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次の日学校に行くと、周りの僕を見る視線が変わっていた。
女子はあからさまに僕を無視して、男子もなぜかみんな、僕と美優が別れたってことを知っていた。
「だって美優から一斉メール来たもん」
小学校からずっと一緒の、ちょっと気が弱い啓介をつかまえ、廊下で問い詰めた。
「『美優はトモと別れましたー』って顔文字つきで。そのあとお前の悪口が永遠と」
「たとえば?」
啓介がちらっと、僕の顔色をうかがってから答える。
「『ちょっとモテるからって調子に乗るな』『トモは女とやることしか考えてない』『マジウザい、死んでくれないかな』」
バカだ。バカだ、あの女は……。
「あ、これ俺が言ったんじゃないからね。美優が言ったんだから」
居心地悪そうに苦笑いをして、啓介が背中を向ける。
「でもひどいよね。これ、クラス中に回ってるよ」
廊下にぽつんと残された僕のことを、ちらちら盗み見してるクラスのやつら。
そんな視線を振り払うように教室に入ったら、ささっと何かが引いていくような気配を感じた。
別にいいよ。こんなの明日になれば、みんなすぐに忘れる。
僕や美優のことをいつまでも騒いでいるほど、クラスのやつらだって暇じゃないはず。
それに僕は、美優にそれほど恨まれても、文句を言えないことをした。
だけど……それから何日たっても、僕の周りのチクチクした空気は変わらなかったのだ。
***
自分が完全にクラスで浮いていると感じ始めたのは、美優と別れて一週間後のことだった。
その日も僕は校門をひとりで出た。
美優と帰らなくなってから、僕と一緒に帰ってくれる人は誰もいなかった。
クラスのやつらはあいかわらずよそよそしかったし、啓介に声をかけてもいつものようにへらっと笑うだけ。
別にいいけど。一人じゃ家に帰れない小さな子供じゃないんだし。
美優といつもキスした公園を通りかかる。
茜色に染まった遊具のそばに、僕は人影を見つけて立ち止った。
「美優?」
そこにいたのは美優と……啓介だった。
「あれ、トモじゃん。久しぶりぃ」
さっき教室で見かけたばかりなのに、美優はそう言って僕に笑う。
そしてその隣の啓介は、なんとなく決まり悪そうに、さりげなく僕から目をそらした。
「なに……やってんの?」
声なんかかけなきゃいいのに……無視してそのまま通り過ぎればいいのに……僕はそのセリフを美優に言っていた。
美優はそんな僕を見てほんの少し微笑む。
「トモには言ってなかったよね? 美優ね、啓介と付き合ってるの」
「えっ」
美優が啓介と? ウソだろ? ありえない。そんなの絶対ありえない。
そう思った瞬間、僕は啓介の制服を引っ張り、自分のもとへ引きずりよせていた。
「美優と付き合ってるって……お前、マジか?」
啓介は気弱そうに僕をちらっと見て、また目をそらす。
「お前あの時言ったじゃん。ひどいよねって」
「あれは……ウソだよ」
ふっと顔を上げた啓介は、いつものおどおどした表情ではなかった。
「ひどいのは……トモのほうじゃないの?」
「それは……」
「好きでもないなら、最初から付き合ったりするな!」
啓介が僕の手を振り払って体を離す。その向こうで美優が小さく笑っている。
「啓介は……好きなのかよ」
僕の声に振り向く啓介。
「お前は美優のこと……好きなのかよ」
「好きだよ」
啓介が僕に言った。はっきりと、堂々と、僕の目を見て……。
「美優がトモと付き合ってる頃から、俺は美優のことが好きだった」