したりしてみたい。心からそう思う。
優はいつか体がもっと強くなったら学校に行って友達と遊んで大してドラマチックじゃないかもしれないけど楽しく過ごせると言ってくれた。
私の将来の夢ができた。
『学校へ行くこと』
できれば優と一緒に通えるといいなぁと思った。
初めてできた私の友達。
ヒカリをくれた。
優は今飲み物を買いに行ってくれている。
私は公園のベンチで一休み。
誰もいない公園だけど、子供たちのいたぬくもりがいたるところに残っていてどこか明るい雰囲気がある。
私の小さい頃の憧れの場所。優の力を借りたけれど今は自分の意志で此処にいる。それはとても嬉しいこと。一度諦めてしまった夢。ようやく叶った。
友達がいないことがちょっとだけ違うけど、まぁまぁの合格点。