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 駅の建物が見えてきた。僕たちはその手前でいつも別れる。改札口で、美優の友達が待っているから。

 そしてこうやって二人で歩くのも、あとわずかだ。

 桜の花が開く頃、僕は東京の大学に、美優は地元の美容学校に進学する。

「美優……」

「ん?」

 振り向いた美優の、茶色くて、ふんわりと柔らかそうな髪が揺れる。

 もう一度その髪に、触れてみたいと思ったりする。

「なんでもない」

「へんなの」

 くすくすと笑う美優は、三年前と違っていた。

 ぴょんぴょん跳ね回ってるイメージしかなかったのに、今では僕より大人びて見える。

 僕のことを何でも知っていて、さりげなく気づかってくれて、今一番そばにいる女の子。

 そして僕はずいぶん前から気づいていた。

 僕にとって美優は必要不可欠な存在だってこと。

 美優は僕のことを、まだ好きでいてくれてるってこと。

 だけどそれに気づいたからって、また前みたいに、軽い気持ちで付き合うのは嫌だった。

 あの頃、もし美優に「子供ができたの」なんて言われてたら、僕は間違いなく逃げ出していただろう。

 やりたいことやって、気持ちいい思いして、何の責任もとれないくせに……。

 小春さんを捨てた男みたいに。


「じゃあね、トモ」

 いつの間にか僕たちは駅の近くまで来ていた。

 美優は僕に笑いかけ、いつものように小さく手を振る。

 だけど僕はそんな美優の手を、引き寄せるようにつかんでいた。

「美優」

「な、なに? どうしたの、トモ?」

 あわてている美優の前で僕は言う。

「好き……なんだ」

「え? 何が?」

「美優のこと」

 見慣れた美優の顔が、みるみるうちに赤くなる。

「トモ」

「はい」

「遅いよ」

「ごめん……いろいろ考えてたから」

「考えてたって……何を?」

 美優が怒ったように僕を見る。

「どうやったら大事にしてあげられるのかって……好きになった女の子のことを」


 サラリーマンや学生が、僕たちの脇を足早に通り過ぎる。

 そんないつもと同じ風景の中で、美優が僕の前で泣いていた。

「泣くなよ……こんなところで」

「ううっ、トモのバカぁ……」

 泣きながらグーで殴ってくるこの女の子を、僕はどうやって守ってあげられるだろう。

 その答えは実はまだわかってないけど、とりあえず約束しよう。

「あのさ……今度、俺の髪の毛切ってよ」

「……あたしのカット代は高いよ?」

 金取るのかよ、って心の中でツッコミながら、そっと美優の髪に触れてみる。

 ぎこちない動きでその髪をなでると、朝のラッシュの駅前で、僕は美優に抱きしめられた。

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