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 明日が第一志望校の受験だという夜、宏哉と小春さんはそろって我が家にやってきた。

 二人とうちの両親は、リビングに二時間以上もこもって、なにやら話し合いをしていた。

 時々母さんのヒステリックな声や泣き声が聞こえ、僕は勉強も手につかず、ひやひやした。

 そして話し合いが終わった頃、僕が下に降りて行ったら、玄関でばったり小春さんに会った。


「あ、トモくん。明日受験なのに、お騒がせしちゃったね?」

 小春さんはやけに晴れ晴れとした表情をしている。

 すると後ろから宏哉がやってきて、やっぱり爽やかな顔つきで僕に言った。

「ああ、トモ。僕たち結婚することになったから」

「結婚……」

 わかっていたけど、ストレートにその言葉を投げつけられ、僕は軽く倒れそうになった。

「そ、そう……あの母さんを説得したんだ」

「というか、最後は父さんの『鶴の一声』」

「父さんの?」

「『俺はふたりを祝福する』ってな」

 あの無口な父さんがそんなことを?

「なぁトモ? ああ見えても、この家で一番まともなのは父さんだから。お前も何かあったら、父さんに相談するといいよ」

「うん……」

「それと」

 宏哉は兄さんらしく、僕の肩をぽんっと叩いて言う。

「あんな母さんだけど、根は悪い人じゃないから……わかってるだろ?」

「……うん」

「だからこれからは、お前が母さんを支えてやって欲しい」

 支えてやるって……何言ってんだよ、宏哉……。

「大阪に転勤が決まってるんだ。小春を連れて行こうと思う」

「えっ」

「トモくん。しばらく会えなくなるね?」

 僕をのぞきこむ、小春さんのちょっと切なげな顔。

 やめてくれ。そんな目で見られたら……僕はきっと、また泣く……。


 宏哉が「車出してくる」と言って外へ出て行った。

 玄関先に残された小春さんと僕。

「トモくん?」

 僕はうつむいたまま、顔を上げることができない。

「この前は……ごめんね?」

 小春さんの声が、僕の耳にじんわりと響く。

「なんで、あんな話、トモくんにしちゃったんだろう」

 ちらっと小春さんの顔を見た。小春さんはどこか遠くを眺めているような目つきだ。

「なんで……だろうな」

 そしてゆっくりと僕のことを見る。

 僕の視線と小春さんの視線が、吸い付けられるように一瞬だけ重なった。

「さよなら。受験頑張って」

「小春さんも……体、大事に」

 小春さんが目を細めて、幸せそうに微笑む。

「今度会う時、あたしはトモくんの『お義姉ねえさん』ね」

 そうか……そうなんだよな。僕は自分自身を納得させるように、こくんとうなずく。


 二人が籍を入れたのは、それから一週間後の話。

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