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第2章 心の衝突。

 これが人と出会うということだった。

 

 私はずいぶん長いこと貴方を睨みつけていた。静かで張り詰めた空気。

 永遠に続くかに思われた。

 静寂は破られる。それは常に誰かによって。

 けれどどこか自分の「願い」のもと。


「ガチャリ」


 静寂を破ったのは沢木先生と看護婦さんの登場だった。


「仲良くしてた?」

 陽気で男の人にしては少し高めの声が響く。

 先生は空気を読むのが得意なくせに絶対に分かっている素振りなんかみせなくて、たいてい正反対のことを聞く。機嫌が悪いときにあうとちょっとむかついて、でも気が付くとふっと気持ちを丸くさせてしまう力を持っている人だ。

「はぁ。・・・そうしていたように見えますか?」

なんていうか、今回はため息がでそうな気持ちにさせてくれた。

「まあともかく、二人今日から同室になったから仲良くしてね?」


 生まれてからこんなに驚いたのも初めてだった。

 数瞬たってから我に帰って答えた。


「今すぐこの病院出て行きます」

「じゃあ何処行くの?」


 先生独特の含みのある笑顔で私はぐうの音もでなかった。


「よろしく」

 

 目の前の男の人に明らかに渋々そうに挨拶された。


 ――こうしてわけのわからないまま、相部屋生活が始まったのだった。




 相部屋になって二日目。

 少しずつ状況が飲み込めてきた。

 どうやらあいつは優という名前らしい。(何故か名字は名乗らなかった。私もだが)

 あいつの入院の理由は骨折だ。

 足の怪我に会った時に気づかなかったなんて私も抜けていた。

 避けられたのは部活で運動をずっとやっていたからだろう。

 練習中に怪我したらしい。

 それで二週間の入院。

 あいつらしく馬鹿で間抜けだ。

 私はあいつなんかと過ごすおかげで少しずつ性格が悪くなって、口も悪くなってきている。


 あいつがきてから毎日お見舞い客ばっかり来て、ちっとも静かにすごせない。

 しかも見舞い客もあいつもやたらときゃあきゃあぎゃあぎゃあと私に話し掛けてくる。

 

 ・・・体力の無駄。

 

 学校なんて行ってなくて良かったと心底思う。

 世の中と比べて自分はなんて幸せだったのだろう。

 そんなことをよく考えながらこの二日間を過ごしていた。


 あいつのまわりはいつもスカートの異様に短い女子の輪ができている。


「きゃあ、可愛いー!!」

「お人形みたいじゃない?」

「うんうん。なっがい黒髪でちっちゃくて、日本人形ってかんじ」

「お名前は?」

 ・・・またうるさいのに話し掛けられた。

「・・・・・・アスカ」

「声も可愛いー」

「何歳?」

「いつからここに入院してるの?」

「優が退院するまでここにいる?」

「優が退院した後もいるならう私毎日お見舞いにきたいー」

 なんでこう答えも聞かずにこいつらは質問ばっかするんだろう。

「・・・・・・16。ずっとココにいる。あいつが退院しても、ずっと。ずっと。でもこないで。邪魔」

「ナニこの子話し掛けてるのに。邪魔だって。かんじわるぅ。しかもチビだし。全然一つ下なんかにみえないよ。ちょっとかわいいと思ってさ。ねぇ、優。この部屋変えてもらえないの?私もうこんな病室きたくない」

「アスカはしょうがないんだよ。生まれてからまだ2、3回しか外に出たことなくて人に慣れてないんだ。いきなり周りが人でいっぱいになったからとまどってるんだよ。ちっさい子供だと思ってさ。我慢してあげて」

 

「誰がちっちゃい子供だあぁっ!!!!」

 病院内に私の絶叫が響く!

 と思いきやこの部屋中すら響かなかった。

 今までこんなに声を出すことが少なかったので、早くも声はかすれかかっている。

 ただでさえ私の声は小さいのに。

 叫んだ後しばらくしてもう私にかまうことなくあいつらは優に「またくるね」なんて言いながら帰っていった。

 あいつらはいると困るけど、いないともっと困る。

 何故なら誰もいないと優と二人きりだからだ。

 ・・・最悪。

 優はやたらとしゃべりかけてくるし。

 

「もっと人当たりよくしなきゃだめだろ!友達できねぇぞ」

「しゃべるならもっと会話の弾みそうな話題を選べ。あんなやつら友達には欲しくない」

「・・・。そんなんじゃ健全な大人になれねぇぞ」

「じゃああいつらは健全な大人になるのか?」

「アスカみたいな入院生活をしないことだけは確かだな」

「そんなこというなっ!私だって外にでたい!!遊びたいっ!でも誰もいいよって言ってくれないじゃないか!!外に出してはくれないじゃないかっ!私だって外で遊ぶのくらい憧れるよ!」

 

 私はちょっと泣きたかった。すごく棘のあるひどい言葉を投げかけている。だけど馬鹿にしないといられなくって、子供っぽく振舞っていた。あいつら認めると、自分がすごく何にもできなくて、つまらなく過ごしているって認めなくちゃいけなくなる。それだけはどうしてもできなかった――


 優は探るような視線でこっちをみている。

 気まずい。

 その視線には気づかないフリ。

 友達を馬鹿にしたから謝らないといけないのはわかってるけど。

 

「ごめんな」

 何故か優は謝った。

 立場がすっかり逆転していた。

 そのときの表情が何とも言えなく寂しそうで哀しそうだった。


 その顔を見ていると私までトゲトゲした心が静まってきた。

「もういい。こっちが悪かった」

 謝るなんて初めてなのに不思議とあっさり言葉がでてきてすこし暖かい気持ちになった。

 私は安心して泣き出してしまった。





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