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「トーモ!」

 テスト最終日の朝、廊下で美優に声をかけられた。

「おはよっ」

「おはよ」

「勉強した?」

「してない」

「してないくせに、さりげなくいい点とか取っちゃうんだよねー、トモって」

 そう言いながらにこっと笑って、美優はノートの切れ端に書いたような手紙を渡す。

「これ、あとで読んでね?」

 そしてぱたぱたと足音を立てながら、僕の前から去って行く。


 学校で毎日話すのに、家に帰れば電話もメールもするのに……なぜか女の子はこういうものを渡したがる。

 折り紙のように複雑に折りたたまれた手紙を開くと、カラフルなペンで書かれた丸っこい字が並んでいた。

『今日ママがいないの。テスト終わったら美優んち来ない?』

 僕はその手紙をくしゃっと丸めてポケットに突っ込む。

 何気なく目に映ったのは、窓の外の四角い空。

 めんどくさいなって思った。

 テストをサボって、美優のことも無視して、このままどこかに行っちゃいたいって思った。

 そんなこと……できるはずないのに。

 チャイムの音が廊下に響く。今日の一時間目のテストは英語だったか数学だったか……。

 一夜漬けで覚えた英単語を思い出しながら、それと一緒に小春さんのチョコレートケーキの味も思い出していた。


 ***


「トモ……好き」

 美優のベッドの上でキスをする。このまま押し倒してやっちゃうのは簡単なこと。

 僕は気持ちよくて、美優は喜んで、だったらなんにも迷うことはない。

 それなのに……今日の僕はなにかが変だった。

「どこが好きなの?」

「え?」

「だから、俺のどこが好きなの?」

 僕から体を離して、美優はきょとんとした顔をする。

「どこって……顔? かな?」

「他には?」

「髪型とか、いつもオシャレな服着てるとことか……あっ、あと、キスが上手いとこ」

 美優は冗談っぽくそう言って笑ったけど、僕は笑えなかった。

 そんな僕を見て、美優は少し怒ったような口調で言う。

「じゃあ聞くけど。トモは美優のどこが好きなわけ?」

「俺は……美優を、好きって言ったこと一度もない」

 美優の表情が変わった。

 当たり前だ。僕は今、美優を怒らせるようなことを言ってるんだから。

「じゃあ……じゃあトモは……美優のこと好きじゃないの?」

「……わかんない」

「わかんないって何? 美優のこと、好きでもないのに付き合ってたの? 好きでもないのにキスしたの?」

「だから……わかんないんだよ」

「バカっ! サイテー!」

 美優はそばにあったクッションを僕に投げつけ「マジむかつくわっ! 出てけっ」って言った。

 僕は美優に言われたとおり部屋を出る。


 なんであんなこと言ってしまったんだろう……言わなければ今まで通り、美優とは上手くやっていけたのに。

 上手く? 何を上手く? キスを上手く? セックスを上手く?

 それが何になるというのか? そんなことして何が残るっていうのか?

 何もない。僕の心には何も残らない。

 そしてその時、僕はやっとわかった。

 僕は――美優のことが、好きではなかったってこと。

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