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 夕暮れの帰り道。甥っ子のおむつとトイレットペーパーをぶら下げ踏切に立つ。

『ついでにトイレットペーパーも買ってきて! お願い、トモくん』

 ハートマーク付きのメールを義姉からもらい、文句も言わず買ってきてあげる僕。

 目の前を快速電車が通り過ぎ、遮断機がゆっくりと上がった時、僕に手を振る小春さんの姿が見えた。


「久しぶり! 今、帰り?」

「ああ、うん」

 何気なく、赤ちゃんの顔がプリントされたおむつを隠そうとする僕に、小春さんが微笑みかける。

「大きくなったのね、海斗くん。今度お兄ちゃんになるんだって? 今、ヒロと一緒にトモくんちで会ってきた」

「そう」

 久しぶりに見る小春さんは、髪をばっさり短く切って、なんだかすごく元気そうだった。

「さっきこっちに帰ってきたばかりなのよ。ちょっとあたしの実家にも顔出しておこうかと思って」

「宏哉は?」

「お義母さんにつかまってる。後から来るって」

 そう言って、いたずらっぽく笑う小春さんは、肩に見覚えのあるショールを羽織っていた。

「あ……それって」

「ああ、これ? お義母さんがあたしのために編んでくれたのよ」

 小春さんは嬉しそうに、僕の前でくるりと回る。

 ああ、そうか。そうだったのか。

 珍しく母さんが、せっせと編み物なんかしてると思ったら、小春さんのために編んでいたのか。


 どこかから漂ってくる夕食の香り。空に響くチャイムの音。ふざけながら家に帰る小学生たち。

 いつもと変わらない夕暮れのはずなのに、今日は空気があたたかい。

 小春さんの肩に揺れる、桜色の毛糸のせいかな?

「送ってくよ」

「ええ?」

 冗談でしょって顔で僕を見る小春さん。

「どうせ暇だし」

「じゃあ、ちょっと遠回りしちゃおうかな」

 僕の手から荷物をひとつ取ってふふっと笑うと、小春さんはゆっくりと歩き出した。


 今来た道を引き返すように、僕は小春さんと歩く。

 今夜は宏哉と小春さんのために、母さんがご馳走を作って、一緒に食べることになっている。

 だから小春さんには、あとでいくらでも会えるのに……なんとなく、今この道を、二人だけで歩きたい気分だった。

「トモくん、背、伸びた?」

「え、ああ、少し」

「おっきくなったのね」

「もう十八ですから」

 僕の隣でくすくす笑っている小春さん。その表情を見るだけで、宏哉とはうまくやってるんだなってわかる。

 やがて僕たちの前に、中学校の校舎と、まだ咲いてない桜の木が見えてきた。

『この桜が満開になると、とってもステキなのよねぇ』

 ふと三年前を思い出す。

 桜の木を見上げてそう言った、あの日の小春さんのことを……。

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